ガールズ&トランスフォーマー   作:ヘキサショット

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第二話 消えない傷跡

 土砂降りの雨が身体を強く打ち付けた。

 雨が私の体温を奪い、身体を酷く冷え切らせいていたが、肉体的な冷たさよりも逃れられない悔恨の念が私の心を冷え切らせていた。

 私の周りでは何人もの仲間が泣いていて、私の姉やその他の仲間達は怒りとも悲しみともとれない表情で私を見ていた。

 思わず足が竦み、震え、目の前にあった鉄の塊に手をついた。

 顔を上げ、自分が手をついた鉄の塊――― 横たわっている煤と泥に塗れたトランスフォーマーを見つめた。

 傷だらけの身体に付いた泥がべっとりと手に付き、それ自体が手に吸い付いているかのように離れることができなかった。

 トランスフォーマーの目に光は無く、胸には黒い大きな穴。

 その顔は光を失ったこと以外は見知った姿と変わらず、今にもしゃべり出してきそうだ。

 ぞくぞくとした感覚が背筋に走る。

 光を失った目が私を責める。

 それ以上見ていられずに目線をそらすが、その先には胸にポッカリと空いた大穴が見えた。

 足はまるで地面に縫い付けられたかのように動けず、その黒焦げた大穴に吸い込まれるような感覚に襲われる。

 ……あぁ

 大きな、あなが……

 

 

 

 

 

 頭に激痛が走り、目が覚める。

 目を開けると、天井が広がっていた。

床の冷たさが後頭部を冷やし、寝ぼけた頭でベッドから落ちたのだと理解する。

 パジャマは汗でびっしょりと湿っていて身体は冷え切っていた。酷く気持ちが悪い。

 ピンク色のイルカを模した目覚まし時計のアラームがいつもより喧しく聞こえたが、気分が悪くなかなか止める気になれない。

 だが、私の中の良心が鎌首をもたげ、学校を休む訳にはいかないと責め立てる。

 ズキズキと痛む頭をさすりながら、身体をなんとか起こして目覚ましを止めた。

 隙間から光がのぞかせているカーテンをゆっくり開き、外を見る。

 雲一つ無い青空だった。

 

 

 

 

 

「――― ほんだで、俺たち人間が生まれる前も前、えりゃあ昔から戦争しとったと思えよ。長い間戦争しとったから争う技術に過敏になってよ。そういう危険な物も含めて技術流出に関してピリッピリするようになったんだ」

 

 悪魔博士の言葉を耳が右から左へと受け流してしまう。

 結局のところ、登校したまではよかったのだが、体調はすこぶる悪かった。

 授業には集中出来ず、沙織さんや華さんに話しかけられても全く耳に入らないという始末。

 休んだ方がよかったかもしれないと若干後悔しつつも、ぐらぐらと頭の中で感情がかき混ぜられ酷く気分が悪い。

 

「……」

「それじゃあここの問題を誰かにやってもらうとするかの」

「……」

 

 誰かを指名しようとした悪魔博士の視線がこちらに向けられる。

 すると心配そうな顔をして、私に声をかけてくる。

 

「おいニシズミ、さっきからなんだかポヤポヤしてるが、気分でも悪いのきゃ?」

「……はい」

「ヒッドイ顔だな。あんまりが気分悪いようだったらよ、保健室行ってこい」

「……はい」

 

 身体を引き摺るようにして席を立つ。すれ違いざま、華さんと沙織さんが心配そうにしているのが見えたが、何を言うでもなく通り過ぎ、教室を出る。

 すると、教室の中から元気そうな声が聞こえてくる。

 

「先生! 私もお腹が!」

「私も持病の癪が……」

「……随分元気そうだがよ、おめぇ特別だぞ?」

 

 声の主、沙織さんと華さんが教室から出てきて何も言わずに付き添ってくれる。

 申し訳ない気持ちで一杯になるが、今はその気持ちにちゃんと応えられる気がせず、二人に連れられ保健室に向かう。

 なんとか保健室の先生に病気だと押し通しベッド3つを融通してもらい横になる。

 先生は明らかに疑ってかかっていたが、私の様子を見ると何か察したかのように許可してくれた。

 恐らくそういう事情を抱えた生徒だと思われたのかもしれない。今はどうでもよいことだが。

 少しすると保健室の先生は用事があるといって保健室を出て行った。

 先生が出て行くと、二人が心配そうに声をかけてくる。

「ねぇみほ。生徒会の人になんて言われたの?」

「横になったままでいいです。気分が悪いようでしたら鞄持ってきましょうか?」

「え、あ、その……」

 

 胸が潰れそうな思いにかられながら、黙っているのは二人に不誠実だと思いところどころどもりながら、ぽつりぽつりと昨日あった事を話す。

 今年からTF道が復活するということと、それに自分が参加するように言い含められたことを。

 二人は要領を得ないといった様子になる。

 

「TF道ってあれでしょ? トランスフォーマーに乗ってちゃんばらするっていう」

「古くから続く、乙女の嗜みと言われてきた武芸ですよね?」

「ま、まぁそんな感じかな……?」

 

