ガールズ&トランスフォーマー   作:ヘキサショット

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第十二話 弱り目に祟り目

 突然だが、偶然や運といったものを信じるだろうか?

 私は正直な話、信じてはいない。

 なぜなら、あらゆる出来事は選択や行動の過程から結果が導き出されているからで、とどのつまりは言い訳にしか過ぎないと思っている。

 たとえば、シュレディンガーの猫という議題を想像してもらいたい。

 世界でも有数の知名度を誇るこの命題だが、この問題の回答を多様化させてしまっているのは結果を、かなりの強引な手ではあるのだが、意図して見ていないからなのである。

 箱を開けなければ毒ガスで、ただでさえ短い命を落とした不幸な猫がいるかいないかなどは些末なことでしかなく、結局のところ認識論的な存在、結果の定義が正しいのか否かの問題でしかない。

 

 

 ――― とまあここまで俗な唯物論的な思考を巡らせていたが、現実は私を清々しい結果に対面させることを強いるのだ。

 

 

『大洗女子 ―――番』

 

 ぽつんと一人、舞台上でスポットライトの光を浴びながら、呼ばれた番号を思わず目がスクリーン上を探そうと右往左往する。

 まだ選出されていない空欄扱いの数字と、すでに枠が決まった学校の名前の上を視線が滑る。

 そして、とうとう自分たちの番号の枠を探し出すことに成功した。

 ふと、直ぐ横の私たちの一回戦の相手の枠へと目が行く。

 すでにそこには名前が載っており、当然のごとく気になったのでドキドキと落ち着きのない鼓動を感じながらゆっくりと確認する。

 

『サンダース大付属高校』

 

 手に握った番号の割り振られたプラスティック製の黄色いボールが、なぜだか某有名なドットゲームキャラクタァの如くこちらを笑っているように見えた。

 

 ……やっぱり運なんて信じない。

 

 

 

 

 

「サンダース……サンダースですかぁ……」

「うん……サンダース……」

「そうですかぁ……アハハハハ! ……はぁ」

「大丈夫ですか? なんだか気分がすぐれないようですが……」

 

 やたらと覇気のない優花里さんとみほさんに思わず声をかけるが、二人は軽く笑うとで再びため息をつく。

 

 全国区大会の抽選会終了後、時間の空いた私達は周辺をブラリブラリと散策していた。

 せっかく学園艦から離れた遠くの地まで来たというのもあるが、なにより今回来たのがTF道協会お膝元、全日本TF道連盟本部近くであったということである。

 周囲には宣伝のためかいくつものトランスフォーマー関連の店舗が軒を連ね、平日だというのにそれなりのにぎわいがある。

 少なくとも大洗でこれ程の活気があるのは夏祭りやかき入れ時の海のときぐらいのもので、やはり都会の熱気は凄いと改めて感じさせられた。

 沙織さんは楽しそうにあちらこちらで目を輝かせているが、対照的に麻子さんの方は雑踏の煩わしさに酔ってしまっていた。

 

 付け加えて言えば、今回はロディマスに都心くんだりまで来るための協力をして貰っている。

 けれど、都心や市街地では許可無くトランスフォーマーをロボットモードにしてはいけないという決まりがあるため、現在はトランスフォーマー専用駐車場――― という体の休憩所らしいのだが、『Bar Blurr's』というところで用事が済むまで待機して貰っているのだ。

 

 そんな訳で皆で街を闊歩していたのだが、一番意外なのが優花里さんが盛り下がっていることである。

 まだ付き合いは長くはない彼女だが、ただ一つハッキリと私から言えることは、彼女は相当なトランスフォーマーフリークであるということだ。

 けれど、一番この場を喜びそうな彼女が(みほさんもだが)何故か意気消沈している。

 ……余程抽選相手がマズイ相手だったということなのだろうか。

 勝手ながら憶測で仮説を立てながら、取りあえず珍しい遠出という機会でもあるので、周囲に目を向けるようにそれとなく促す。

 

「優花里さん、抽選の結果は置いておいて、今は旅行気分でいきませんか? 日帰りではありますが」

「……そうですね。 すみません、気を遣わせてしまって」

「いいえ、それ程でも」

 

 せっかくですし楽しみましょうか!と、水を得た魚の如く活気に満ちる。

 すると、直ぐにキラキラと周囲の宣伝用ポスターやパネルをトランペットを欲しがる少年のように見始めた。

 

