しかしステマは出来たので痛み分け。
……「なんかの撮影?」
……「あ、あの子かわいい!」
……「おかーさん、あの子すごーい」
……「可愛過ぎる、修正が必要だ」
……「おっさん、負けんなー」
街の中。買い出しの途中。
「何あれ」
人だかりが。
「いだだだだだだ!だ、だから誤解だって!!!」
「まだ言うか!この狼藉者め!!」
「は、初春ちゃーん!や、やめてー!」
……そして、聞き覚えのある声。
成る程、強制的に始まるサブストーリーか。わかるわ。
面白そうな厄介ごとには首を突っ込まないと死ぬ。
いつものトラックを路駐して、人だかりの中を歩いて抜ける。
「はいはーい、ごめんねー、退いてねー」
そして、人だかりの真ん中では……。
「こんの、竿師崩れめ!!何がきゃばくら、じゃ!うちの提督をどうするつもりじゃ?!」
「ち、違うってば!別にいかがわしい店じゃないよ、うちのエリーゼは!!ってか、力強いね君?!!」
「は、初春ちゃん、私、怒ってないから!大丈夫だから!!」
……ふむ、音成鎮守府の提督と、初春。それと、初春に腕を捻り上げられている、知り合いの金貸し。
あー、あれだ、ただただ、面倒なやつだ。大して面白くもない厄介ごとだ。
俺は面倒は嫌いなんだ。
……逃げちゃえ。
「この!このっ!このままへし折ってくれるわー!!」
「折れる!!本当に折れるから!!!……あっ?!そ、そこにいるのは、新台君?!新台君!!ちょっと!!!」
「え?あ!黒井鎮守府の……!!」
ぐっ、見つかった!流石に神室町でコインロッカーの鍵を50本近く見つける人の視力は侮れんな!!!
「あー、はいはい、分かりましたよ!」
「……で?何事?」
人だかりを解散させて、三人に話を聞く。大体予想はついているがね。
「そこの男が、うちの提督を誑かそうと!!」
「だ、だから、ただ単にスカウトを」
「喧しい!言い訳など聞きとうないわっ!!」
「は、初春ちゃーん……」
激おこ初春。……て言うか、やっぱり私服は着物なんだ。
艦娘は目立つよなぁ。私服が着物の子多いから。そういや、うちの艦娘も話題になってたっけ。「着物を着た凄え美人がいる」って。本人達はナンパだのなんだのがうざったいらしいけど。
あと、個人的に、初春は艤装の鎖骨と脇がセクシー。
「い、いや、本当にさ、いかがわしい店じゃないよ?!ちゃんと風俗法守ってるし、給料も出してるし!!」
大慌ての金貸し。キャバクラのオーナーもやってる。顔も良いし頭も切れる、その上腕っ節も上等で金持ち。凄い男だよ。……だけど、毎度毎度、変な事やら事件やら、そういったことに巻き込まれる。
今回もまた。
「あー、守子ちゃん?何があったの?」
「は、はい!」
守子ちゃん。うちの隣にある、音成鎮守府の提督。可愛くって優しい子だよ。ちょっとビビりだけど、肝は座っているし、艦娘にキツく当たったりもしない良い子だ。
音成は、規模は小さいが、艦娘の個々の実力はうちに次いで強いね。戦果もバンバン挙げていて、表向きには、この国のトップ、と言うことになっている。
おっぱいも大きいし、ウエストは細めでお尻は肉付きがよろしい。
完璧だ。
「その、ですね、私達二人はお休みで、ここに遊びに来ていて……」
……『神室町、かぁ。実家とは全然違うなぁ……』
……『何とも、まぁ……。妾が知る日本とは、随分変わったものじゃなあ……』
……『でも、折角来たんだから、楽しんで行こうか!』
……『そうじゃな!』
ふむ、そうして遊んで、それから?
「それから、少しして……」
……『にしても、喉が渇いちゃったね。喫茶店も混んでるみたいだし』
……『ならば、そこの自販機なるもので何か買ってきてやろうではないか』
……『大丈夫?初春ちゃん、機械とか駄目じゃないの?』
……『ば、馬鹿にするでない!最近はてれび、を見れるようになったのじゃぞ?!』
成る程、その、初春が一瞬目を離した隙に?
