あ、何か知らんけどランキングに載ってました。すんごく嬉しい。沢山の人に見られてるんですね。
いつもと変わらない日常。退屈はお断りだが、ここ、黒井鎮守府の日常と言うものは……、
「提督!大変です!!!」
……実に飽きない。
「はいはーい、どしたの?」
大淀は大好きだ。こうしていつも俺に刺激をくれる。さあ、今日は何だ?工廠が爆発したか?地下室から謎の呻き声か?
「見知らぬ艦娘達が、この鎮守府に攻めてきました!」
「…………えっ、なにそれこわい」
全くの予想外。え?だからさ、ギャグssだよ、これ?
「大怪我をした艦娘を抱えて、ドックを占拠しています!出て行かないと殺すの一点張りで……!」
「えっと、取り押さえられなかったの?」
「それが、それなりに強くて……」
えー?うせやろ?うちの艦娘なら、並の艦娘なんて子供扱いできるんだけどなー?
「分かった、取り敢えず、見に行くよ」
「私もお伴します!」
「出てこーい!お前らは完全に包囲されているー!!」
なーにやってんだ那智。刑事か。刑事だな。那智だもんよ。もしくは宇宙海賊。
「む、司令官!……それが、今度は資材を出せと……」
分からんなぁ、自分の鎮守府に帰れば……、いや、帰れない状況なのか?よく分からん。
「経緯は?」
「うむ、そのだな、私達が出撃を終えて帰投する途中、艦娘の集団に会ってな。そいつらは皆、多かれ少なかれ負傷していたが故に、帰投を勧めたんだ。だが……」
「駄目でしたー!裏口も閉鎖してますー!」
比叡?そう言うことは立て籠もってる人達を刺激するから止めようなー?
「比叡!!……全く。で、その、帰投を勧めたんだが、自分達の鎮守府は遠いから、修理だけさせて欲しい、と言ってきてな。まあ、特に問題は無いと思って招き入れたら……」
「こうなったって?」
「……ああ、私のミスだ。済まない……」
「大丈夫大丈夫、那智に過失はないよ」
「だが……」
那智、そういうのうちやってないから。責任がどうこう、とかって面倒だろ?だから、無礼を承知で無視する。
「ところで、相手は何人?艦種は?」
「……その、相手なんだが……」
「何?どうしたの?」
「……航巡がいるんだ」
「…………何だって?」
あり得ない、航巡は、ロック装置を導入しているここ、黒井鎮守府か、音成鎮守府にしか存在しない筈だ。そして、音成鎮守府には航巡が存在しない。
「招き入れたもう一つの理由なんだが……、何故航巡がいるのか、それが聞きたくてな……」
「成る程、ファインプレーだよ那智。俺も是非聞きたいね」
そして、ドックから出てきた五人の艦娘。皆んな、一様に、悲愴感が漂っている。
「資材を!早く出して下さい!!」
ボロボロの砲塔を構え、ドックに置いてあったナイフを構える長髪の美人さん。……艤装は、うちの那珂ちゃんと同じだ。と言うことは、川内型か。
他にも、後ろには、恐らくは睦月型であろう駆逐艦が二人。片方はおっとりした顔、栗色の髪のポニーテール。もう片方は少し鋭い目、癖が少しある白髪。
更に、多分綾波型の駆逐艦が二人。一人は、黄みがかったブラウンの髪、頬に絆創膏。もう一人は、薄いピンクの髪をツインテールにしている少女。
全員が、ボロボロの武器を構え、ドック内の工具で武装している。
おまけに、
「ありゃあ、瑞雲か。うちのじゃないな。音成鎮守府のでもない」
成る程、所謂、制空権を取られた状況ってことか。
それに、あっちの艦娘達も結構やるな。構えられた武器の狙いは正確、感じるエネルギーの大きさは通常の艦娘の数倍。うん、うちの子達じゃ、無傷で捕らえろってのは無理だな。殺すことは出来るだろうが、それは駄目だし。
緊張の一瞬。
そして、目の前の川内型の子が問いかけてくる。
「……貴方は、この鎮守府の人ですか?」
質問の最中でも気は抜いていない。厄介だな。まあ、質問の内容は是だ。
「私の名前は、新台真央。ご覧の通り提督さ」
「(ご覧の通り……?どの辺が提督なんでしょうか?)わ、分かりました。……ふっ!」
恐ろしく速い踏み込み。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。瑞雲が俺達の目の前を急降下、同時に俺は、川内型の女の子に取っ捕まる。
「くっ!司令官!!」
「動かないで!!!」
逆手に持ったナイフを俺の肝臓付近に向ける川内型の子。あ、身長差的に首は無理だったみたい。かわいい。
「くっ!司令!!……あ、いや、大丈夫ですね、司令ですし(小声)」
比叡、ダダ漏れ。
「……?、取り敢えず、大人しくこっちへ!」
俺を逃さないように、がっちりと胴に手を回し、拘束する川内型の子。うむ、抱き付かれるのはいいなー。もうちょい強くても良いのよ?
