69話です(二回目)。
浦野鎮守府がグーグルマップから消えて二、三ヶ月くらい経った頃。
俺は退屈していた。
いや、仕事はびっくりするほど順調だし、新しく来た艦娘達も俺に慣れたし、悪くはないんだけどね?
でも、順調過ぎるのはやっぱり退屈だなー。あ、そうだ(唐突)、
「思ったんだけどさー」
「はい?何ですか提督?」
優しく微笑む大淀。あー、この子、良い女だなー。こんな顔を向けてもらえる俺はきっと特別な存在なんだなってヴェルタースオリジナル。いや、なんでもない。そうじゃなくって、ええと、
「最近、大規模作戦してないね?」
「総員!聞きましたね?!提督は深海棲艦共の屍の山がお望みです!!」
オッ、緊急放送ゥー!!
「なんでや!!」
場所を移して、会議室。
「君達、本当に話が早いね。そういう所は好きだけどさ?その、女の子が屍の山とかさ、だ、駄目だよ?」
「「「「はい!」」」」
本当に分かってんの?
……まあ、最近は本当に大規模な作戦がなくて、皆んなちょっとイライラしているような気がしてたんだよね。
近頃はまた人数が増えて、個人の負担が減ったからね。あんまりにも戦わないと、自分が必要とされていないのかも、とか思っちゃうんだろう。
本人達は、戦いを望んでいる。なら、好きにさせるべきだ。
確かに、俺としては、静かに生きるのもアリだよ、と選択肢を提示しているが、他でもない本人達が戦いたいと言うなら、それを全力でサポートする。相手の意思を尊重する、これ、とっても大事。
……ただ、パパにはならないぞ。嫌だぞ、結婚なんて。まだまだ独り身でフラフラ遊び歩いてたいんだ。
さて、大規模作戦。
うちの鎮守府は、俺の贔屓目とか抜きで、日本最強だ。
決して、強くなろうとして強化装置を導入した鎮守府が、謎の鶏マスクに壊滅させられているから、とか、謎の九人のサイボーグが強化装置の製造元を悉く潰しているから、とかそんなんじゃない。
本当に、単純に、強い。
故に、ある程度の近海はほぼ開放、やることは全くない。
だから今回は……、
「今回の大規模作戦は、音成鎮守府と合同で行います!」
全力を出さない。
いや、全力を出さない、と言うより、最大戦力を出さない。
……そのだね、そろそろうちの子達の練度がカンストしそうなのよ。
艦娘の練度がカンストするってことは、限りなく人間に近づくってこと。霊的存在である艦娘が人に。
つまり、孕めるようになる、らしい(明石談)。
……ヤバくない?
朝起きたらパパになってました、とか嫌だぞ俺。
よって、練度がカンストしそうな子達を避ける為、新参の子、それと出撃回数が少ない子に戦ってもらう。
「では、出撃する艦娘は?」
「今回はどうやら、近海の深海棲艦の残党を掃討する作戦だ。だから、危険は少なめ。どうせだから、なるべく戦闘経験が無い子に行ってもらいたいなー!」
……とりあえず、机の上にゼクシィがある子は除外。なんでほぼ全員そんな雑誌を?
ちょっと待って古鷹!たまごクラブある!早い!早過ぎる!!
絶対に避けなくては!!
安パイ!安パイは?!
キョロキョロと視線を動かした先には、微笑むビスマルク!
こ、これだ!!
「へ、編成だが、旗艦はビスマルク!それとウォースパイト、あきつ丸と、川内型全員!!」
この子達は、机の上にゼクシィもたまごクラブも無い!つまり安全!
「ん?今回は少ないな?」
定位置であるホワイトボードの隣にいる長門が言う。
「い、いやほら、今回は音成鎮守府の艦娘もいるから!ねっ?!」
実際、音成鎮守府もかなり強い。艦娘個々の練度なら、うちに匹敵するんじゃない?
