ガールズ&トランスフォーマー   作:ヘキサショット

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Spotlight: BIG CONVOY

 爆音と共に、地面から盛大に砂煙が立ち上った。

 もうもうと赤茶色の土色を周囲に降り注がせる粉塵の中から、一対のトランスフォーマーが砂煙の尾を引きながら飛び出す。

 

「ARGGGGGHHHHH!!」

 

 禍々しい面構えに鋭い牙を模したモールドが施され、全体的に生物感のある流線型のボディをした青と白のツートンカラーのトランスフォーマーが、右手に携えた剣を相手――― ビッグコンボイへと突き出す。

 対するビッグコンボイは、操縦手の技量もあり体勢を崩さないように器用にバランスを保ちながら後方へと飛びすさりつつ、両腕の前腕部に格納されたマンモストンファーを飛び出させ剣を受け止める。

 そのままお互い切り結び合いながら勢いよく着地し、状況は膠着するかと思われたが、

 

「――― ゼヤァッ!」

 

 青いトランスフォーマーが勢いよく剣を引いた。

 すると、頑丈なマンモストンファーは甲高い金属音をあげ、周囲に金属片をまき散らす。

 ビッグコンボイがチラリと確認すると、左手のトンファーには真っ直ぐな切れ込みが入れられ、完全に使い物にならなくなってしまっていた。

 相手の両刃の剣には、ノコギリ状の鋭利な刃が連なっており、先程の斬り合いの際にその自慢の刃で一気にトンファーを削られてしまったのだ。

 相手は好機とみたのか、そのまま剣を構えて突撃してくる。

 

「貰った!」

「――― ここッ!」

 

 徒手空拳となった左側から凄まじい速度で刃が迫ってくるが、ここが勝機だと臆せず攻める。

 相手は最後の一撃と油断し、これで決着にしようと功を焦った。

 先程よりもやや大ぶりになった剣筋を見切り、残る右手のトンファーを正面からぶつける。

 一瞬相手が動揺したが、もう片方も使い物にできなくしようと、そのまま剣を引く。

 甲高い音と共に、右手のトンファーも一気に削りとられ、金属粉を出しながら今度は完全に切り落とされた。

 ビッグキャノンは今回持ち込んでいないが、そもそもここまで接敵されては取り回しもきかないし、ハーケンミサイルを用いても、この距離で近距離武器を持った相手に使ってもすぐさまワイヤーを切断されるか接近戦のデスマッチ。

 加えて唯一の近接武器のトンファーも使い物にならない。

 万事休すに思えるこの状況。

 だが、こういった事態を回避する唯一の方法がある。

 それは、

 

「甘いッ!」

「……?! グホッ!!」

 

 己の肉体だけである。

 振り抜いて完全に剣を振り下ろした状態では、自慢の剣もただの大きな重石に過ぎない。

 そのガラ空きの顔面に、左手で思い切り掌底打ちを叩き込んだのだ。

 

 通常ならあまり効果はないこの手法だが、この左手はただの拳ではない。

 なぜなら、彼の左手は強力なビッグキャノンの反動さえ押さえ込める程のパワフルな義手であるからだ。

 凄まじい衝撃でブレインを揺さぶられ、相手のオートジャイロはその機能を麻痺させ一種の脳震盪に状態になった。

 先程までの剣を振るう者の姿勢だった体は、フラリフラリと肩を大きく揺らしたかと思うと、次の瞬間にはズシンと音を立てて前のめりに倒れ込んだ。

 そして、小さな音と共に背中からフラッグをはためかせる。

 

「――― 訓練終了!」

 

 小さな白い旗を確認し、終了の合図をすると、訓練場全体に甲高いサイレンが鳴り響いた。

 

 

 

「教官、今日も素晴らしい活躍でありました! 特に最後のシャープエッジさんとの格闘戦、あの動きは是非今後の参考にさせて頂きます!」

「そうか、それならよかった。 あと蝶野一尉、私はもう『教官』ではなく『ビッグコンボイ』だ」

「あ、はいっ! 以後気をつけますビッグコンボイ!」

 

 訓練後のブリーフィングルーム。 椅子に座る私の正面で人間サイズの小さな椅子に座っている濃緑色のスーツを身に纏った女性――― 蝶野亜美一尉がキチリと敬礼をした。

 もう何度目になるかわからない注意だが、何度言っても彼女は一向にこの癖を直すことが出来ないようだ。

 もう生徒という年齢でもないだろうに、いつまでも新人気分では困る。

 

