「皆の協力のおかげで全員分のトランスフォーマーを見繕うことができた。 改めて感謝する」
「昨日は洗車で忙しかったし、今日は教官もいらっしゃるので皆さん張り切っていきましょう!」
『おー!』
とうとう訓練教官を招いて訓練をする日がやってきた。
ようやくトランスフォーマーを動かすことができると多くの生徒が浮き足立つ中、一年生が手を上げて質問する。
「あのー、すいません。 今日の授業なんですけど、私達はどのトランスフォーマーに乗ればいいんですか?」
「あー、そういえば決めてなかったね、ごめんごめん」
今思い出したといった様子の会長がグルリと回りを見回す。
すると、横から片眼鏡の人が少し思考し、助言する。
「やはり見つけたグループが見つけた物に乗るのでいいのではないでしょうか」
「自分たちで見つけた愛着もあるでしょうし、いいと思います」
ポニーテールの人の助言もあり、会長が大きく頷く。
「じゃ、それでいいか。 それじゃあ車両分けを発表するよ~」
片眼鏡の人が名簿に書き込みながら各自の車両を振り分け始めた。
「Aチーム『ホットロディマス』、Bチーム『ホイスト』、Cチーム『チャー』、Dチーム『マイスター』、Eチーム『グリムロック』。以上が搭乗するトランスフォーマーとなる」
言い渡された組み分けに、各々が反応を示す。
ついでに沙織さんは先程から教官の事で頭がいっぱいのようだ。
「デッカい腕が付いてますね」
「いいアタック打てそうです……」
「何というか、貧弱そうだな」
「あちこち継ぎ接ぎだらけぜよ」
「新撰組カラー……」
「いや諸君。調べたところ、なんとトランスフォーマーの中でも幾千の戦いを渡り歩いた歴戦の戦士らしいぞ!」
「「「すげぇ!」」」
「うーん、五千万……」
「まだ言ってるの?」
「値段はともかく、すっごい早そう」
「ホットロディマス……ってどんなトランスフォーマーなの?」
「私も気になります」
沙織さんと華さんが優花里さんに向かって尋ねる。
すると優花里さんはキラキラと目を輝かせてホットロディマスを見ながら水を得た魚といった風に解説を始めた。
「ホットロディマスはかつて若き騎士と呼ばれた程の勇敢なトランスフォーマーで、一時期はサイバトロンの総司令官も務めたくらい優秀なんですよ! オルトモードはエンジンが剥き出しのホッドロッドカータイプで凄まじいスピードを誇るらしいです! あ、ホットロッドっていうのはアメリカ発祥のエンジンを改造した車のこと指すんです」
「へぇ~スッゴい強いんだ」
「折り紙付きと言ってもいいくらいですよ!」
「エンジンが猛々しくていいと思います」
「でもスピードが出る分、操縦には気を付けないと……?」
各々が自分たちのトランスフォーマーを品評していると、何処からか音が聞こえてくるような気がした。しかし、すぐにそれが私の聞き違いではないと理解する。
他の皆も気がついたようで、周囲を見回している。
「そろそろ教官がお見えになる、皆粗相の無いように」
平穏を装っているが、片眼鏡の人も不安な空気を感じずにいられないのか、頬にタラリと汗を流しながら皆に指示した。
「…………」
「どったの紗希?」
一年生の子がボンヤリと空を見上げていると思えば、おもむろに空を指差し自然と皆の視線が空へと向かう。
すると、その方向に点があることに気がつく。
「あれ何?」
「鳥か?」
「飛行機かも?」
「…………船」
轟音の原因が近づき、次第にその姿がハッキリ見えてくる。
それは紛れもなく、宇宙船と言った類いの物だった。
近づく影響で、音は次第に盛大なものになり、倉庫の重い扉やトランスフォーマーのガラスがガタガタと振動する。
「うるさーい!」
「騒音被害で訴えるぜよ!」
近づくにつれ轟音が酷くなってくるが、ある程度近づくとピタリと制止して騒音もピタリと止んだ。恐らくエンジンによる飛行から反重力装置による浮遊に切り替えたのだろう。
皆突然の事に唖然としているが、秋山さんはキラキラとした目で宇宙船を見て、
「あれは外宇宙探索訓練用宇宙船『ガンホー』じゃないですか! まさか本物を見られるだなんて!」
夢中になって宇宙船の解説をしていた。
クリーム色をした宇宙船が制止したのを見ていると、外壁の所から何かが出てきてこちらに向かってきた。
次第に近づいてくると、その全貌が明らかになってくる。
それは、茶色い姿をした四足歩行の動物だった。頭の先には長い鼻、その横には左右一つずつ大きな牙が生えていた。
