大洗女子指定のTF道訓練施設……といっても、それは名前ほどきちんと整備されているような場所ではない。
学園艦の寄港先である土地の周囲で、人気がない山道をそのまま訓練所としての貸し出しをさせてもらえるように要請し、許可を貰って使わせてもらっているのだ。
今回の訓練場はごく普通の山の中といっても過言ではない程のありふれた山である。
人の手が加えられている様子といえば、定期的に手が入れられている形跡のある雑木林や渓谷にかけられた吊り橋、ハイキング用に整備された小道などがあるだけで、そのほかには自然と動物が繁栄している。
人気が無いだけで町からもそこまで距離が離れているというわけではないので、ちょっと自然を味わいたいという時などには最適だろう。
耳を澄ませば鳥のさえずりが聞こえ、土のにおいや草木の匂いが鼻孔をくすぐる。
いつもならそのような物静かな山の中だが、
「とにかく逃げて~っ!」
『おいおいもっと早くハンドル切らないと木に突っ込むぞ!』
「そ、そんなこと言われましても!」
『ひえぇぇぇっ! 視点が! 怖すぎますって!』
『華さん、ギアを2速に落として、とにかく道なりに逃げてください!』
『落ち着いてちゃんと狙って!』
『逃げられちゃいますよ!』
「いやぁ、足が遅くてゴメンよ!」
『よぉしミサイルアタックだ!』
『よ、酔いそうです……』
『このまま追い立てるぞ!』
『疾風怒濤だ!』
『逃がさんぜよ!』
『勝ち星はいただく!』
「いやぁ、久しぶりに血が騒ぐわい!」
今日は一段と騒がしいようだ。
『いくら指定されてなかったからって協定結ぶなんてズルい~!』
『沙織さん、少し静かに……』
『いやぁスピードはあんまり出てないがスリル満点だなこりゃあ!』
訓練開始して間もなくして、私達のグループはいきなり窮地に立たされていた。
どうやらBチームとCチームが密約を交わしていたようで、2対1の布陣に持ち込まれた挙句にレーザー攻撃の雨あられを受け絶賛大ピンチという訳だ。
『くぅっ、お、重いです!』
『もっとカーブの時にはスピードを殺すんだ。なぁに事故っても怪我するだけさ!』
『十分問題だよ!』
加えてオルトモードの運転席に座っている華さんも突然のことで冷静さを欠いており、沙織さんはもはやパニック状態だった。
優花里さんは攻撃手用のバイザーを外してふぅと息をついた。
「うっぷ……これすごい酔いますね」
「すごいスピードで上下に揺れながら左右にも振り回されるからね……華さん、その先のY路を右折してください!」
『わかりました!』
地図で確認したところ、この先は高低差が少ないことに加えて少し広くなっており、まっすぐ行けば渓谷に続いているようだ。
少なくともスピードを出すことができればBチームのホイストであれば追いつけないのはハッキリしている。
チャーなら追いつけるスペックはあるが、何分あっちも初心者なので、おそらく加速が凄まじいこちらに分がある。とにかく今は2対1という不利な状況から脱出するのが先決だ。
『広いところに出ました!』
「了解です、そのまままっすぐ広場を抜けたら道なりに」
「華さんストップです! 人がいますよっ?!」
再びバイザーをかけていた優花里さんが叫ぶ。
『え、はいっ!』
『ついでに思いっきりハンドルを右に切れ! このままだと林に突っ込むからな!』
次の瞬間、思い切り前のめりに圧力がかかり安全用のベルトが強く食い込む。
そのまま遠心力で、体が左に引っ張られるような感覚に襲われ思わず目を回す。
肺が一瞬とはいえ思い切り圧迫されたため、少し咳がでる。
「ケホッ……みなさん大丈夫ですか……?」
『大丈夫です……』
『し、死ぬかと思ったよ……』
「め、目が回りますよ~」
皆の安全を確認し、安堵しつつ、ホットロディマスに外にいた人が無事かどうか尋ねる。
『そこにいた女の子ならこっちが近づいてきた時には林の中に飛び込んでたぞ。 いや、今出てきたな』
『……って麻子じゃん! 何やってるのこんなところで』
