八雲立つ出雲の開闢者(仮)   作:alche777

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009:メガネの修行(1)

 玉狛支部に出向いてみれば、肝心の三雲の姿がなかった。

 

 

「……あ、師匠」

 

「おう比企谷。三雲なら、迅と一緒に本部の方へ行ったぞ」

 

 

 弟子の八幡を見るなり、彼が何を聞きたいのか察したレイジは簡潔に彼が知りたい答えを教えてあげる。手には包丁が握られている所から、本日の夕食の準備を始めたのであろう。

 

 

「迅先輩と本部に? あの人、また余計な事をし始めたんですか?」

 

「さあな。そうだ、比企谷。今日は鍋にしてみようと思うのだが、お前もどうだ? 妹さんも連れてきて良いぞ」

 

「鍋ですか? いいですね。小町に聞いて、良ければご厄介になります」

 

 

 では、と八幡は本物へ向かう為に玉狛支部から飛び出していった。

 

 

「……いいんですか、レイジさん。比企谷先輩に言わなくても」

 

 

 八幡がいなくなったのを見計らって、烏丸が現れる。なぜか一つ上の先輩である小南の口をふさぎながら。

 

 

「直ぐに分かる事だ。一々言う事でもないだろう。それより京介、小南の顔が真っ青になっているぞ。いい加減に離してやれ」

 

「あ、はい」

 

 

 解放された小南は、獰猛な牙をむき出しにして烏丸に問い詰める。

 

 

「ちょっととりまるっ! あんた、何で私の口を塞いだのよ」

 

「だって、小南先輩。比企谷先輩の口車に直ぐ引っ掛かるじゃないですか。迅さんから内緒にしてくれと頼まれたんですから、仕方がない事なんです」

 

「だからってレディを羽交い絞めする事はないでしょっ!」

 

「知らないんですか、小南先輩? 比企谷先輩は話したくもないのに秘密を話してしまうサイドエフェクトを持っているんですよ。あれぐらいしないと防げませんよ」

 

 

 出鱈目にもほどがある情報に、小南は顔を真青にさせて「そう言えば」と口にする。記憶を思い返せば、色々と思い当たる節が彼女にはあるのだろう。

 

 

「う、うそ。だ、だから私がいつも隠したい事をベラベラと話してしまうのね。レ、レイジさんは知っていたんですか?」

 

「あぁ、知っていたさ。比企谷がサイドエフェクト持ちじゃない事をな」

 

 

 またもや自分がもさもさ後輩に騙されたと気づく。一気に怒りのボルテージが上がり、自分を騙した烏丸に文句の一つでも、と彼の方を見やると忽然と姿を消していた。

 

 

「あのもっさりっ! どこに行った!?」

 

「京介ならば、修の様子を見に行くって言っていたぞ。暇なら、お前も様子を見に行ったらどうだ?」

 

「そ、そうします。とりまるっ! 絶対に逃がさないわよ」

 

 

 喧しい連中が消えてシンと静まる中、レイジはせっせと夕食の準備を進めるのであった。

 

 

 

***

 

 

 

『三雲、ダウン』

 

 

 全方位から襲い掛かる『追尾弾嵐』によって、三雲の身体は蜂の巣にされてしまう。両手のレイガストで防御に回るのだが、弾丸の数が多くてすべてを防ぐことができなかったのだ。

 

 

「……三雲くん、次で最後だけどまだやるのかい?」

 

 

 間宮隊隊長、間宮桂三が弱りきった三雲に訊ねる。いま現在、間宮隊と三雲は模擬戦の最中であった。しかし、数的に不利な状況で三雲がなし得た成果は今の所なし。既に十戦中零勝九敗と負けが確定しているのだが、三雲の闘志は未だに消えてはいなかった。

 

 

「お願いします。もう少しで掴めそうなんです」

 

「分かった。仮にも迅さんの頼みだ。最後まで付き合おう」

 

「よろしくお願いいたしますっ!」

 

 

 一同、戦闘態勢に入る。間宮隊は全員シューターの部隊。圧倒的な物量をぶつけて勝負に挑む戦術が得意であり、同時両攻撃の『追尾弾嵐』と命名されたコンビネーション攻撃を持っている。

 

 

「「「アステロイド」」」

 

 

 最初に動いたのは間宮隊の三名であった。通常弾のアステロイドは他のトリガーと違い特殊な能力がない代わりに、威力は追尾弾や変化弾、炸裂弾よりも高い。

 