「……空飛ぶ、象?」
「いや、どうやら毛が生えているようだ。つまりアレはマンモスだな」
布のような物を羽織った人が事も無げに言う。
「ま、マンモス?!」
「マンモスのトランスフォーマー? ……いやまさかそんなわけでもだとしたらそれってつまり」
「ね、ねぇアレもトランスフォーマーなんだよね?」
沙織さんが優花里さんに尋ねるが、どうやら混乱してしまっている。
かくいう私も、優花里さん程ではないが非常に動揺していた。
少なくとも、私が知る中でマンモスのオルトモードを持つトランスフォーマーは一人しかいないことに加えて、それはとんでもない大物トランスフォーマーだったからだ。
「こっちに来るよ!」
空飛ぶマンモスは校庭に近づくと飛行速度を落とし、ゆっくりと校庭の土を踏みしめ着地する。
怒濤の展開に理解が追いついていない皆を、マンモスはじっと見つめる。
『こんにちは!』
突然女性の声が響き渡る。
皆は我に返り声の出所がマンモスから聞こえてくる事に気がついた。
「あのマンモス雌なんだ……」
「そういう問題では無いと思いますが……」
漫才をする友人はともかく、マンモスは呆れたような雰囲気を醸し出す。
『あ、ごめんなさい。 今出るから』
その声と同時にマンモスの横腹の一部がバカリと開き、中から緑色の軍服のような格好をした黒髪の女性が現れる。
姿を確認すると、片眼鏡の人が佇まいを直し、
「今日の特別講師をしてくださるトランスフォーマー教導隊の蝶野亜美一尉だ」
今しがたやってきた女性の紹介をした。
軍服の女性――― 蝶野さんは颯爽とマンモスの腹部から飛び降り、笑顔で歩み寄ってくる。
「ご紹介に預かりました、蝶野亜美と言います! 今日は初めてトランスフォーマーに乗る人も多いと聞いていますが、皆さん頑張りましょうね!」
ハキハキと喋る蝶野さん。
それとは対照的に沙織さんは肩を落として落胆の色を示している。
「騙された……」
「ま、まぁ縁がなかったんですよ」
華さんが沙織さんを慰めている一方、教官がマンモスへと向き直る。
「今日の指導は特別に凄い人も参加していただく事になっています!」
蝶野さんの説明と共に、マンモスは呆れた様子を見せる。
「蝶野教官、そこまで誇張する事はないぞ。 今の私は只の一訓練教官なんだ。 君の同僚にすぎない」
マンモスが気の知れた様子で話し出す。
その光景に私と優花里さんを除いた皆は酷く驚いていた。
「しゃ、喋った!」
「すごーい!」
「動物タイプでも普通に喋れるんだな……」
皆の様子を見ていると、ふと昔の事が思い出される。
幼い時に、初めてビーストタイプのトランスフォーマー会ったときは怖くて泣いていた。
母には逃げるなと叱られ、恐る恐る近づいては逃げ回り、その様子を見ていた姉に笑われたりした。
子供だった私の背丈よりも遙かに大な姿や大きな牙などが怖くて、そのまま父に泣きついたりしたのはハッキリ覚えている。
怖がる私をあやしながら父がトランスフォーマーに触ったり、お母さんや姉が触っている様子を見て、おっかなびっくり触った初めての毛皮はとても暖かくてゴワゴワしていた。
「それでは教官! お願いします!」
「君も教官なのだが……まあいい。 ビッグコンボイ、変身!」
かけ声と共にマンモスの姿がみるみる変化していく。
毛皮の外殻が開き、中から機械的な姿が現れる。
全身白を基調として所々に赤の塗装が施され、肩周りにはマンモスの牙だった物が雄々しく掲げられている。
頭部は多くの偉大な戦士に見られることの多い青い頭部にフェイスマスクを付けたコンボイフェイス。
背中には巨大な砲『ビッグキャノン』が備え付けられており、有事にはあの武器でとてつもない威力の砲撃を行うのだ。あの砲撃を受けたら並みのトランスフォーマーでは一たまりもないだろう。
「それでは紹介します。 今回の新人訓練に特別に協力してくださることになった、『ビッグコンボイ』特別教官です!」
「新人諸君。 今日はよろしく」
本格的なトランスフォーマーとの対面に、皆戸惑い、また多くの生徒が思った。
(このビッグコンボイってそんな凄い人なのだろうか)と。
「び、ビッグコンボイ……伝説の……ワンマンアーミー……ぶはっ!」
そう虚ろな目で呟くと、優花里さんが鼻から鮮血を吹き出した。
優花里さんの奇行に皆が慌てる中、蝶野さんがこちらに歩み寄ってくる。
そして私の正面で止まるやいなや、顔を見てなにやら得心したようだ。