すると、ヘッドホン越しに沙織さんが親しげに話しているのが聞こえてきた。
どうやら彼女―――冷泉麻子さんと沙織さんは幼馴染の関係のようで、麻子さんは授業をサボタージュして山の中で昼寝をしていたらしい。
『みほ、このままだと危ないし乗せてもいいかな?』
「大丈夫です、副操縦席はある程度人数が入れるようになってますから」
少しすると、空いている座席の近くに麻子さんが転送されてくる。そのまま座席に腰掛けたかと思うとあっという間に眠りだした。
突飛もない行動に、優花里さんが苦笑する。
「こ、個性的な方ですね……」
「あ、あははは……ってあれ?」
どこかで見たことがあると思い、少し思索する。確か今日の登校中に辛そうだったのを学校まで連れて行った人だったはず。
沙織さんの知り合いらしく、なんだか少し変わっていると思う。
『……Buuuuuuu』
「あっ、華さん! 追いつかれそうです!」
空いていた索敵士用のインカムを耳に押し当てていたため、かすかに聞こえて来たエンジン音が耳に入った。
指示の返答としてホットロディマスのエンジンが激しく唸り、一気に加速する。
少しすると、予定通り橋に着いたようで一気に減速する。
『お、落ちたりしないよね?』
『おいおい、俺は戦車じゃないんだからそこまで重くはないぞ?』
笑いながらに言うロディマス。
一応華さんに安全に通れそうか聞いてみると、古くはあるが意外としっかりした作りではありそうとのことらしい。
「一応安全を期してゆっくり行った方がいいんじゃないですか?」
『う~ん……ゆっくり行こう! 安全第一!』
『分かりました』
体にゆっくりと車体が動くのと、吊り橋の上のためか左右に揺れる感覚が伝わってくる。
バイザーを付けている優花里さんや、主運転席の沙織さんが怯えたような声を出すので、なぜだか嫌な予感がしてならない。
そして、大抵の場合こういった嫌な予感は的中するモノだと改めて理解する事になる。
『ん……? あっ、前に恐竜の頭見える!』
『グリムロックの奴だ!』
沙織さんから今考えられる中で恐らく最悪の事態のうちの1つの連絡が届く。
華さんが車体を逃がそうとバックさせるが、ここでは気休めにしかならないのは明白である。
それは、私達がここに来た理由があったからだ。
「……あれ? マズくありませんか?」
『バックミラーにB、Cチーム確認できます……』
橋という出口と入口が限定された場所で挟み撃ちに遭う。
典型的だが、最も遭遇したくない事態に陥ってしまったようだ。
つぅと頬を汗が流れる。
「ど、どうしましょう?」
「とにかく逃げられる状況じゃなくなりました、ロボットモードで戦うしかありません。 沙織さん、華さん、ホットロディマスをトランスフォームさせてください!」
『ど、どうすればいいの?!』
『華! ギアを一番下まで下げてハンドル横の赤いスイッチを押すんだ!』
『これですか……?』
『ホットロディマス、トランスフォーム!』
華さんがスイッチを押すと、ホットロディマスの外装に変化が現れる。
トランスフォームが始まったのだ。
車体の各所が滑るように動き、その形を変える。
『え、私達どうなるの?』
「ロボットモード中は副操縦席に移動しますから安心してくだい。 優花里さん、準備はいいですか?」
「えぇ! 緊張はしてますが問題ありませんよ!」
攻撃手用の小型の銃を模した武器アタッチメントを片手に持ちながら興奮した様子の優花里さんは銃を構えて攻撃準備に入る。
少しすると、沙織さんと華さんが副操縦席に転送されてきた。
相当焦ったようで二人とも酷く汗をかいている。
「た、助かった……」
「心臓に悪いです……」
『よおし、変形完了だ! しっかり頼むぞニュービー諸君!』
「華さん、バイザーを付けて操縦を!」
華さんがいそいそとバイザーを付けている間、優花里さんが武器アタッチメントを構え狙いを定める。
本格的な戦いの始まりだ。
「おれグリムロック、ロディマスたおす!」
「お前の射撃の腕じゃあせいぜい脅しにしかならないぞ、グリムロック!」
