黒井鎮守府の艦娘は、ミカみたいな感じです。艦娘を裏切らず、いつだって最高に粋がって格好良い旅人ならば、黙ってついてきます。
提督に絶対の忠誠と不滅の愛を、そんな感じ。
…………今!!
地面に足を叩きつけるかの様に、踏み込む!
そして回し蹴り……、生半可な速さでは、相手の速度に追いつけない。ならば、攻撃の範囲を広げる他ないだろう。
「ぜぇりゃあ!!!」
殺った!!
しかし、当たった筈の蹴りは、虚しく宙を切る。
見れば、蹴られた筈の相手は空気に溶けるかの様に霧散し、消えて無くなった。私が蹴ったのは、相手の残像だったらしい。
不味いな、目標を見失った。
気配も酷く希薄だ。後先を考えずに全力で集中し、感知範囲及び精度を最大にしているというのに、まるで気付けない。
ならば勘に頼る他ない。今までの経験上……、後ろ、いや……、
「上だっ!!!」
捉えた!!
「……ん、上出来だよ、武蔵。あー、痛え。もう俺よりも強いだろうよ」
「まさか……。貴方には敵わないさ、提督……」
その証拠に、提督は使っていない。
空間湾曲も、テレポートを始めとする魔法も、呪術、奇跡、闇術、仙術……、あらゆる術を。
霊薬もポーションも、エンチャント付き防具の一つも。
得意の弓や投擲も、数多の技能も。
「いやいや、空蝉まで使わされるとはね。全く、君達艦娘の成長速度には驚かされるよ」
「追いつける気がしないがな」
物理的にもな。提督は速過ぎる。島風が憧れるのも無理はない。
「なーに、才能はあるんだ。俺よりもな」
そう言って、疲れのあまり座り込む私に手を差し伸べる提督。全く、色男と言うものは何をしていても絵になるものだ。
「む、ありがとうな」
「おっ、大丈夫か大丈夫か?フラフラだぞ?」
「まあ、全力以上を出したからな、消耗が、なぁ」
そもそも、三時間はやり合った筈なんだが。息一つ上がらんのか。化け物か?ああ、駄目だ、倒れる。
「ほら、起きて。あーあー、砂埃が顔に……。ほら、拭くんだから、動かないの」
「むぅ……」
まるで、大和が二人になったみたいだ。
大体、無防備な女を前にしてそれは、少しばかり酷いんじゃないだろうか。もっと、こう、無理矢理押し倒すくらいは……。
「じゃ、肩貸すから、立ちなよ」
「あ、ああ」
……並んで立つと、やはり、デカイな。私も大和も180半ば、並みの男より背が高い。そんな私よりも更に大きいとなると、かなりのものだろう。
それにガタイも良い。掌もゴツゴツしていて、大きい。……滾るな。
「……ほら、ぼーっとしてないの。立って、どうぞ」
「……あー、すまん、見惚れていた」
「はいはい」
むぅ、子供の様に背負われてしまった。やはり、女として見られていないのだろうか?乳は大きい筈なんだが。顔か?身体か?
「大和にパスで良いね?一緒に風呂入ってきなよ」
うーむ。
「…………そうだ。提督、裸の付き合いをしよう」
「まただよ(笑)」
また、だと?他の女と?……少々苛立たしいが、まあ、いい。提督は私一人で収まるような器じゃない。
……まあ、いい。
「いだだだだだだだだ!!!首折れる!!!締まってるから!!!旅人壊れちゃーう↑!!!」
「ほぼ逝きかけました」
「す、すまない……」
つい、力が入り過ぎた。如何に死なぬと言えども、痛覚はあるらしい。
……なんだかんだ言って、風呂には着いてきてくれた。もちろん、互いに恥じらうことは無かった。見せて困る身体ではないが故に。
にしても、いい身体だ……。巌の様な大胸筋、鋼の如き腕、無駄のない腹筋、ガッシリとした骨格に大きな手足。そして、その、どこがとは言わんが、デカイ。
そして更に、その美しい肉体には、数多くの戦いの痕が残っている。
私自身も、前線に立つことから、生傷は絶えないのだが、提督はそれ以上だ。
大きな刀傷は肩口から脇腹まで達している、銃創は正確に肝臓や心臓の位置にあり、獣か何かの歯型は首筋を切り裂かれたことを示している。
素人でも分かる、あの傷は、一つ一つが致死のものだ。
……一体、今までどれ程の激戦を生き残ってきたのか、それが如実に伝わってくる。この男が如何に強いのか、理解させられる。
だからだろうか、私の女の部分は、目の前のこの男に、酷く、惹かれる。
「……つまり、俺はいつも言ってるけど、素の身体能力は並みなんだよ。組手の時は闘気で底上げしてるし、出撃の時は更に波紋まで使っているんだよ……、聞いてる?」
「提督、貴方の身体の傷痕を舐めさせてくれ」
「聞いてないのはまだしも何を言ってるんですかねぇ……?」
……駄目、だな。抑えられん。
「先に謝っておく。すまん」
「ちょっ」
長時間の組手で滾っていたのだ、性愛の欲求を抑えられる筈がない。若く健康な女の身体を持つ以上、性欲があるのは当然だろう?