「はい、その、そちらの秋山さんが……」
……『ん?おお、ちょっと、そこの君?』
……『ふえっ?!な、なんでしょう?!』
……『君さ、もし良かったら、キャバクラで働いてみない?』
……『え、ええっ?!!わ、私が?!!』
……『君には光るものがあると思うよ、ナンバーワンだって夢じゃない。……ああ、申し遅れました、自分、こう言うものです』
……『あ、こ、これはどうもご丁寧に……。ええと、秋山駿、さんですか』
……『ええ、そこのキャバクラのオーナー兼、しがない金貸し、ですよ』
……『は、はあ……。で、でも私、キャバクラなんて、とてもじゃないけど……』
……『いやいや、君は本当に魅力的だよ?何事も経験って言うし、話だけでも聞いてみる気は』
「そして、その時……」
……『な・に・を!しておるーーー!!!』
……『うおっ?!!』
……『うちの提督に身売りなどさせんぞ!!!失せんか、このうつけめ!!!』
……『み、身売りって……。い、いや、そんなことは』
……『成敗してくれるーーー!!!』
……『ちょ、ちょっと!ちょっと待っ、痛たたた!!!』
「……で、現在に至る、と」
「……はい。そ、その、初春ちゃんを止めて下さい!」
「分かったよ」
まあ、あのままじゃ不味いしな。
「ほら、初春?一旦離れて?ねっ?」
身体を掴む。振りしてさり気なく胸にタッチ。バレへんバレへん。
まあ、揉むほどねぇけど。こう言うのは気持ちの問題だから。触っていると言う事実に意味があるから。
「む、黒井の……!今はいかん、賊を逃してしまうからな」
「あー、そのね、その人、俺の知り合いなんだ」
あ、着物がちょっとはだけてる。エロい。見えないエロスである。
「……なんじゃと?」
「俺が話をするからさ、許してもらえないかな?」
「むう、大恩ある旅人の言葉故に、聞き入れたいのは山々だが……」
「いや、話を聞くだけさ、本当にこの人が悪いなら、警察にでもつき出せばいい」
「……分かった、良いじゃろう」
何とか、説得に成功。
「あー、すまない、助かったよ」
「年端もいかないような子供に痛めつけられた気分はどうです?」
「はぁ、最高だね」
はだけたジャケットを直しつつ、適当に軽口をたたく。
「よりにもよって守子ちゃんをスカウトしようだなんて、相変わらず命知らずだよ、全く」
「こんな可愛い娘さんがいるとはね、失敗したよ。あ、いや、妹さんかな?」
「いやいや、どっちでもないさ」
「と言うと?」
「この子は提督、こっちの子は艦娘」
「……ははっ、成る程ね、大失敗だ」
いやあ、本当に、相変わらずだ。
「それで?この男は?」
おっと、ご機嫌斜めだ初春。駆逐艦にしては大人っぽくてセクシーだぞ初春。
「この人は、そう、金貸しだよ。真っ当にやってる人でね、悪人じゃないさ」
「ほう」
「それで、金貸し以外にも、まあ、なんだ、とある店のオーナー、要は店長でね、そこに守子ちゃんをスカウトしようとしたんだと」
「身売りなどさせんぞ?」
なんで身売り?発想が古い!