ビーストモードからロボットモードにトランスフォームしたグリムロックが銃を向けて意気込んでいる。
とりあえず軽口を叩いたものの、状況は悪いとしか言い様がなかった。
背後から排気音と足音が聞こえ、とっさに後ろを振り向く。
『グリムロックはよろしいのですか?』
「あいつの酷い射撃の腕じゃ止まった的も掠められないさ。 そんなことより、本命のお出ましだぞ」
背後から近づいてきていたBチームとCチーム……チャーとホイストが橋の向こう側に到着したのだ。
ホイストはロボットモードに変形しながら、こちらに右手のミサイルの銃口を構え、チャーも銃を構えながら意地の悪い顔で笑っていた。
「二人とも、初心者相手に随分と大人げないんじゃあないか?」
「馬鹿抜かせ、初心者なりに手を尽くそうとした新人達を褒めるところじゃぞ」
「まぁこうもしないと君たち相手に僕は勝てないからね。 悪く思わないでくれよ!」
二人の武器からレーザーとミサイルが放たれる。
上体を下げて被弾に備えるが、相手の攻撃の腕もまだまだのようでかすめる事も無くあらぬ方向に弾が飛んでいく。
これ幸いと、こちらも銃口を構えて狙いを付ける。
相変らず一定以上は体の主導権を奪われる感覚はなれないが、銃を構えるのに若干の懐かしさを思い出していた。
「今度はこちらからいかせてもらうぞ!」
銃口が右往左往しながらも、なんとか引き金を引く。
何発か撃ち続けると、数発が相手の体に命中し、体制を崩す。
『いやっほぉぉぉおおおおお! さいっこうだぜぇ!』
優花里はやたらとハイになっているが、トリガーハッピーのケでもあるのだろうか。
「ぐぅっ、相手の方が狙いは正確じゃなぁ。 じゃがこちらも負けはせんぞ!」
「慌てることはないよ、ゆっくりでもいいから確実に狙っていこう」
最初はこちらが優勢だったが、それも次第に傾き始める。
相手も慣れてきたことに加えて、人数の差がそれを助長していた。グリムロックは背後で銃を撃っていたが、当たる心配はないので意識せずとも大丈夫だろう。
すると、チャーのレーザーが吊り橋を支えていたワイヤーを掠めた。
競技用の低出力レーザーとはいえ、その熱量は鋼鉄製でなかったワイヤーを焼くに十分以上の威力を持っていた。
ブツンと大きな音を立ててワイヤーがちぎれ飛び、支えの一つを失った橋がバランスを失う。
途端に体制を崩してしまい、橋の上に転んでしまった。
「うおっ! 早く体勢を……」
『うぅっ、どうすれば』
体勢を立て直そうとしたが、体がそれに追いつかなかった。
操縦手の華が突然バランスの悪い足場での操縦にさらされ四苦八苦してしまっているのだ。
「このままじゃ……ええい、届けっ!」
ノロノロと動く腕で橋の縁を掴む。そのまま橋は重量を支えきれずに一気に傾き、体が数本のワイヤーを重量で切りながら橋から転がり落ちた。
だが、縁を掴んでいたおかげで真っ逆さまに落下するのは避けることが出来た。
とはいえ、危機的状況に変わりはなかったが。
「今なら動くに動けん、たたみ掛けるんじゃ!」
「言われなくてもそうするさ、恨むなよロディマス!」
「おいおい早く上がらせてくれないと、このまま蜂の巣にされちまうよ!」
『そうしたいのですが……上手くいきませんっ!』
なんとか空いた手でも橋の縁を掴むが、機能制限と華の操縦の不慣れさが相まって体を持ち上げられない。
ガラ空きの横っ腹にホイストのミサイルとチャーのレーザーが容赦なく突き刺さる。
装甲の表面が削り取られ、神経センサーから痛みの情報が流れる。
「ぐぅっ……」
『胴体と右脚部にダメージ! このままだと蓄積値でリタイアです!』
みほの限界が近いことを知らせる連絡が届き、もはやこれまでと思ったその時、
『貸せ、私がやる』
『麻子? ちょっとなにやって……』
「なんとかなるなら思いっきりやってくれ!」
ロディマスが叫んだ瞬間、力が入らなかった腕に本来に近い力が入り、勢いよく体が宙に舞った。
そのままダメージを受けた右脚部をかばうようにバランスを失った橋に器用に着地する。
