まあ、そんなこんなで、戦いの日々に疲れたので、一目惚れをやります。ギャルゲは普段やらないんですけど、ヒロインが可愛かったので。はい、そう言う趣味です。
貫手!……駄目だ、逸らされる!
掌底!……これも駄目、捌かれる!
肘打ち!……軽く身を躱される!
さっきから殆ど全力全開、人間ならとっくに命はない速さと重さ!フルパワーを出している筈なのに!!
「クソ!どうなってるのよ、アンタはっ!!!」
「成る程、速いねぇ。那珂ちゃんもびっくりするぜ、こりゃ」
「えいっ!!」
密かに隠れていた文月ちゃん、真後ろから、死角からの一撃!
「はい残念ー」
「ひゃあ!は、離し、て!!」
「霧吹きシュー」
「ふにゃあ……」
「文月ちゃん!!」
そんな……!!振り向きもせずに?!!
「貴様!よくも文月を!!」
「菊月ちゃん、激こうするんじゃあない……。過ぎた怒りは拳を鈍らせるって、それ一番言われてるから」
突貫した菊月ちゃんは、事もなさげに、簡単に捕まる。
「くっ!川内!今だ!!」
「!!、分かった!!」
いや、簡単に捕まったのはブラフ。即座に戦況を分析した菊月は、普通のやり方では勝てないと踏んだのか、この男の片腕を封じるように掴んだ。
……やるなら、今!
菊月の声を聞いた朧ちゃんと漣ちゃんも、ドックの中にあった頑丈そうな大型のハンマーを振るう。
私を含むて、三方向からの同時攻撃……!!回避も防御も不可能!!
これで、終わり!!!
「ムテッペキ、っと」
……は?た、盾?!
「ほらほら、呆気に取られちゃ駄目駄目。……霧吹き、と」
「ハフン……」
「ひゃぁあ……」
「馬鹿、な……」
……駆逐艦が全滅?四人の駆逐艦が全滅?三分も経たずに?ば、化け物か……?
「……何を、したの……?」
「昔、異界のとある民族と知り合ってなぁ……。彼らは、世界の果てを見つけられたんだろうかね……」
しみじみと、昔を懐かしむように言う男。くっ、話すつもりはない、と言う事ね。
その時、瑞雲が割り込む様に私の前に飛来した。これは、最上のだ!
「そこまでだよ……!」
「もう弾も殆どありませんけど、一度の戦闘くらいなら……!」
最上と三隈だ!……だけど、まだ怪我が……。何より、戦いで失った体力気力は戻ってないのに!
「ボク達なら大丈夫、十分休んだよ……」
「それより、ここが正念場ですわ。……この人をどうにかしないと、私達は終わりです」
そう言って、武器を構え、瑞雲を展開する二人。数は少ないとは言え、複数の瑞雲で包囲すれば……!!
「あーあーあー、困るんだよなぁ、ドックでドンパチは。直すのも掃除するのも俺だしね?すまないけど、チート使わせてもらうね?」
どこに隠し持っていたのか、明らかに怪しい、大型の注射器を取り出した!
「また薬?!しかも、見るからに怪しい!!」
あんな真っ赤な薬品、あってたまるか!絶対に注射されたくない!!
ところが、この男は……。
「せえの、えいっ、と。……ああ、嫌だなぁ、これ。気持ち悪いんだ、変異ってのは」
「な、何を?!!」
自分自身に?!!
そして、手のひらを翳すと、
「……サイコキネシス」
「?!、瑞雲の制御が……!!」
「私の主砲が?!!」
「……超、能力……?!」
……冗談じゃない!!手を触れずに、私達から武装だけを奪うだなんて……!!これじゃあ、もう……!!
「打つ手なし、かな?……ではお休み、お嬢さん達。良い夢を……」
そして、呆気に取られた私の目の前にあったのは霧吹きだった。
……意識が、落ちる。
…………ごめん、皆んな…………。
×××××××××××××××
……ここは、どこ?
……ボクは、ボクは航空巡洋艦の最上、最上型の一番艦で、それで……。
確か、そうだ、ボクは、自分の鎮守府から逃げ出したんだ。
……でも、一人でじゃない、鎮守府の皆んなと一緒にだ。
……皆んな?皆んなは?皆んなはどこに?!……少なくとも、ここにはいない、みたいだ。
ここ、この部屋にあるのはベッドだけ。窓もないし、他に家具らしい家具もない。……何でボクは、こんなところに?
