聖グロリアーナ女学園は、所謂名門である。
その認識を一般に持たれる要素として、各々が高い意識を持っている事が上げられるだろう。
提携先であるイギリスの縁から、生徒には礼儀作法・格式の指導が徹底され、淑女を育成する学校とも呼ばれている。
また学業で高い成績を残しているのは勿論のこと、各方面への活動参加を推奨しており、ボランティア等の地域や社会的な協力等にも定評があり、ノヴレス・オブリージュを有言実行している。正に英国的な優雅さを体現しているのだ。
TF道に関しても先述したことに準じており、OBの各所への太い繋がり・経済援助から設備、ノウハウのアドヴァンテイジを獲得しており、後進指導に余念が無い。
常に冷静に、優雅であれ。
それが、彼女達の信条であり、
今代の聖グロリアーナTF道代表・ダージリンもまたそれに準じる者である。
「……今日は随分と抑えてますのね?」
『何がです?』
質問に要領を得ないといった様子で
我ながら意地の悪い質問をしたかと思ったが、直ぐに考えを改めた。
「今日の紅茶は随分と味気ないということよ」
『はぁ……』
生返事で返すペコに、若干物足りなさを感じながら、どうにか彼女がジョークの一つでも返せるようにならないものかと思案する。
彼女は一年にしては随分と優秀な通信士である。指示には従順であるし、反抗的な態度をとったことは彼女が我が校のTF道に参加してから見たことが無い。
かのサミュエル・スマイルズは自助論に於いて、
『
と残しているが、彼女が入ってからの凡そ二ヶ月の間、日頃の素行は謹厚そのものであり、性根からしてそういった性分なのだろうと私は推察した。
だが私は些か素直すぎる嫌いがあると、彼女の性質に対して気にかかるところがあった。
素直なのは結構なのだが、何分彼女は顔や言動に出やすい
聖グロリアーナにはある暗黙の了解があり、年功序列じみた雰囲気がある。
学校の運営費をまかなう出資者は殆どがOBなどで占められているため、自然とそのような風潮が生まれたと、以前先輩が零していた。
簡単に言ってしまえば、我が校では我が物顔の先輩の顔を立てて後輩はそのイエスマンでいるべきと言った 居丈高な思考が跋扈している。
私もその例に漏れてはいないという自覚はあるが、少なくともそれは個人の素養や努力からくる自信が私をそうさせるのであって、それは決して学校の経歴を傘に着た虎の威を借る狐のじみた矮小な考えからでは決して無かった。
だが、そのような好かない人種を相手取らなければならないのが世の常である。
相手の言葉に対して笑みを返しながら、その口で嫌みの一つ返せるような度胸と気丈さが無ければ、彼女も私が嫌うようなイエスマンか己の身の丈を理解しない高慢な言葉を投げかける淑女とはほど遠い存在になってしまうことだろう。
身の丈を理解しろというよりは、各々の立場を配慮した振る舞いをすべきというべきか。
二年の時には、上級生と下級生に挟まれていたのであまり気にはならなかったのだが、三年という責任ある立場に立つと、後輩に対してある種の愛着といったモノが沸いてくるものである。
当時私が彼女と同じ歳だった頃は、先輩のからかいに対して辟易していたのを覚えているが、今思えばあれは先輩達なりの優しさだったのだろう。
同じ立場になり、始めて当時の先輩達が抱いていたであろう思いと同様であろう思いを抱えていた。
私ほどでは無いにしても、彼女に目をかけている身としてはもう少し対応などをウェットに富んだものにして欲しいと、こうして毎度の如く解りにくい謎かけじみた質問や趣味の格言を講じているのだ。
「ダージリン、あまり虐めてやるな。 オレンジペコはまだ一年生なんだからな」
「あらウルトラマグナス。 私が彼女と同学年だったころは冗談の一つは返したわよ?」
「オレンジペコ、あまり真面目に聞くもんじゃないさ。 彼女の話は紅茶のお茶請け程度に思ってればいいんだ」
『そういうモノですかね……』
頬に笑みを浮かべながら、ウルトラマグナスの揺れを感じつつ紅茶を口に含む。
まだ淹れてからあまり時間が経っておらず、キームンの華やかな香りが面白い。
だが安物を使ったのか、はたまた抽出の際に湯を高温にしたのか。
舌に若干のエグみが残り、後味と残り香を損なわせていた。
『こちらパワーグライド、いやぁ今日は晴天でよかったねぇ! お陰でやっこさんも見つけやすくて助かったよ!』
『何言ってるんだ。 お前さん只アクロバットしてただけであの岩場に目をつけたのは俺だぞ』
「エアレイド、貴方のお陰というのはわかったわ。 でも自慢話をする前に詳細を教えてくださいな」