「な、なにいっ?!」
『麻子凄い! どうやったの?』
『マニュアル読んだ』
まさかあそこから復帰するとは思わなかったのか、ホイストとチャーが驚く。
その瞬間を、俺とみほは見逃さなかった。
「今だ!」
『優花里さん、今です!』
『任せてくださいっ!』
流れる動作で銃を構え、銃口から数発のレーザーが放たれる。
そのまま熱線は二人のトランスフォーマーに降り注ぐ。ロディマスの流れるような動作に、両チームの操縦士は反応することが出来ない。
胴体と頭部に熱線が直撃する。
「ぬぅっ……なかなかやる、わい……」
「あはは、やっぱり向いてないなぁ」
二人のトランスフォーマーの肩から白いフラッグが飛び出す。
それは蓄積ダメージによる撃墜判定……敗北の証だ。
『や、やった!』
『一気に二人も倒しましたぁ!』
『凄かったですよ、麻子さん、優花里さん!』
『皆さん凄いです!』
初撃破に喜ぶ皆の声が届き、なんだかこちらも嬉しくなってくる。
久しぶりの実戦の感覚に体が熱くなり、エンジンの回転数が上がる。
「おれグリムロック、桃、おれよりヘタクソ!」
「お前だってそんなに上手くないだろグリムロック! 優花里、あいつは頑丈だから思いっきりお見舞いしてやれ!」
『わっかりました!』
両腕を構えてグリムロックに向けると、両腕に取り付けられている六本のエグゾーストパイプにエネルギーが送り込まれる。
オルトモードでは排気の役割を担う部分であるが、ロボットモードにおいてはビームを放つエネルギー兵器となるのだ。
グリムロックの頑丈な装甲にダメージを負わせるには、これぐらいの火力は必要だろう。
「食らえ!」
『優花里さん、グリムロックの装甲だと一撃では落とせないかもしれません!』
『オーバーヒートぎりぎりまで打ち込んでやりますよ!』
エグゾーストパイプから六本の光線が放たれる。足の遅いグリムロックは避けきれず、そのまま巨体に六つの光線をモロに食らう。
「ガァッ?! 痛い!」
「まだまだいくぞ!」
よろめくグリムロックに容赦なくビームを食らわせる。
最初はなんとか耐えていたが、エグゾーストパイプが焼け付く寸前にはグリムロックが地面に膝を着く。
そして肩からカシュッと音を立ててフラッグが飛び出した。
「グゥ~……」
地響きを立てながら倒れるグリムロック。
怒濤の連続撃破に、皆歓喜の声を上げた。
だが、一つ大切なことを忘れていた。
突如、グリムロックが倒れた側の林の中から何かが飛び出してきたのだ。
そのまま飛び出してきた何かは両腕ごと体に巻き付き、ガッチリと縛り上げられてしまう。
状況を把握できないみほが何事かと慌て出す。
『ロディマス、一体何が?!』
「これは……マイスターだ!」
ロディマスの想像通り、林の中からマイスターが姿を現した。その左腕は変形しており、そこから飛び出したワイヤーがロディマスに絡みついたのだ。
マイスターは空いた右手で銃を構えこちらに向けている。
「すまないロディマス。だが勝ちは譲ってもらうぞ!」
『ロディマス、ソウブレードでワイヤーを切れますか?!』
「残念だがブレードを出しても切れない所を上手く縛られてる、これはもう……」
「なあに、すぐに済むさ、食らえ!」
銃から飛び出した光線がロディマスに襲い掛かる。
―――はずだった。
銃から光線は放たれず、唐突にワイヤーがマイスターの左腕に内蔵されたウィンチによって巻き上げられ始めたのだ。
突然のことに対応しきれずに、マイスターとロディマスの体は引き寄せ合う。
だが、ここは渓谷。
その引き寄せ合った体は近づく過程でお互いの体を谷へと投げ出させた。
「うぉおおおお?! マイスター何したんだ!」
「間違えて攻撃手がウィンチを巻き上げたみたいだ!」
真っ逆さまに谷底に落下する二人。
トランスフォーマーといえども、重量や高さの関係からこのまま地面に叩き付けられたらただでは済まないだろう。
マイスターとロディマスはできる限り中の皆に衝撃が伝わらないように姿勢を変え、そのまま地面に激突する事を覚悟する。