 沙織さんは訝しむような顔をする。

 

「あれ? 経験があるって言っても普通そんな勧誘されるのかな」

「確かに……でも前の学校で学んでいたのでしたら、心得がある人として皆の手本になると思われたのでは?」

 

 二人の推理を聞きながら、思わず布団の中で縮こまる。罪悪感からだろうか、本当に風邪でもひいているかのような寒気が襲う。

私は彼女達に最も重要な事を話していない。

 私の中の良心の呵責が、二人の信頼が、優しさが辛い。 

 胸が熱くなってきて、何かが溢れかえってしまいそうになる。 

 その何かに押されるように勇気を振り絞って、枯れそうな声をなんとか絞り出す。

 

「実は……私の家は代々トランスフォーマー乗りの家系で……でも、辛い事があって……トランスフォーマーを避けるために遠くの学校に来たの」

「え? トランスフォーマー乗りの?」

「最近では人気が落ち着いてきたとはいえ、TF道の名門は殆どが黎明期の頃から続く流派が多いと聞きますが……」

 

 布団の中で頷く。

 すると、沙織さんが苦々しそうな表情をする。

 

「古くからあるとか、確かに息苦しそうだもんね~すっごい厳しそう」

「家のしきたりというものは、必ずしも良いものばかりとは限りませんからね……」

 

 家が悪いのではない。

 自分で誤解するような言い方をしておきながら、二人の言葉を内心では否定する。

 酷い息苦しさから逃れるように、話を続ける。

 

「それで、もうトランスフォーマーに乗ることもないと思って。 ないと思ったからこの学校に転校してきた訳で……」

「別にさ、やらなくてもいいじゃん」

 

 言葉を遮るように沙織さんが明るく言う。

 にべもない言い分に動揺する私に、明るく笑いながら沙織さんは続ける。

 

「ホントに嫌ならさ、無理して言う通りにすることないんじゃない? それに今時流行らないって、女の子にトランスフォーマーなんて」

「生徒会の方々に断りに行くときは、私も一緒に行きますよ」

 

 二人の優しさで、思わず胸が一杯になる。

 だが、同時に酷く後悔している。

 本当に責められるべきなのは私だということを、伝えていないのだから。

 しかし、今は今なのではないだろうか。

 甘い、心地よいぬるまのような考えだと思う。

 だが、ここはもう実家でもない、かつて通ってた学校でもない、新しい環境なのだ。

 何を迷う必要があるのか。

 一瞬、言葉が詰まりかけながら、ありのままの言葉を伝える。

 

「……ありがとう」

 

 ポツリと口をついて出た感謝の言葉に、二人は笑って返してくれる。

 これでいいのだろう。

 新しく作っていくのだ。

 あの過去を乗り越えられる、楽しい学生生活を……

 

 

 

 『全校生徒に告ぐ、直ちに体育館へ集合せよ。繰り返す、直ちに体育館へ集合せよ』

 

 しかし、私が思っている以上に現実は優しくはないようだ。

 

 

 

 

 

 映写機の映像がスクリーンいっぱいに映し出される。

 広報用に作られたTF道のPR映像が流され、それに合わせて、生徒会の人が耳当たりのよい言葉で解説をする。

 正直な話、実際に体験したことがある人なら共感できるだろうが、大抵の場合このような広報用の資料は見栄えのよい綺麗な部分しか写さない。

 しかし、耳に入る他の生徒の話し声は、案の定映像の制作者達の企み通りに進んでいると言ってよいだろう。

 

「わぁ……魔法みたい」

「男の人って格好いいのが好きっていうよね!」

「ふぉぉおお! ランボルです!」

 

 映像では真っ赤なスポーツカー、ランボルギーニ カウンタックの……確かLP500Sに変形するトランスフォーマー、ランボルがロボットモードからオルト(くるま)モードに変形する場面が映し出されていた。

 それに乗り込む広報用に雇われたであろう女性の姿は、まるで映画のワンシーンかのようにも見える。

 それは女子生徒の心を掴むのには十分だ。

 実際、沙織さんは映像を見ながら自分の姿と重ねているのだろうか、やだも~といいながら頬を押さえていた。

 ……やっぱり夢の学校生活は遠い。

 

 

 

 あの後、体育館に集められた私たちを待っていたのは生徒会主催の必修選択科目の説明会だった。

 内容は……露骨ともいえるTF道のごり押しだった。

 確かに今年から復活する科目とはいえ、単位の優遇や特典、遅刻の見逃しなど明らかな贔屓が入っているのは火を見るよりも明らかだろう。

 だが、それ以上に広報用の映像や特典は魅力的に映ったのだろう。

 TF道を選択しようと意気込む生徒の姿がチラホラと目に映った。

 私の前にもその生徒が二人。

 

「最近の男の子は頼れる子が好きなんだって! あんなカッコイイとこ見せられたらイチコロだよ!」

「素敵です……」

 