「ほら、みほさんも行きましょう!」

「……そうだね。 買い物でもしようかなぁ」

 

 みほさんも少し引き摺ってはいるようだが、なんとか気分を変えようとし始める。

 気がつけば、沙織さんと優花里さんは少し離れた店舗のショウウィンドウのところに言ってしまっていた。

 

「ちょっと待ってくださぁい!」

「人混み……辛ァい……」

 

 麻子さんの両脇をみほさんと共にガッチリ掴んで、引き摺るようにして二人のところへと向かうのだった。

 

 

 

 

 少し薄暗いようでいて、シックな雰囲気を醸し出す間接照明が店内の空気を幾分か大人びたものにさせており、不思議と背筋をピンと伸ばすように促される。

 周囲では何人かのトランスフォーマーが静かながらも楽しく談笑している会話や、いやなことでもあったのか何杯もエンジェックスを頼んで一気にあおっては机に突っ伏してを繰り返す奴もいる。

 なんだか静かすぎるというか、ちょっとした高級感を溢れさせる店内の雰囲気がもどかしく、少し落ち着かない。

 そんなオレを見かねたのか、バーテンダーが話しかけてきた。

 

「ねぇねぇねぇねぇロディマスロディマスロディマス! あなたねぇあなたねぇあなたねぇ来たならなんか頼みなさいよ頼みなさいよそう頼もう頼もう頼もう!!」

「うるさいぞブラー! なんで店の雰囲気はいいのにこんなに店主は騒がしいんだ!」

「あらあらあらあら失礼失礼失礼しちゃうわもう失礼しちゃう!」

 

 早口でまくし立てるように喋るバーテンダーは頼んでもいないエンジェックスと数本のエネルゴンスティックをコトンと差し出した。

 差し出されたスティックを一応一言礼を言ってから一本だけ取りだしてボリボリと囓る。

 ……うん、さっぱりとした後味ながら濃厚な味わいで、良いエネルゴン使ってる。あとで食べ○グで高評価付けとこう。

 

 このバーテンダー、青い細身のトランスフォーマーのコイツ――― ブラーは古い友人だ。

 オレはここ数十年の間だけではあるが、ちょっと長い休暇を取っていたので友人達の動向が少し気になっていた。

 特にブラーからはオレのヤ○ーメールのアドレスに何件も連絡をよこしていたので、かなり興味があった。バーを開いたとか、安物のエンジェックスに慣れていたからか飲みに来たウルトラマグナスの奴が酔いつぶれたとか面白そうな話とかもメールには書かれていた。

 そこに渡りに船といった様子でみほ達が都会に行というので、ついでながら友人のところにやって来たというわけだ。

 

 エンジェックスを一口だけ口に含んでゆっくり飲み込む。

 なんだかこっちは薄っぺらい味がする。

 安物でも使っているのかと、思わずブラーに文句を言う。

 

「おいブラー、これなんか薄いぞ?」

「あなたねぇあなたねぇあなたねぇ、帰りもオルトモードで人乗せて帰るって言ってたのにストレートで出すわけないでしょないでしょないでしょ」

 

 正論に思わず何も言い返せず、エネルゴンスティックをボリボリと音を立てて囓る。

 呆れた様子を見せながらも、久しぶりの再会は嬉しいのかブラーが嬉しそうな様子で話しかけてくる。

 

「そういえばロディマスロディマス。 あんたに借してた10シャニックス早く返して返して返して」

「金の話か! 久しぶりの再会の話題が?!」

「冗談冗談冗談……でも後で絶対返して返して返して」

 

 じとっとした目で見てくるが、視線を高いところに設置された大型テレビに移して知らぬ存ぜぬを決め込む。

 番組は丁度ニュース番組をやっており、事件でもあったのか犯人と思わしき顔写真(トランスフォーマーだ)と下に名前が表記されていた。

 司会のきりっとした真面目そうな女性が事件の内容等をハッキリとした声で繰り返し説明していた。

 

『――― コロッサス容疑者は過激派デストロン組織の指導者として国際指名手配されていましたが、レッカーズの熱心な捜査活動によって新たなテロ活動は未然に防がれ、その場にいた部下と共に逮捕されました。 レッカーズは、六人が負傷しましたが、幸い死者はでていないとのことです。 コロッサス容疑者の逮捕に対して、警察は―――』

 

「随分久しぶりよね、こういうのが出たの出たの出たの」

「ああ。 前ってーと……オレが寝てる間に起きてなければ、九百年前か?」

「そうそうそうそう。 キ印のブラジオン事件」

 