「ハーケンミサイル!」
すると、どこからが赤い
その錨からは鋼鉄のワイヤーが伸びており、マイスターとロディマスを絡め取った。
錨が引き上げられ、重力とそれに相対する引力によって体に衝撃が走る。
その代わりに落下速度は徐々に落ちていき、やがて体は空中でつり上げられた。
錨のワイヤーの出所を目で追っていくと。渓谷の縁に続いている。
その先には、なんとビッグコンボイの姿がある。
ビッグコンボイの脚部からは赤い錨……ハーケンミサイルに取り付けられたワイヤーが伸びていた。
「訓練終了! 全員学園艦に帰投した後に反省会を始める!」
「皆、訓練お疲れ様! 初心者なりによく頑張っているのがわかったわ!」
ロディマス達を倉庫に運んだ後に、私達は蝶野さんの総評を聞いていた。
もう日も大分傾いており、皆本格的な訓練の後ということもありくたびれた様子である。
蝶野さんが一通りの総評を終えると、蝶野さんの後ろで静観していたビッグコンボイが一歩前に出る。
「諸君、初めての実戦形式の訓練にしてはなかなかよくできていた。 最後に私から各部隊に評価と修正点を伝える」
ビッグコンボイの言葉に、思わず姿勢が正される。
それは他の皆も同じだったようで、皆くたびれた様子ながらも顔つきに生気が戻る。
「順番に評価する。 まずはAチーム、撃墜スコア3でトップだ。 3対1という不利な状況から、機を逃さず、果敢に戦う姿勢は見事だった。 だが、優秀な結果故に最後の油断が惜しいと言わざるを得ない。 終始警戒しろとは言わないが、一切姿を見せない相手に注意を払う大切さを学べただろう」
ビッグコンボイの言葉が身につまされる思いだった。
不利な状況からの逆転という状況に、思わず舞い上がってしまい、いつ周囲から攻撃が飛んできてもおかしくない場所で油断してしまったのだ。
これが公式試合ならば、後悔してもしきれないミスになっていただろう。
「続いてBチーム。 これはCチームにも言えることだが、初心者なりに策を弄するなどなかなか面白い手を打つのは感心したぞ。 今後もアイデアがあれば随時提案して仲間同士で共有するといいだろう。 反省点はCチームは有利な状況からの油断からくる操作の遅れだ。 トランスフォーマー自身もある程度は挙動をとることができるが、操縦する者達による操作のほうも重要だ。 しかもロディマスと長い付き合いのあったチャーならロディマスがあの危機的状況を打開する可能性も考えていたはず。 もっとパートナーであるトランスフォーマーと情報共有することを心がけるんだ。 次にBチームだが、チャーよりも後ろに陣取るべきだった。 チャーはグリムロック程ではないが頑丈なトランスフォーマーだ。 ミサイルという連射速度が早くないホイストの弱点を鑑みても、硬いチャーを後ろから援護することで相手が手を打ってきたとしてもチャー共々撃墜される可能性はより低くなってたはずだ。 もっとトランスフォーマーのことをよく知り、パートナーの強みを生かせるように努力するように」
「はいっ!」
「いい返事だ。 次にEチームだが……ビーストタイプのトランスフォーマーということに加えて、我の強いグリムロックが相手とはいえ、射撃の腕が酷い。 初めてとはいえ、動けない的に当てられないのは論外だ。 それに、グリムロックの強みはそのビーストモードの圧倒的なパワーだ。 ロディマスにあのまま橋を渡らせ、油断したところをビーストモードで一気に撃墜するという方法もとることができただろう。 今後の課題としては、攻撃手の射撃の練習とグリムロックとのコミュニケーションだ。 最後にDチームだが、攻撃力の低いマイスターであることと、初心者であるということを含めて最後の最後まで隠れているというのは賢い戦法だった。 最後の最後でロディマスを倒そうと動いてもいたのもよかったぞ。 ただ、うっかりとはいえ武装の操作ミスの危険性は今回の訓練でよくわかったはずだ。 一つの過ちが仲間に大きな被害を与えることもある。 今後も操作を間違えないように練習しておくように」
