ガールズ&トランスフォーマー   作:ヘキサショット

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第九話 繋がる意地

「確かに閉所に誘い込んでからの奇襲は基本戦術だけど……まぁ相性が悪かったな」

「……やっぱりこっちは向いてないのかなぁ」

「そんなこたァないさ。 ラチェットだって戦線勤務みたいなもんだったし」

「あはは……でも、やっぱり悔しいなぁ」

「んじゃ、終わりまで眠ってな」

 

 上空から主砲を構え、熱線を浴びせかける。

 閉所に籠もっていたホイストは、碌に避けることも出来ずにまともに食らう。

 この武器は一発一発の火力は高くは無いが、高い連射性能はその欠点を補うには十分であった。

 みるみるうちに装甲は溶け出し、ホイストが苦しげな声を上げて膝を突く。

 一矢報いようとミサイルを打ち出すものの、集中された弾幕はあっけなくそれを打ち落とした。

 それを最後にホイストは沈黙し、肩からフラッグを飛び出させた。

 

「なんか弱い物イジメみたいでいやだなァ……」

『ほぼ新人も同然の相手です。 気に病むこともないでしょう』

「……俺はお前の将来が不安でしょうがないよ」

『失礼ですね。 客観的に考えているだけです』

 

 真面目な返答に思わずため息をつく。

 この非情とも言えるほどの冷静さ、なんだかプロールの奴を思い出す。

 アイツもなかなかシビアな性格をしていたが、彼女は彼がそのまま人間の女性になったような感じだ。

 情報や効率一番で考える所など正に彼そっくりではないか。

 

『……今、何か疚しいことを考えませんでしたか?』

「いやいや、そんな滅相もない……ほら、残りは二機だろ? さっさと行こうぜ!」

『そうですね。 では変形して空から攻撃しましょう』

「おう。 トランスフォーム!」

 

 エイリアンジェットに変形し、ギリギリ地上が主砲の射程圏に入る程度に浮遊する。

 フワフワと周囲を警戒しながら浮かんでいると、痺れを切らしたのか地上からレーザーが飛んできた。

 クルリと機体横に付けられたブースターを勢いよく噴かし、横に回転するようなマニューバで回避する。

 だが光線は浮遊していた位置とは全く違う位置へ飛んでいき、空の彼方へ飛んでいった。

 操縦席で索敵手が視点を絞り、発射位置へと拡大すると、

 

『……どうやらグリムロックのようです』

「うわぁ……近づきたくない」

 

 ロボットモードの怪物がいた。

 

「オレグリムロック、敵ハカイする!」

 

 銃を構え何発か撃ってくるが、全てあらぬ方向へと飛んでいく。

 相変らず銃の腕前はお粗末らしい。

 いや、そうではなく、

 

『相当中身がお粗末のようですね。 一気に倒してしまいましょう』

「気をつけろよ、あんな図体でも空を飛ぶからな」

『……データにに加えておきます。 モノは見かけによりませんね』

 

 エイリアンジェットのまま、主砲の光線をお見舞いする。

 視界一面が放たれた光線の光で白飛びするが、これが悲しいほど当たらない。

 

「エアレイド、相変らず射撃へたくそ!」

 

 グリムロックが笑いながら此方に打ち返してくる。

 だがこれも当たらない。

 まるで子どものお遊戯会のような光景だ。

 

『本当に貴方の射撃の腕には感動します』

「うるさいっ! 当たればいいんだよ当たれば!」

『誤差修正します。 ちゃんとしてくださいよ』

 

 数秒後、腕がわずかに動き彼方此方に散っていた弾丸が次第に収束していく。

 そして、殆ど当たらなかった弾丸の雨が面白いようにグリムロックに着弾し始めた。

 本当にアッサムの馬鹿馬鹿しい程の情報至上主義は俺とすこぶる相性がいいらしい。

 彼女の方も、一発を確実に当てるよりかは弾をばらまいて相手の行動を縛る戦い方が好みのようで、聖グロでTF道を始めて以来殆ど俺の攻撃手を担当している程だ。

 

