ガールズ&トランスフォーマー   作:ヘキサショット

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第一話 嵐の来るまで

「実に嘆かわしい事だとは思わないか、諸君」

 

 重苦しい雰囲気の中、一人が口を開く。瞬間、空気がピンと張りつめ、その会議室にいた如何にも重鎮といった出で立ちをした老人達が身を強張らせた。

 

「我々は本来より崇高な運命を担い、その存在を生み出されたのだ……。だが今一度その目で世界を見てみるがいい」

 

 論調に高慢さを滲ませつつ、彼は謳う。

 

「今の我々トランスフォーマーの惨状を!」

 

 途端に会議室の照明が落とされ、彼の背後にあったスクリーン上にいくつかの映像や画像が映し出される。

 その画像には多くの作業重機や自動車、さらには戦闘機や戦車と共にまだ年端もいかない少女達の姿が映し出されている。

 そしてその傍らには機械の体を有した生命体……トランスフォーマーと呼ばれる者たちの姿があった。

 

「見るがいい!この堕落に身を落とした同胞の姿を!」

 

 彼は怒りに身を震わせながら、唱える。彼の徹底した高潔さと種族としての誇りを。

 

「我々は再びかつての栄光を取り戻さねばならない……このような惨状から脱却するためにも」

 

 そして、彼は宣言する。

 彼の野望、そしてその純粋な願いを。

 

「私はここに誓おう……我々の再興の夢の実現と人間社会の、世界秩序の生誕を!」

 

 その部屋に居る者達以外にとってはただの空虚な幻想にしか聞こえないような言葉。

 だが彼らは知っていた。

 目の前の彼……暁色に彩られたトランスフォーマーであれば、今の言葉を現実にしてしまうということを。

 彼は拳を振り上げ、高らかに、そして昂然と嘯く。

 

「我がセンチネルプライムの名の下に!」

 

 

 

 

 

 時は進み――― 大洗女子学園

 

 生徒会室に設けられた応接スペースで三人の女子生徒が目の前の資料を睨み付けている。その資料の渡してきた相手……眼鏡にキッチリと七三分けにされた髪という真面目という文字を絵に描いたような出で立ちをした文科省から来た役人、学園艦教育局長は表情をピクリとも動かさず続けた

 

「今回の件ですが、突然のことで驚かれるのも無理はないかと」

「当たり前です!」

 

 片眼鏡をかけた短髪の少女―――河嶋桃が声を上げる。

 渡された資料に踊る“学園艦廃棄に関する予定計画書(仮)”の文字を一瞥しながらポニーテールの少女―――小山柚子は質問を飛ばす。

 

「(仮)の文字が訂正されていないのはいったいどういう理由で?」

「文字通りの意味です」

「ふーん・・・・・・」

 

 そういうと胸ポケットから手帳を取り出しペラペラと捲ると、確認するように言葉を続ける。

 

「実はこの案なのですが、こちらとしても急な話でしたので未だに修正すべき点があります」

「……学園艦廃棄に際しての業者関係の記載がありませんね」

 

 柚子が資料を示しながら質問する。

 対して彼は頷き資料を捲りながら答える。

 

「加えて詳細な予算割り振りや人員の決定もまだ完全とは言えない始末ですね」

「……なぜこんな未完成の書類を?」

 

 玉虫色の返答に生徒会陣は若干の苛立ちを感じつつ、柚子は疑問を口にした。

 

「飽く迄も本決定はされていませんから……ニュース等はご覧になるほうですか?」

「えぇ、それなりには」

「多少は・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 それぞれの反応を見つつ、局長はなら細かいことは説明ありませんねとつぶやき、話を続ける。

 

「来年度の衆議院予算委員会での目玉としてこの案を与党が提出する予定なのです」

「……今はそのためのコネクションと理解を得るための事前準備ということですか」

 

 納得したように柚子は頷く。無論、その表情は納得からはほど遠いものである。 

 

「ご理解が早くて助かります」

 

 確かにこれほどの大事業を行うには文部科学省だけの権力ではお門違いな内容だ。

少なくとも戸籍回りの処理に法務省辺りの連携が必要になってくるのだろう。加えて地域住民の理解を得る等の根回しのために一足早く動いているということだ。

 

