八雲立つ出雲の開闢者(仮)   作:alche777

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021:一日に二度も

 迅達が次なるイレギュラーゲート事件に遭遇する少し前。

 学校のヒーローにクラスチェンジを遂げた三雲修は色んな意味で満身創痍と化していた。

 

 

「……オサム、無事か?」

 

「あんまり、無事じゃないかも知れない」

 

 

 現在、教室には空閑と三雲しかいないが、ほんの少し前まで三雲の教室には大勢の人で埋め尽くされていた。まさか、自分達の学校にボーダーに所属している隊員がいるとは思ってもみなかったのであろう。ただでさえ、注目する理由にも関わらず昼食時の事件のせいで三雲を一目見ようと集まる者が大勢いたのだ。

 三雲か彼らが悪気があって集って来たとは思っていないので、怒涛に押し寄せる質問の嵐に懇切丁寧に答えたのが疲労の一端となっている。

 

 

「にしても、空閑。あんまりボーダーの人間に噛みつくのはよせ。変に勘繰られたら困るのは空閑だぞ」

 

 

 木虎の件を言っているのであろう。

 

 

「あの女がやたらえらそうだったからつい、な」

 

「だからと言って、あれはないだろう。彼女にもA級としてもプライドがあるんだ。大衆の前で侮辱したら、彼女の面目が潰れるだろ。それにあんまり目立った行動を取るのは良くない」

 

 

 空閑遊真はネイバーである。それに付け加えて、自身の学校を襲った張本人でもある。理由はどうあれ、空閑の正体がばれたら確実に拘束あるいは討伐対象になってしまうだろう。

 

 

「けどな、オサム。おれはああいう大したことしていないくせにえらそうなやつが大っキライなんだ」

 

「……まぁ、気持ちは分からなくはないけど。とにかく、あんまりボーダーの人間に噛みつかないでくれ。少なくとも師匠達に相談するまでは」

 

 

 空閑から得た情報は今後の未来に大きく影響される。そんな重要な情報を上手く扱う自信は三雲にはなかった。本当ならば戦闘後に来てくれた迅と八幡に相談したかったのだが、隣に見知らぬボーダーの人間がいたのでそれは叶わなかった。

 

 

「オサムがそう言うならば、すなおにしたがうよ」

 

「そうしてくれると助かるよ。とりあえず、一緒に玉狛支部に行こう。空閑から得た情報を師匠達に報告しないといけないしな」

 

 

 

***

 

 

 

 帰宅準備を済ませた二人は校門辺りで人だかりが出来ているのを発見する。集まる人間の殆どが携帯電話を片手に「ポーズをお願いします」やら「こっちを見てください」と注文している。

 

 

「……なんだ、アレ?」

 

「さぁ?」

 

 

 空閑に問われるが、人だかりが出来る理由など三雲が知る由もない。気にならないと言われたら気になるところであるが、今はそんな事など言っていられない。

 二人は人だかりの隙間を縫って突破を試みる。

 

 

「ちょっと!」

 

 

 どうにか人だかりから通り抜けた二人は、そのまま玉狛支部がある方向へ足を歩み出すのだが――。

 

 

「待ちなさいって言っているでしょっ!!」

 

 

 何者かが三雲の肩を掴んだので、移動する事ができなかった。

 

 

「……キミは?」

 

 

 自身の肩を掴んだ人間が意外な人物であった。

 

 

「……待っていたわ。確か三雲くんだったわね?」

 

「嵐山隊の木虎藍さん? なんで、こんな所に」

 

「あなたを待っていたわ、三雲くん。これからちょっと時間を貰ってもいいからしら?」

 

「……はい?」

 

 

 

 ――なんなんだ、この展開は……。

 

 

 

 いま現在起こっている展開に、三雲は動揺せずにいられなかった。

 

 

 

***

 

 

 

「つまり、木虎は僕とランク戦をしたいから、わざわざ学校の前で待っていたの?」

 

「そうよ、何度も言わせないで」

 