「海洋保護が本職のシャープエッジがここにいるのもあと少しだけだ、彼から吸収できることはまだまだある。 今後も教導隊の一員として頑張ってくれ」

「了解しました! それでは今日の訓練結果をまとめなければならないので、失礼します!」

「ああ、無理はしないように」

 

 はいっと快活な返事をすると、足早に蝶野はブリーフィングルームを後にする。

 誰もいなくなったブリーフィングルームで一人心地るのもなんなので、私も直ぐにブリーフィングルームを後にした。

 

 

 

 今は、平和だ。

 かつての剣呑な日々を過ごした頃には考えられないほどに、毎日が平穏に過ぎていく。

 時の流れが速く感じられる、争いのない生活には大分慣れた。

 流れ者だった頃の自由気ままな生活に懐かしさを感じなくもないが、訓練生や部下と一緒に仕事をして、叱ったりお互いに残業の苦難を乗り越えたりするのは一人では味わえない感覚だ。

 満ち足りている……のだろう。

 毎日の中で、つい古い生徒達……いや、もう友人達というべきなのだろうか。

 一際心に残る生徒達のことを思い出すことが増えた。

 ブレイクやスタンピー、コラーダやロングラックにハインラッド……それにマッハキックも、それぞれが自分達で道を選んで、()の下から卒業していったあの日が懐かしい。

 皆は今、何をしているのだろうか。

 俺が教えたことが、今の彼らの役に立っているだろうか。

 

 ――― 私らしくもないか。

 なんせ最後の最後で俺の言うことを聞かなかった生徒達だ。

 きっと俺が予想も付かないような騒がしい日々を過ごしていることだろう。

 

 

 

 仕事部屋と私室を兼ねた部屋には、基本的に仕事用の資料や機材が並べてあるだけだ。

 酒や食べ物などの娯楽の品は置いていないので、時折部下や生徒に私室がないのではないかと噂されているのを耳にする程だ。

 

 だが、この部屋に一つだけ。 俺の個人的な物が置かれている。

 執務用のデスクの棚の一つ、鍵が掛けられていて殆ど開けられることのない引き出しの中にはデータパッドがしまい込んである。

 今日は、なんとなくそれを取り出していた。

 

 電源を入れると企業名のロゴが浮かび上がり、しばらくすると、いくつかの整理された画像・動画ファイルが表示される。

 いつからか、ナビ子の奴が思い出は残すべきだということで写真や動画を撮影しては、それをこのデータパッドに集め出したのが始まりだったが、今では俺の数少ない私物の一つだ。

 丁寧に日付やカテゴリに分けたフォルダの中を開いていくと、懐かしい顔が幾つも表示されどこかセンチメンタルな気分になる。

 そしていくつかのフォルダの内のとあるフォルダを開くと、収納されていたデータのアイコンが表示された。

 ファイル名は『TF道 生徒』という簡素なものだが、詰まっているデータは俺にとっては大切な物だ。

 

 追想にふけりながら、何個かファイルを流し見していると、親しみ深い顔を見つける。

 画面には、今もまだ幼い顔立ちで、まだ今以上に垢抜けていなかった頃の蝶野の画像が映し出されていた。

 

 当時は今以上に、まぁ言うのも何だが、はねっ返りというかおてんば娘だった。

 分隊長という立場にも関わらず、独特な擬音ばかりを用いた指示をする彼女に、同乗者のメンバーが酷く苦労していた。

 俺が何度言ってもアレだけは直らなかった。

 恐らく彼女の説明方法はマッハキックのイビキを止めるのと同程度の労力を要することだろう。

 最善は尽くしたが、アレも蝶野の持ち味だと諦め気味に妥協したのは忘れられない。

 今となってはある程度はまともにはなったものの、もう少しだけ聞き手のことを考えることができればよりよい教育者になれるだろう。

 

 数年前まで学生だった彼女が、今ではTF道を支える者として出世街道を邁進している。

 その内、今の教導隊としての立場からも卒業し、さらなる高みへと向かっていくのだろう。

 少し寂しくはあるけれど、彼女のポジティブで解りやすい性格は周囲からの好感も得やすい。

 きっと彼女ならTF道をより良い方向へと導いてくれるだろう。

 

 ……俺の生徒である間にあの擬音ばかりの独特な会話を矯正できなかったことが悔やまれるが。

 