 基本的に、撃てば当たるような泥仕合を聖グロの生徒は好まない。

 弾をばらまくような戦い方は校風にそぐわないんだそうだ。

 そんな校風、形があれば即刻穴だらけにするかブレイドで切り刻みたいところであるが、悲しい事にそんなものはない。

 訓練の内容も、一発一発の攻撃を確実に当てるような訓練を行う。

 だが単発式でない俺の武器は明らかに他とは異なっていたのだ。

 パワーグライドの奴も連射式だが、アイツは射撃スキルは俺と違い半端ない優等生だ。

 まぁ結局の話、俺は聖グロでもかなり()()()いた。

 

 そんな中で、俺の戦い方を理解したのがアッサムやダージリンだ。

 

 アッサムの情報主義は、俺の弾が勝手に避ける銃を素直にしてくれたし、ダージリンは校風を反故にして、あまり登用されていなかった俺に出番を与えてくれた。

 別に浮いていたのはどうでも良かったが、期待されて結果を出せないようじゃ俺のスパークは完全に腐りきってしまっていることになる。

 だから、俺は負けない戦い方をする。

 それが期待に応えることでもあるし、なによりアッサムが一番活きる戦い方であるからだ。

 

「やっぱり堅いな……全然倒れる気がしないぞ」

『動かないで、むしろ弾が当たりそうです』

 

 数十秒、大容量の弾倉が一つ空になるまで攻撃を撃ち続けたが、相手は全く応えた様子がない。

 火力だけには自信があったので、少しめげてしまいそうだ。

 

『――― いや、避けてッ! 一気に上昇!』

「ッ?!」

 

 浮遊のために下に向けていたスラスターを一気に噴かし、上昇する。

 すると真下をレーザーが飛来し、続けて此方に向かってきた。

 

「ロディマスか?! 避けられないッ」

『……一回離脱しましょう。 弾倉交換もありますし、体勢を立て直します』

「了解!」

 

 浮遊状態で遊ばせていたスラスターを一気に点火させ、前方に急加速する。

 危機一髪と言ったところで、後方を何発もの弾丸が遅れて通過した。

 だが、安心したのも束の間、視界が一気に暗くなった。

 巨大な何かが目の前に突然現れたのだ。

 そして、それは此方に飛んできており、なおかつ此方の進行方向にあるのだ。

 

「……なんだこりゃッ?! 避けきれねぇ!」

『トランスフォームして、衝撃を和らげなさい!』

 

 操縦手が咄嗟にトランスフォームを起動させ、トランスフォームコグを酷使させる。

 ロボットモードになったことで、一気に表面積が増え速度はガクンと落ちたが、目の前に飛来した物体を避けることは叶わず正面から衝突する。

 ぶつかる瞬間、受け身の要領で全身で受け止めるように体を操作されるが、何分あちらの質量が膨大でとてつもない衝撃が全身を駆け巡った。

 全身の装甲がミシリと音を立て、間接がいけない方向へ曲がりかける。

 だが、ほんの少しだけ衝撃は殺せたようで、ギリギリ脱落判定はされなかったようだ。

 すぐさまエイリアンジェットに変形し、自由落下を始めた物体から離脱する。

 去り際に何が飛んできたのかと確認すると、それは地面ごと空を飛ぶ(正確には落下するだが)一般住宅だった。

 

「マジかよ?! 馬ッ鹿じゃねェのッ?!」

『グリムロック……ここまでの膂力とは……理解できない……』

 

 下を見ると、地面が1カ所まるまるえぐれており、そこに土まみれのグリムロックが立っていた。

 とどのつまり、小さな銃の攻撃が当たらないなら大きな岩を投げればいいといわんばかりに近くの住宅を投げつけてきたのだ。

 ブレインモジュールがパワートレインに直結しているとしか思えない行動に思わず面食らうのも無理はないだろう。

 だが、状況はそれを許してくれるほど甘くは無かった。

 

『ダメージ限界! スラスターが爆発します!』

「はいはい、いま外しますよ!」

 

 ロボットモードに変形しながら、火を吹き始めた飛行用ブースターを切り離す。

 数瞬後、スラスターは小さな爆発と共に粉々に弾け飛んだ。

 飛行不能になり、そのまま自由落下を始めるが、聖グロの整備班が付けていた緊急用の小型パラシュートが開き地面に激突する危機は免れる。

 だが、じっとしてもいられない。

 安全ギリギリの高さですぐさまパラシュートを外し、受け身を取りながら着地する。

 真上には、身を隠したままのロディマスが放ったと思われる光線が過ぎ去っていた。

 