『ああすまない。 大洗は斥候を出してるな。 十時の方向にある岩場からこっちの様子を伺ってるみたいだぜ』
「そう……報告ありがとう。 航空部隊は太陽を背に無音飛行へ。 あとパワーグライド、アクロバットをするのは構わないけれど、隊列を崩さないように」
航空部隊からの通信を小耳に挟みつつ、おおよその予測をする。
大洗女子学園――― 再興したTF道のチーム。
今回がほぼ始めての実戦ということで、操縦の腕はまぁ察する所だろう。
トランスフォーマーは、以外にも有名どころが揃っているらしい。
聞いた話だとあのダイノボットのグリムロックに老兵チャー、加えてホットロディマスまで保有しているとか。
だが、そこまで恐れることはないだろう。
いくらトランスフォーマーの性能が良かろうと、最後に全てを決するのは操縦手とトランスフォーマーの呼吸だからだ。
相手もそれぐらいは解っているはずだ、なら一体何をすべきか。
策を企てることだ。
この周辺の地理には疎いが、相手が逃げる先には何かしらの地理的優位があるはず。
でなければ、航空偵察相手に隠蔽無しで斥候など放つだろうか。
――― まぁ、何をしてこようと慌てるものでもないか。
そもそも今回は親善試合。
此方の力を見せつけ相手を蹂躙するのも悪くはないが、まぁそれは美しくない。
胸を貸すぐらいの心持ちでいかせてもらうとしよう。
そう思った時には手に持っていたカップを置き、ペコに指示を出していた。
「地上部隊は中央にウルトラマグナス、左右にサンストリーカーとストリークですね」
「航空部隊は……ダメですね。 見当たりません」
ウルトラマグナス……優秀なサイバトロン戦士だったトランスフォーマー。遠・中距離にはロケットミサイル二つに大型のライフルという火力重視の装備。近接は大型のボディを用いて相手を殴り倒す、遠近共に隙の無い戦い方をする。生粋のサイバトロン戦士だったと言うだけあり、策を弄する柔軟性を持っているが、武人としての性質も持ち合わせていると話には聞いたことがある。
その横に付けているサンストリーカーは、いつぞやのTF道紹介PVでみたランボルの兄弟だ。
大型キャリアカーに変形するウルトラマグナスとは異なり、こちらはスピード重視のスーパーカウンタック。
反対側のストリーク。こちらはフェアレディ280Z-Tに変形している。
「流石に名門です。 かなり堅実な部隊じゃないですか?」
「うん。 正面からのぶつかり合いだと、かなり苦戦すると思う」
一見してこの左右両者の能力は把握しづらいが、その本質はやはりロボットモードであり、かなり厄介な編成をしているのだ。
サンストリーカーは遠距離武器主体であるが、その特筆すべき点はなんと言っても電子推進ブースターを装備している事で空中戦が可能であることだ。このお陰でかなりの移動能力があるし、なにより三次元機動を行える強みがある。
対してストリークは、飛行能力こそは有していないものの、狙撃手としての腕はかの超A級スナイパー『リジェ』に相当する腕前らしい。
これらの情報を総合すると、
前衛を頑強なウルトラマグナス、ミドルレンジには機動力のあるサンストリーカー、後衛にストリークという理にかなった綺麗な布陣を敷いてるということだ。
河嶋さんの作戦通りにいけば、この強固な布陣も打ち崩すことができるかもしれないが一つ気がかりなのは先程から見あたらない相手の航空戦力であった。
「ここに着いた時には飛行音がしてたんですけどね……あ、こっちに向かってきますよ」
「気付かれましたね。 予定通り集合地点に誘い込みましょう」
近くに止めていたホットロディマスに乗り込み、合図をすると麻子さんがガコガコとギアを滑らせアクセルを踏み込む。
「舌噛むなよ」
「できる限り安全運転でお願いしますよ……?」
そういうと、左右を岸壁に囲まれた狭く荒れた道をギリギリ相手に追いつかれる程度の速度で進行する。
まぁどのみちホットロディマスでこの道を飛ばせば、荒れた地面にタイヤをとられ最悪車体が宙を舞い、フロントから地面か岸壁に突き刺さることになるだろう。
「どうやら奴さんも相当ノリがいいみたいだな。 上手くこっちについてきてくれてるぞ」
バックミラーを確認すると、聖グロリアーナの地上部隊がこちらに追走してきているのが見える。
そして次の瞬間、ウルトラマグナスのキャリアー部分に備え付けられたロケットランチャーが動き出したのが目に入った。
「攻撃来ますッ! 麻子さん、車体を左右に振ってください!」
「わかった」