「わかりました~」
すべての評価を終え、ビッグコンボイは改めて皆を見て、ゴホンと咳払いをする。
「最後だが、私から大切な事を教えておく。 トランスフォーマー道は一人で戦うんじゃない、トランスフォーマーと、君たちと、皆で戦うんだ。 One for All,All for oneだ!」
「……ビッグコンボイ教官って、意外と熱いこというんですね」
今まで冷静でクールな評価を下していたビッグコンボイの以外にも熱血な発言を以外という一年生の言葉に、思わず何人か笑い出す。
続いて、熱血という言葉に触発されたのか、バレー部のキャプテンらしき人(この学校にバレー部があったかは疑問なのだが)が興奮し始める。
「クールな人かと思ってたんですけど、意外と熱血好きだったんですね! なんだか親しみを感じるっ!」
「……また私らしくない事を言ってしまったな」
「寧ろ、ビッグコンボイ教官らしいですよ?」
蝶野さんがビッグコンボイ教官に笑いながら言うと、ううむと唸りながら納得いかない様子。
「とにかく、今回の訓練ご苦労だった! 今後も初心を忘れることなく、TF道に努めて欲しい! 以上、解散!」
『失礼します!』
訓練が終わるやいなや、多くの生徒たちに囲まれるビッグコンボイ教官。
最後の言葉で親しみやすいと思われたようで、皆に囲まれて困惑する教官だったが、話しかける皆に少し待っていてくれと断りをすると、私の方に向かってきた。
正直な話、分かっていた展開だった。
「久しぶりだな、みほ。 またTF道をやる気になったんだな」
「……お久しぶりです、先生。 恥ずかしながら、帰ってきました」
「ここじゃ話しにくい、少し離れた所にしよう」
ビッグコンボイに連れられ、皆から少し離れた芝生の上に座り込む。
その横にビッグコンボイもドスンと大きな音を立てながら座り込んだ。
夕日に照らされた校庭が、何処かノスタルジィを感じさせる。
「あの事、まだ引きずっているようだな」
いきなり本題に入るビッグコンボイの質問に、思わず言い淀んでしまう。
情けなさから思わず俯いてしまうが、ビッグコンボイは何も言わない。
「ビッグコンボイ、ビーストモード!」
突然ロボットモードからビーストモードになったビッグコンボイ。
マンモス特有の毛の生えた長い鼻が俯いた私の目の前に突き出される。
「触ってもいいぞ」
「……失礼します」
言われた通りに鼻に触ると、ゴワゴワした毛の感触とビーストモード特有の暖かさが伝わってくる。
懐かしい感触に、思わず息が詰まった。
鼻を撫でながら何も言わない私に、ビッグコンボイはクールでも熱い様子でもなく、優しく話しかける。
「辛かったろう」
「……はい」
「君がした事は確かに間違っていたかもしれない。 だが絶対に間違っているとは、私は思わない。 多くの人が君を非難したとしても、私は君の味方だ」
「……先生、私……私ッ」
ビッグコンボイの毛皮に顔をうずめる。
彼の優しさが暖かく、懐かしさと、涙が止まらなかった。
ビッグコンボイは何も言わず、私が泣き止むまでそばにいてくれた。
解説! TF図鑑
【ホットロディマス】 出典・戦え!超ロボット生命体トランスフォーマー2010
どこか懐かしさを感じさせるファイアーペイントが施された真っ赤なスーパーカーに変形するトランスフォーマー。勇敢さや力強さから若き騎士とも形容されるが、チャーからはイカレ暴走族とも呼ばれる破天荒さも持ち合わせている。
ザ・ムービーでは若者であったロディマスだが、2010の劇中で司令官としての重責に苦しめられながらも、自覚や責任に目覚める姿は多くの視聴人を魅了した。
他にもアメコミのMore Than Meets The Eyeでは主人公的立場でロストライト号(ファンからは空飛ぶ精神病棟と揶揄される)の艦長を務めるなどの活躍をしている。
また新作実写映画ダークナイトでの出演が決定しており、サイバトロンの若者の立場をバンブルビーに活躍を食われている感からの脱却が期待される。