まーたクソ忙しくてクソですわ。永遠に休みたい。
「ここが、工廠……」
……何だか、思っていたのと大分違う。
良く分からない機械と、良く分からない機械がガチャガチャ動いて、なんか、大きなやつがぐるぐる回って、変なのが転がってる。
……なにこれ。
「うへ、うへへへへへ、ここを……、こうして……、こんな感じかしら、夕張ちゃーん!」
「うひひ、最高ですよ明石さーん!」
……うわぁ。
おかしいよ、あれ。あの人達、変。
「ん?……あら?これは、これは……」
「ふふ、可愛らしいお客さんですね」
ひっ、こ、こっち来た……?!
「こんにちは!この工廠に、何かご用ですか?」
「もしかして、武装の整備とかかな?良いよ、すぐに受け付けるから!」
あ、れ?
……うーん。
嫌な感じは、しない。ぽかぽかして、優しい人達。何となく分かる。
「よくぞ聞いてくれたっ!俺達は、この鎮守府の調査をんぐっ?!は、はちゅつき?!もごもご!!」
「い、いやあ!その、この鎮守府に来てまだ慣れないからな!色々と見て回っているんだ!」
早速、口を滑らせようとした嵐の口を塞いで、初月がフォローした。す、素早い。
「なるほど、見学ですか!良いですねー、私もまた、工場見学に行きましょうかねー?」
「あ、良いですね!そう言えば、今度、提督のコネで半導体製造工場の見学に行けるそうなんですよ!一緒にどうです?」
「えっ、良いんですか!嬉しいです!」
うーん、こうしていると、仲良しで、優しそうな人達なのに。
「ええと、その、質問しても良いですか?」
「あら?……えーっと、海風ちゃん、ね?海風ちゃん、何が聞きたいのかしら?」
「はい、えっと……」
「あら?……ふふふ、やっぱり、もう、分からないかしら?私は、こう見えても工作艦の明石なの!こっちは軽巡の夕張ちゃんよ」
……そうだ。何か違うと思ったら、この二人、分からないんだ。
普通は、艦娘なら、他の艦娘を見れば何となく名前とか艦種とか、そう言うのが分かるのに。
……どうしてだろう。
……そんなことを考えているうちに、皆んな、色んな質問をしている。
「ああ、うちの鎮守府はね、提督のコネとか、アイテムとかで色々と弄ってあるのよ」
「ワープ装置?ロボット?……ああ、あれは提督がくれたものを解析して、独自に開発したものです。沢山勉強して、提督の、皆んなのお役に立ちますからねー!」
……うーん、やっぱり、嫌な感じはしない。
むしろ、すごく、良い感じだ。あったかい感じ……、これは、多分、愛情なのかな。
「そ、その、二人は、好きな人が、いるの?」
「「もちろんです!私は、提督を愛しています!!」」
う、うん。
……また、提督、か。
「凄いんですよー、提督は!優しいし、カッコいいし、強いし……、何より研究用に資材をくれたりとか、私の趣味にも理解を示してくれるんですから!」
「機械は苦手、とか言いながら、十分な知識はありますしー、ちゃんと勉強してますし!ついつい熱中して長話をしちゃっても、ちゃんと聞いてくれて!」
は、はあ。
「ミスをしちゃっても、「なーに、失敗は成功のもとだろう?」とか言って、いっつも許してくれて!行き詰まっていると的確なアドバイスとか、息抜きにデートとか……、兎に角、気が利くんですよ!!」
「実験の時はちゃんと手伝ってくれて!成功したら沢山褒めてくれるんです!それだけじゃなくって……」
「わ、分かった、分かったから!」
初月も引いてる。
うーん、やっぱり、提督のこと、すっごく好きなんだろうな。それは分かる。
皆んな、提督が大好き。それだけ、なのかな。
あたしも、あの人は、嫌いじゃ、ない。訓練、ちゃんと見ててくれて、頑張ったねって、褒めてくれるし。
誰よりも、ぽかぽかする、優しい人。
できれば、ずっと、一緒にいたい……。
……もしかして、考えすぎ、なのかな?おかしいことなんて、何も、ないのかな。
「いやー、にしても、明石さんも夕張さんも、最初、誰だか分かんなかったぜ!艦娘の勘ってやつも、アテにならねーな!!」
……嵐、失礼。
でも、二人は、さっきと変わらない笑顔で答えた。
「ふふふ、仕方ないですよ!私はもう、明石ではありませんから!」
「もちろん、私も既に、夕張じゃないんです!」
………………え?