……あ、水道、それと、小さなテーブルにコップが置いてある。そう言えば、喉が渇いた。失礼して一杯、水を飲む。
……そう、何か、喉が渇くようなことをしたんだ。多分、戦闘行動か何か。
……ここで寝ていたと言うことは、負けたってことかな?……艤装は、武装が外されてる。
やっぱり、負けた?じゃあ、死んだってこと?……でも、ここは、あの世にしては無機質過ぎる。なら、捕まった?仲間もここに?
……分からない。けど、少なくとも、ここにいては何も始まらないことくらいは分かる。
目の前にあるドア、この先に答えがあるのかどうかは分からない。でも、進むしかない。逃げ出したボクに、帰る場所なんて無いから……。
そして、意を決して、ドアを開く。
「誰かなぁ、そこにいるのは?」
「ん"ん"っ?!!!」
へ、変な声出ちゃった!な、なにこの、何?何なの?誰なのこの、馬のマスクの人!!
「自分のこと、知らない?じゃあ、そのままにしておくべきじゃない?」
「い、いや、ボクは」
「でも俺は君を知っている」
「?!」
まだいた!鶏?何で?!
「俺の顔を見て?以前会ったことが……、あるよね?」
「い、いや、マスクだし」
「知らないですわ!!ここに招いた覚えもありませんことよ!!」
「?!!」
また増えた?!こ、今度はフクロウ、かな?何なの?!幻覚?!どう言う幻覚なのこれ?!!
「え、えっと、その、ボ、ボクは」
「……本当に思い出せない?」
鶏のマスクの男が言う。
「……その、ごめん、あんまり覚えてなくて……」
「じゃあ、ヒントをあげよう……。黒井鎮守府、ドックの占拠、提督の捕縛、返り討ち……」
……不思議と、単語の一つ一つに聞き覚えがあった。
……そう、そうだ、ボクは……。
「……貴方は、黒井鎮守府の、ボク達が迷惑をかけた鎮守府の、提督……?」
「あ、思い出した?」
……あ、普通に脱ぐんだ、そのマスク。
「じゃあ、こっちは……」
「はーい!鈴谷だよ!初めまして、いや、船の時以来だし、久しぶり、かな?」
「熊野ですわ、以後、よろしくお願いいたします」
「鈴谷!熊野!!」
ボクの妹、鈴谷と熊野だ!こんなところで会えるなんて……!!
……そっか、そういうことか。
……もう、悔いは無い。
「……提督さん」
「なにかな?」
「最後に、妹達に会わせてくれて、ありがとうございます」
「最後に?」
「え?はい。だって、提督に暴力を振るったんですから、処刑ですよね?」
「いやいやいやいや!!しないってば!思考回路が怖いよ!!」
「では、解体ですか?」
「何で死ぬことが前提?俺ってそんなに怖い見た目してる?」
……?
じゃあ、なんでボクを生かしておいたのかな?……正直、浦野鎮守府に帰るくらいなら、死んだ方がマシだ。いっそ、ここで殺してもらった方が……。
「あー、調べたよ、浦野鎮守府のこと。相当な悪徳鎮守府だったね」
「え?」
「いやあ、胸くそ悪いね。かわい子ちゃんに酷いことするやつは大っ嫌いだ。……だから、消えてもらった」
「……どういう、ことですか?」
「浦野鎮守府は提督が謎の鶏マスクに襲撃され重体、二度と復帰できないってよ」
……鶏マスク?
鶏マスク?!!
「じゃ、じゃあ、貴方が?!!」
「保有している艦娘は全て行方不明、轟沈したとして扱う、だって。……同時期、ここ黒井鎮守府では、建造を行い、最上、三隈、川内、神通、文月、菊月、朧、漣の計八人を召喚、黒井鎮守府の所属とする」
どういうこと?!理解が追いつかない!!
「その、えっと、それは……」
「……あー、つまり、黒井鎮守府へようこそ!歓迎しよう!盛大にな!!」
「そんなこと言われても、もっと詳しく説明して下さい!!」
「えー?だってもう説明するの八回目だし……。ま、良いか。じゃあ、説明しよう。あれは昨日、君達が薬で倒れて、疲労のせいで丸一日寝ていた日の話だ……」
元浦野鎮守府の艦娘達
全員黒井鎮守府に転属。扱い的には、最近召喚された、と言うことになっている。
鈴熊シスターズ
旅人が頼んだらノリノリで手伝ってくれた。
異界の民族
目玉に手足を生やしただけ、というぞんざいなデザインだが、極めて戦闘能力が高く、自らが崇める神のために命を捨てる狂信者達。悲願は、世界の果てに行くこと。
旅人
プラスミド?ああ、あんなもんは変異治療のポーションで一発だよ。