八雲立つ出雲の開闢者(仮)   作:alche777

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005:点火せし、タカの翼

「あの……。本当に僕なんかがテスターでよろしいのでしょうか?」

 

 

 現在の状況に全く持って納得していない三雲がモニターで閲覧しているであろう者達に向けて尋ねる。手にはついさっき完成した新トリガー高翼【ホーク】とオプショントリガーが登録されているトリガーが握られている。

 師の一人八幡に「お前、試しに使ってみろ」と半ば強制的に訓練場へ放り込まれたのであった。

 

 

『いいに決まっているだろ、三雲。最後の決め手はお前なんだ。お前がそれのファーストテスターになる権利は充分あるぞ』

 

「しかし、先輩。このトリガーは僕よりも――」

 

『もうっ! つべこべ言わずにさっさとトリオン体になりなさいよ、修っ! 本当ならそのトリガーは私が最初にやるはずだったのよ』

 

 

 金切り声をあげるは、玉狛支部紅一点の小南桐絵。口より先に手が出るタイプの彼女の機嫌を損なったら、理不尽な仕打ちが待っている。玉狛に来て色々と痛い目にあった三雲は彼女を怒らせる前にトリガーを起動させる。

 

 

「は、はいっ! トリガーオン」

 

『……どうだ、智将殿。どこか体に違和感とかないか? 細かい事でも良いから、素直な感想を聞かせてくれたまえ』

 

 

 トリオン体になった三雲は自分の身体を確かめる様に動き、不備がない事を確認する。

 時たま、不備があってトリオン体に支障が起こる時があると材木座に聞かされていたため、問題がない事に一安心した。

 

 

「その……。とりあえず、その呼び方はどうにかならないのですか?」

 

『ふっ。愚問だな智将殿。我らは互いに研鑽を積み重ねた仲であろう。お主に敬意を込めて、そう呼んでいるまでだ』

 

「はぁ……」

 

 

 なにが愚問なのか、なぜに智将なんて偉い呼び方をされているのか教えてほしいと胸中で呟く。玉狛支部に入ってから、トリガーの基礎知識を教えてもらった恩がある為、強く物申す事が出来ない三雲であった。事実、そのためにトリガーを弄れるほどの技術力が自然と身に付いたのは驚くべき成果と言えよう。

 

 

『おい、材木座。時間が惜しい、早速初めてくれ』

 

『心得た。さて、智将殿。まずは、トリガー【ホーク】を起動してくれないか』

 

「……分かりました」

 

 

 材木座に言われるまま、トリガー【ホーク】を起動させる。両腕に飛行機の翼と似た形状の何かが生み出される。

 

 

『トリガーの起動を確認。……どうだ、三雲。【ホーク】を使った気分は』

 

「その……。少し重いですね」

 

『ま、レイガストより重いからな。そりゃ、重いだろうな。んじゃ、折角だから、ここいらでトリオン兵と戦って貰おうか』

 

「た、戦う!? ちょっと、先輩。そんな話し一言も――」

 

『テスターなんだから、性能試験をやるのは当たり前だろうが。宇佐美、遠慮せずにどんどんトリオン兵を出してくれ』

 

 

 容赦のない一言に、修の額から滝の様に汗が流れる。

 

 

『アイアイサー。じゃあ、修君。最初はバムスター辺りでいこっか?』

 

 

 と、オペレーターの宇佐美栞は言うが、修の回答を待たずに訓練場に仮想敵バムスターを出現させる。

 2階建ての一軒家程の大きさであり、最も知られているトリオン兵。人間を捕獲する目的で作られたトリオン兵であり、装甲はそこそこ頑丈。しかし、攻撃力は乏しく動きは鈍重の為、正隊員ならば苦も無く倒せなくてはいけない雑魚中の雑魚。

 だが、その雑魚に三雲は何度も苦戦を強いられていた。仮想訓練時にC級隊員は劣化バムスターの相手をさせられるのだが、三雲は一度も規定時間内に倒した記憶はない。

 玉狛支部の先人達に指導をしてもらい、それなりに戦いの術を得てB級に上がったとは言え、トリオン量が極端に少ない自分がトリオン兵を倒せるのか不安で仕方がなかった。

 相対するトリオン兵――バムスター。しかし、不思議な事に目の前のバムスターは修の知るバムスターよりも一回り、いや二回り……軽く十回りは超える超大型であった。

 

 

『……栞、あんた』

 

『ご、ごめん修君。間違って百メートル級のバムスターを出しちゃった』

 

 

 あまり先輩を疑いたくはないが絶対にわざとだ。だって、宇佐美の声色から反省の色が全く持って感じられないのだ。少しだけであったが、笑い声も確実に聞こえてしまったのである。ぜったい、わざと改造バムスターを出現させたのであろう。

 

 

「三雲、起こった事は仕方がない。まずはトリオンを【ホーク】に流し、バーニアを噴射させろ。効果はレイガストのスラスターと同様だ」

 

「は、はいっ!」

 

 

 言われた通り、一対二翼のホークにトリオンを流す。燃料を受け取ったホークは翼に取り付けられていた噴射ノズルから白煙が噴き出す。

 

 

『よしっ。後はそのまま、バムスターに向かって斬りつけろっ!』

 

 

 トリオンによって推力を得たホークはバムスター目掛けて飛来する。三雲の身体ごと。

 己の身体が宙を浮いた事に戸惑いを隠せない三雲であったが、焦っている暇はなかった。目の前に巨体のバムスターが迫っているのだ。このまま何もしなければ、激突するのみ。

 だが、三雲修はどんな状況でも冷静に分析をして、考える事が出来る。師匠である八幡の言葉を思い出し、身体を捻らせてホークの推進力を利用した人間独楽となって突撃する。

 一閃。ホークの翼はバムスターの身体を引き裂き、独楽のように回っていた三雲は着地をするなり、尻餅をついて身動き一つしなくなった。あまりの回転力に目を回してしまったようだ。

 

 

『おぉっ! 凄いよ、修君。二十秒を切ったよ、これって自己新記録更新じゃないっ!?』

 

『当たり前だ、新トリガーの威力を舐めるなよ。おい、三雲っ! ぼけっとするな、どんどんやれ』

 

 

 容赦のない命令に「鬼だ」と小さく呟く。だが、その三雲の愚痴は当然モニタリングしている一同に聞こえていた。

 

 

『……宇佐美、容赦する事なくじゃんじゃんやれ。お前の夜叉丸シリーズだっけか? アレをどんどん繰り出せ』

 

『了解』

 

 

 弟子の何気ない一言に八幡の機嫌が損なわれたようだ。まだ戦った事もないトリオン兵、改造型モールモッドが出現する。

 

 

「せ、先輩。幾らなんでも……」

 

『泣き言を言うな。オプショントリガー【イグニッション】を使ってみろ』

 

「い、イグニッションっ!」

 

 

 再び、ホークのバーニアが噴射される。今度は三雲の両腕から離れ、単独で飛来する。高速回転しながらぶっ放されたホークはモールモッドの両腕を切り裂いて通り過ぎていく。

 けど、未だにモールモッドは健在。折りたためられていた残り六本の脚を展開し、無防備の三雲目掛けて突進する。普通ならば再びホークを展開して迎撃を図るところであるが、放ったホークは大きく弧を描き、モールモッドの背中を引き裂いて三雲の元へ戻ってきたのであった。

 

 

「す、すごい。……これが新トリガーの威力」

 

『ま、及第点と言った所か。耐久力やトリオンの効率も計測したいから、あと数匹倒すまで、続けろよ』

 

「へっ!? ちょ、ちょっと先輩」

 

 

 抗議するが返事がない。どうやら、通信を終了したみたいだ。

 あんまりだとぼやくよりも早くさらにバムスターとモールモッドが出現した為、三雲は二体のトリオン兵と戦闘を開始したのであった。

 

 

 

***

 

 

 

「ふむふむ。どうやら、まずまずと言った所だろうか。智将殿のトリオン量であれだけの加速力が出せるならば、成功したと言えようか」

 

「だな。だが、欲を言えばもう少し軽量化を図りたい所だ。レイガストぐらいまで軽く出来ればいいのだが」

 

 

 計測結果を凝視する材木座と八幡が各々感じた点を口にする。それを後ろで見守っていた迅がぼんち揚げを頬張りながら割って入る。

 

 

「いやいや、充分な結果だろう。オプショントリガーなしでスラスターと同じ効力を引き出せる点がいい。……まあ、見た目が少々不格好かも知れないがな」

 

「そうね。どうせならば、名前通り鷹の翼とかにした方が格好良かったんじゃない」

 

 

 同様に三雲の健闘を見守っていた小南が口にする。

 

 

「イメージが戦闘機のホークなので。……ま、もう少し見た目に気を遣うべきだったな」

 

「うむ。それは今後の課題としようか。……時に八幡。そろそろ我は夢路の旅へ赴いてもよかろうか」

 

「おう、ご苦労さん。ゆっくり休め」

 

「うむ。では、迅殿。小南嬢。我はしばしの休息を取る為、これにて失敬」

 

 

 既に限界を超えていた材木座は覚束ない足取りでモニター室から退室する。

 

 

「あいつ、大丈夫なの?」

 

 

 流石に心配したのか小南が心配そうに尋ねる。けど、八幡は「大丈夫だろう」と言って切り捨てる。

 

 

「あんな状態になっても、趣味の小説を書く変態なんだから」

 

 

 小説と聞いて表情を歪ませる小南。彼女もあの小説と言い難い文章を読んだ者の一人である。

 

 

「……ほんと、未だに信じられないわね。あんたくだらない小説を書く奴が、玉狛支部エンジニアとしていなくてはならない奴なんだから」

 

「そこが中二君の凄い所なんだよ。……もしかしたら、あのホークのアイディアも小説から来たかも知れないよ?」

 

 

 迅の予想は当たりであった。どちらかと言うと元ネタはゲームの類であったが、それを見て「ティンと来たっ!」と言って、八幡に今回のトリガー製作の協力を要請したのである。

 

 

「……あの、みなさん。そろそろ、修君の事も見てあげたら」

 

 

 完全に三雲そっちのけで談笑する三人に向けて言う宇佐美。こうして話している間に三雲は既に七体のトリオン兵と奮闘していたりする。

 何気に戦闘技術が向上している事に着目する三人であったが、いい機会なのでしばらく様子見をしようと心に決めたのであった。


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