「む、そうか?不安なら私も……」
「いやいや!大丈夫!大丈夫だから!!!」
長門、練度は80を超えた。ヤバい。
「俺とお前の仲だろう?」
「大丈夫!!ほんっとに!!本当に大丈夫!!!」
木曾、同じく練度80超え。改二も視野に。洒落にならん。
俺は知ってるんだからな、君らに渡した給料、殆ど貯金してるの!結婚費用とか言って!!誰か助けて!!
「そ、そのね?今回はなるべく戦闘経験の少ない子に出撃してもらおうかなって!ねっ?!」
「……そうだな、確かに、実戦は大事だ。仲間同士の演習で練度の数値だけを上げても為にはならんな!……そこに気付くとは、やはり天才か」
なんか知らんけど賞賛された。ドヤ顔しとこ。
……ん?練度の数値だけ?
嫌な予感がするぞぉ?
「大淀?ちょっとそこの、練度測定器貸して?」
「はい、提督」
で、このスカウター的なアレを付けてっと、今回の出撃組を見ると……、
「私が旗艦ね?任せて!」(ビスマルク:練度74)
「Yes, my load. ……Admiral、出撃ですね」(ウォースパイト:練度74)
「はっ、このあきつ丸に御用でしょうか!」(あきつ丸:練度78)
「大規模作戦?!じゃあ、遠くに行くし、夜戦するよね?!!」(川内:練度59)
「出撃ですね、了解致しました。……提督に拾って頂いたこの命、提督の為に使いましょう」(神通:練度59)
「……えっ?このメンバーに那珂ちゃん?そ、その、キツくない?!」(那珂:練度47)
うん。
しくじったぁぁぁぁ!!!!
え、何?何なん?こんなに強くなる?
うせやろ?
どうすんだこれ?
だ、だが大丈夫だ、結婚の算段を立ててる訳じゃない!問題はない!!
そう、そうだよ、ビスマルクなんてデカい暁みたいなもんやし、ウォースパイトが俺みたいなプー太郎に本気になる筈がないし!!
そうだ、何考えてんだ、まさか鎮守府の艦娘全員が俺に惚れてる訳、
「あ、その、Admiral?」
「んあ?なんだい?ウォースパイト?」
「今度、一緒にイギリスに行きましょう?」
「良いけど、何でだい?」
「もう、式は本国で上げるに決まってるでしょう?今は便利ね、少しインターネットを見れば、本国の素敵な教会が見つかるんだから」
「んんー?!んんんんんんー?!!」
結婚?結婚とは?
「その次はドイツよ!提督はカトリック?プロテスタント?まあ、どの道素敵な教会は見つけておいたわ!!」
「んんんんんんんーーー?!!!!」
えっ、えっ、何事?何、マジ、何で?!
「ははは、ご安心下さい、提督殿」
あきつ丸……。
「良く良く考えれば、艦娘の自分達に戸籍はないであります。故に、事実婚という形で」
形で、じゃないが?!
「提督ー!知り合い多いんでしょ?盛大な式にしようね!!川内型はもう式場を決めておいたから!!」
「ふふ、白無垢を着るのが楽しみです」
「えーっとー、那珂ちゃんはー、アイドルだからー」
「あ、那珂ちゃんはいいです」
「?!」
やべぇよ、やべぇよ!外堀を埋めにきていやがる!!
どうしよ、えーっと、えーっと、そ、そうだ!!
「ほ、ほら、そういうのはさ、深海棲艦がいなくなってから、いくらでもできるじゃん?!さ、作戦が、作戦があるから!!ね?!き、気を引き締めていこう!!皆んなよろしくおねがいさしすせそ(支離滅裂)!!!!」
『深海棲艦がいなくなってから、いくらでもできるじゃん?!』
「……ん?」
『深海棲艦がいなくなってから、いくらでもできるじゃん?!』
「……えーっと、録音?」
『深海棲艦がいなくなってから、いくらでもできるじゃん?!』
「さて、言質を取った、であります!各員、式場の準備を!!」
ハッハー!!
神は死んだ。
出撃組
出撃回数が少なくとも、演習で練度は上がっていた。
旅人
弱点である、外堀埋め攻撃がクリティカルヒット。言質を取られる。