「良い、身体だな……。こうして触れる度に、貴方の強さを感じられるよ……。さて……、は、むっ……」
舌先で、傷痕をなぞる。ざらざらとした感触。
舌を這わせる度、女の部分が、下腹部が熱を持つ。
「ん、はあ、提督……、愛しているぞ❤︎」
「わ、分かったから!」
嫌がってはいないようだ。その気になってもらいたいものだが……。もちろん、今の私には子を作れる機能はまだないし、作ろうとも思わない。まだまだ、提督の為に戦いたいのだ。身重のまま戦う訳にもいくまい。
「なに、少しくらい構わんだろう?」
「駄目だ」
「…………そう、か。私のような女は、嫌い、か」
「いや、俺は……、触る方が好きなんだよ」
すると、提督の大きな手が、私の胸を揉みしだいて……❤︎
「くうっ❤︎うっ、くっ❤︎さ、触り方が、上手いものだな……❤︎、……一体、この手で何人の女をモノにしてきたんだ……?」
提督は、女に慣れている。いや、慣れ過ぎている。何人も誑かしてきたことは、容易に想像できる。
「さあねぇ?でもまあ、碌な男じゃないってことは自覚しているよ」
「はっ、あっ❤︎、ふ、ふふ、なら、そんな男に引っかかった私は、愚か者だな……❤︎」
「……そうかもね。多分、俺は結婚しようと何しようと、一生変わらんだろうよ。人並みの幸せをくれてやることはできない」
「んんっ❤︎だが、私は、貴方が隣にいることが一番の幸せなんだよ。……分かっているんだろう?」
「……分かってはいるがね、それは卑怯な気がしてさ」
「……卑怯?」
何を今更?
「まるで洗脳じゃないか。生まれて数年数ヶ月の君達に一番関わる男は俺だ。自慢じゃないが女にモテるこの俺だよ。これじゃあ、選択肢は一つしかないようなものだ」
……成る程、そういう見方もある、か。
だが……、
「例えそれでも、私は良いと思っているよ。そこらの有象無象よりかはずっといい」
「俺より強い男だってごまんといるぞ?」
「何も、強さだけに惚れた訳じゃないさ」
悪餓鬼の様に笑うところも、自然を大切にする心意気も、大きな夢を持つ男らしさも、全てが私を惹きつけてやまないんだよ、提督。
「……まあ、良いか。初恋なんだ、実ろうが実らまいが、最高の思い出にしてやらなきゃな!」
「そうだな!その意気だ!さあ、その意気のまま私と一発…………?!」
「武蔵、提督と一発、何ですか?……提督も、その、大きくした○○○は、どういうことですか?」
や、や、や、ややややや、大和?
ど、どど、どうしてここに?
「…………厭な予感がしたのです。この、大日本帝国海軍の誇る超弩級戦艦、大和を差し置いて、提督に初めてを捧げるなどと、不届きな艦の予感が…………。まさか、貴女なのですか?武蔵…………?」
「ヒッ」
「提督も、この大和よりも先に、妹の武蔵に欲情しようなどと…………。どういう、ことですか…………?」
「ヒッ」
「……あー、武蔵?」
「……何だ、提督」
「……逃げるぞ!!」
「応!!」
「逃がしません…………!!!!」
まあ、こうして貴方と馬鹿騒ぎできるだけで、私は幸せだよ、提督……。
武蔵
馬鹿みたいな身体能力があり、それに無理矢理付き合わせようとする。本日は朝から数十キロの走り込み、朝食に数十キロ単位のカレー、そして三時間全力での組手という、並みの人間なら即死レベルのフルコース。旅人が廃スペックであるが故に何も言わないが、付き合わない場合、鎖で縛り付けてでも無理矢理連れて行かれる。
大和
艦娘では珍しく、自己評価が高い。その背景には、「大和」であると言う自信から、らしい。故に、最初に愛されるのも、子を孕むのも自分だと思い込んでいる。ライバルは金剛型、陸奥など。
旅人
この後、全裸で離島まで逃げた。武蔵と。