「さぁて……どうしたもんかね」

 

 顔を上げた目の前には、家々を破壊しながら真っ直ぐ此方に向かってくる鋼鉄の恐竜がいた。

 

「オレグリムロック、戦いダイスキ!」

 

 ビーストモードのグリムロックが建物をなぎ倒しながら突っ込んでくるのをすんでのところで横飛びして回避する。

 通り抜けざまに危うく尻尾にはじき飛ばされかけるが、無様に身を勢いに任せて転がせ避ける。

 すぐさま懐から小型の剣と大型の剣それぞれを片手に携える。

 

「こいよグリムロック。 相手してやる」

『耐久ギリギリです。 無茶はしないで』

 

 アッサムからの連絡から、あまり長い間相手はできないと判断する。

 だが空も飛べず、ロディマスが何処に潜んでいるかも解らない現状で、逃げるという選択肢はない。

 グリムロックが各部のフレームを軋ませ、まるで咆吼のように盛大な音を掻き鳴らす。

 そのまま巨大な尻尾を振り上げ、勢いのまま薙ぎはらう。

 咄嗟に後ろへ飛びすさり回避すると、尻尾はそのまま周囲の建物を派手に破壊した。

 

「おいおい、怪獣映画じゃないんだぞ!」

「こわすのダイスキ!」

 

 尻尾を振った反動でガラ空きになった横腹を切りつける。

 かなり力を入れて振ったのだが、いくらか傷がついただけで致命傷にはならない。

 だが幸いブレードのレーザー部分は仕事をしているようで、ダメージはしっかり通りグリムロックが叫び声を上げる。

 怒りに満ちた様子でガチガチと歯を鳴らし、此方を睨み付けてくる。

 

「Grrrrrr……」

『――― 相手頭部から高温の輻射熱を確認!』

「避けられるか……ッ?!」

 

 炎に巻かれる前に、咄嗟に先程グリムロックが破壊した建物の影に飛び込む。

 次の瞬間、相手は大口を開け、灼熱の火炎を勢いよく吐き出す。

 レーザーファイアーの高熱は瞬く間にコンクリートを溶かし、外炎から放たれた熱波が無残になぎ倒された植え込みを一瞬で焼き、灰にする。

 

「あっつあっつッ!」

『外装が溶け出しています。 これ以上は……』

「いや、まだ一矢報いるのに遅くはなアチチッ?! 早くしないとリタイア前に関節が溶接されちまうよ!」

『……解りました。 無茶はしないで』

「オタクらの腕は信用してるからなぁッ!」

 

 数の有利があるとは言え、グリムロックをほぼ完全な状態でダージリン達に押しつけるのはマズイ。

 一応、信頼されて送り出されたのだ。

 敗北の一因はなんとしても摘んでおく。

 

「見せてやるよ! オレの最終」

「ところはそうはいかないんだな、エアレイド!」

 

 突如、横から呼びかけられ思わず視線を向けてしまった。

 そこには、此方に備え付けられた六本のエグゾーストパイプと両手に二つの銃を構えた……

 

「ロディマス……!」

 

 敵の一人がいた。

 

「次に目を覚ましたときにおたくら負けてるだろうさ!」

 

 飛来する光線を咄嗟に数個切り捨てる。

 だが、ここで遂に恐れていた自体が起こった。

 グリムロックの炎によって関節が焼き付いたのだ。

 アッサムや操縦手がなんとか動かそうとするが、もはや無駄な努力だった。

 

「悪いな皆、ここまでだ……」

『全体5に対してスコア2。 十分です』

 

 防御することも出来ず、ロディマスの攻撃をまともに浴びせられる。

 激痛が走ったと思ったそのときには、俺の意識は飛んでいた。

 

 

 

 

 

「エアレイド、リタイア確認しました。 Eチームの皆さんお疲れ様です」

『ほ、炎なら狙わなくても平気だからなっ!』

 

 先程までのエアレイドとの戦いの余韻が残っているのか河嶋さんが威勢良くいうが、思わず乾いた笑いしかでなかった。

 隣で機体と武器の状況を確認していた沙織さんがプッと噴き出す。

 