「以上の点を踏まえまして、生徒会長さんには前もって学園の生徒達への理解を得られるようにご協力頂きたいと思っています」

「……まだ本決定というわけではないじゃないですか」

 

 桃があからさまに敵意を視線に込めながら訪ねる。

 しかし、意に介さずといった様子で局長は答える。

 

「決まってからでは遅いのです。国政事業には速さも求められますから」

「しかし、完全に決まっているというわけでもないでしょう」

「……そうですね。もしかすれば、の話ですが」

 

 メガネのブリッジを指で上げながら、慇懃無礼な様子で続ける。

 

「何かしらの功績を挙げることができれば、廃校に関する議論の際に考慮される可能性があるかもしれませんね」

「はっきりしない物言いですね」

「こちらもお役所仕事なので」

 

 否定だけは鋭く返し、局長は内容についての本旨の説明を始めた。

 

1.学園艦の運営及び維持の費用が年々かさみ莫大な額になりつつある。

2.学園艦の構造上老朽化が進んだ場合の大規模移転は混乱を来たす恐れがある。

3.以上2つの理由から早期に学園艦という体制の解体を行う必要性が考えられる。

4.この提案は大洗女子学園だけでなく国内の学園艦全体に通知されている。

5.長期的な計画の見通しを取っており、その中でも学業や部活動でのめぼしい成果の見られない学園から解体していく予定である。

6.順次解体した結果や学園の功績に応じ、運営の目処が立つものは解体予定のリストから外れる。

 

 

 

 長々と説明を終え、局長はふぅと疲れを滲ませる溜息を吐き、出されていたお茶に手を付けた。

 

「以上のことから、その順次解体の槍玉に挙げられるのが大洗女子学園となる予定です」

 

 渡された資料の一つに学園の入学者数の推移と成績平均の比較資料が載せられているが、確かに平均から一つ抜き出でたものがない。

 

「部活動の成績も振るわないようですし・・・・・・数年前までトランスフォーマー道である程度成績を残してはいたようですが」

 

 すると、局長の説明を遮るようにして今まで沈黙を通していた、小柄で長い茶髪をツインテールにまとめている大洗女子学園生徒会長――――角谷杏が口を開いた。

 

「ん・・・・・・じゃあ、やろっかトランスフォーマー道」

「えっ」

「はぁっ?」

「・・・・・・」

 

 杏の突飛もない発言に驚くのを意に介さず、杏は問う。

 

「優勝校になったら好成績を収めたってことで一考の余地はあるんでしょ?」

「否定はしません」

「そ、ならやるだけやってみるか。あたしはやるよ、トランスフォーマー道。行くよ2人とも」

 

 部屋を出ようとする杏に背中に向かい、では学生達への説明はお願いしますねと局長は投げかけ。生徒会室を後にしようとする。

 

「生徒会長さんだけは残ってください」

「……何?」

「お二人には必要ないお話です、一言だけですので」

 

 戸惑う二人に先行っててと言い、言われるままに二人は生徒会室を後にする。

 

 二人だけになると、局長が杏に向かって一言告げる。

 訝しむ杏を余所に局長は退出を促し、杏もそれに従って生徒会室を後にした。

 杏は通路の壁に掛けられたカレンダーを一瞥し、教育局長が残した言葉を反芻する。

 どういう意図なのかはわからないが、今は怪しかろうとも縋るしかない。

 それが今にも切れてしまいそうな蜘蛛の糸であったとしても。

 そう思った時には、杏の足は動き出していた。

 

 

 

 

 

「ほんじゃあここを・・・・・・ニシズミ!おみゃーが答えてみぃ!」

「は、はい」

 

 歴史の授業担当の悪魔博士が使う独特な訛りの強い名古屋弁に気を取られつつ、教科書の空欄の問題を再度確認する。

 

「えーと・・・・・・ホットスポットです」

「うん、その通りだ」

 

 設問が簡単だったことに安堵し、教科書の文字に目を走らせる。

 

「そのホットスポットからポワポワとトランスフォーマー達が生まれてくるんだな。ホットスポットは世界に片手で数える程しかないのは小学生でも習うことだで、よー覚えとけ」

 

 カツカツとチョークで黒板に文字を書き込む悪魔博士。

 書き終わると、そこには年号と名前が書かれていた。

 