とか思っていると、そのまま引っ張られ、力づくでドックにぶち込まれた。
そこで、俺が見たものは……
×××××××××××××××
……私は、浦野鎮守府に所属「していた」艦娘、川内型の二番艦、神通。
浦野鎮守府では、最近、『強化装置』なるものを試験運用的に導入した。
これは、艤装と肉体との同調率を無理矢理上げて、艦娘の戦闘能力を増加させるものだ。
もちろん、私達の肉体にかかる負荷は、尋常ではない。
……そして更に、『改造』と『改修』……。
艤装が本体である私達は、艤装に手を加えられると、存在の根底が揺らいでしまう。……しかし、強化装置で無理矢理に強化されたこの身体ならば、艤装の強制的な改造にも耐えられた。耐えてしまった。
あの時は、常軌を逸する苦痛に気が狂いそうになったが、艦娘というのは人間よりもずっと丈夫だ。肉体も、精神も。
……だからと言って、そのまま耐え忍ぶことは、出来ない。
私達はもう、限界だった。
そして今日、私達の元に思いがけない幸運が訪れた。
浦野鎮守府から遠い海域で、他の鎮守府の艦娘と出会ったのだ。
今しかないと思った。
確かに、逃げたところで何にもならないだろう。だけど、私達は、あの苦痛から逃れたい一心で、案内された鎮守府に押し入った。
そして、紆余曲折の末に、ここの鎮守府の提督らしき人物を捕らえることに成功した。
そして今、私達が占拠したドックでは……。
「あ、あの?貴方は、何を?」
「はいはい、動かないの。かわいい顔してるんだから、怪我しちゃ駄目だよ?ほら、ここも!顔に切り傷なんて!そっちの航巡の子、最上ちゃんと三隈ちゃん二人と、川内ちゃんは入渠してて!!」
何故か、治療を受けている。
「よし、こんなもんか。全く、こんなに怪我してたら、取り押さえるどころじゃないな。…………あっ」
……取り押さえる?
「どういうことですか?」
即座に、目の前で座るこの提督(?)を抱き寄せ、首筋にナイフを添える。
だけど、この人は、リラックスした様子でこう言った。
「いやぁ、取り敢えず様子見と思って潜入したんだけどね。思いの外怪我人が多くてさ?」
ヘラヘラと……!
「質問の答えになっていません……。まさか、自分が殺されないとでも?」
脅しつけるため、申し訳ないが、首筋を軽く、軽く…………、あれ?!斬れない?!!
「ああ、俺はそう簡単には殺されないねぇ!!」
不味っ、手を掴まれ……!!
「はい霧吹きー!!」
何、霧、これ、は、く、すり……!か、身体に力が……!!
「お前!!神通に何をしたぁ!!!」
川内、姉さん、駄目、です……!!
「ンッンー、明石謹製ウルトラ筋弛緩剤ィ……。霧吹き一つで艦娘すらダウーン、もちろん俺には効かない。……ああ、副作用とかは特にないよ。安心して捕まってほしい」
「このぉ!!!」
駄目です!艦娘が、人を、殴ったら……、?!!
「いいパンチだ、感動的だな……、だが無意味だ」
「……嘘でしょ?」
「言ったろ?取り押さえるってよ?今なら全員メイド服で許してやるよ」
浦野鎮守府
数ある悪徳鎮守府の一つ。保有艦娘は、最上、三隈、川内、神通、文月、菊月、朧、漣。
那智
宇宙海賊の中の人ではない。
比叡
正直者。
旅人
薬品にも強い。