 

「(レイガストで受け止めるか。いや、それじゃダメだ)」

 

 

 四分割されたアステロイドが三方から三雲を襲う。レイガストを起動させて盾モードで防ごうと考えるが、それでは前の模擬戦と同じ結果を招いてしまう。相手は全員がシューター。弾丸系のトリガーを持っている以上、攻撃速度は圧倒的に相手の方が上なのだ。動きを止めて防御の態勢を取ったら、次は間違いなく『追尾弾嵐』が待っている。そうなったら、三雲が勝てる可能性はゼロである。

 

 

「(まずは、この弾丸を掻い潜って距離を詰めないと)」

 

 

 考えた末、三雲はレイガストを盾の形状で起動させ――。

 

 

「スラスター・オン!」

 

 

 オプショントリガー、スラスターを起動させる。推進力を得たレイガストを間宮隊の楠本葵へ向け、レイガストを手放した。一人で飛んでいくレイガストは楠本のアステロイドを跳ね除けていく。これにはさすがに驚いた楠本は後方に大きく跳び、飛んで来たレイガストを避ける事にする。

 その間に、三雲はもう一方のレイガストを起動させる。同じように鯉沼三弥に向けレイガストを飛ばし、二方向のアステロイドを防ぐ事に成功する。

 だが、未だに間宮桂三が放ったアステロイドが残っている。流石の三方向同時攻撃を防ぐことは出来ないと踏んだ間宮は自分の攻撃が当たった事を確信するが、三雲の足場にジャンプ台トリガー、グラスホッパーが発動した事に驚きを顕にした。

 

 

「なっ!?」

 

 

 二回グラスホッパーを踏んで上空へ逃げる三雲を見やる。その行動は初めて見た。そもそも三雲はこれまでの闘いで使ったトリガーはレイガストとアステロイドのみ。

 

 

「(まさか、この九戦はこちらの戦いを分析していたのか)」

 

 

 考えられなくもない。そもそも今回はS級ランク迅から頼まれて組んだ模擬戦である。これまでの戦いは何かを課せられたと考えるなら、今回の動きだけ違うのもうなずける。

 

 

「アステロイドっ!」

 

 

 アステロイドの発動を確認し、身構える三人。しかし、生み出された数はたったの二発。それも軌道は間宮隊の誰にも向けられていなかった。

 三雲の行動に疑問を感じない訳がなかったが、これはある意味大きなチャンス。三雲が何かを行動に移す前に、一気に『追尾弾嵐』で勝負を着けようとハウンドを起動させる。が、間宮桂三はアステロイドの軌道を描いた後に何やら糸の様な物が出現した事に気付いた。

 

 

「(あれは……。スパイダー? 待てよ、あの軌道には……まさかっ!?) 攻撃中止っ! 今すぐ離れろっ!!」

 

 

 攻撃を中止して回避行動に移る間宮。それに習って楠本と鯉沼も回避行動に移るのだが、二人の身体は三雲のレイガストによって真っ二つに切り裂かれたのであった。

 

 

『楠本、鯉沼。ダウン』

 

「「なっ!?」」

 

 

 二人は目を剥く。自分達に襲い掛かったレイガストは三雲が先ほどスラスターを使って投げたものである。盾の形状にしてはいたもの、モード自体は剣モードにしていた様だ。その為、盾の形をしていても二人の身体を引き裂く事が出来た模様。

 

 

「スパイダーをそんな風に使うなんて、驚いたな。三雲くん」

 

「ありがとうございます。実践で試した事がなかったので不安でしたが、決まって良かったです」

 

 

 アステロイドにスパイダーを追加させ、三雲は転がっているレイガストに放ったのである。レイガストにスパイダーを付けた事により鎖鎌の様な動きが可能になったのだ。三雲はスパイダーを振り回し、繋がっているレイガストを近場にいた楠本と鯉沼へ放ったのである。

 

 

「けど、まだ勝負は終わっていない。今回も勝利はもらうよ。ハウンドっ!」

 

「負けません。アステロイドっ!」

 

 

 追尾弾と通常弾が行き交う。

 三雲はスパイダーを使って、手元にレイガストを呼び寄せる。今度こそ盾モードに変化させて間宮の追尾弾を防ぐ。

 対する間宮は三雲の通常弾を回避するようであった。三雲の様に間宮はレイガストを入れていない。シールドで防げばいいのだが、三雲には距離を詰めるスラスターがある。中距離メインの自分の間合いを保つ為には攻撃を受け止めるよりも回避した方が得策なのだ。