 

 いやいやいや。普通、そんな事で他校の校門の前で待っているなどありえないだろ。とツッコミを入れたい所であったが、彼女の纏っている異様のない圧力に怯んでしまって言うに言えなかった。

 

 

「悪いけど、今日は玉狛支部で訓練があるんだ。だから、また別の機会にしてくれないか?」

 

「……ん? オサム――」

 

 

 下手な嘘をつくな、と指摘しようとする空閑の口を抑える。ここで下手に茶々を入れられたらまとまる交渉もまとまらない。先の会話で分かった事であるが、木虎と空閑の相性はよくない。何とか彼女の誘いを断って、玉狛支部へ向かうのが今回のミッションである。

 

 

「……玉狛支部?」

 

 

 気のせいか木虎の眉が跳ね上がる。

 

 

「あなた、玉狛支部の人間なの?」

 

「え? そ、そうだけど……」

 

「じゃ、じゃあ。か、烏丸先輩と一緒なの!?」

 

 

 迫り寄る木虎。

 急に態度を変化させた木虎に困惑する三雲であったが、彼女の問いに大きく頷いて返す。

 

 

「烏丸先輩は僕の師匠の一人だから、当然と言えば当然だよ」

 

「……し、師匠? 烏丸先輩が?」

 

 

 三雲の言葉に木虎の目が丸くなる。

 彼女の異様な反応に三雲は首を傾げる。はて、自分は何か変な事を言ったか、と。

 

 

「な、なんて羨ましい」

 

「……ごめん、木虎。いま、なんて言ったの? よく聞こえなかったんだが」

 

「な、何でもないわっ!!」

 

 

 思わず本音が漏れてしまった事に慌てて木虎は誤魔化す。顔に熱が帯びているのを感じつつ、木虎は言葉を続ける。

 

 

「烏丸先輩の弟子と言うなら尚更だわ。私とランク戦をしなさいっ!」

 

「何が尚更なのか分からないんだけど、今日は無理だと言ったよね?」

 

「私はあなたみたいに暇じゃないの。訓練などいつでも出来るわ。けど、私とのランク戦は今日しか出来ないのっ!!」

 

「言っている事が無茶苦茶だと自覚してる!? だから無理なんだって。どうしても、今日は玉狛支部に行かないといけないから」

 

 

 ランク戦が出来る施設は本部のみ。いま木虎の要望に応えたら、玉狛支部に着く時間が大幅に遅れてしまう。それは三雲からしてみればよろしくない。一分一秒でも早く空閑を玉狛支部に連れて行かなくてはいけない。

 

 

「大体、A級の木虎がB級の僕とランク戦をしたがるのさ? 言っとくけど、僕と戦った所で木虎にメリットがあると思えないぞ」

 

「それは……」

 

 

 返答に窮する木虎。

 自分が心の内に秘めている言葉を三雲に話したくなかったからである。その言葉を口にしたら、まるで自分が三雲を僻んでいると思われるからだ。

 

 

「(今日のあの近界民……。一撃で正確に急所を破壊していた。止まっている的ならいざ知らず、実践であれほど正確に攻撃できるなんて。……なんで、今の今まで名前が上がらなかったのかしら?)」

 

 

 聞く話だと三雲は木虎自身と同い年。自分と同い年の実力者は多数知っているが、三雲修の名前は今の今まで聞いた事がない。

 

 

「(あの烏丸先輩の弟子も考慮すると、まさか私よりも優秀なわけ!? そんなわけないわ! 私はA級隊員。私の方が上よ)」

 

 

 ただでさえ、意中の烏丸の弟子と言うだけで気に食わないのに、自分よりも優秀かも知れないと考えてしまうと、負けず嫌いの木虎からしてみれば見過ごせない事態である。

 なら、ちょうど時間も空いている事だし、この時間を利用してランク戦に持ち込み、優劣をはっきりしようと考えたのだ。

 しかし、それを正直に話す事は出来ない。先ほども言ったが、その事情を話したら自分が三雲に劣等感を抱いていると告白しているも同意だ。

 