「やっぱり。西住師範のお嬢さんじゃありませんか」
突然の指摘に、思わず顔が引きつるのを自覚する。
だが彼女は私の様子に気がつかないようで、話を続ける。
「西住師範には私もお世話になっているんです。 お姉さんの方は」
「蝶野……教官。 私用は後でゆっくりやるといい」
「ハッ! 申し訳ありません!」
ビッグコンボイ司令官の一言に、蝶野さんはキチリと姿勢を正す。
思わぬ助けに内心感謝する。
「では、時間も限られていますし。訓練の前に質問タイムにしましょう!」
「教官! 教官はやっぱりモテるんですか!」
沙織さんの質問に蝶野さんは指を唇に添える様にして少し考える。
「うーん、モテる……モテると言うより、狙った的を外した事はないわ! 撃破率は……」
蝶野さんはチラリとビッグコンボイ司令官の方へと視線を向けた後、コホンと咳払いをする。
「撃破率は99%よ!」
「99……! やっぱりTF道って凄い!」
沙織さんや一年の生徒がざわつく。
恐らく、そういう意味ではないのだろうと思うが言わない方が幸せだろう。
「はいっ! 今日は一体何の訓練をするんですか!」
鼻にティッシュを詰めた優花里さんが元気よく質問する。
すると、今度はビッグコンボイ司令官が周囲をぐるりと見回し、
「とにかく実戦に勝る物はない。 今日は実戦形式での訓練を行う」
「い、いきなり?」
「トランスフォーマーの操縦の仕方なんてわからないです……」
「安心しろ。 武器は競技用に開発された殺傷力の低い物に加えてコックピット周辺の素材は私のビッグキャノンを受けても重大な損傷を受けない物で出来ているからな」
「そういう心配じゃなくて……」
「大丈夫大丈夫! パートナーのトランスフォーマーもアドバイスしてくれるだろうし、あんまり気負う必要ないから!」
蝶野さんの言葉に皆の顔から若干不安そうな雰囲気が払拭される。
「それじゃあ皆! 今から地図を配布しますからそれぞれの地図に書かれた開始地点までトランスフォーマーを動かしてみましょう!」
「トランスフォーマーを初めて起動するんだ。 パートナーとのコミュニケーションも大切だぞ」
「それじゃあ皆! 各自行動開始!」
「まず皆さん、トランスフォーマーの操縦に必要な人員について簡単に説明します!」
トランスフォーマーの前にそろって各々どうすればいいのか考えていたり、円陣を組んでいたりしている最中、蝶野さんが大きな声で解説を始める。
大まかにまとめると以下のようになる。
1.登録したトランスフォーマーには最低でも操縦と通信、分隊長の三人は搭乗しなければならない。
2.それ以上の役割には攻撃手、管理士、索敵士がいる。
3.基本どのトランスフォーマーにも乗員制限は存在しない。
個人的に少々付け加えると、1に関しては若干の例外が存在はするが、今の私達にはあまり関係のない話だ。
「それでは皆さん、試しに各々のトランスフォーマ-を起動してみましょう!」
「どうすればいいのか全然わかんないよ~」
「取りあえず、私達は分隊長と操縦、通信士と攻撃手に分かれましょう」
「コマンダーは西住殿がなさるんですよね?」
笑顔でそう問いかけてくる優花里さんに思わず言い淀む。
正直、あの時のことがまだ頭から離れず分隊長の役割を担うのは後ろめたかった。
優花里さんには悪いが、今回は遠慮させてもらうことにする。
「え、いや、その……私には無理かなって」
「困りましたね……」
「もうこうなったら、クジ引きで決めよう!」
何処からか沙織さんがクジを取り出す。
このまま続けていても堂々巡りになるような気がするので、ありがたくその案に乗せさせてもらうことにする。
クジ引きの結果、沙織さんが分隊長。攻撃手・優花里さん、操縦士・華さん、私が通信手という割り振りになった。
定員の割り振りも終わり、いざ乗車となると沙織さんが困った様子で車内を見渡した。
「ていうか、どう見てもこの車二人乗りだよ?」
「確かに、どう頑張っても三人しか乗れません」
「それなら大丈夫です。 ちょっと見てて」
混乱する二人とキラキラした目で見ている一人に見守られながらホットロディマスに乗り込む。
車内は昨日綺麗に掃除したため、埃っぽくはなく若干の芳香剤の匂いがした。
座席に座ると久しぶりの感覚に若干の高揚を覚えながら、記憶にある言葉がそのまま口を突いて出る。
「ゲットオン、オペレーター!」
私の言葉を認証し、通常の車であればカーラジオが備え付けられている所にある質量変位装置が作動する。