そう言って、艤装を見せてくる二人。
「ほら、これ、最新型の炉心なんですよ!スクリューも増設して、装甲なんて有澤重工の二枚重ねなんですよ!」
「私だって負けてません!リアクターはもちろん、ミサイルにレールガン、最近は有線ビット兵器にも着手し始めたんです!!」
「そんな……!!」
嘘、でしょ?
こんな、こんなの……!!
「お、おい!そんなに艤装に手を加えたら……!!」
「お、お前達はなんなんだ?!そこまで改造したら、もう……、艦娘ですらないじゃないか!!!」
「「……?、それの、何が問題ですか?」」
………………どうして?
どうして、笑っていられるの?
「この力があれば、提督のお役に立てるんですよ?」
「提督の為になら、どんな姿になっても構いません」
そんなのって……!
「だ、駄目、駄目だよ……!だって、そんなの……!」
「こんな姿になっても、提督は私の名前を呼んでくれるんです!!「明石、頑張ったね」って、「明石、かわいいよ」って!!!」
「だから、私達は艦娘なんです!もう艦娘じゃないけど、提督が呼んでくれますから!!提督が、私の名前を呼んでくれますから!!!」
ち、違う、違うよ……!
「そんなの、間違ってるよ……!」
「「………………どこが、ですか?」」
「や、やめなさい、山風!!」
海風、止めないで……!
だって、違うもん!
あの人は……!!
「提督は、ただ、皆んなと一緒にいたいだけだよ!そんな、無理して強くなることなんて、望んでないよ!!」
「「あはっ、あはははは!あはははははは!!!」」
なんで、笑って……?
「嫌ですね、山風ちゃん。……聞いてますよ。貴女、捨てられたんでしょう?」
「あ、たし、は……」
……『クズが!使えない、盾にもなれんのか?!』
……『使えない、雑魚め!役立たずのゴミだ、お前らは!!』
……『もううんざりだ!使えないクソガキ共め!とっとと出て行け!!消え失せろ!!』
「やだ、やだ、違う、違う……」
「弱い艦娘なんてね、要らないんですよ」
「そんな、こと、ないもん……」
違う、提督は、優しくて……!あたし達を、捨てたり、しない!
「ええ、ええ、もちろん、提督はそんな方ではありません、本当に、本当に、優しい方ですから……」
「どんなに使えない艦娘も、あの人は守ってくれますよ?大切に、大切に……。でも、そんな艦娘、必要あるかしら?」
「それ、は……」
「提督の足を引っ張るなんて、とてもとても……」
「戦うことしか能のない艦娘が、戦えないなんて、許させると思うかしら?」
弱いと、迷惑?
弱いと、提督が、困る……?
あたし、提督に、迷惑だって、思われてるのかな……。
「あ、あ、あたし、あたしは……」
「大丈夫ですよ」
あ、明石、さん……。あたしを、抱きしめて……。
……あったかい……。
「強くなれば良いんです」
「強く、なる……」
強くなれば、捨てられない?
強くなれば、提督の側にいられる?
強く、なれば……。
「強くなれば、提督からも、皆んなからも、必要とされますよ?絶対に、捨てられないんです」
「捨てられ、ない……?」
「ええ、使える道具は大切にされる……、当然でしょう?」
道具……。
あたし、は、道具……。
提督に、大切にしてもらえる、道具……。
「……そ、その!時間を割いてくれて、ありがとう!ぼ、僕達は、これで!!行くぞ山風!!」
「あっ……」
「あら?まだ大丈夫なのに……」
初月に引っ張られて、工廠の外に出た。
あたし、は……。
「や、山風、大丈夫か?」
「……うん、あたしは、平気……」
「……山風?貴女……」
「あたし、頑張る、から。提督の、道具として……」
「なっ……?!や、山風!正気に戻れ!あの人は、提督は、僕達を捨てたりなんかしない!!お前は、道具なんかじゃないんだ!!!」
「……でも」
「大丈夫よ、山風!大丈夫、大丈夫だから……」
海風姉……。
「……なんだか、山風の様子が変になっちまったな。この調子じゃ、今日はこれ以上探索できないな。……取り敢えず、部屋に戻って休もうぜ?」
「ああ、そうだな……」
……考えすぎ?いや、でも、あたしは……。
あたし、は……。
山風
SAN値激減。
旅人
鹿島とデート中。