「ああ、いや、なんと言うか、キャバクラはあれだ、うーん」
「あー、花魁とか?」
「舞妓でも近いかも?」
「「うーん」」
おっさん二人で頭を抱える。
「……もしや、水茶屋か?」
「あー、それだ!」
「そう、それ!給仕に近い仕事だよ!」
「……つまり、うちの提督を給仕にしようと?」
「そのつもり、だったんだけどもね、提督さんとなると無理、だなぁ」
「公務員だしな、一応」
「……まあ、分かった。邪な気持ちはないのじゃろう、暴力を振るったことは詫びよう」
綺麗な形で頭を下げる初春。何をやっても様になる。立てば芍薬、とはよく言ったもの。あと、髪の毛を振る度に椿の匂いがするな。素敵だ。
「あ、ああ、いや、良いんだよ、気付かなかった俺が悪いんだし」
まあ、艦娘は知識がなぁ。英霊の皆さんみたいに、現代知識をもらって召喚されりゃ楽なのにな。
「ご、ごめんなさい、どれもこれも、初春ちゃんにちゃんと教えておかなかった私の責任です……」
申し訳無さそうな守子ちゃん。でもさ、こう、胸に手を当てるそのポーズ、エロいね。
「良いんだって!気にしないでよ」
にしても、女運無いな、この人。まさか提督を引っ掛けるなんて。
そうだ、うちの艦娘を引っ掛けられたら困る。在籍艦娘のリスト(と言う名のプロマイド写真)と、俺の名刺でも渡しておくか。
「秋山さん、ちょっと。……これ、うちの艦娘のリストね。手を出さないようにお願い。他所にも言っておいて」
趣味で撮った。後悔はしてない。……個人的に撮った水着バージョンは誰にも渡さん、永久保存だ。
「ん、ああ。……おいおい、こんな美人ばっかりなの?!この子も、それと、この子も、皆んな一月もあればナンバーワンだよ?!」
クックックッ、羨ましかろう。
「それと、これ、俺の名刺。今日みたいに、怒った艦娘がいたらこれを使って欲しい」
「はぁー、了解……。全く、こんな可愛い子に囲まれて、さぞかし楽しいんだろうねぇ?」
「あぁ、最高だよ」
定期的に命に関わるスキンシップが飛んできて、定期的に修羅場が起きるけど。
「それじゃ、解散、かね?」
俺がそう言って、帰ろうとすると、
「待たれよ」
初春にベルトを掴まれる。
「えっと?何かな?」
「何、折角じゃ、音成に寄って行くと良いじゃろう。皆も会いたがっておるぞ」
君ら、ほぼ毎日うちの鎮守府に来てるじゃん?
「あ、私からもお願いします!実は、実家から沢山のお魚が送られて来て……」
と、守子ちゃん。守子ちゃんの実家は漁師らしい。
「そこまで言うなら、寄ろうかな?」
「ありがとうございます!」
「うむ!」
さて、帰りは遅くなる、と。ライン入れとこ。
「じゃ、秋山さん、そう言うことなんで」
「はぁー、モテるねぇ、妬けちゃうよ。……それじゃあね、また」
そう言って、秋山さんはプロマイドを見ながら歩き出した。
×××××××××××××××
「うわっ、こっちの子はアイドル目指せるよ……。艦娘ってのは可愛い子ばっか、おっと!すまないね、前を見てなかっ」
「あー!!!痛え!!骨折れちまったーーー!!!」
「オイオイオイオイ!!どう落とし前つけてくれんだ、おっさん!!!」
「カッコつけてんじゃねーぞ?!!」
あー、相変わらず、チンピラが多い……。
「うわっ、面倒臭さっ……」
「なんだとてめえ!!!」
「舐めやがって!!!」
「おい、どうせなら、さっきの女の前でボコってやろうぜ!!」
不味いな、巻き込みたくはないんだが……。
「おいおい、彼女達は関係ないよ」
「とぼけんなや!!!おらっ、女とガキ連れてこい!!!」
あっ、ヤバっ?!
「提督、旅人の側におるといい。旅人よ、提督を任せるぞ」
「はいよ、殺しちゃ駄目だぞ」
……おいおい、初春ちゃんがやるのか?!
止めるべき、か、な……?!
「おらっ!こっちに来おグッ?!!!」
「不届き者め……」
あれは……、鉄扇?!
「こ、このガキへぶっ?!!!」
「な?!あ、あのガキ!!」
「ふざけやがって!!!」
「なんじゃ、大の男が、女相手にだらしの無い……」
鉄扇を開いて防ぐ、閉じて叩く、持ち替えて、引っ掛けて倒す……。
「終わりじゃあ!!!」
「ヒッ!!ぐああああぁ!!!」
最後は突き、か!
「全く、迷惑千万、じゃな」
あの、動き…………、!!
閃いたぜ……!!
『鉄扇公主の極み』を修得した!!
これだ!!
初春
旅人には惚れているが、あまりグイグイ来ない。品格を重んじるから、だろう。音成鎮守府では、まるで母親のように振る舞うことから、バブみを感じる艦娘も。前に、子日にお母さんみたいと言われたらしく、若干ショックだったとのこと。
海原守子
美人。実家は漁師で、魚料理が得意。顔もスタイルも非常によろしいが、若干人見知り。旅人のことは尊敬しているし、普通に好き。唯一まともな人。
金貸し
無利子無担保の金融会社、スカイファイナンスの社長。キャバクラ、エリーゼのオーナーも兼業。強く賢くカッコよく、絵に描いたようなハンサム。
旅人
今度、また艦娘の水着バージョンのプロマイド写真集を作ろうとしている。