Fate/Grand Order 朱槍と弟子   作:ラグ0109

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#15

荒涼とした大地を、僕はクー・フーリンと2人で駆け抜ける。

眼前に燃え盛る黄金の腕状のトーチの形をしたターゲットを3体発見する。

その『腕』は掌を上に向けて炎を吐き出していて、その炎の中に輝く星の様な物体が見える。

僕はすぐさまクー・フーリンに指示を送り、攻撃を開始する。

 

「持ち前の速度を活かしてかく乱し、各個撃破!」

「あいよ!これで何体目だ!?」

「これで60体!早くしないと!!」

 

クー・フーリンは敵3体の内真ん中の『腕』に対して大跳躍からの奇襲で思い切り振り下ろした朱槍で両断。

挟み込む様に展開していた腕は、燃え盛る炎の中にある星を回転させて魔力の塊を作り出し始める。

それらの魔力は、全て奇襲してきたクー・フーリンに向けられている。

僕は身に着けていた新たな魔術礼装である『カルデア戦闘服』に仕込まれている疑似魔術回路を起動させ、手を銃のようにして人差し指をクー・フーリンの背後にいる『腕』へと向ける。

 

「『ガンド』!!」

「あらよっと!」

 

ガンド…それは元々アース神族の巫女が使用する脱魂魔術を起源とする呪いの魔法だ。

物理的な威力を伴ったものは『フィンの一撃』と呼ばれるらしい。

僕のこの魔術礼装を用いたガンドは物理的な威力は伴わないものの、対魔力スキルが高い相手に対しても届けば少しだけ動きを麻痺させることが出来る。

その代わり、疑似魔術回路を冷却するまでにスパンがあり、連続使用はできないので使うタイミングを見極める必要はある。

ガンドが直撃した『腕』は呪いによって身動きを止め、クー・フーリンに対して攻撃をする事が出来ない。

クー・フーリンは素早く一刺しで前方に居た『腕』を撃破すれば、青の外套を翻しながら後方宙返りの要領で跳躍し、背後に居た『腕』を真上から一突きで仕留め、着地と同時に地面に叩きつける。

 

「はぁ、はぁ…」

 

ぴっちりとしたボディスーツ状の戦闘服は見た目とは裏腹に耐熱耐寒機能に秀でて快適…な筈だった。

僕は全身から滝のように汗を流し、乱れる呼吸を整える。

理由は単純明快…現在進行形で呪われているからに他ならない。

 

「行けるか、マスター?」

「もちろん、行けなくても行きますよ兄さん。そろそろこのフィールドの終わりが見えてきましたからね」

 

荒涼とした大地の先に、青々とした草原が見えてくる。

普通であればあり得ない環境ではあるけど、ここは仮想シミュレーター内…あらゆる状況を想定してフィールドを作り上げる事ができるのだ。

僕たちはここまで雪原、溶岩地帯、ジャングル、森林、荒野と駆け抜けてきた。

遭遇した敵は全て殲滅して、だ。

 

『立香君もそろそろその最終エリアに入る頃合いだ。合流できるかな?』

「わかりました、こちらもエリアが見えてきたので移動を開始します」

 

ロマンから立香さんが順調に難関を突破できたと言う連絡が届く。

あちらはあちらで相当な地獄を見せつけられたはず…心の奥でほんの少しだけ申し訳ない気持ちになるものの、お師匠からの呪いはないのでそこだけは安心した。

この仮想シミュレーター訓練は、兄さん達を召喚した直後にお師匠から提案された軽い歓迎会みたいなものだ。

はじめお師匠から提案されたときは、内心断るべきではないかと思っていた。

言うまでも無く、あの地獄の修行を立香さんに課す訳には行かないと言う真っ当な理由だ。

地獄を見るのは僕と兄さんだけで良い…。

なんて思っていたら立香さんは乗り気で『やります!』と声を上げ、エミヤはマスターの意向に従おうと同様に肯定。

マシュも同じく興味津々と言った様子で挙手してしまう始末…オノレェ。

こうして仮想シミュレーターの中に叩き込まれた訳なんだけども、僕に対してお師匠は2つの枷をつけた。

それが魔力消費量を倍加させる呪いと、ガンドの様に体調を悪化させる呪いだ。

後者は軽めの呪いだったので、少し熱がある程度で済んでいるものの、魔力消費量倍加がやばい。

半分宝具を封印されたような状況に陥っているのだ…撃てば、僕は無防備な隙を晒しかねない。

 

「赤マントも無事に抜け出したか…まぁ、あいつなら心配ねぇわな」

「仲良いですよね、なんだかんだ言って」

「やめろって…おら、行くぞ」

 