 アステロイドの軌道を読んで、攻撃を回避する。しかし、直線にしか動かないアステロイドが直角に折れ曲がり、間宮の右肩に被弾したのであった。

 

 

「これはバイパーか!? アステロイドじゃないのかよ」

 

 

 簡単なトリックである。三雲はバイパーを放つ時、あえてアステロイドと口にして起動したのである。技名を口にした事で間宮はそれがアステロイドであると決め付けてしまったのだ。

 

 

「けど、まだまだ戦えるっ! アステロイドっ!」

 

 

 負けじと間宮はアステロイドで応戦する。トリオン量とシューターとしての腕は間宮に軍配が上がる。純粋な打ち合いならば負ける事はないはず、と踏んで打ち合いに持ち込もうとする。

 しかし、意識の外からレイガストが己の胴体を分断しようと襲い掛かって来た。

 気づいた時には既に遅かった。辛うじてシールドを起動させる事は出来たものの、木っ端微塵に粉砕され、間宮の胴体を食いちぎっていく。

 

 

『間宮、ダウン』

 

 

 機械音が三雲の勝利を知らせる。十戦中一勝九敗と負け越したが、昔の三雲と比べると大成長したと言えよう。

 

 

 

***

 

 

 

「……なんだ、これ」

 

 

 最後の模擬戦に間に合った八幡は、三対一の変則マッチをしている三雲を見て言葉を失う。

 

 

「あ、八幡。お疲れ、ぼんち揚げ食う?」

 

 

 呑気に観戦している迅を発見した八幡は、鬼の形相を浮かべながら彼の元へ歩み寄る。

 

 

「説明していただけるんですよね、迅先輩。どうして三雲がB級部隊と模擬戦なんてしているんですか?」

 

「なに。俺達ばかりじゃ戦いに偏りが出るだろ。ランク戦なんかやらせて、今の自分の実力を知ってもらおうかな……と思ったら、ちょうどシューター編成の間宮部隊と会ってさ。メガネ君の為に模擬戦をしてくれないかな、って頼んだんだよ」

 

「んで結果がこれですか。……戦績は?」

 

「十戦中一勝九敗だね。三対一って事もあるし、随分と善戦したと思うよ。ま、最後の模擬戦以外、レイガストとアステロイド以外の使用を禁止したんだけどね」

 

「バカですか、貴方は。数的不利で実力も上回る相手に、なにハンデを課してるんですか」

 

「メガネ君は防御に偏る姿勢があったからね。レイガスト頼みの防御がどれだけ危険か分かって欲しかったんだよ」

 

「……それで、今回の戦いを仕組んだわけですか。相変わらず暗躍していると言うか、この戦いでどんな未来へ導けたのですか?」

 

 

 未来視のサイドエフェクトを持っている迅が意味のない行動をするわけがない事は知っている。今回の戦いで得られる未来があるからこそ、この戦いを仕組んだはずなのだ。

 

 

「……あとは彼の度胸が試されるかな。勝負は明後日から二日間だ」

 

 

 いよいよ、迅が見た未来が訪れるらしい。表情を硬くした八幡は、まず間宮隊と握手を交わす三雲の元へ向かう事にした。

 

 

「……もうっ! とりまるが遅いから、終わっちゃったじゃないの!」

 

 

 数秒後、遅れて烏丸と小南が登場する。二人は変則的な模擬戦が終わった事に悔しがりつつも、未だにぼんち揚げを食らう迅の元へやってくる。

 

 

「迅さん。修の様子はどうでした?」

 

「頑張ったと思うぞ、メガネ君は。間宮隊相手に一勝もぎ取ったんだからな。十戦中一勝九敗だがな」

 

「うそっ。あの修が!? ひ弱で優柔不断の修が一人で勝っちゃうなんてね。……流石、私達の弟子だけあるわね」

 

「小南先輩は一度だけしか指導していないでしょ。俺と比企谷先輩の教えが良かったんですよ」

 

「いやいや、この実力派エリートの俺の指導が良かったんだよ。何せ、風刃を二つまで避けきれるまでになったんだから」

 

 

 玉狛支部の三人は修の成長に喜び合う。

 C級落第メガネと呼ばれた時代を思い出すと大きな飛躍であった。


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