 ブレインが少し時間をかけながらゆっくりとあの時の出来事を抽出してくる。

 あの時は人体実験やらヤバい話が腐るほど出てきた。

 プリテンダー技術と人間という存在に取憑かれた、イかれた研究者。

 まだ生きていたとは当時誰も思っておらず、その凄惨な内容とビッグネームの出現に世界中のトランスフォーマー達が震撼した事件だ。

 

「今じゃ管理外のトランスフォーマーなんてもう殆どいないからな。 大体は戦時に死んでたとかよっぽどアングラだった奴じゃん」

「コロッサスは地下に潜ってたみたいみたいみたい、でも結局エネルゴン不足で頭出た手出た足出た」

「そのままの方が楽だろうになぁ」

 

 うっっすいエネルゴンを飲みながらふと呟く。

 なんだか暗くなったと思ってそのまま一気にあおる。

 底に沈殿してた濃いエネルゴンがうまい。

 

「邪魔するぞ」

 

 すると、バーのドアベルをカロンカロンと鳴らしながらまた新しい客が入ってきた。

 ふと視線を向けると、それは意外な奴だった。

 そいつに続いて、もう一人も入店する。

 

 全身真っ黒のボディに所々青く縁取ったペイント。胸部にきているオルトモード時のフロントガラスは血の様に真っ赤でどこか毒々しさすら感じさ、ツインアイタイプの目も同様に鈍くだが赤く光っていた。

 続いて来たのは、なかなかに変わった色をした奴。

 全身を薄緑や黄色で塗装し、顔周りは黒という迷彩重視のカラーリング。

 目元はバイザー型で、こちらも赤く光っていた。

 

 ブラーが嬉しそうにそいつらの名前を呼ぶ。

 

「ブラックコンボイにドルレイラー! 久しぶり久しぶり久しぶり! 元気してたしてたしてた?」

「相変らず五月蠅い店主だ、もっと静かにできんのか」

「まぁそう言うなブラックコンボイ、気は良い奴じゃあないか」

 

 うっとうしそうにするブラックコンボイを横からドルレイラーの奴がなだめる。

 相変らず仲がよさそうだ。

 すると、相手もこちらに気がついたのか横に据わりながら注文する。

 

「エンジェックスのオイル割りをくれ」

「おいブラックコンボイ、あまり飲み過ぎるなよ」

「ドルレイラーはいつものいつものいつもの! はいはいはいはいコーヒー牛乳味のエネルゴンエネルゴンエネルゴン!」

「よしブラックコンボイ! 今日は飲みまくるぞ!」

「それでいいのかお前?!」

 

 思わずツッコミを入れると、はっとしたドルレイラー。次の瞬間にはしゅんとして一杯だけと呟く。子どもかお前は。

 その様子が面白くて内心笑っていると、ブラックコンボイがこっちを向かずに話しかけてくる。

 

「最近見ていなかったが、速度違反のしすぎで逮捕されたかと思っていたぞ」

「笑えないからやめろ。 まぁあれだ、ちょっと休暇をな」

「休暇? 年中タイヤを擦り減らさないとイライラし出して、日夜SNSを荒らしたりしてたお前が?」

「まぁ、色々あったんだ。 オレよりもお前は最近どうなんだ? やっぱりTF道?」

「……それしかオレ達にはできん」

 

 出されたエンジェックスを飲みながらブラックコンボイが言う。

 その姿は、どこか哀愁を漂わせておりなんだか見てるこっちが辛気くさくなる。

 

「そういえばオレも復帰してTF道始めるんだが、お前達の学校って何処だっけ? 滅茶苦茶強いとこだったのは憶えてる」

「黒森峰だ」

 

 ちょっとずつ味わうようにエネルゴンを飲みながら、ドルレイラーが学校名を言う。

 すると、芋蔓式に記憶が蘇ってきた。

 確かスッゴい強い流派の後継者が代々通っているとかでかなりの強豪だったはず。

 

「あぁ思い出した思い出した。 ところでそっちはオレのところは憶えてる?」

「……大洗?」

「そうそう、大洗」

「マジで?」

 

 若干思考した後に、ブラックコンボイが言うのを肯定すると、ドルレイラーが何故か驚く。

 何か地雷だったのかと訳もわからず困惑していると、ブラックコンボイがこちらを向いて、

 

「西住みほ。 そんな名前の選手はいるか?」

「え? いるけど? 何、お前知り合い?」

 