 蝶野のデータを格納し、再び別の世代の画像を流し見し始める。

 だが、その途中で気になることを思い出し、ファイル内検索をかける。

 

 『西住』のキーワードを入力すると、それなりに多くの検索結果が提示された。

 フォルダには何代ものTF道の隆盛を支えた西住流師範代の若かりし頃の姿や、往年の頃に撮った写真が納められている。

 その中でも、特に新しいデータに目を通す。

 

 長い黒髪をした、鋭い目つきの女性と、どこかその女性に似た茶髪の二人の女子。

 

 現西住流当主……西住しほと、その二人の娘達。

 まほとみほ……何故か彼女達の事を思い出すと、不思議とため息しか出てこなかった。

 

 俺が彼女達とであったのは、まだ小学校にも上がる前の頃からだ。

 黎明期から西住流当主との交流があった俺は、その後継者と幼い頃から顔を合わせる機会が多かった。

 もちろんしほの幼い頃も知ってはいた……子どもの頃から酷く真面目な娘だった。

 娘の方は、長女は随分と母親ににてはいたものの、あまり内心を語ることがないのはこの頃からだった。だが身内、特に妹には少しだけ甘いところがあった。

 逆に妹の方は、まったくといっていい程母親に似ていなかった。

 気が弱く、臆病で泣き虫で甘えん坊。初対面の印象はそんなところだった。

 しほは、まぁ端的に言って子育てという面ではあまりよろしくはなく、我が子に対しては当主として厳しく当たっていたために、みほは温和な常夫によくなついていたのを覚えている。

 

 画面に表示された画像には、幼い頃の姉妹や若い頃のしほや常夫、家族全員の何気ないひとときの団欒が映っていた。

 みほは私を怖がって泣いていて、まほやしほがそれを後ろから笑顔で見守っており(口では色々言っていた気がするが)、みほの横で常夫が笑いながらビーストモードの俺の鼻を撫でている。

 ちょっと不器用な奴が多くはあったが、その様子は何処にでも見られるような、ごく普通の家族のワンシーン。

 

 

 ボタンの掛け違い・歯車が狂った・不幸なすれ違い……どう表現してよいのか、私には判断がつかないが、この一家の現状に関してはどうしてこんなことになってしまったのかと思わずにはいられなかった。

 ……いや、そもそも何れはこうなることは決まっていたのかもしれない。

 

 薄々感づいていたが、みほは西住流に向いてはいない娘だった。

 

 ――― 西住流は、前へ進む流派である。

 

 撃てば必中、守りは固く、進む姿は乱れ無し

 

 TF道の黎明期から存在する西住流は、この解りやすくも堂々としたモットーを掲げてきた。

 敵を全体で圧倒し、叩き潰す。

 この手法で、勝つことを覚えてきた彼の流派は、まさに圧巻だった。

 堂々とした姿で勝利を掲げる優勝旗を携える光景は、次第に周囲からの尊敬や畏怖を集めることとなり、西住流の名はTF道の世に響き渡る存在になった。

 だが、次第にその周囲からの期待は流派の内部にまで染みこんでいく。

 勝利至上主義――― 西住流なら勝つことは当然。 西住流なら逃げることはしない。 西住流なら小手先の技を力で押し通す……力で技を圧倒するという、王道であるが、悪く言えば安易なこの方法は、流派の柔軟性をすり減らし、やがては流派当主にまでかくあるべしとその在り方を押し付けるまでになってしまった。

 

 時代は、西住流を取り残し始めていた。

 

 ――― 視点を一家族に戻そう。

 母親のしほはその真面目な性根が西住流に酷くマッチしていたし、長女のまほも母親同様に西住流に同調することができる娘だった。

 だが次女のみほは……不幸な、いや、西住流に新しい風を吹き込むことが出来る可能性を持った子だった。

 気の弱い子ではあったが、あの柔軟な発想力や周囲から好かれる性質は、言うのもなんだがいままでの西住流当主にはなかった美点だった。

 しほは弱みを見せない奴だったし、まほは立場というのもあるが、西住流の後継者としての立場を重視するところがあった。

 そんな中で、あの子の存在は変わっていた。恐らく、というか十中八九父親に似たのだろう。楽観的な所や屈託のない所は似なかったようだが。

 自由で、気が弱いけど明るいところがあって、気を遣う子ことが上手だった彼女は、きっと凝り固まった西住流を変えるのに十二分の素質があった。

 まほは、そんな事をさせようとは考えてはいなかったようだが……。

 

