白露型?あー、まあ、わんわんらんどですよ。根城に身内以外が近付くと犬みたいな犬じゃない何か(白露型の連中)に噛み殺されます。
白露型が狩人なのは完全に俺の趣味なんで、気にしないで下さい。さて、秋月型をどうするか。
「ほーら、お代わりもあるぞー」
「えっ?!!こ、こんなにも美味しいものを、お、お代わりしてい良いんですか?!!!」
「ああ……、がっつり食え……!!」
「うめ、うめ、うめ……」
「あ、秋月姉?……そ、その、じゃあ、私もお代わりを……」
「あ……、う、ぼ、僕は、こんな贅沢は……」
「もー、初月ちゃんよ?今は戦時中みたいに物資が無い訳じゃないんだからね?食べ物だって、殆ど、艦娘の皆んなへ、って分けて貰ったものだから!残す方が失礼だよ?ほら、お腹いっぱい食べるんだよ」
「そ、そうなのか?じゃ、じゃあ……、もぐ、もぐもぐ……、お、美味しい……!!」
あーらら?秋月型の奴ら、餌付けされてんなー。……でも、飯はマジで美味そうだ!!何だか、私も腹減ってきちまったなぁ。
「お腹が減ったのかい、江風?あっちにメニューボードがあるから、見て来なよ」
「おっ、ありがとさん!時雨の姉貴!」
メニューボード……、選べって事か?見れば、あっちのカウンターで、他の艦娘が注文をしている。成る程、あそこで注文しろってことか。
えーっと、料理名の隣に、番号が振ってあるな。番号で注文しろってことか?和洋折衷の沢山のメニューは10種類以上だ。……うーん、ええと、麦飯が1番、あおさと長ネギと豆腐の味噌汁が4番、カレイの煮付け6番、ナスとパプリカの煮浸し8番に、ウニの茶碗蒸し10番……マジかよ?!えっ、ウニ?!食った事無いぞ私!!
やばい、正直言って、かなり楽しみだ。
「えーっと、その、鳳翔、さン?」
で、合ってるよな?艦娘の勘ってやつだけど。
「はい?……あら?新しい子?……貴女は、江風ちゃんね?軽空母の鳳翔です。提督と、間宮さん、伊良湖ちゃんと厨房を切り盛りしているの。よろしくね。……それで、注文、よね?何番かしら?」
「おう!よろしく……!注文は……」
「………………う、うっま!何だこれ?!今まで食ったものの中で一番美味い!!!」
麦飯はふっくら、美味しく炊けてる。噛みしめる度に米本来の旨味が出てくる。
味噌汁はあっさり薄め、他が濃いめだから、清涼感、ってやつがあっていい。あおさの食感が何とも言えない!
カレイは、今が旬で脂が乗ってるらしい。メニューボードに書いてあった。しっかり煮込んだんだろう、よーく味が染みていて、脂身が甘くって……!
煮浸しも上等な出来だ。味が適度に染みていながらも、野菜らしい食感を損なっていない。……ってか、甘いなぁ!相当新鮮で、良い野菜を使ったんだろう。それこそ、生でも食えるような。
トドメにウニの茶碗蒸し……。銀杏とエビ、それとウニだけの、シンプルなもの。だからこそ、素材の味が十二分に活きてる。……これ、旅館とかで出すやつだろ?良いのか、食堂で出して?!
ほんっとに、ヤバい。これが毎日続くのかよ?高待遇ってレベルの話じゃねえよ?!……お、お代わり、良いかな?
「ん?ああ、お代わり?また、同じように注文してきなよ。……僕としては、7番の牛肉コロッケがオススメかな。提督の洋食は本当に美味しいから」
夏野菜たっぷりのペペロンチーノを啜りながらも、助言をしてくる時雨の姉貴。コロッケ、そう言うのもあるのか!
「すいませーン、7番と、1番、あとついでに10番!お代わり下さいっ!」
「はーい」
美味え!!!!
……いやー、あんまりにも飯が美味いもんで、夢中になって食ってたら、ついつい目的が頭からすっ飛んでたわ、うん。まー、山風も珍しくお代わりなんかして、海風もいっぱい食ってたからなー。もう、これだけで提督には感謝だなー。あ、デザートはカップケーキだった。美味し。
「それじゃ、提督。ロック装置を」
「えっ?あっ、あー。……ロック装置、かぁ……。なんつーか、毎回毎回、俺の手からこれを渡すのは、なぁ……」
新入りの、鹿島さんと私達は、時雨の姉貴に連れられて、食後に食堂の一角へ。提督が何だか嫌そうな面してるけど、どうしたんだ?