「…………ふざけるなッ!!」

 

 バンッと思い切り机を叩くブラックコンボイ。

 驚いた周囲の客がぎょっとした様子でこちらを見てくるが、ブラーが慌てて客に謝罪する。

 突然の大声に思わずエンジェックスを零しかけた。だがドルレイラーの方はうっかり零してしまったようで、一瞬悲しそうに零したエネルゴンを見たが、直ぐにブラックコンボイをなだめ出す。

 

「落着け! すまないブラー、ロディマス。 少し気が立ってるんだ……」

「もしかして、みほとなんか関係あり?」

「……ああ」

 

 ドルレイラーが俯いて言うが、その様子はどこかおかしかった。

 言葉では言い表せないが、なんだか辛いことがあったのだろうか。

 すると、ドルレイラーは何か気がついたのかハッと顔を上げてなにか呟く。

 

「だからエリカの奴……ばったり会って喧嘩しないといいが……」

「まほの奴も、機嫌が悪そうだったのはこのせいか」

 

 ブラックコンボイの方も納得がいったといった様子で頷くが、その表情は納得からは程遠いものだった。

 すると、ブラックコンボイは一気にエンジェックスを飲み干し、懐から幾らかのシャニックスを出すと席を立った。

 慌ててドルレイラーもごくごくとエネルゴンを飲み終え、ブラックコンボイが払った額が少ないことに気がついて、少し多めにシャニックスを支払い、店から出て行くブラックコンボイの後を追っていった。

 

「……一体全体なになになになになんだったの?」

「……さあ?」

 

 残されたブラーと俺はただ呆然とするしかなかった。

 

 

 

 

 

「いやぁしばらくは出費を控えないといけませんね!」

「それにしても随分と買い込んだね……」

 

 周辺の店舗を一通り見て回った後、トランスフォーマーイメージのファミリーレストランで休憩を取っていた。

 店内は賑わっており、どうやら私達同様に抽選会に来ていた生徒達も何組か食事に来ているようだ。

 内装は優花里さん曰く、宇宙船アークというのをモチーフにしているらしく、全体的にオレンジ色をしており一目にポップで明るい印象を持った。

 

 向かい席でニコニコと笑顔をたたえた優花里さんの横には、いくつかの袋と箱が積まれており、時折袋の中をのぞいては誕生日プレゼントを見る子どものように笑っていた。

 

「まさかサプライズイベントでクロック選手の握手会をやっているなんて思ってもみませんでした……限定商品も運良く買えましたし、もう悔いはありませんよ……」

「アレには私も驚きました。 ペットのゲイトレイダーも可愛かったですね」

「いやいや、アレはただの鰐でしょ!」

 

 沙織さんが横からツッコミを入れ、思わず私も苦笑する。

 巡った先のデパートでプロのメカサッカー?選手がイベントをしており、せっかくだからという理由で皆で見に行ったのだが、その選手が連れていたペットというのがどう見てもただの機械鰐であった。

 クロック選手がファンの一人一人と握手をしている横で、バリバリとエネルゴンキューブを囓っていたが、凄い迫力だった。

 皆がお喋りをしていると、ポゥンとテーブル横のブザーが鳴ったかと思えば、その近くに備え付けられていたミニチュアの線路から紫色のSLが商品を荷台や連結した後続車両の上に乗せて運んできた。

 とりあえず私は人気商品だというデストロンイグシニアのブルーベリーパイ、みほさんはサイバトロンイグシニアをモチーフにしたというイチゴタルトを頼んだのだが、チェーン店舗の物とは思えないほど芳醇なベリーの酸味を感じさせる程の甘い香りが鼻孔を刺激し、思わずお腹が鳴りそうになる。

 

「うーん、このゴールデンラグーンスープ(コンソメスープ)美味しいです! すり下ろしたオニオンの風味がたまりません」

「アダムスのサラダパイも美味しい!」

「…………美味い」

 

 麻子さんがエネルゴンキューブ風ブドウゼリーを食べて一言。

 

 皆の評価と料理の香りは空腹をより強く感じさせ、思わずフォークを手に取り先端をパイに差し込む。

 クリームやベリーが盛り付けられた部分にはすぅとフォークが入っていき、簡単に底のパイ生地部分へと到達した。

 

「頂きます」

 