「全然銃はあたってなかったじゃん!」

『うるさいッ! 銃は数撃てば当たる!』

「オレグリムロック、モモはいくら撃ってもあたらなさそう」

 

 三人のじゃれ合いを聞いて他の皆も張り詰めていた雰囲気が解れ始めた。

 実際、ここまでの展開はかなり一方的なものだった。

 地の利を得ようとすれば利を生かさせんと言わんばかりに航空部隊からの圧力をうけるし、数も確実に減らされている。

 チャーがなんとかパワーグライドを堕としてくれたのは、本当に助かった。

 あのままパワーグライドまで残存していれば、エアレイドとの協力され勝ちの目は無かっただろう。

 グリムロックは確かに戦況を一変させ得る程の優秀な戦士ではあるが、そこまでの実力をださせるにも下準備をする必要がある。

 そして、皆が稼いでくれた時間や状況は、今その盤面をひっくり返すに十分な要素を与えてくれていた。

 

「そろそろ敵の地上部隊がやってくるはずです。 Eチームは予定ポイントで待機してきてください」

『りょうか~い。 んじゃレッツゴー!』

『会長、まだ話しの途中……』

 

 ロボットモードになったグリムロックは警戒しながら予定地点へと向かっていく。

 

 さて、ここからが本番だ。

 やれることはやれるだけやった。

 後は、なるようになるだけだ。

 静かに息を吸い、ふぅと呼吸を整える。

 準備が済めば、あとはやるだけ。

 麻子さんに向かって指示を飛ばす。

 

「相手を釣り出します。 麻子さん、ロディマス。 お願いします」

「分かった」

「任せろ、足の早さなら負けないさ! トランスフォーム!」

 

 返事の後、ホットロディマスがオルトモードとなり一気に加速、先程の戦闘で荒れた住宅地から少し離れた大通りへと向かう。

 その道は、例の岩場から町中へと続く一番近く大きな道である。

 相手は恐らく戦力を分散せず、スタックを組んでくると踏んでいるからだ。

 なぜなら、此方にはまだグリムロックがいる。

 聖グロリアーナの戦術は極めて堅実なことで有名で、実際にチャーは陽動によって一対一をしていると見せかけられて二対一という不利に晒された。

 先程のエアレイドの単独行動はパワーグライドを堕とされたことが予想外だったのか、それとも相当自信があったのか、兎も角あれは例外だろう。

 それを除けば個別に行動させるといったことはまずしないだろうし、やるとしても今残った戦力ではそれをさせるにはとんでもなくリスキーだ。

 相手側で無事なのはウルトラマグナスだけで、他二体は岩雪崩のダメージが残っていていつリタイアしてもおかしくない。

 こっちには、ほぼ無傷なホットロディマスにグリムロック。どちらも強力なトランスフォーマー。

 この状況で戦力分散を選び取るのは非常に度胸がいる。

 続いて狭い道では三体のトランスフォーマーは自由に動けないのは目に見えるし、なによりウルトラマグナスはなかなか大柄だ。各自が好きに動けないような状況ではせっかく分散させなかった戦力を十全に活かせない可能性は非常に高い。

  結論として、やはり可能な限り戦力分散をさせず、且つある程度動ける広さのある場所を選択して動いてくると踏んだのだ。

 

『――― 聞こえた。 エンジン音、それも三つぐらい』

『予想通りですね』

 

 沙織さんから与えられた情報を、華さんが首肯する。

 取りあえず、二分の一の賭けはこちらの読み通り。

 あとは、麻子さんの腕と私のナビゲーション、ロディマスの自力にかかっている。

 地図、視覚、沙織さんからの情報から、大体の接敵地点を割り出す。

 

「この先の道を右折して、そのまま一気に大通りに出てください。 相手をするのはほぼ一瞬で構いません。 一気に大通り沿いを逃げてください」

「……ロディマスさんは出来ると思うか?」

「信用してくれよ。 この間の訓練のときだって上手くいっただろ? オレは麻子の腕を信じるだけさ」

 

 麻子さんの疑問に、ロディマスは明るい様子で答える。

 

「……わかった。 好きにやらせてもらう」

 

