八雲立つ出雲の開闢者(仮)   作:alche777

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018:褒められるヒーロー

 英雄の凱旋に校庭で見守っていた生徒達は盛大な歓声が起こる。戦いが終ったであろうと勝手に決めつけた生徒達は未だに避難所でおびえているであろう生徒達に連絡を入れに行ったのであった。

 何人かは三雲の元へ駆け付けて自身が抱く疑問を問い質したい所であったが、彼らよりも早く迅を初めとしたボーダー達が三雲の元へ駆け寄ったのだった。

 

 

「……迅さん」

 

「上手くやったようだね、メガネ君」

 

「そうなんでしょうか? 必死だったからよく分かりませんが」

 

「俺のサイドエフェクトが言っている。今回の結果は最高レベルの結果だったよ。ほんと、よく頑張ったな」

 

 

 ワシワシ、と乱暴に頭をなでながら褒め称えた。

 迅が口にした言葉は嘘ではなかった。三雲が捕まった未来も視えたし、最悪の場合なんか今いる学校が消滅していたなんて可能性も起こり得た。手っ取り早く迅自身が助けに行けばよかったのだが、それだと隣でぐったりしている空閑を仲間にする未来は永久に閉ざされてしまったであろう。そう考えると苦笑いして頬を掻いている三雲はよくやったと言える。

 

 

「ったく、お前というやつは……」

 

「先輩」

 

「結果、何とかなったからいいものの少し無茶をし過ぎだ。誰か傷ついたら責任を負うのはお前になるんだぞ」

 

「はい、その……。あの時は仕方がなく――」

 

「んな事は分かっている。けど、緊急事態の時こそ必ず誰かに連絡しろ。報連相を忘れべからず、とボーダーでも習ったはずだ。本部または玉狛支部に連絡すれば誰か応対してくれるはずだから、決して忘れるんじゃねえぞ」

 

「は、はい。すみません」

 

 

 初めての戦いに加えて緊急事態であったのがいけなかったのだろう。三雲は目の前の敵を倒すことだけ考えて、敵を発見した際に報告を入れると言う基本事項を忘れてしまっていた。今回は倒せたからいいものの、三雲が倒されてしまったら事件に気付くまでタイムラグが生じる可能性も出てくる。

 

 

「だが、ま。迅先輩も言っていたが、一人でよくやったな。妹の小町を助けてくれてようだし、マジで感謝している」

 

「い、いえ。無我夢中だったので……。僕の方こそ、報告しなくてすみません。以後、気を付けます」

 

 

 深々と頭を下げる三雲の肩を数回叩いて労う。そんな八幡の裾を妹の小町が引張って自分の話しを聞くようにアピールし始める。

 

 

「ちょっとお兄ちゃん、いつまでも三雲君を取らないでよ。小町達も三雲君にお礼したいんだけど」

 

 

 と言うが、八幡の返事を待つよりも早くに三雲たちを引っ張って自分たちの元へ連れ去ってしまう。

 英雄が自分たちの元へ来てくれた事で生徒達の盛大な歓声が飛び交う。

 

 

「ったく……。まだ、言いたい事はたくさんあったんだがな」

 

「まぁまぁ、今回ぐらいは大目に見て挙げなよ」

 

 

 多くの生徒に感謝され、照れ笑いを見せる三雲の姿を見やりつつ葉山が八幡の横に立つ。

 

 

「彼がキミの弟子か。真面目でいい子そうだな」

 

「まぁな。真面目すぎる嫌いがあるがな。もう少し肩の力を抜いても問題ないと思うが……ってんだよ。なに、にやにやしているんだ葉山」

 

「いやね。あの比企谷隊長がそんな事を言うなんておかしくてね。少し、丸くなったんじゃないか?」

 

「もう隊長じゃねえよ。ま、あいつの真直ぐな気持ちに感化された事は否めないがな。お前こそ、鈴鳴支部で上手くやっているのか?」

 

 

 一瞬、何を言われているのか理解できなかった。まさか、全てにおいて効率を重視する冷徹人間と言われていた八幡からそんな話題が上がるとは予想もしていなかったのだろう。

 八幡もそれを自覚しているのか、視線を反らして「言いたくないなら、無理に言わなくていいぞ」と付け足した。

 

 

「い、いや。無理じゃないさ。鈴鳴支部の人達にはよくしてもらっているよ。来馬先輩はよく射撃訓練に付き合ってくれるし、村上先輩は僕の弱点を的確についた後に改善点を教えてくれる。太一のドジっぷりには手を焼くけど、あれはあれで面白く感じている自分がいるしね。勿論、今先輩にもよくしてもらっているよ」

 

「そうか。上手くやっているならいい。あまり来馬先輩に迷惑かけるなよ」

 

「そっちこそ、上手くやっているのかい?」

 

「んだよ、藪から棒に」

 

「最初にこの話しを振ってきたのは比企谷だろ。学校ではこう言う事は話せないからな。いい機会だから、皆の近状を聞いておこうとね」

 

「……材木座のバカは元気に玉狛支部の技術者として勤しんでいる。未だに弧月以上のブレードトリガーを作る事に固執しているがな。結果は散々だ」

 

「材木座君らしいね。他の人達は?」

 

「他の人達はって……まさか、知らなかったのか? あいつらは記憶封印処置を受けて、ボーダーを抜けたんだよ」

 