 

 

 だが、時は彼女達が進む道を自ら選び取る事を許してはくれなかった。

 

 あの不幸な出来事は、まだ若く繊細で不安定な年頃の姉妹には辛すぎる出来事だった。

 しほの奴へ事情を聞きに行ったときは、相変らずすました顔をして割り切った様子をしてはいたが、恐らく内心では動揺していたに違いない。

 まほの方も、相変らず表情に出してはいなかったが、苦しんでいたことだろう。

 常夫の奴は婿養子であったし、家での立場という理由からあまり力になれないことを悔やんでいた。

 

 兎も角、文字通り袖に縋る勢いで常夫が家の関係者に拝み倒した後での頼みということもあって、みほの願い通り彼女はTF道から離れた高校へと編入することとなった。

 私がしほ達に会いに行ったときには、もうすでに荷物をまとめて出て行ってしまった後だったので、当時の彼女に会うことができなかったが、相当酷い状態だったのは想像に難くない。

 追い詰められている彼女に何も声をかけてやることも出来なかったのを、悔やんだのを覚えている。

 

 だがそんな私の心配をよそに、先日の大洗の資料を見たときには思わずフェイスプレートがズレるかと思う勢いで噴き出した。

 一昔前に廃部になったTF道を復興させるという事で訓練を付けて欲しいという依頼が大洗女子学園から舞い込み、訓練指導の経験が浅い蝶野の付き添いがてら仕事の様子を監査しようと思い、たまたま大洗のTF道参加者の資料を除いてみると、まさかみほの名前があるとは思いもしなかったからだ。

 

 正直、私には違和感しか感じられなかったが……。

 兎も角彼女なりに前向きに進んでいるのだろうと思い、現地に足を運んで様子を見てみれば、やはり何かしら事情があって参加させられていたのだろう。

 蝶野が、前々から発言には気をつけろと言っておいたのにも関わらず、無神経に家の話題を持ち出したときは、露骨に嫌な顔をしていた。

 実際に、訓練後に二人で話したときには、かなりあの件が尾を引いていることがわかった。

 そんなに簡単に振り切れる物でもないだろう。

 だが、そんな様子でも良い学友に恵まれているようで安心した。

 人に好かれる才は本人が苦難の下にあっても良い巡り合わせを与えてくれたようだ。

 

 願うことなら、彼女がもう一度胸を張って、笑顔で家の敷居をまたぐことが出来る日が来れば一番良いが……。

 

 いや、それよりもTF道に復帰した事をしほに連絡したのだろうか……?

 していないとすれば相当―――。

 

 『RIIIIIIP』

 

 私室のドアアラームが鳴り、手元のパネルを操作する。

 すると操作に連動して机の画面のグラフィックモニターが作動し、訪問者の姿を映し出す。

 キッチリと濃緑色の制服を着こなし、キリリとした目元が特徴的な女性――― 蝶野亜美一尉だった。

 

「どうかしたか蝶野一尉? もう今日の訓練は終わったはずだが」

『はっ! 教官とお食事でもと思いまして伺った次第です!』

「食事? あぁ……今日はもう用事もない、了解した」

『ありがとうございます! それでは食堂でお待ちしております!』

「わかった。 あと、いつも言っているが教官」

 

 プツンという音と共に、画面に大きくCall Endedの文字が表示された。

 相変らず人の話しを聞かない奴だと、ついため息を漏らしながら、データパッドを引き出しに仕舞い席を立った。




解説! TF図鑑

【ビッグコンボイ】 出典・ビーストウォーズネオ 超生命体トランスフォーマー

 ワンマンアーミーの異名を持つ、伝説の戦士の一人。その実力は単機で惑星要塞へと乗り込んだ挙げ句に壊滅させ、その首領たるマグマトロンを撃退する程である。
 ビーストモード時にはマンモスへと変形する。
 戦闘能力の高さに加えて、全身に豊富な武器を備えており、あらゆるレンジに対応できる。メイン武器は必殺の威力を持つビッグキャノン。
 一匹狼である故にあまり内心を語ることはないが、仲間を大切に思い部下を見守る心優しい戦士でもある。俗に言うツンデレ。
 必殺技はビーストモード時にマンモスの牙からあらゆる物を粉砕する超振動波を放つ『マンモスダイナマイト』。

追記.活動報告でアメコミダイマ掲載!
皆、買おう!(直球)
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