ちょっとだけ、緊張するなぁ。
尊敬するこの、黒井鎮守府の提督である旅人さんを、うちに招くだなんて。
こちらから伺うことはあっても、あっちがいらっしゃることはあまり無いから。
「さて、音成鎮守府にようこそ、歓迎するぞ、盛大にのう!……じゃったかの?」
「初春ちゃん、似てる似てるー!あ、旅人さん、こんにちはー!」
「きゃー!旅人さんだ!お久し振りですー!」
魚雷みたいに突っ込む子日ちゃんと阿賀野ちゃん。
「お"ぉ"ん!!」
ああっ?!なんてことを!
艦娘の力と速さで、人間の旅人さんに抱き着くなんて!!
「ここここ、コラっ!!た、旅人さんに迷惑かけちゃダメ!!!」
「えー?旅人さんは頑丈だから大丈夫だよー!」
「会いたかったですー!」
「だが、まだ生きている」
ああ!ノーダメージだ!一体どうなってるの?!
「さて、そろそろ三時だ、おやつを作ろう!キッチンはどこかね?なければ出す」
「……出す、とは?」
「マダム殺しのフードプロセッサー」
懐から突然、明らかに重そうなフードプロセッサーが。
あっ、そうでした、この人の懐は異次元なんでした。
「い、いえ、キッチンはこちらにありますから!」
……ん?あれ?
「って、ダメですよ!お客様なのに、なんで料理する気満々なんですか?!お茶菓子くらいなら私が!」
「まあまあ、良いじゃろうに。本人がやると言うのだ、やってもらえば良かろう?」
「でも……」
「じゃ、守子ちゃんは手伝ってもらえるかな?」
「うーん、分かりました」
そうなんだよね、私も、料理は得意だし、お茶菓子くらいなら作れるんだけど、流石にプロ級の腕はないもん。
多分、「自分で作った方が美味い」とか言われたら心が折れると思うし……。
「はい、じゃあ、やろうか」
「「「「はーい!」」」」
……あれ?何で阿賀野型の皆んなが?
「提督ばっかりずるいよ!私も旅人さんのお手伝いするんだから!」
阿賀野ちゃん、旅人さんのこと大好きだから……。
「私は、阿賀野姉が皆んなに迷惑をかけないように、と」
能代ちゃんは、いつも阿賀野ちゃんに着いてる。しっかり者の良い子。
「私も同じ、ですね」
矢矧ちゃんも、良く阿賀野ちゃんに着いていてくれる。能代ちゃんほどじゃないけど、しっかり者だ。
「わ、私は、その、姉さんが皆んな行くって言うから……。ぴゃぁ〜、じゃ、邪魔だったかなぁ?」
酒匂ちゃん。寂しくって着いてきたみたい。かわいいなぁ。
「おお、かわい子ちゃんがいっぱい!嬉しいねぇ!」
……まあ、旅人さんも喜んでることだし、良いか。
旅人さんは女の子が好きみたいですし。
「その、それで、どうするんですか?お茶菓子ですから、クッキーとか?」
「いやね、最近は暑くなってきたから、パフェとか作っちゃう!」
えぇ……。
「そ、その、アイスは無い、ですね。クリームの材料くらいならあるんですけど」
「まずここに万色フルーツがあるじゃん?」
どこから?
「携帯調理器を使います」
だから、どこから?
「はい、パフェの完成です」
「?!!!!」
?!!!
はい?!!
「わー!すごーい!すごいよ!!」
「えぇ……(困惑)」
「料、理……?」
「?、ぴゃ?ぴゃぁぁ?」
過程をすっ飛ばして完成です、と言われましても……。
「はい、阿賀野にあげよう」
「わーい!……はむっ……、おいしー!」
「ほらほら、こっちで座って食べて?他のは今から作っておくから、ちょっと待っててね?」
「うん!分かった!」
……あー、なるほど。
阿賀野ちゃんを座らせる為、なのかも。
阿賀野ちゃん、ものすごーく、ドジだから……。
キッチンに入れたら、危なっかしくてしょうがないもんね。
「さ、今のうちにさっさと作ろう。はい、とりあえず能代と矢矧は生クリーム作っておいて、守子ちゃんは俺と生地を焼くよ。酒匂は……、そうだな、イチゴのへたを切り落としといて」
「「「「はい!」」」」
やっぱり、阿賀野ちゃんを封じる為に……!さ、策士だ!