「……え?」

 

「第二次大規模侵攻時に色々あったんだ。お前が勝手に単独で行動した後に、色々とな」

 

「そうだったのか。道理で会話がかみ合わなかったわけか」

 

 

 以前、誰にも邪魔をされずに話す機会があったので、それとなく会話を振って見た事がある。その時は「私がボーダー!?」と驚かれ「冗談がきついよ、葉山君」と一笑されてしまった。しかし、記憶封印処置を受けていたならば納得できる。

 チームメイトは情報漏洩を防ぐためにボーダーの時の記憶を封印されてしまった。葉山がチームメイトと出会ったのはボーダーの時であったので、会った時に「初めまして」と挨拶をされても不思議じゃなかった。

 

 

「あいつらが決めた道だ。あまり奴らの記憶を突く真似はするなよな」

 

「分かった。今後は気を付けるとするよ」

 

「あぁ、そうしろ」

 

 

 二人の間に気まずい空気が立ち上る。

 八幡としては「やはり、元チームメイトの近状は教えておくべきだったか」と今になって後悔しており、葉山に至っては「自分の良ければ、と思ってやった事が」と失敗の記憶を思い浮かべて表情を暗くさせている。

 そんな二人の重たい空気を切裂いたのは迅悠一であった。二人の肩に腕を回して引き寄せる。

 

 

「ほらほら、二人とも。そんな暗い顔をしていないで、俺と一緒に現場調査しに行こうぜ。……これから戦いが控えているんだから、仲良くしてくれよな」

 

 

 後半の小声で囁かれた言葉を耳にして、二人の表情が引き締まる。一瞬で気持ちを切り替えた二人に頼もしさを感じつつ、笑顔を繕って呟く。

 

 

「あまり顔に出さないでくれよな。メガネ君と隣の彼に気付かれたくないからさ」

 

「……例の黒幕って奴の事でしょうか?」

 

「そ。流石八幡、正解。本当は俺一人で迎撃しようと思ったんだがな。せっかく来たんだから、手伝ってくれよ」

 

「それも、迅先輩のサイドエフェクトが言っていたんですか?」

 

「ま、そういう事。お昼は俺がおごるからさ、手伝ってくんない」

 

 

 中々魅力的なお誘いであった。そう言えば、緊急出動したのがお昼時。まだ八幡と葉山は何も口にしていなかった。横で「えーと」と悩んでいる葉山を放って置いて、八幡は「高いですよ」とニヒルに笑って了承したのであった。

 

 

 

***

 

 

 

 そんな密会が交わされた事などつゆ知らずの三雲は現在進行形で褒め称えられていた。

 

 

「みくもぉ~。お前、ボーダーだったのかよっ! いいなぁっ!!」

 

 

 真先に三雲に突撃したのは、自他共に認めるボーダーマニアの三好であった。以前、入部を希望して試験に挑み、会えなく落ちてしまった三好からして見ると、今の三雲の姿は羨ましい以外の感情は吹き飛んでしまったのかもしれない。

 

 

「ほんと、助かったよ。ありがとな三雲君」

 

 

 相変わらずの反応を見せる三好を黙らせた四谷も助けられた時の感謝を告げる。それを合図に全員が「助かった」「ありがとう」と三雲に向けて賛辞を贈る。

 普段、クラスメイトはおろか他人からここまで感謝をされた事がなかった為、賛辞を贈られた三雲は「ボーダーだから当然だよ」と謙虚な態度を見せる。

 そんな強者を装わない三雲の態度が功を奏してしまったらしく、ますます周囲の者は三雲の事を褒め称え続ける。

 

 

「いやぁ。オサムがいなければ今ごろどうなった事か……。オサムは命の恩人です」

 

 

 ふと空閑の声が耳に届く。学校の皆から煽てられて照れていた故、空閑から目線を外してしまったのであった。まずいと思って慌てて彼の方を見やると――。

 

 

「凄かったぞオサムは。襲い掛かるモー……いや、ネイバーの攻撃をヒラリヒラリと躱しつつ、距離を詰め寄って一閃。最後の足掻きを見せるネイバーの凶刃を切り伏せて、一刀両断。いやぁ、他の皆にも見せてあげたかったぁ」

 

 

 捏造にも程がある回想説明をする空閑の口を慌てて塞ぐ。ただでさえ慣れない空気にどう対処していいのか分からないのに、今の空閑の話しで尊敬の眼差しすら送ってくる者達を相手に出来るほど肝は据わっていない。

 

 

「おい空閑。なに勝手な事を口にしているんだよ」

 

「俺が敵だった事を隠さないといけないだろ。ここは派手にヒーローが戦ったって説明した方が手っ取り早い」

 

「だからと言って、おまえなぁ――」

 

 

 これ以上、可笑しな事を口にされては今後の学園生活に支障が出る。どうにかして、これ以上の被害が拡大しない様にしたかったが、もはや時既に遅しと言ったところだろう。

 

 

「――頼むよ、オサム。じゃなくてヒーロー」

 

 

 ついさっきまで殺し合いをしていたはずの親友の態度に呆れつつ、とりあえず空閑の耳を軽く抓った三雲であった。

 そんな和気藹々とした空気の中、校庭に飛び降りるものがいた。

 

 

「嵐山隊、現着しました」

 

 

 A級5位の嵐山隊であった。


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