かつて、
機械に満ちた星、セイバートロン。
そこには、生まれながらにして2つの姿を持つ機械生命体が暮らしていた。
彼らは姿を使い分け、半永久的な寿命と優れた知性を用いて惑星を黄金の繁栄期へと導いた。
しかし、共同体の肥大化が、その内に腐敗が広げる結果を導くのは至極当然であった。
彼らは彼ら自身が持つもう一つの姿で身分を区別し始めた。
求められる姿を持つ者はより良い立場に、求められない者は自然と過酷な労働へと身を落とす。
そのような社会へと、彼らは進んでいた。
始めはたった一人の狂人、たった一人のカルトから始まった。
彼にとって栄誉ある初版の論文―――圧政の哀れな被害者であった炭鉱夫の死体に刻まれた論文は、多くの人々を惹き付けた。
自由を、平等を、権利を。
平等な世界を願った彼の元に集った賛同者達を従えて、彼は革命を起こした。
彼らは蹶起を覚悟させた圧制者達に、彼らが与えられる最大の感謝を―――死を授け、彼らの名は人々に広く知れらる事となった。
己が種族に平和と繁栄をもたらす。
そう願い、自らの道を突き進む彼の後ろには、多くの同胞と相容れない異種族の骸が残された。
人々は、恐れながらもどこか尊敬を滲ませて彼の名を口にした。
メガトロンと。
だが、覇道を進むメガトロンに相対する者達が現れた。
彼と共に、一人の圧制者を打倒した者―――生真面目な警察官は彼のやり方に異を唱えた。
自由と平和のために、他種族を貶めることを、彼は許せなかったのだ。
指導者の証であるマトリクスを胸に納め、彼は姿と名を変えて、力なき者達の為に立ち上がった。
サイバトロニアンの指導者の称号……プライムを継ぐ彼を人々は信じ、故郷セイバートロンの名に由来した組織――― サイバトロンとして、力なき民は銃を手に取り彼の新たな名を讃えた。
内戦は、400万年もの間、宇宙中を巻き込んで続けられた。
その間に、多くの英雄と狂人が現れては多くの兵の鉄屑と共に消えていき、戦火はやがてその火を灯し続けることすら困難になった。
母なる星、故郷セイバートロンは破壊され、汚染され、酸の雨が降り注ぐ惑星となった時には、サイバトロンもデストロンも、疲弊しきっていた。
お互いの正義もわからなくなりかけたその頃、宇宙に大きな災厄が訪れた。
サイバトロニアンにとって、全宇宙にとっての破滅の象徴。
超大型トランスフォーマー、ユニクロンの復活である。
宇宙終焉の体現。 惑星を食らい続ける彼の者に多くのサイバトロニアンは絶望するしかなかった。
だが、これは契機であった。
ほんの一握りであったが、ユニクロンに対抗する者が現れたのだ。
彼らはサイバトロン、デストロンの垣根無く戦った。
自らの過ちによって荒廃させてしまったセイバートロンを、宇宙を守るために。
彼らは多くの犠牲を払いながらも、遂にユニクロンを完全に破壊することに成功した。
そして戦いの後、彼らは互いに歩み寄る事を始めた。
400万年間の長い争いの記憶は、いくら忘れようとも忘れられない。
だが、ユニクロンとの戦いで、彼らは忘れていた事を思い出したのだ。
自分達は一体何を求めて戦っていたのかを。
程なくして、内戦はセイバートロンの2つの月の一つ、ルナ2にて、メガトロンの敗北宣言をもって終戦を迎え、コンボイ司令官の号令と共に彼らは一つになった。
セイバートロン連合として再び手を取り合うことを選んだ彼らに残されていたのは、内戦に巻き込んでしまった宇宙中の異種族への償いと、荒廃しきった母星だった。
宇宙の安念を標榜する組織、銀河評議会はサイバトロニアンに対して一定の賠償と復興作業、重ねて辺境惑星への移住を決定。
荒廃した故郷の復興をするための僅かな人員を残して大勢は移住を余儀なくされたのだった。
それから間もなく―――辺境惑星にて
スパークストーカーは歓喜していた。
興奮のあまり、エネルギーポンプはいつもより高い圧を掛けてエネルゴンやサーボモーター回転用のオイルを循環させ、体がカッカッと暑くなる。
体を動かしたくて溜まらず、思わずビーストモードに変形して広大な水溜めにあるざらついた受け皿の上を駆け回っていた。
彼は彼自身あまり頭が良くない事を自覚していたが、いつもは下らなく見える様々な色が混ざり合い気色の悪い色にしか見えないオブジェへや周辺の景色へと目が向いて、それは一体何だったかと考え始めた。
(確かライトブライトは海と砂って言ってたかな? ……いや砂漠だったかな。 まぁどっちでもいい。 この木ってのもなんだかいつもはヘンテコに見えるのになんだか格好良くみえる!)