 それ以上何も言わず、麻子さんがハンドルを強く握る。

 

「少し揺れるぞ」

 

 右折し、大通りまでの直線に入ると、運転の質が一変した。

 ロディマスのエンジンが一気に回転数を跳ね上げられ、悲鳴のような音を上げる。

 そしてスロットルレスポンスを挟んだ次の瞬間、体が座席に押さえつけられた。

 凄まじいGに思わず搭乗者全員の息が詰まる。

 

「くぅっ……」

『うぅ……ぐるじぃ』

『こ、これはなかなか……』

『息が、詰まります……』

「少し耐えてくれ」

 

 大通りへの合流地点に入る瞬間、麻子さんの足がアクセルペダルを踏みながら片方の足でクラッチペダルを蹴り込む。只でさえ高かったエンジンの回転数がさらに急上昇、リアが滑り出し、ハンドルを思い切り切ってノーズを進行方向に向けながらテールを滑らせつつ大通りに躍り出た。

 咄嗟に車体の後ろを確認すると、視界に白い大型車と二台の車を捉えた。

 

「地上部隊がいました!」

「ロディマス、やっぱりお前のエンジン音だったか!」

 

 当然ながら向こうも此方を捉え、一気に加速し始めるが、こちらは既にカウンターステアを当て終え、テールを暴れさせることなく、車体がまるで地面を滑るかのようにコーナリングさせていた。

 ギュラギュラと猛るホイールの空転音が心臓に悪い。

 

「次は」

「このまま直進……例の場所までとにかく逃げてください」

 

 指示を出し終えたときには、ドリフトは終わり一気にギアを操作する。

 あまりの早さに、此方の通ってから数秒後に相手の攻撃が遅れてやって来ていた。

 すると相手はスピード差から、自然とウルトラマグナスが遅れだし、ストリークとサンストリーカーが先行して此方を追走する形になった。

 

「まだか……?」

「まだです……あと20秒ほど……」

「安心しろ! こんくらいじゃオレのエンジンは爆発したりしないさ!」

 

 麻子さんの頬を冷や汗が流れる。

 当然のことだが、今走っているのはサーキットでもなければF1の市街地コースでもない。

 地面は当然の如く荒れている所もある普通の公共道路、隣を見ればごく普通の市街地だ。

 時折タイヤが石を弾くたびに、助手席に乗っている私も恐ろしさで身が竦みそうになるのに、これを運転している麻子さんのストレスは計り知れないものだ。

 だが、確実に勝ちの目に近づいているのだ。

 あと少し、あと少しだ。

 高揚でバクバクと心臓が高鳴るのは分かる。

 乗るか反るか―――

 

「そこの道ですッ!」

「わかった」

 

 再び麻子さんがアクセルを踏み込み、ドリフトに入る。

 あっという間に車体は大通りから別の通りへの接続へと滑り込み、少し走ると後ろを見た。

 付いてきたのは―――

 

「サンストリーカーとストリークッ! ウルトラマグナスはいません!」

「よし! いけるぞ!」

 

 ロディマスが喜ぶが、まだ勝負は決まっていない。

 あとは予定通りに進むことを祈るのみだ。

 先行するサンストリーカーの車体後部に取り付けられたミサイルが放たれる。

 だが、ここで避ける訳にはいかない。

 ロディマスに被弾し、派手に爆発する。

 衝撃波で車体が焼かれ、ベコンとサーフ部分が凹み、爆風は車体をあおりだす。

 

「ハンドルが……」

「やらせるか!」

 

 麻子さんが爆発の衝撃にハンドルを取られかけたが、咄嗟にロディマスもタイヤを僅かながらにそうさし、壁に思い切り車体の助手席側を擦りつける。

 壁が直ぐそこに迫り、ガリガリと派手に音を立てる光景に思わずゾッとする。

 だが、直ぐに体勢を立て直し、再び加速する。

 その光景に驚いたのか、サンストリーカーが大声で呼びかけてきた。

 

「ロディマス! もう諦めたらどうなんだ!」

「いいや、ここで諦めるなんてご免だよ!」

 

 続けて後続のストリークもサンストリーカーの影から何発か打ち込んでくる。

 

『ホットロディマス、蓄積ダメージがそろそろマズイですよ!』

 

