帰還した俺達は、順次ワクチンを打つ。
俺はこの前の洋館事件の時にウイルスに打ち勝っているので、既に抗体ができていて意味がないのだが、一応打っておいた。
「ふう、これでひと段落だな」
銃砲店店主のロバートさんがそう言った。
「うん、この調子なら時間的余裕が———」
『緊急速報です!政府は、後二十四時間後にラクーンシティを爆撃して滅菌します!』
「———ないみたいだなあ、うん!」
はい。
まあほら……、うん。
政府が有能だったパターンとかまずないじゃん?
大統領がマイケル・ウィルソンになって、やっと「まとも」と言える水準になったのがアメリカという国なんだよ。
あまり悪口は言いたくないけど、事実そうだからね……。
アンブレラ社はかなりデカい企業で、政府にもその利権やら何やらが食い込んでいたから、余計にね?
「ど、どうするん、ですか?!」
メガネで三つ編みの女の子、俺がナンパして引っ掛けたヴァレリーちゃんが叫ぶ。
うーん……、転移魔法でこの人数を街の外まで大規模長距離転移か……。
この人数だと魔力が全然足りないな。
無理して転移すれば、半分の人数を運べないうちに爆発四散……、そうなれば肉体の再生が終わるまでに街は爆撃で消し飛ぶ。
小分けにして運んだとしても、長距離転移は儀式魔法だから、やはり二十四時間では足りない。
うーん、ヤバいねこれは。
それに、魔法を使うと、魔術師協会とかいう怖い人達が飛んでくるからなあ。
この人達も、魔法を目にしたとして、追われたり監視されたりするかも……。
当時はそう思ったんだよねえ。今でこそ怖くない魔術師協会も、昔はやっぱり怖かった。
じゃあ、そうだな……、これならどうだ?
銃砲店の屋上で俺は、こっそり魔法を使った。
「『生命探知』」
そう、生命体のオーラを見る魔法だ。
「……やっぱりそうか!」
読み通りだった。
ゾンビは生き物じゃない、生命のオーラを放たない。
だから、生命探知に引っかかるのは、俺達と……。
「レオン!レオン・S・ケネディ!」
生き残っている生存者のみだ!
そして、レオンの位置を起点に遠見の魔法を使えば……、地下の研究施設に、巨大な地下鉄があることが分かる!
《目星:80》で見たところ、すぐにでも発車できる状態だともまた、理解できる!
脱出の手段は、これだ!
「警察署だ!警察署に行くぞ!」
俺は叫んだ。
「何言ってるんだ?!脱出の手段が先だろう?!」
ロバートがそう言った。
策があるんだと、俺は訴えかけるが……、皆の反応は乏しい。
が、そこで、金髪のガンマンガール、俺がナンパした女の子の一人であるベッカちゃんはこう言った。
「ねえ、何でみんな、この人を信じられないの?」
と。
「ワクチンが手に入ったのって、この人のお陰だよね?この中じゃ一番信頼できると思うんだけど、違う?」
なるほど……、そう言えばそうだよなーって思ったね。
だって、ここにいるのって、S.T.A.R.S.メンバー以外は寄せ集めだし。
だから、ワクチンを持ってきた俺はこの中で一番実績があって、信頼に足ると言える訳だ。
感情的な意見と見せかけて、実は理論的な答えだね。
「説明させてほしい。脱出の手段は、アンブレラ社の秘密研究所にある地下鉄道だ。秘密研究所には、警察署の地下から行ける」
「何でだ、とは聞かない方がいいか?」
ラクーンシティ市警のケビンがそう言った。
「それは俺にも分からない。だが、とにかく、行けるのは行けるんだ。頼む、俺を信じてくれ」
俺は思い切り頭を下げた。
もう誠意しかない。
誠意大将軍である。
「……分かった。言い争ってる時間もないしな」
「行こうぜ!駄目なら駄目でその時はその時だ!」
「そうよ!何もやらずにここで死ぬなんて嫌!」
誠意が通じて、移動することに……。
まーあもうね、この頃には怖いもんなしだよね。
ワクチンで発症の心配がなくなったから、即死しないように気をつければOKってなもんで。
俺が、レウス素材の弓で拡散矢をボコボコ放ってゾンビの群れを吹き飛ばすと……。
「「「「うおおおおっ!!!」」」」
S.T.A.R.S.チームや警官のケビン、銃砲店のロバートさんや、警備員のマークおじさんなどの武闘派が横に並び、ショットガンやグレネードなどで場を制圧する。
「今だ!早くこっちへ!」
そこに、ロバートさんの嫁と娘さん、ウェイトレスのシンディちゃんなどの非戦闘員が来て、その背後をバックアップするように、廃材で作った盾などを構えた男性陣がついてくる。
そして、警察署……。
どうやら、レオンとクレアが探索した後らしく、物資はあまりないが、鍵などは全部開いていた。
なんかデカい女神像の下に地下行きのエレベーターがあったから、それに乗る……。
そうして、地下を進んでいくと……。
「誰だ?!……あんた達か!」
レオンとクレアがいた。
「レオンとクレアだったね?俺達は、無事にTウイルスのワクチンを手に入れた。しかし、脱出の手段がないんだ」
「なるほど……、だからここに来たのか」
「ああ、言い方はアレだが、君達の脱出に相乗りさせてもらう」
「分かった。この場を守ってくれるだけでもありがたい」
「……ところで二人とも、めちゃくちゃ臭いんだけど」
「……下水道を通ってな」
ああ……、はい……。
「一応、着替えはあるが」
「……助かる。タオルとかあるか?」
「ああ、温めたタオルを用意した。それと食事もな」
二人は着替えて、顔を拭き、うどんを食う。
因みに、豚汁うどんだ。楽なので。
「これ、美味いな。日本のヌードルか?」
「ああ、うどんって言うんだ。お腹に優しいから、身体に負担をかけない」
「へえ……、いつか行ってみたいな、お前の国へ」
「そうだな、そうなると良いな……」
そしてクレアは……、エントランス内にいる弱った少女を介助している。
シェリーちゃんと言うらしく、身体にGウイルスなるものをぶち込まれてしまったんだとか。
レオンの連れ……、エイダとか言う黒髪の女も、怪我をしているようだ。
俺は、街の中で手に入れた救急スプレーでエイダさんの治療をした。
「レオン、クレア。倒れてる二人に点滴をしようと思うんだが……」
「そうだな……、やるべきだろうな」
「でも、大丈夫なのかしら……?」
「ここまで飛んだり跳ねたり走ったりして、それなのに水の一杯も飲んでいないんだろ?脱水症状で死ぬぞ」
冷静に考えれば分かるよなあ……。
エイダさんは身体つきからして相当できる人だから分からんけど、シェリーちゃんみたいな幼い女の子が、不衛生なところで過度な運動をし、心身に負担をかけて無事な訳がない。
俺は飯炊きくらいしかできん、英雄にはなれない男だが……。
どんな英雄も、飯が食えないと戦えないんだ。
「そう、だな。やってくれ」
「……分かったわ」
エイダさんとシェリーちゃんに点滴をする。
心なしか、表情が和らいだ気がした。
金剛
「ンー、真理なんデスよねー」
「ギリギリの戦場において、美味しい食事や嗜好品は、本当に生存率に関わってきマース」
霧島
「戦っている者達にも、精神や肉体はありますからね」
「戦闘行動とは、その精神や肉体を擦り減らす行為です。だから、回復手段があると全く違います」
旅人
「俺はそんな大層なことは考えてないけどね」
「ただ、頑張っている人達は、お腹いっぱい食べて欲しいなと」