クー・フーリンが駆け出すのを見て、僕も再び足に力を入れて走り出す。

荒涼とした大地を抜け、青々とした草原のエリアへと踏み込むと爽やかな風が僕の頬を撫でていく。

合流ポイントまで向かうと、いつものカルデア制服に身を包んだ立香さんとマシュ、エミヤが並んで僕たちの到着を待っていた。

 

「おっそーい!」

「うん、ごめんね、ちょっと、手古摺って、ましてね…」

「あ、あの東雲さん、大丈夫ですか…?」

 

立香さんは此方の事情をまったく知らないので、天真爛漫な笑顔で僕の事を茶化してくる。

対照的にマシュは僕の疲弊具合を見て、おろおろとした表情でタオルを差し出してくる。

僕は有り難くそのタオルを受け取って、顔に張り付いた汗を拭っていく。

 

「まるで、全身に鉛を仕込まれたみたいな倦怠感がね…ハハッ」

「一度訓練を中止すべきでは…」

「始まったら完遂するまで終わるわけないじゃないか…マシュ?」

 

乾いた笑い声をあげて口元から魂を吐き出していると、何故かこの場にいる筈のないモフり要員が僕を憐れむかのように足に身体を擦り付けてくる。

なんで、フォウが此処に居るんだろう?

 

「どうやら、私のシールドに隠れていたみたいで…」

「フォウ!」

「フォウ、これからラスボスが控えているからね?あまり近くにいたら巻き込まれちゃうからね?」

 

僕は足元で必死に体を擦り付けているフォウに対してしゃがみ込み、やさしく頭を撫でる。

僕の言うラスボスとは、言うまでも無くこの仮想シミュレーションをやろうと言い出した張本人である。

フォウは僕の浮かべた乾いた笑みに何か思う所があったのか、同情するような眼差しを向けてくる。

 

「随分と遅かったな、クー・フーリン?」

「そっちは早かったじゃねぇか。珍しく弓兵に徹しでもしたか?」

「そんなところだ。彼女もまだまだ経験が少ないからな。それよりも…君のマスターはどうしたんだ?」

 

エミヤは周辺を警戒しながら、僕の変調を目にして訝しがるような視線をクー・フーリンへと目を向ける。

クー・フーリンは、ため息交じりに肩を竦めてエミヤに答える。

 

「スカサハからの試練ってやつさ。突っ込み癖を少しでも減らそうって魂胆だろ…通常よりも倍の魔力消費量で俺とスカサハの現界を維持してやがる」

「それは…いくらカルデアからのサポートがあるとは言え、無茶ではないか?」

 

御尤もです。

御尤もですエミヤさん、もっとお師匠に言ってやってください。

 

「あの女、こと修行に関しちゃ全力で来るからな…。俺が弟子だったころなんていきなり殺し合い紛いの訓練しかけられてな。見込みのない弟子を振るい落とすつもりでもあったんだろうが…とにかく遊びがないんで、こっちも必死に食らいつくしかねぇ」

「…東雲君。私は、君に深い同情を禁じ得ない」

「あ、はい…どうも…」

 

エミヤは何とも言えない曖昧な表情で此方を見つめ、僕はがっくりと項垂れるしかない。

それでも…それでもお師匠と居られるだけで僕は嬉しいのだけれど。

 

「漸く揃った様だな。待ちくたびれたぞ」

 

蜃気楼のように朧げな姿で此方に歩いてくる影。

それは徐々に実体を得てはっきりとしたシルエットを作り出す。

悠然と歩く姿は王者を思い起こさせる覇気を伴い、その手に持つ2本の朱槍は得物の血を求めて妖しい光を放つ。

影の国の女王スカサハは、僕たちの前に姿を現して冷たい笑みを浮かべる。

 

「おっと、本命が来なすった…準備は良いか?」

 

クー・フーリンは素早く槍を構え、エミヤはその手に黒い弓と刀身にカバーが付いたような剣を一振り用意する。

エミヤはその剣に魔力を込めはじめて弓に番え始める。

 

「クー・フーリン、40秒で良い時間を稼げるか?」

「ハッ、良いぜ。マスター、少しばかり耐えてくれよ!」

「わかりました。兄さん、全力で動いてください!」

「マスター達の守りは私が!」

 

全員で役割を決めた瞬間に、僕は魔術礼装に仕込まれている疑似魔術回路を起動。

英霊3人の霊基を一時的に底上げして戦闘力を上昇させる。

クー・フーリンは稲妻の如き速度で僕たちの居た場所から姿を消すと、お師匠に向かって槍を真一文字に振り払う。

 

「ほう、随分と速くなったものだな」

「あんたにこの槍の冴えを見せてやりたくってねぇ…!」

 