 優花里さんが状況を報告してくる。

 だが、もう直ぐそこに用意していた勝利への算段は近づいていた。

 

「――― 麻子さん。 このさき300メートル先の道を右折して、後は予定通りに」

「……」

 

 無言で頷く麻子さんは先程までの様子と違って、どこか普段通りに見えた。

 そのまま予定ポイントに車体を突っ込ませ、一気にロディマスをトランスフォームさせる。

 副操縦席に転送されると、華さんに指示を出す。

 

「華さん!」

「任せてください、繋げてみせます」

 

 攻撃用アタッチメント構え、華さんが照準を合わせる。

 

「ロディマス、誤差の修正をお願いします」

「わかった」

 

 若干の照準のずれを修正する。

 そしてそれが終わるか否のその時、追いかけてきていた二台のトランスフォーマーが姿を現した。

 

「ようやくマトモに戦う気になったか!」

「よくやったが、ここまでだな!」

 

 二人ともロボットモードにトランスフォームし、こちらに銃を構えたが、もう遅い。

 すでに、華さんはトリガーを引いており、レーザーは二人を飛び越えてその後ろに用意されていた目標へと着弾していた。

 

「おいおいどこに向かって―――」

 

 ストリークが着弾した場所を見た瞬間、光が周囲を包み込んだ。

 サンストリーカーのミサイルとは比較にならない程の、凄まじい爆発が起こったのだ。

 予想外の爆発を後ろからマトモに浴びた二人は、まるで風に煽られる木の葉のように吹き飛ばされ、同様に巻き込まれた周囲の建築物と共に近隣の家屋をなぎ倒しながら突っ込んでいった。

 爆風を受けないように地面に伏せたロディマスの周囲を熱風と爆風が吹き荒ぶ。

 

「くぅッ……」

「若干ダメージを受けてますが……大丈夫、耐えられます」

 

 優花里さんがコンソールにかじり付くように向かいながら言う。

 爆発も収まり、ロディマスがよろよろと立ち上がり吹き飛ばされた二人のトランスフォーマーへと目を向けると、家屋に突っ込んだままどちらも微動だにせず、フラッグをパタパタと靡かせていた。

 ロディマスがぐっとサムズアップをしながら喜ぶ。

 

「やったな皆!」

「――― やったじゃん! 一気に二人も倒した!」

「西住殿の作戦勝ちですね!」

 

 沙織さんと優花里さんも歓喜の声を上げる。

 麻子さんは、少しだけ息をつくと再び操縦桿を握っていた。

 

「しかし、助かりましたね……アレがなかったらどうなっていたか」

「Bチームの皆が残してくれて本当に助かりました。 あれのお陰で勝ちを引き寄せられましたからね」

 

 そう言って華さんと共にバイザー越しに視線を向けた先には、先程攻撃した目標――― 溶解し、千切れ飛んだまま放置されたままだった翼に取り付けられていた、パワーグライドの振動爆弾だった。

 

「リタイアした本体は直ぐ回収されちゃうんですけど、ああいった千切れたパーツや武器は最後に片付けられますからね。 運がよかったです」

「これで形勢逆転だな」

 

 ロディマスが再び気を引き締めた様子で言う。

 確かに、ここからが正念場だ。

 相手はウルトラマグナスただ一人。

 だがグリムロックと協力したとしても、勝ちに行くのは厳しいかもしれない。

 こちらはどちらも戦闘でダメージを受けているが、あちらは殆ど無傷。

 そして、此方は手札を使い切った。

 

 本当の本当に、正面切っての真剣勝負の始まりだ。




解説! TF図鑑

【エアレイド 洋名・Air Raid】 出典・Transformers:Fall of Cybertron
カラーリング・国内ジェネレーション版

 砲台の様なエイリアンジェットに変形するサイバトロン戦士。高い場所からの眺めが好きで、戦闘中であってもセイバートロンにある錆の海などの周囲の景色に目を奪われる。射撃の腕は酷いの一言に尽き、あまりの酷さから発明家のパーセプターに特性の大剣を融通してもらった経緯がある。
 玩具版は上記の航空機にトランスフォームするとされているが、開発者公認の隠されたもう一つの変形がある。
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