 遅れて食事の礼をしてから、最初はクリーム部分だけを掬い取り口元へ運ぶ。

 少しだけ、掬い取ったクリームを見てみると、表面一杯にかけられていたブルーベリーソースの下に純白なクリームと、うす黄色のアーモンドクリームが詰まってることがわかる。

 その間で紫と白が溶け合い薄紫色に混ざり合っている光景に異様に食欲をそそられ、そのまま口に含む。

 ベリーの香りが鼻へ抜けていきながらも、ベリーとクリームが舌の上で、すっと溶ける。

 相当に煮詰めてあるのか、強い甘みと共にブルーベリーの酸味を感じたが、それに合わせた甘み控えめのホイップクリームと溶け合い次第に優しいまろやかな味へと変わっていく。

 最初の強い味を楽しみたいと思いつつも、クリームと溶け合った絶妙な味わいもまた舌で味わいたいと、直ぐにフォークを動かしてしまう。

 正直、最初はただのコラボレイション店舗かと思っていたが、これは望外な美味しさだ。

 

「凄く美味しい……どうやってチェーン店でこれ程の味を?」

「このお店って、運営にトランスフォーマー系列の企業が関わってて、凄く高度なレヴェルで味にこだわっているらしいですよ?」

「へぇ……」

 

 所謂科学的な研究で計算された味というものであろうか?

 なんだか不思議な感覚を覚えるが、とにもかくにも味は最高に尽きる。

 頬をほころばせながら再び、今度はクリームとパイ生地ごと口に運ぶ。

 

「そういえば、対戦相手のサンダース大付属のこと話してませんでしたね」

 

 優花里さんが思い出したように言う。

 みほさんも、タルトに夢中だったのか口をモゴモゴとさせたあとに紅茶を口に含んでふぅと一息。

 

「つい忘れてた……うん、正直かなり厳しいかなぁって」

「正直私も一回戦であそこと当たるのだけは嫌ですよ……」

「そんなに強いんですか?」

 

 二人の様子を見て、思わず尋ねると優花里さんがこくりと首肯する。

 それに続けて、みほさんが解説を加えてくれた。

 

「まずTF道のルールの話になるんだけど、高校大会で出場できるトランスフォーマー数は全試合一律で最大十体なの」

「うちの倍じゃん! あれ、でも以外と少ないのかな?」

「それには理由があるんですけど、まずトランスフォーマーの維持費が意外と馬鹿にならないからなんです。 ウチはまだ少ないですし、生徒会側から資金に色を付けて貰ってますからまだ大丈夫ですけど」

「次に、ここが次の対戦相手で最も重要なんですが、トランスフォーマーのある一定の団体が異様に強いからなんです」

「ある団体?」

 

 私の質問に優花里さんは頷き、ここがサンダース大の最も強いところですと言ってその理由を言う。

 

「合体戦士です」

「……合体戦士?」

 

 気になったのか、麻子さんがゼリーをおかわりしながら優花里さんに尋ねた。

 

「トランスフォーマーには合体してより強い戦士になれる一団がいるんです。 エアーボットやコンピューティコン……色々いますが、これには決まった人員がいないとなることが出来ません。 メンバーに換えが効かないんです」

「意思統一が重要だから、同じような機構でも無理矢理合体したら何が起こるかわからない。 そして、高校という立場でその合体戦士のメンバーを全員集めるというのはかなり難しいことなの」

「そこで力になるのが、学校側の資力です。 サンダースは凄くリッチな学校なんです。 校内のチーム数も一軍二軍三軍と、トランスフォーマーの保有台数も全国一位で人員も潤沢。 そんなお金持ちの学校ですから、あの手この手でチームを集められるんですよ。 で、そういう強豪校が一方的に合体戦士を揃えて圧殺っていう試合にならない事態を抑制するために最大数が少なめなんです。 でもそのせいで少数勢力で合体戦士に立ち向かうという構図にもなるので、かなり工夫するか強力なトランスフォーマーが必要になるんですよ」

「そうなんですか……ところで、サンダース校の保有する合体戦士とは一体?」

 

 私の質問に、みほさんが答える。

 

「――― ビルドロン師団。 合体戦士デバスターになる建設重機の六体です」

「……建設重機? なんか弱そう」

 

 沙織さんの疑問に、優花里さんは首を横に振る。

 

「合体戦士相手には恐らくウチのメンバーは太刀打ちできませんよ……」

「グリムロックでもか?」

 

 麻子さんの問いに、再び優花里さんは首を横に振って、

 