 

「話せないなら、また今度にしてくれ。師匠達からもそろそろランク戦で腕を上げろと言われているから、近いうちに本部に行くと思う」

 

 

 それじゃ、と話しを打ち切って空閑と一緒に玉狛支部方面へ歩き出す。

 

 

「ちょっと、待ちなさい――」

 

 

 そうはさせないと、木虎が腕を掴もうとした時、緊急警報を知らせるアナウンスが鳴り響く。

 

 

 

***

 

 

 

「来たか!?」

 

 

 現場で待ち受けていた迅は、上空で門が発生したのを確認してトリガー風刃を抜く。

 

 

「二人とも、準備はいいね」

 

「比企谷、了解」

 

「葉山、いつでも良いです」

 

 

 上空から出現したトリオン兵、イルガーを見据えつつ二人もトリガーを起動させる。

 

 

「相手はイルガー二体ですか。厄介っすね」

 

 

 一見、魚の様な形をしているトリオン兵の名はイルガー。空中を優雅に泳ぐ奴は爆撃用トリオン兵と言われており、下手にダメージを与えると厄介な機能が働く敵である。

 

 

「俺はあのトリオン兵を視るのは初めてだが、どう言った敵なんだ?」

 

「奴は大きなダメージを受けるとも人間が多くいる密集地目掛けて特攻をするんだ。自爆目的でな」

 

「なんだって!? じゃあ――」

 

「確実に急所を貫く必要がある。安心しろ、迅先輩の風刃があればなんてことないさ」

 

 

 動揺を隠しきれない葉山に「問題ない」と八幡が言い切る。敵の装甲はモールモッドと比べてはるかに厚いがそれでも迅の黒トリガー風刃の敵ではない。

 

 

「いや、八幡。どうやら、そう簡単な話じゃなさそうだぞ」

 

「は? どういう意味……。なるほど。確かに美味くいかなそうですね」

 

 

 迅が指差す場所を見て、八幡は弧月に続いてレイガストを起動させる。葉山も二人の視線の先を見やり、顔を強張らせた。

 

 

「あれが……人型ネイバーか!?」

 

 

 イルガーの背中に立つ人影を見やり、葉山も散弾銃に続いて突撃銃を顕現させる。

 

 

「まだ一般人が避難しきれていない。第一優先として、市民の安全を第一とする。二人とも当てにしているぜ」

 

「比企谷、了解」

 

「葉山、了解」

 

 

 迅の指示に従い、二人は二体のイルガーに向かって跳びあがる。

 

 

 

***

 

 

 

「敵兵を発見。あんたの言った通り、敵が待ち伏せをしていたな」

 

「敵兵の数は?」

 

「三人だ」

 

「三人? 一人じゃないのか?」

 

「いや、三人のようだ。目が腐った少年と金髪の少年、その後方からもう一人来ているな」

 

「目が腐った少年と金髪の少年だと?」

 

 

 ユーゴの報告にジンは思案する。自分が見た未来にそんな二人の少年は存在しなかった。

 

 

「どうする、ジン。予定を変更するか?」

 

「そうだな、念には念を入れよう。貴公はその腐った目の少年と金髪の少年を相手してくれ。俺は迅悠一を相手する」

 

「イルガーはどうするつもりだ?」

 

「適当に泳がせておけ。墜ちそうになったら、十八番の自爆戦術を使えばいい」

 

「了解した」

 

 

 一通りの指示を受けたユーゴは自分達目掛けて突っ込んでくる八幡と葉山に向かって飛び降りる。

 

 

「さぁ、始め様か迅悠一。お前が見ている未来は、俺がことごとく潰してやる」

 

 

 続いてジンもユーゴに続いてイルガーから飛び降りる。

 

 

「出番だ【鎌風】」

 

 

 己のトリガー――風刃と瓜二つな――【鎌風】を起動させ、迅悠一目掛けて突貫する。


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