「あー、その、ね。これは、ロック装置。具体的に言えば、艦娘を強化するものなんだけど……、持ってるだけで大丈夫だから、態々首に巻かなくっても良いから。手足とかに巻いてくれればそれで」
ロック装置?……あ、時雨の姉貴とか、他の艦娘が皆んなしている首輪、か?どう言う仕組みか知らないけど、この江風達を強くする、か。……良いじゃねーか!望むところだ!
「こ、こりぇは、しょの……?!!」
「はうっ?!そ、そんな……?!だ、大胆過ぎですよぉ!」
「あの、あのあの……。その……。な、何でも、ないです……」
ん?何で真っ赤になってるんだ、鹿島さんと浜風と、野分は?え……?何々?ぺっとぷれい?何のことだ?
「えーっと……、海風は、構いません、けど……。その、あまりこう言ったことは、関心しませんよ?」
「まあ……、私も、構いはしませんけど……。そう言った趣味を他人に押し付けてはいけないと思います」
「お前って奴は……!こっ、この、変態め!僕に、姉さん達に何をするつもりだっ!!」
海風の姉貴も、萩風もちょっと赤い。何だ?熱か?初月の奴は何か知らんけど、赤くなりながらも怒ってるな。何でだ?
「なあ、嵐よぉ、何で皆ンな騒いでんだ?」
「分からねぇ……。強くなれるって、良いことだろ?なぁ、舞風?」
「うん、あたしも、もっと強くなりたいって思ってたし……」
「うーン、山風はどう思う?」
山風に聞いてみるか。山風は、何つーか、勘が鋭いんだ。嫌な雰囲気とかに敏感なんだよな。
「この、首輪……。何だか、あったかい感じ。……うん、嫌な感じは、しない、かな……。多分、大丈夫……」
「おっ、そっかあ。山風が大丈夫ってんなら、問題ねーな!!」
「あ、あのね、江風?その、皆んなは首輪自体に問題があるって言ってるんじゃなくってね?その、男の人が、女の人に首輪を渡すってことが問題で……」
照月、何だ?ハッキリしないな?何も問題無くね?
「何にせよ、着けながら戦えば強くなれる装備なんて、着けない訳にはいきませんね!」
秋月の言う通りだな!よーし、早速……、こんな感じかな?犬みてーだな!
「違うから!!この装置の設計開発は明石と夕張だから!!俺の趣味とかじゃない!!!決して!!!」
?、何騒いでんだ、提督?男はどっしり構えてなきゃ、駄目なんだぞ?
×××××××××××××××
「……さて、と。正直、今日はもうやることないね」
ロック装置を受け取って、時雨姉さんに連れられて鎮守府の案内をされた後。時雨姉さんは、そんなことを言った。
「え?出撃とかは?」
江風が聞き返すけど、
「いやいや、君達はまだ、練度が足りないよ。当分は演習と、簡単な遠征だけ、だね」
「そう、ですか?海風は、これから、提督のお役に立たなくちゃいけないんじゃ……」
正直、不安だ。美味しいご飯と、ロック装置という素晴らしいものを貰って、その次は今日は休め、だなんて。
「うん、その意気は良し、だね。……でもね、焦る必要はないよ。大丈夫。……そうだ、折角だし、道具を軽く使ってみたらどうかな?工房の裏にちょっとしたスペースがあるからさ。……ほら、あそこだよ」
「マジ?ちょっとこれ、気になってたんだよねー!」
……私も、自分が手に取った武器……、ノコギリ鉈、と言うらしい……、これが、さっきから気になっていた。
直感のままに手に取ったもので、よく見てはいなかったけれど、この武器は、よく分からない。
歪んだ長い柄に、ノコギリが付いた武器だ。でも、どの辺が鉈なんだろう?確かに、鉈らしき刃は、ノコギリ刃の反対側に付いているけれど、これじゃ斬りつけられないんじゃないかな?
でも、時雨姉さんが役に立たないものを渡す筈はないだろうし……?