「えりゃー高度な文明を俺たち人間が生まれる前から持っとった彼らやけど、その技術レベルに人間は全く追いつとらん。これはかつてのトランスフォーマーの一人、タイレストが定めたタイレスト条約が関わっとる。この内容を簡単でいいから誰かバッチリと紹介してもらおうかの」

 

 ぐるりと教室を見回す悪魔博士。

 

「じゃあここタケベ、答えてみぃ」

「はい」

 

 長い茶髪の生徒―――武部沙織さんは思い出すように目線を上に反らしながら答える。

 

「他種族への技術の公開と提供を禁止する、です」

「ビッタだ。よお答えられたなぁ」

 

 悪魔博士が満足そうに笑うと狙ったかのようなタイミングで昼休み開始のチャイムが鳴る。

 

「今日はここまでにしとく。次はこの条約の補足から始めるから教科書の30ページの資料をよお確認しとくようにの」

 

 授業が終わクラスがざわめき出す中、沙織さんともう一人の長い黒髪と淑やかな雰囲気をまとった女子生徒―――五十鈴華が話かけてくる。

 二人共転校してきたばかりでクラスに馴染めていなかった私に歩み寄ってきてくれた優しい人たちだ。

 

「悪魔博士の授業って楽しいけど、しょっちゅう何言ってるかわからなくなるよね~」

「私も生粋の名古屋の出かと思っていましたが、海外の出身の方らしいですよ」

「それにしては凄い流暢だね・・・・・・」

 

 学食でハヤシライスかエビフライ定食、持ち込みのウイロウばかり食べている姿からコテコテの名古屋人なのかと勝手に思っていた。

 

「今日の学食何にする?私はヘルシーかなぁ」

「沙織さんそればっかりだね・・・・・・」

「私はいつもの和風ですね」

 

 学食へ行こうと教室を出ようとした瞬間、ガラリと扉が開きひゃっと言いながら思わず後ずさる。

 開け放たれた扉の先には、背の小さいツインテールと片眼鏡、茶髪のポニーテールの女子生徒がいた。

 

「あ、どうぞ」

 

 用事のある別クラスの生徒だと思い、道を譲る。

 しかし、彼女達は譲る道を通ることはなく、こちらをじぃっと見てきた。

 

「・・・・・・転校生の西住みほだな」

「え? は、はい」

「みほさん、この方達は生徒会の人たちですよ」

 

 困惑していた私に華さんが助け船を出してくれる。

 納得しながら、何故私の事を威圧的に見てくるのだろうと思っていると、片眼鏡の人が話があると言ってきた。

 チラリと2人の方を見ると、先に席を取って待ってると言ってくれたので言われるままに生徒会の人に廊下の端に連れられていく。

 

 すると、ツインテールの人がにこやかな表情を浮かべながら、ぐいっと肩を寄せて話しかけてきた。

 

「あたし、生徒会長の角谷杏。気軽に杏でいいよ」

 

 あまりにもフランクな様子で接してくる杏に思わずはぁと生返事で返す。

 杏は表情を崩すことなく、言葉を続ける。

 

「でさぁ、今日会いに来た理由なんだけども。必修選択科目、TF(トランスフォーマー)道とってね」

「えっ?」

 

 軽い様子で頼まれた内容とは裏腹に、思わず表情が強張る。

 頭の中で走馬燈のごとく嫌な記憶がプレイバックする。

 

「この学校にはTF道は無いって話じゃあ・・・・・・」

「今年から復活することになった」

 

 突然の要求に、頭の中が混乱する。

 それは自分がTF道を学んでいたという事が知られていたということと、自分のために起きてしまった不名誉な出来事を知られたであろうという心苦しさだった。

 三人の中で一番温和そうなポニーテールの人に助けを求める視線を向けると、申し訳なさそうな微笑みを向けられてしまう。

 

「この学校でTF道の経験があるの、西住さんだけなの・・・・・・」

「そういう訳だから、よろしく」

 

 なんとか拒否の意思を示そうとする前に、杏は意に介せずといった様子でTF道を選択するようにと念押しだけを残して、二人を連れて立ち去っていく。

 

「そ、そんな・・・・・・」

 

 一人残され、呆然とする。

 新しい友人達の中での輝かしい学園生活。

 それに今、崩れ去るには十分な亀裂が入った気がした。

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