「かといってスピードを緩めるなよ! 追いつかれたら袋叩きにあうからな!」
冷泉さんがハンドルを切ると同時に、ロケットランチャーが放たれた。
飛来した赤い弾頭は先程までいた地面に飛来し、激しい爆音と熱風を伴いながら弾け飛んだ。
車体には破片が降りかかり爆風に煽られるが麻子さんのハンドリングでなんとか車体を制御する。
思わず息を飲むが、相手の攻撃はまだ続く。
続いてストリークのルーフが開き、中からライフルがせり出してきた。
そのまま銃口が此方に向く。
銃口から光があふれ、反射的に麻子さんがハンドルを思い切り切る。
その数瞬後に、光線がホットロディマスの塗装を焼き地面に突き刺さる。
ロディマスも今の攻撃には肝を冷やしたらしく、口笛を吹く。
「ストリークの奴、なかなか腕上げたんじゃないか?」
「走行中じゃなかったら当てられてましたね……」
何発か続けて打ち込んでくるものの、流石におうとつのある地面での走行中、しかも腕で撃つ時ほどの繊細な動きがとれない状況では相手側の攻撃手も狙いをつけづらいのだろう。
そのまま相手の攻撃を上手く躱しつつ進んでいくと、予定ポイントが視界に入ったので沙織さんに通信をお願いする。
『えー、こちら
『PiPiPiPiPi――― 了解、なんとかおびき寄せてくれ。 そうすればこっちのものだ』
河嶋さんの返事を頼りに、合流地点に突っ込む。
あとは迂回しつつ自陣に復帰し、攻撃に参加しようとチームに指示をだす。
だが、ここで予想外の事態が発生した。
何故だが私達に向けて光線の雨が降り注いできたのだ。
突然の裏切り行為に沙織さんが叫ぶ。
『ちょっとーっ?! 仲間を撃ってどうするのよぉ!』
『撃てぇッ! 撃て撃てェッ!』
『おれグリムロック、うちまくるぞ!』
『大変だ! 河嶋副隊長が錯乱しているぞ?!』
『マイスター、早くあの馬鹿共を締め上げんか!』
『ほらグリムロック、あと副隊長。 一旦落ち着こう、深呼吸するんだ』
『ヒューッヒューッ』
『河嶋さんって以外とアレな人なんですね……』
仲間内で混乱が発生しているうちに自陣に到着すると、いつの間にか敵が予定攻撃地点を通過しだしている事に気がつく。
「沙織さん! 皆さんに攻撃指示を!」
『え、あっ。 皆、敵に攻撃してっ!』
指示を出されてようやく冷静になったのか、なんとかまとまった攻撃を始めた。
だが、世の中作戦の通り上手くいかないのが常である。
攻撃をしたは良かったのだが、攻撃が全く当たらないのである。
「おい、一斉にバラバラの敵を攻撃してどうする! 一人一人確実に倒していかんか!」
「無茶いうなチャー。 これでも皆大規模な攻撃は初めてなんだぞ!」
マイスターの言うように、ここで致命的な失敗が露呈した。
集団攻撃の基本は相手を威圧する飽和攻撃と、相手を確実に倒せる火力を集中させるかである。
私達のメンバーは速度、火力、防御のバランスが良く、様々な応用が利くという将来的利点がある。それと引き替えに現状の決定的な火力担当は接近戦型のグリムロックぐらいしかいないのである。
故に、私達は相手に対しての手前味噌な飽和攻撃よりもなりふり構わず一体一体を確実に倒す各個撃破を狙うべきだったのである。 今となっては後の祭りであるが。
此方の集団攻撃の隙間を縫うようにかいくぐってきた相手チームは、あっという間に此方を半包囲するように陣取る。
「総員、トランスフォーム! アターック!」
「いくぞロディマス!」
「これでも食らえっ!」
ウルトラマグナス以下、地上部隊が変形し武器を此方に向けた。
正真正銘、ピンチである。
「敵の攻撃が来るぞ! 全員頭を下げろ!」
ロディマスが一声をかけた瞬間、周囲が爆発に被われた。
ロディマスの身を起こして状況を伺おうとすると、真上をストリークが放ったレーザーが通過しすぐさま岩場に身を隠す。なんとかその場を凌ぐが、ここでまた一つ想定外の自体が発生した。
『うわぁん! もう無理!』
「お、おい! 皆危ないッ! 戻ってくるんだ!」
「もういやぁ!」
なんと、
操縦手を失ったマイスターの動きが一気に悪くなり、バランスを保てず倒れ込んでしまう。
「悪いなマイスター、恨むんなら臆病なパイロットを恨むんだな!」
「くぅっ……ここまでか……皆、すまない」
なすすべの無いマイスターに、サンストリーカーは容赦なく背部に背負ったミサイルと手に持った銃の光線を浴びせかける。
まともに防御姿勢もとれないままマイスターは殆どの攻撃を被弾し、そのままうつぶせに倒れ込む。
数瞬後、カシュっと軽い音をたてて倒れたマイスターの背中からフラッグがせり出した。