 思わず頭を抱えそうになる。

 だが、そんな二人の姿には見覚えがあった。

 内容は全く異なるが、TF道に憧れる少女の姿。

 不思議と物悲しさを感じたが、罪悪感がそれを塗りつぶした。

 沙織さんの言葉に苦笑しながら映像を見る。

 自分も少し前まではあのように見えていたのだろうかと、思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 結局、私はTF道を履修しないことにした。

 二人を心配させてしまったことに罪悪感を感じずにはいられなかったが、二人は気にすることがないと励まされてしまった。

 だが、それで肩の荷が下りたのは確かだった。

 昨晩はよく眠れたし、気分が悪くなることも無かった。

 もう、深く考えなくてもいいのだ。

 もう、TF道はしないのだから。

 

「ねぇ、選択科目何にした?」

「えへへ……私TF道にしちゃった」

「えー! 私もー」

 

 昼休みの食堂で二人と食事をしていると、すぐ近くの席から、下級生と思わしい生徒の楽しそうな声が聞こえてくる。

 思わず同じテーブルに座っていた沙織さんや華さんも暗い表情になるが、沙織さんが空気を変えようと下校時に名物でも食べに行こうと切り出した。

 私と華さんも話を合わせてようとするが、それも長くは続かなかった。

 

『普通一科、2-A西住みほ。普通一科、2-A西住みほ。至急、生徒会室へ来ること、以上』

 

 呼び出しの館内放送が流れ、思わず顔を見合わせる。

 

「ど、どうしよう」

「私たちも一緒に行くから!」

「落ち着いてくださいね」

 

 二人が落ち着かせるように私の手に手を添えながら励ましてくれる。

 今なら、二人と一緒なら頑張れる。

 二人に手を引かれながら生徒会室へ赴くと、入った途端に片眼鏡の人に鋭い目つきで睨み付けられる。

 あまりの威圧感に思わず後ずさりかけるが、二人が居るおかげで不思議と落ち着いている。

 片眼鏡の人が一枚の紙をつき出す。それは、私が提出した選択科目の希望用紙だった。

 

「これはどういうことだ?」

「なーんで選択しないかなぁ」

「我が校、他にトランスフォーマーの搭乗経験者は皆無です」

 

 ポニーテールの人が俯き、悲しそうな顔をする。

 

「終わりです……我が校は終わりです……」

「勝手なこと言わないでよ!」

「やりたくないと言ってるのに無理にやらせる気なのですか!」

 

 二人が私のために生徒会に対して反論をぶつける。

 二人の様子を見ながら、私のせいでこのような自体になってしまったことを酷く後悔する。

 すると、生徒会長が頬杖をつきながら諭すような目でこちらを見る。

 

「んなこと言ってるとさ。この学校にいられなくしちゃうよ? あんた達」

 

 その発言に、思わず背筋が凍った。

 思いも寄らない発言に二人も言葉を詰まらせる。

 

「会長は本気だ」

 

 片眼鏡の人が念押しするように付け加える。

 一介の生徒会にそれほどの力があるのかという疑問が浮かび上がったが、愚問であることに気付く。

 ここは学園艦なのだ。

 学生達自身の自主独立を標榜するこの体制は、いわば擬似的な隔離された小国家。

 学園艦の運営の多くは生徒達自身の手で行われ、中枢である生徒会は強い権限を有していることが多い。依然通っていた学校でもそれは同様だった。

 しかも相手は選任されて職務を任された生徒会長だ。信頼も厚いことだろう。

 あながち、言っていることは間違いないと言える。

 

「職権乱用です!」

「横暴だよ横暴!」

 

 非難の言葉を浴びせる二人を、ポニーテールの人がたしなめる。

 

「TF道をやってくれるだけでいいの、それだけで丸く収まるから」

 

 思わず、今まで握られていた二人の手をぎゅっと握る。

 二人も内心では怖いのだろうことが、手の汗の様子から察せられる。

 自分の不甲斐なさに呆れ果てるしかなかった。

 このままだと、恐らく本当に生徒会長は何かしらのアクションをしかけてくるだろう。

 今までの権力と地位を思うが儘に振るう様子からして、そうとしか思えない。

 私の為にここまでしてくれている二人に、これ以上の負担を強いるのはもう耐えられなかった。

 二人の手を再び握り直して。

 

「私、やります」

「みほ……」

「みほさん……」

 

 生徒会長が、満足そうな顔をして私の顔を見る。

 他の生徒会の人も、ホッと肩を撫で下ろしている。

 沙織さんと華さんは納得いかないといった様子ではあったが、もうこれしかない。

 ああ……

 やはり、私は逃れられないのだろう。

 トランスフォーマーから。




解説! TF図鑑

【ランボル】 出典・戦え!超ロボット生命体トランスフォーマー
 真っ赤なボディとスポーツカータイプのオルトモードが印象的なトランスフォーマー。
 設定上では初代サイバトロンメンバーの中で数少ない飛行能力持ちとなっており、ロケットブースターを背負っている。(これは取り外し可能なようで劇中コンボイが使用した)
 豊富な装備を持っており、手先がハンマーになったり掘削機になったりする。
 サンストリーカーという双子の兄弟がいる。
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