「ダイノボット全員でなんとか五分と五分、グリムロックだけじゃあ厳しすぎます」

「……勝てるの?」

「初戦で無名校相手にビルドロン全員を出してこないことを祈るばかりです……」

「実際それしか勝ち目が薄いと思う……」

 

 うーんと頭を抱えながら悩みこむみほさん。

 一通り聞いただけだが、想像以上に強いところと当たってしまっていたらしい。

 なんだか暗くなってしまった空気を明るくしようとしたのか、素なのか、沙織さんが明るい声で別の話題を始める。

 

「そういえば、大会の決勝戦とかってテレビで中継されたりするのかなっ!」

「確かに、夏の甲子園程ではないですがニュースでも話題になったりしますよ」

「ほんと?! テレビで注目されちゃったりしたらどうしよ~!」

「操縦手に注目することは珍しいですよ……?」

 

 優花里さんの回答に、そういえば時折テレビでも放送していたような気がしなくもない気がしてきた。

 なんでもやはり甲子園の方がメジャーなために影に隠れているのだとか。

 兎にも角にも、初心者の私達が初出場で決勝まで勝ち上がれるとは正直思ってはいないが、夢のある話だ。

 

 

 

「―――― 副隊長?」

 

 突然通路側から声をかけられ、思わず顔を向ける。

 そこには、黒い制服に身を包んだ二人の女子学生……彼女たちもTF道関連の人だろうか。

 胸元に黒十字の校章が付けてあり、なんだか二人の雰囲気も相まってかなり威圧的に見える。

 銀髪のロングヘアーの女性はなぜだかこちらを―――― 睨んでいる? かなり鬼気迫った様子。 

 反対にもう一人の茶髪のショートヘアーの女性はただこちらを見ているだけで、怖い位何も感じない。

 

「……お姉ちゃん」

「お姉ちゃん?」

 

 驚いた沙織さんが二人組を凝視する。

 私も、驚きで正直何も言えない。

 確か、みほさんは家柄の事情で飛び出してきたと聞いたことがあるが、まさかこんなところで件の人と遭遇してしまうとは。

 恐らく姉の方……ただただ無表情を湛えた茶髪の女性が、おもむろに口を開く。

 

「まだ、TF道をやっていたのか」

「…………」

 

 何も感じさせないほどの声でみほさんに問いかけるが、彼女は俯いたまま何も言わない。

 その様子にイラついたのか、銀髪の女性が怒りをあらわにして、

 

「そんなのでよくも続けようと思えるわね! 恥知らずもいいとこよ!」

「ちょっと待ってください! それは言い過ぎですよ!」

 

 優花里さんが感情を露わにし、立ち上がって咎めるが、意に介さずといった様子で相手は続ける。

 

「あら? じゃあ貴女知ってるの? そいつが何をしたのか」

「……あれに関しては、私には何も言えません。 でも、間違ってはいなかったと思いたいです!」

「間違ってない? そいつのせいで」

 

 ヒートアップしそうになる女性を、横からお姉さんらしき人が静止する。

 

「副隊長、それぐらいにしておけ。 店と客に迷惑だ」

「隊長……わかりました」

 

 渋々といった様子で引き下がるが、その目からは敵意は抜けていなかった。

 すまなかったと、お姉さんは一言だけ残して足早に去っていき、銀髪の人も忌々しそうにこちらをねめつけながらその後に続いて行った。

 

 突然の事に、沈黙する皆。

 みほさんが暗い顔をして俯いてしまって、唯一事情を知っているらしい優花里さんも何を言っていいのかわからないようで、何も言い出せない。

 私も沙織さんも、事態を理解できないまま気まずい沈黙が続くと思ったが、

 

「すまん、もう2つおかわりいいか?」

 

 麻子さんは相変わらずマイペースであった。

 あと、もう空のお皿が三皿並んでるのですが財布は大丈夫でしょうか……?




解説! TF用語

【シャニックス】 出典・TFアメコミより

 トランスフォーマー間に一般流通している通貨で、金貨のような見た目をしている。
 初出はマーベルコミックスであるが、本作ではIDW誌での通貨価値に準じている。
 なぜ人間社会と同様の貨幣を使っていないかというと、物資の価格が根本的に異なっているからだ。TF規準の商品は人間に取っては相当な額になっており、なによりTF間では古くから使われている通貨であるため、TF関連の商品に関してはシャニックスでの取引が一般的である。
 ちなみに、1シャニックスは人間の通貨価値でいうところの1ポンド程の感覚である。
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