と、と言うか、作業スピードが速い……!!
「おっ、酒匂は結構器用だな、それだけあればタルトも作れそうだ。確か生地は四次元ポケットに……、あった」
そしてあの四次元ポケット!魔法って本当にあるんだ……。
「生クリームできましたー!」
「よーし、次はカスタードよろしくー」
「了解です!」
ああ、あまりの速さに、旅人さんが二人いるように見え……、あれ?……、
「二人いるー?!!」
「「いや、一人だよ」」
嘘です!今完全に二人いました!!
そ、そんなこんなで終了です。
完成したお菓子を居間に運んで、皆んなで頂きます。
「お、君か。こちらに来るとは、珍しいな」
「日向ったら!もっと丁寧な対応を……!あっ、そ、その、こ、今回は音成鎮守府にいらっしゃいまして……」
あ、日向さんと、伊勢さん。出撃から帰って来たみたい。
と言うことは、
「んあー、疲れたぁー!……ん?甘い、匂い?……疲れた時は甘いもの……、私にもちょーだい!!……って、ええ?!」
「こら、瑞鶴?廊下を走っちゃ……、あら?」
一緒に出撃していた翔鶴型の二人も帰って来たみたい。
「あ、お邪魔してるよー」
「こ、こっちに来てたんですか?」
「いつもいつも、そちらにお邪魔してばかりで……。今回は、寛いで行って下さいね?」
「ああ、ありがとねー」
そして、二階からは、
「む、待たせたか?すまないな。お詫びに、この若葉のことを好きにするがいい!煮ても焼いても良いぞ!!」
「こここここ、コラ!!若葉ったら!!」
若葉ちゃんと初霜ちゃん。……うちの若葉ちゃんは、その、なんと言うべきか、特殊な趣味があって……。
「む?何かおかしいだろうか?黒井の駆逐艦の響は、この前、膝に抱えてもらい、お尻を叩いてもらったとか」
「えっ」
「ちゃうねん、ちゃうねん……」
膝の上でお尻を?!(重要)……、叩かれて?(若干の興味)
「ふふふ、遠慮せずとも良い!響の調査ノートには、「どちらかと言うとS」と書いてあるぞ!安心してくれ、私はマゾだ!!」
「若葉ーーー!!!何言ってるの?!!何言ってるの?!!」
「そぉい!!」
「さあ!我慢せずに劣情を私にむぐっ?!…………もぐもぐ、うまい!!!」
シュークリームを口に!!
「あー!私も私もー!あーん!」
「はーい、阿賀野ー、あーん」
「んー❤︎おいひい!」
……なんか、うまく誤魔化しましたね。
「つーかあれ、音成にも出回ってるの?マジ?マジかー……」
……私も持っているのは黙っておこう。
「そっ、それで、今日はどうして音成に?」
瑞鶴ちゃん、全力でフォロー。顔は真っ赤。……私もだけど。
……せ、攻める方が、好き、ですか……!
なるほど!
「ああ、守子ちゃんに誘われてさ。たまには、と思ってね」
「そ、そうなんですか。……あ、そ、そうだ、えっと、ですね?良ければ、後で弓をご教授願えますか?」
翔鶴さんが、期待を滲ませた声音で言う。珍しい、翔鶴さんがお願いだなんて。
「ん、もちろん」
「あ、ありがとうございます!!……あの一航戦の御二方も絶賛する程の腕前だそうですから、楽しみです!」
へぇ、弓もできるんだ!私も、学生の頃は弓道部だったし、少し気になるなー、後で見せてもらおう!
……あれ?でも、
「……そのぉ、黒井鎮守府の艦娘は、大丈夫なんでしょうか?」
「ん?大丈夫だけど?」
いやその、そうじゃなくって……。
だって、黒井鎮守府の艦娘は、愛が、重いと言うか……。
「ああ、だって、ほら」
そう言って、窓の方を指差す旅人さん。
そこには……、
「…………ひぃ!!!」
窓に、沢山の式神がべったり張り付いて…………!!!
「監視されてる、からね」
や、やっぱり、黒井鎮守府は、おかしい……!!
若葉
マゾ。
音成鎮守府の提督
本名、海原守子。
旅人
監視には慣れている。