二足歩行のモンスターへと変形していた彼は、腕に付いている鋭い刃で木を切断し、切り倒された木もバラバラに刻む。
全身の駆動系が過剰に回転していて全然落ち着かないのだ。
何故彼がこれ程に興奮しているのか、それは数時間ほど前に彼がかねてより気に掛けていた相手……ライトブライトへと“コンジャンクスエンデュラの儀”を申し込み、見事それに成功したからであった。
晴れて思いを寄せていた者と恋仲になった彼は、その喜びをどうにかして表現したくて堪らなかったのだ。
(花束をプレゼントしたはいいが、何かもっといい物を送ってやりたいなあ)
そう考えたスパークストーカーは、彼の思いつきのままに周囲の散策を始めた。
だが、落ちている物や自生しているものは酷く脆く何かを作るにも適していないように思えた。
そんなことを考えながら、視線をあちこちに向けていると、広い平野にあるモノを捉えた。
それは、辺境惑星の原生種で、毛に包まれた長鼻の生き物は、4つ足で地面を蹴りながら何処かへと急いでいるように見えた。
どこか見覚えがあると思ったが、確かサイバトロンの英雄の一人がその動物をオルトモードとしてスキャニングしたという話を耳にしたのを思い出した。
だが、彼の目を引いたのはその4つ足毛長鼻から少し離れた所にいた一団であった。
その一団は原生種で構成されており、2足歩行で4つ足の長鼻を追いかけているように見えた。
そこまでであればただの狩りだ。 どんなに知性のない畜生であってもその程度の事はする。
だが、その2足歩行の生き物は歩行に使わない足――― 所謂手に武器と思わしい物を携えていた。
(物を使える種族……知性があるのか?)
そう思った時には、既に彼はその一団目掛けて飛びかかっていた。
「……で? その後どうなった?」
移民団の旗艦にある会議用デスクに三人のトランスフォーマーが座っていた。
そのうちの一人、黒と白のツートンのトランスフォーマー―――プロールがこめかみを押さえるようにして報告の続きを問う。
それに対して、若干の間をとり全身青のトランスフォーマー、サウンドウェーブが続けた。
「スパークストーカーハソノママ現住種ヲ、彼ノイウ“挨拶”ニ付キ合ワセタ。 結果トシテ、彼ハ今洗浄スペースデ浴ビタ原生種ノ破片ヲ洗イ流シテイル」
「そいつにはもう一度学習プログラムを受けさせろ。 カウンセリングもな」
溜息をつきながらプロールは一番気に掛けていた事を尋ねる。
「銀河評議会からは何と言われた」
「〝知的後進種族との共存〟ヲ言イ渡サレタ。 ソレト〝過剰な干渉の禁止〟。 コチラニ関シテハ何ノ判断基準モ提示サレナカッタ」
「私達の更正プログラムということか」
「ハッ、こんな田舎くんだりまで飛ばされた挙げ句にやらされるのはお守りか。 いやぁなんとも泣ける話じゃあないか」
肩を竦めるようにして自虐混じりに軽口を飛ばすのは赤白黒のトリコロールに背中の翼が特徴的なトランスフォーマー―――スタースクリームだ。
「……指示通りに進める。 後進種族がどれ程の知性を獲得するかは定かではないが、友好的な関係を築くことを通知しろ」
「おいおい、言葉も話せないんじゃないのか? それに友好的って言ってもな、報告にあったろ〝挨拶〟でバラバラになっちまうような脆い有機生命体だ。 しかも」
「マイクロン並に小さい。 厄介この上ないのは認める」
「デバスターにすればナノコンだ。 踏みつぶしても気づきゃあしないな、マイクロンの方が踏みがいがある」
スタースクリームの言葉に、眉を顰めるプロール。
すると、徐にデータパッドを取り出した。
「おいおい、ソシャゲなら後にしてくれ。 俺だってイベントを我慢してるんだ」
「……サウンドウェーブ、ブレインストームと開発班を集めろ。 あとボンブシェルもだ」
「了解シタ」
プロールに言われるまま、サウンドウェーブは会議室を後にする。
スタースクリームは先程の指示に対して驚きと嫌悪感を滲ませながら質問した。
「あの意地汚い虫に何させるってんだ……碌な事になりゃしねぇぞ」
「……必要な事だ。 少なくとも、今はな」
「コンボイなら絶対やめさせるだろうぜ」
「今は司令官はいない、メガトロンもな」
最後の一言に露骨に嫌な顔をしたスタースクリームは席を立ち、会議室を後にしようとした。
だが、会議室を出る直前、ふと足を止めてプロールに話しかける。
「大変だよなぁお互い……なぁプロール」
「……仕方が無い。 我々だけでやるしかないんだ」
「カリスマってのは厄介だよなぁ、よーくわかるぜ。 偉大な指導者ってのは後任者に碌なもんを残さねぇ。 追い越す奴らの事も考えて欲しいもんだ」
そう言い残して、スタースクリームは今度こそ会議室を後にした。
一人残されたプロールは、会議室の壁の巨大なウインドウへと目を向ける。
ウインドウからは外の様子が一望できるが、このウインドウが硝子やアクリルといった透明度のある物が外の様子を見えるようにしている訳では無い。
外部カメラから映し出された映像を、あたかも窓であるかのように映し出しているに過ぎない。
その大きなウインドウには、青い水とある程度の大地に被われた惑星が映し出されていた。
「……私に出来るのですか、コンボイ司令」
遠くの廃れた母星にいる者の名を口にして、プロールは立ち上がった。
その目には憂いは無く、その足は開発室へと向けられた。
プロローグ追加に関しては、活動報告をご覧ください