お師匠は涼しい顔をしてその槍の一撃を左手に持った槍で受け止め、素早く右手の槍でクー・フーリンを貫こうとする。

クー・フーリンはお師匠の一撃を軽く体を逸らすことで避け、受け止められていた槍を基点にして背後に回り込んだ勢いのまま回し蹴りを叩き込む。

お師匠は一連の動きを理解していたのかすぐさま跳躍してクー・フーリンの頭上を飛び越しながら5本の朱槍を呼び出し、弾丸が如き速度で一斉に撃ち出していく。

 

「そらっ!」

「なんの!!」

 

クー・フーリンは至近距離で撃ち込まれたにも関わらず全てを素早く槍を振ることで弾き飛ばし無力化、着地したお師匠と同時に地を蹴って踏み込み、高速の連続突きを互いに繰り出していく。

幾重もの紅の牙が交差するも互いの身を傷つけるには至らず、交差するたびに激しい金属音が草原に広がっていく。

お師匠とクー・フーリンの描く奇跡は陽炎の様に揺らめき立ち、魔力が籠っているのか弾ける度に周囲の草原を焼いていく。

幾合も合わされたその瞬間、エミヤの弓が大きく引き絞られる。

 

「退け!赤原を往け、緋の猟犬――『赤原猟犬(フルンディング)』!!」

 

エミヤの声と共に放たれる剣…赤原猟犬は真っ直ぐにクー・フーリンの背中を目掛けて飛び、クー・フーリンは体を大きく仰け反らせることでお師匠の槍とほぼ同時に避ける。

そのままお師匠の胸目掛けて吸い込まれるように着弾するかのように思われた赤原猟犬は、お師匠が朱槍を振るう事で容易く弾かれてしまう。

弾かれて空中に回転しながら放り出された赤原猟犬は、切っ先をお師匠に定めてすぐさま突撃していく。

その様は名前の通りの猟犬…獲物に対してしつこく追撃していくのだ。

これには感心したかのように眉根を吊り上げたお師匠は、素早く5本の朱槍を呼び出して赤原猟犬へと差し向け、軌道を逸らし続けながらクランの猛犬による突撃を受け止めていく。

 

「馬鹿な…あれでも騎士王が迎撃を諦めたレベルの魔力量だぞ…!?」

「え、エミヤさん!」

 

立香さんはエミヤの言葉に驚き、思わず声をかけてしまう。

騎士王が迎撃を諦めるほどの力を持った魔剣…それをお師匠は5本の朱槍による迎撃で逸らし続け、その状態でクー・フーリンの猛攻を受け止め続けている。

これが、武芸百般を修め、影の国を守り続けてきた女王の実力…それも、英霊化の影響で実力が発揮できない状態なのだ。

末恐ろしいと言う言葉さえ生温い…それゆえに頼もしくも感じる…とんでもない勢いで僕の魔力を抜き取っている事実を除けば。

 

I am the bone of my sword.(我が骨子は捻じれ狂う)――」

 

エミヤは、手を抜いてはいられないと言わんばかりに新たな剣を取り出す。

それは剣と言うには刀身が捻じれていて、最早ドリルの様に見える。

エミヤは躊躇することなくその剣を弓に番え、大きく引き絞っていく。

 

「――『偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)!!』」

 

今か今かと大きく引き絞られた螺旋剣は、エミヤの真名解放と同時に空間を削り取るかのように射出され、クー・フーリンはお師匠と槍を交わした瞬間に危機を察知して大きく跳躍して僕の元まで後退する。

螺旋剣と赤原猟犬…その二振りがお師匠へと直撃しそうになる瞬間、大型爆弾もかくやと言わんばかりの巨大な爆発が起きる。

その衝撃波は凄まじく、マシュが慌てて宝具を展開して壁を作らなければ、爆風で僕たちが吹き飛ばされていたかもしれない。

しかし、それでもまだ終わっていないように思える…何故ならば現在進行形で僕の魔力は減り続けているからだ。

 

「あれでもまだ現界してるってのか…!良太踏ん張りどころだ!」

 

クー・フーリンは今だ熱波吹き荒れる宝具の結界外に飛び出し、朱槍を全力で投擲する構えを取る。

同時に、爆炎を突き破る様に紅蓮の彗星が僕たち目掛けて投げ込まれる。

貫き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク・オルタナティブ)』…お師匠は宝具を開帳し、僕達を一気に殲滅する気だ!

僕は自分が膝をつくことも厭わずに魔力を全力でクー・フーリンに流し込み、クー・フーリンもそれに応える様に笑みを浮かべる

 

「『突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)!!』」

 

真名解放と共にお師匠のゲイ・ボルクに合わせて投擲されるゲイ・ボルクは、空中で確かに拮抗し、互いに押し合う様に動きを止める。

 

「いけぇっ!!!」

 

僕は思わず腹の底から討ち破れと願う様に声を出し、このