東方恋華想《完結》   作:室賀小史郎

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恋人は神奈子。


神奈子の恋華想

 

 妖怪の山ーー

 

 山に社を構える守矢神社。

 静かな昼下がりの境内を神社の主である神奈子は落ち着きなく歩き回っていた。

 そんな神奈子に諏訪子が声をかける。

 

「少しは落ち着きなよ〜。神奈子〜」

「これが落ち着いて居られるか! いつもの時間になっても来ないんだぞ!?」

「いつも同じ時間に来れる訳ないじゃん。いいから落ち着いて待ちなよ」

 

 諏訪子はそう言うが、神奈子の方は「風邪でも引いたんじゃないか」、「来る途中で妖怪に襲われたんじゃないか」、「だとしたらその妖怪を消し炭にしなくては」などとつぶやいていて諏訪子の言葉はまるで耳に入っていなかった。

 

 神奈子が心待ちにしている人物とは、数年前から魔法の森に住み着いた魔法使いの男のことで、この男は神奈子の恋人なのだ。

 この魔法使いは他の魔法使いと違って科学的な思考を持ち、独自の理論を展開しては周りから異端児として見られている。

 そんな男に興味を持った神奈子が早苗を遣いにやって神社の宴会に招待したのが二人の出会いだった。

 この男も外の世界出身であるため、神奈子と同じく外の高度な技術や科学知識を知っているのもありすぐに意気投合。

 そして周りから異端児扱いされる男の理論も神奈子は真剣に議論し、それは神奈子にとっても男にとっても充実した楽しい時間だった。

 それから二人は会う頻度が増え、互いに互いを意識し合うようになり、今では恋仲というところにまで発展したのだ。

 

 そして神奈子はいつも男が来る時間になっても現れない彼を心配して落ち着きがないのだ。

 時間が過ぎていると言ってもほんの二、三分である。

 

「今は人間を襲う妖怪なんて殆ど居ないんだから大丈夫だって〜」

「殆どだろう!? 零でないのなら心配して当然だろう!?」

「仮に襲われたとしてもあいつだって魔法使いなんだから大丈夫でしょ〜」

「それでも万が一があるだろう!?」

 

 ああ言えばこう言う神奈子に諏訪子はお手上げ状態で口をつぐんで苦笑いを浮かべる他なかった。

 その間にも神奈子は「あ〜、心配だわ〜」と言いながら境内を彷徨いていた。

 

「そんなに心配なら毎回迎えに行けばいいじゃん」

「重い女だと思われたくない!」

「来たら来たでベッタリなくせによく言うよ」

「あ、あれはあやつが離してくれないからであって、私がくっついている訳ではない!」

「その割には嬉しそうだよね〜」

「そ、そりゃあ、あんなにも好意を寄せてもらえるのは嬉しいからな……」

「そっかそっか〜」

(乙女の顔しちゃってま〜)

 

 神奈子は嬉しそうに顔をほころばせ、ほんのり赤く火照った両頬を手で押さえてモジモジしていた。

 そんな神奈子を諏訪子が微笑ましく眺めていると、鳥居の方から声がした。

 

「神奈子様〜、諏訪子様〜、只今戻りました〜♪」

「こんにちは〜」

 

 そこには入信者集めから帰ってきた早苗に加え、魔法使いの男の姿もあった。

 それを見た神奈子はまさに神風張りの速さで二人の元へ向かった。

 

「どこをほっつき歩いていたんだ! 心配したんだからな!」

「い、いや〜、来る途中で早苗ちゃんと会ってさ。こうしてチラシを運ぶのを手伝ってたんだよ……」

「そ、そうだったのか……早苗が世話になったな。ありがとう」

「これくらいどうってことないさ」

「…………うん♡」

 

 二人はそのまま抱き合ったまま互いに見つめ合い、二人だけの世界に入ってしまった。

 

「あのぉ〜……」

「今話しかけたって聞こえやしないよ。早苗は余ったチラシ持って、戻って私とお茶でも飲も」

「わ、分かりました〜」

 

 それから早苗は一応神奈子達にも挨拶してから諏訪子と共に宿舎の方へと消えていった。

 自分達の世界に浸る二人はそれに構うことなく、愛を囁き合い、更には互いの唇をついばみ合いつつ、時を過ごすのだった。

 

 幾度も互いの唇をついばみ合った二人はやっと場所を移した。

 二人は諏訪子が河童に頼んで境内に作らせた二人専用の宿舎でまったりとラブラブな時間を過ごしていた。

 どうして新たに宿舎を作ったのかというと、神奈子が彼氏と人の目を気にせずにいちゃラブ出来るようにという建前で、ただ単に同じ宿舎だとうるさいから作らせたのだ(特に夜がうるさい)。

 

「うふふ、お前とこうしていると夫婦になったみたいで心が踊るよ♡」

 

 神奈子は男に後ろから抱きかかえられるような形で背中を預けて座っている。

 

「神奈子は本当に言うことが乙女チックだな」

 

 男はそう言いつつも「でもそこが可愛い」と続け、神奈子を後ろから優しく抱きしめていた。

 

「可愛いとか……止めなさいよ、恥ずかしいから♡」

「恥ずかしがったって、ここには俺と神奈子しかいないだろ。それに、思ったことは素直に口に出す性格なんだよ、俺は」

「むぅ……意地の悪い人♡」

「そんな意地の悪い人と付き合ってるのはどこの神様かな〜?」

 

 男にそう返された神奈子は「私です……♡」と素直に認めるしかなかった。すると男は「神奈子は本当に可愛いな〜」と上機嫌で言葉を発し、神奈子の頭を優しく撫でるのだった。

 

「ね、ねぇ……」

「ん?」

 

 神奈子の呼びかけに男が返事をすると、神奈子は彼から離れて今度は向かい合う形で彼の膝の上に座った。

 座った神奈子は何やら潤んだ瞳で男の目を見つめ、彼の首に回した両手をクイックイッと動かしながら何かのアピールをしている。

 

「何かな〜?」

 

 神奈子が何を求めているのか分かっている男は、敢えて意地悪な質問をした。

 それに対して神奈子はほんのりと頬を赤くさせてモジモジしながら目を逸らした。

 

「言ってくれなきゃ分かんないな〜」

「分かってるくせに……意地悪しないでよ♡」

「好きな娘には意地悪したくなるの性格なんでね、俺は」

「むぅ〜……ちゅう……♡」

「え?」

「ちゅうしたいの、バカっ!♡」

 

 神奈子が顔を真っ赤にしてハッキリと答えると、男は満足気に笑って「悪い悪い」と謝ってから神奈子の唇に自身の唇をソッと重ねた。

 

「っ……んっ♡ んむぅ♡ ちゅっ♡ ちゅ〜♡」

「ん、かな、こ……んんっ」

「離しちゃだめ……んっ♡ もっと、このまま♡ はむっ♡」

 

 息継ぎをしようと唇を離そうとするものなら、神奈子は透かさず唇を重ねて少しでも離れることを拒んだ。

 互いに吐息をもらし、はしたなくも唾液を垂らしつつ唇を重ね合った。

 やっと二人の唇が離れた頃にはお互いに肩で息をしていて、口の端々からは二人の唾液が糸を引いて怪しく光っていた。

 

「はぁ、はぁ……ふふ♡ 沢山、してくれたな♡ 嬉しい、ぞ……はふっ♡」

「殆ど……はぁ、はぁ……俺が、神奈子にされたい放題だった……気がするがな……ふぅ」

 

 すると神奈子は「神からの口づけなら嬉しいだろう?♡」と言って、コテンと男の肩に頭を預けた。

 そんな神奈子に男は「光栄ですよ、八坂様」と少しふざけて返し、神奈子の頭を優しく撫でてやると、神奈子は嬉しいそうに「んっ♡」と声をもらした。

 

「こんなにも幸せだと、信仰なんてどうでもよくなるな……♡」

「おいおい、信仰は大切だろ。存在が掛かってるんだからよ」

「そうは言うけどな……私はお前が居なくなった世を生きていけるか不安になるんだよ」

「俺は魔法使いだぞ……少なくともまだ千年は生きるさ」

「千年……お前にとっては長くとも、私にとっては短い年月なのさ……」

 

 悲観的に返す神奈子に男は「なら今をもっと幸せに過ごそう」と言って笑みを見せた。

 そんな彼の笑顔を見た神奈子は思わず嬉し涙を流して「うん♡」と頷くのだった。

 そして、

 

「じゃあ、その後のことも考えようか♡」

 

 と神奈子が言って男の体をギュッと手だけでなく足も使って抱きしめた。

 

「その後?」

「お前が死んでしまった後のことだ……お前が私と伴にあった証拠を残したい♡」

「それって……」

「お前が私にお世継ぎを残してくれるんだろう?♡」

「っ!?」

「それなら私も寂しくないからな♡ それにこればかりは私も一人では出来ん……だから一緒に……な?♡」

「そ、そうだな……」

「ひとりと言わず、何人でも……愛するお前が望むだけ産むぞ、私は♡」

 

 神奈子がもの凄いプロポーズを男にすると、神奈子はそのまま男に覆い被さり、愛の結晶作りに励むのだったーー。




八坂神奈子編終わりです!

連続して子作りエンドになりましたがご了承を。
こんな風に甘えん坊で積極的なB……神奈子様もいいですよね!

と言うことでお粗末様でした〜!

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