『認証・オペレーターゲットオン』
質量変位装置からスキャング用の光が放たれ、私の身体を上から下へとスキャンする。
すると、私の周辺の景色が広がっていった。
いや、正確に言えば私が小さくなっているのだ。
「え、え?!」
「これは、凄いですね……」
「いつ見ても凄い光景です!」
そのまま私の身体は装置の光に引き寄せられ、そのまま装置の中に吸い込まれた。
吸い込まれた先には四方を鉄の壁に囲まれた部屋があった。トランスフォーマー内部に取り付けられている副操縦席だ。
壁にはいくつもの機械が備え付けられており、部屋の中央には幾つかの机と椅子がある。
いずれ机にも多くのコードやパネルにキーボード、スクリーンなどがありそれぞれに専用のアタッチメントも取り付けてあった。
直ぐに机の端にオペレーター小さく彫られた座席に座る。すると、自動で安全のシートベルトが腰回りに装着された。
キーボードをタイプしながらヘッドセット一式を付け、質量変位装置の近くに付いている外部スピーカーと集音マイクを起動させる。
『みほが吸い込まれちゃった!』
『まるで映画の世界です……』
外の音がヘッドホン越しに聞こえてきたので、混乱している二人に問題ないと告げる。二人は安堵したという雰囲気を語気に滲ませる、
『これって大丈夫なの? 戻れなくなったりとか……』
「大丈夫だよ。 すごい昔からある技術で安全性は実証されてるから」
『ともかく、早く乗り込みましょう!』
「攻撃手はゲットオン・アタッカーって言えば乗り込めます。あと、操縦士と分隊長はそれぞれ運手席と助手席に座ってください」
間もなくして優花里さんが副操縦席にテレポートされてきた。来るやいなや興奮冷めやらぬといった様子だったが、何とかなだめて攻撃手用の椅子に座らせ攻撃手用の専用ヘッドセットを被らせる。
攻撃用ヘッドセットは通信士用の物とは異なり専用の視点追従型の立体モニターが取り付けてあり、それで外部の様子がトランスフォーマーの視界分だけ確認することができるのだ。
「何も見えません」
「まだシステムが再起動してませんからね」
優花里さんに攻撃手が使うアタッチメントの使い方を説明していると、
『エンジンをかけますがよろしいでしょうか?』
という華さんの許可を求める声が聞こえてきたので、少し待ってもらうように指示して沙織さんに指示を出す。
沙織さんは分かったと元気よく返事をし、一呼吸置いて、
『ええと、じゃあ行くよ! ホットロディマス、起動!』
沙織さんの起動指示を認証し、各所のスリープ状態にあったシステムが再起動を始め、私たちのいる副操縦席にも変化が現れた。
「おぉ! 外が見えます!」
「そろそろかな……ホットロディマスさん。 聞こえますか?」
私が問いかけると、数瞬だけ間を置いてヘッドホン越しに返答が返ってきた。
『ここは……どこだ? 君たちはいったい誰なんだ?』
長い間スリープモードでいたせいか少々混乱しているホッドロディマスに経緯を手短に説明した。
すると、先程までの様子とは打って変わって明るい様子になる。
『いやぁいいじゃあないの! 久しぶりにぶっ飛ばせるんだ、こんなに嬉しいことないね! これからよろしく頼む! ……なんてったっけ?』
そう言って困るホットロディマスに自己紹介を始める。
「秋山優花里です!」
『五十鈴華と申します』
『武部沙織だよ!』
「西住みほです。 こちらこそよろしくお願いします、ホットロディマス」
私たちの紹介を受けて、ホットロディマスは軽い調子で答えた。
『改めて紹介するよ。 俺はホットロディマス、皆これからよろしくな!』
学校の古い倉庫の中で、私達のトランスフォーマーチームが誕生した。
それが、後に大きな奔流の中に投じられる一石となり、大きな波紋を生み出すことになるとは、誰にも想像もできなかった。
解説! TF用語
【質量変位について】 出典・TFアメコミ IDWパブリッシング版
TFアメコミであるTransformersやMore than meets the eyeで登場した設定。簡単に言えばスモールライトのような物。
本編では自称天才科学者のブレインストームがこのシステムを銃に搭載してミクロの決死隊のようなことをした。
この理論は大きさの概念を取り払う変形にも適用されており、メガトロンが過去に銃という小型の物に変形していた事をスパークが記憶していたことで、メガトロンのロボットモード自体も小型になるなどの応用を見せていた。