「このままじゃ全滅じゃぞ!」
「おいおい、しかもそれだけじゃ無いみたいだ」
ホイストが上を指さすと、崖の隙間を縫うようにして敵航空部隊が飛来しているのが確認できる。
その先頭にはパワーグライド。
次に起こることが予測し、とっさに指示を飛ばす。
「全員、敵飛行部隊の赤い攻撃機を牽制してください!」
両側からの攻撃を受けないように頭を下げながらパワーグライドに向かって集団攻撃をしかける。
数発被弾すると、不利とみたのか航空爆撃を中止し崖沿いのルートから離脱していく。
「沙織さん、各自状況を確認してください」
『え、あ……各チーム状況を報告して!』
『
『
『…………』
『
『まだ無事な奴は撃って撃って撃ちまくれぇっ!』
取りあえずの所、現状の戦力としてはDチームのリタイア以外は問題ないようだ。
だが、この状況をどうしたものだろうか。
明らかにこのままここで応戦していては火力にゴリ押されて磨り潰されてしまうだろう。
かといって、ここでどう打開するべきか―――
思考がまとまらない。
焦りと切迫した状況が答え導きだそうとするのを邪魔する。
どうすれば―――
「みほ! 迷うことないぞ! どんな無茶だってオレ達ならやってやるさ!」
「――― ロディマス……」
ホットロディマスの一言が契機だった。
『西住さん。 指示をお願いします』
『私達、みほの言うとおりにする!』
「どこへだって行ってやる」
『西住殿、命令してください!』
――― 覚悟は決まった。
ここまでされて、奮い立たないわけがない。
破れかぶれでも無茶でもやるしかない。
やれるだけの事をやらせてもらう。
きっと、皆なら答えてくれる。
「……BチームとCチームはこのままここから移動開始します!」
『了解! いくよ皆、ホイストもねッ!』
『心得たッ! チャー、気張ってくれよ!』
『待てえっ! 一体何を』
『おれグリムロック。 オレ、モモよりもミホのいうことシタガウ!』
「Eチームは私達が通過したあとにグリムロックで思い切り右側の岸壁を殴りつけてください!」
『いいよ~。 ほら準備するよ』
次が決まればあとは早いものだ。
ロボットモードからオルトモードへ変形し、一気に戦線を離脱する。
勿論こんなことをされれば相手も思わず追いかけようとするわけで、
「全員、トランスフォームして追いかけ……」
「グリムロックトランスフォーム! おれ、壁破壊する!」
ビーストモードに変形したグリムロックが、思い切り岸壁に体当たりをする。
すると、岸壁が何かが砕ける音と割れるような音を発し始めた。
すぐさまグリムロックが二本足でドタドタと岸壁から離れ、次の瞬間には岸壁が崩落を始めた。
「な、とんでもないことをするな!」
「岩が降ってくる!」
「下敷きにされるぞ!」
先陣を切っていたウルトラマグナスはなんとか落石に飲み込まれずにすんだが、後続にいたサンストリーカーとストリークが岩雪崩に飲み込まれた。
リタイア判定まではいかなかったようだが、なんとかこれで時間稼ぎにはなるだろう。
「このまま市街地に行って障害物と地元の有利を利用します」
「みほ、ところで作戦の名前とかはあるのか?」
ロディマスに尋ねられ、少し考える。
町中に隠れてのゲリラ戦――― いや、なんだか物々しい。
もっと可愛らしい方がいいだろう。
ふと、さっき河嶋さんの作戦はコソコソ作戦だったことを思い出す。
ならばこれしか無いと思い、胸を張って作戦名を告げる。
「『もっとコソコソ作戦』です!」
「……もっとどうにかならないのか?」
――― もっとネーミングの勉強をしたほうがいいのだろうか。
なんだかちょっと悲しくなった。
解説! TF図鑑
【ウルトラマグナス】 出典・戦え!超ロボット生命体トランスフォーマー2010
青と白でカラーリングされた大柄なボディと豊富な武器による火力や、参謀としての作戦立案能力、そして戦士としての勇気をもった優秀なサイバトロン戦士。大型のキャリアカーに変形する。
理論家でありながら実力も持つ彼は非常に頼りになる存在であり、一時的にサイバトロン総司令官の地位に就いたこともある。
だが、優秀故に苦労も多く、不満を溜め込むところがあるようで凶暴化ウイルスに感染したときは自分に変わって総司令の任に就いたロディマスコンボイを執拗に襲った。
だがロディマスとは違い、後続の作品では同名のトランスフォーマーが多く出演しており、2010のメンバーの中では優遇されていると言える。
ファンからは永遠の№2と称される彼だが、それは苦労人キャラとしてのイメージからくる愛着故なのである。