「ええと、確か……、ここ、だったかな?よし、えっと、テストモード、と」
『テストモード、起動。ターゲットダミー、展開』
「うおっ?!!な、何か出たぞっ?!!」
「問題無いよ、サンドバッグみたいなものだから。試し斬りするといい」
「は、はあ……」
「すごいね、工房って、こんな機能もあるんだ……」
「あ、いや、これは睦月型のガレージのターゲットダミーを借りただけ。……あそこのコンソールから使えるから、好きにして良いって」
へぇ、白露型だけじゃなくって、他の艦娘にも色々と与えられているんだ。
……至れり尽くせり、ね。これで活躍できなかったら申し訳ないな、頑張って練度(?)を上げよう。
「じゃ、行くぜェ!!せーの、おりゃ!!」
ドカンと言う破砕音。
江風に思い切り殴りつけられたダミーは、ひしゃげて飛んで行った。成る程、艦娘の馬力を以って殴れば、それだけで致命傷を与えられる、のね?相手が小物の深海棲艦なら、弾薬を使わないから却って良いかも。
「よし……、えいっ!!」
ノコギリ刃で斬り付ける。斬れ味は本当に鋭い。……でも、こんなもので深海棲艦を斬り付けたら、傷痕が酷いことになりそう。
「うう……、え、えーい!!」
山風も、重そうな斧を片手で振り回している。見た目はああでも、艦娘だから。あれくらいはできて当然ね。
……うん、ちょっとだけど、この武器の使い道が分かってきた。これは、相手の血を、命そのものを削る武器だ。
間違っても、人に振るうものじゃない。……もっと、強大な、人じゃない何かを狩る為に作られた、そんな武器。
「……ん、ああ、そうか。使い方、説明してないや。海風、それ、柄の取っ手を押し込んでごらん?」
?、時雨姉さん?……、柄の取っ手を?
「そのまま、刃を動かすんだ」
「刃を、動かす…………、?!」
変形、した?
小回りの効くノコギリから、長い鉈へ……。
「……ノコギリ、鉈……!」
そっか、ノコギリ鉈。だから、ノコギリ鉈なのね。
「おおっ!かっけえ!!なあなあ、これには何か無いのか?時雨の姉貴?」
興奮した様子の江風が、時雨姉さんに尋ねる。
「爆発金槌は……、確か……、撃鉄を起こしてみて?」
「っしゃあ!!こうか?!!……おお……、これは……!!こ、このまま殴れってことだな!よーし、どりゃあ!!!」
先ほどより大きい、爆砕音。
爆炎を伴う殴打……。ダミー人形は、弾けるように潰れた。
「山風の、獣狩りの斧は、柄を回して、引き伸ばしてごらん?」
「……わっ、の、伸びた?」
成る程、手斧から斧槍に、ね。
確かに、どの武器も、深海棲艦を相手取るには充分ね。
いや、充分、過ぎる。
こんな、恐ろしい、殺意のカタマリみたいなもの、どこで……。
「……ねえ、この武器、出所はどこなの?」
「知らないよ?……提督が説明しないってことは、知る必要のないこと、ってことさ」
時雨、姉さん……?
「良いかい、海風?僕達はね、提督に逆らう虫ケラ共を始末することが仕事なんだ。考える必要なんて、無いよ。考えるのは提督がやってくれる。黒井鎮守府の艦娘の最高の幸せはね、提督の命令を聞くことなんだから」
「時雨姉さん、何を……?」
……その時、見てしまった。
時雨姉さんの瞳を……。
「ひぃっ……!!」
……暗闇。
月のない夜よりも、暗い海の底よりも、ずっとずっと暗い、漆黒の闇。
この世の深淵。
地獄の最果て。
見てはいけない何か……。
「ね、姉さん……?!時雨、姉、さん……?!」
不意に、時雨姉さんが肩を掴んできた。
「痛ッ?!」
「……だからね、提督の邪魔はしないように、ね。……僕は提督を愛しているんだ。けど、二番目がない訳じゃない……。親愛なる妹を、この手にかけるなんて、そんなことはしたくないよ、海風……。だから、だからね……、提督の、僕の敵には、ならないでね……?」
……この時、私は。
無言で、首を縦に降ることしか、できなかった……。
時雨、姉さん……。
……どうして?
江風
まろーん。美味い飯を食わせてくれる旅人は大好き、とのこと。あんまり物事を深く考えないタイプ。
海風
山風と同じく、黒井鎮守府の狂気に気付く。旅人に対しては好意を寄せているが、まだ不信感は拭いきれない。この後、新入りの艦娘数名と黒井鎮守府が狂った理由を探そうとするが……?
旅人
今日のご飯も美味しく作れたな、とかそんなもん。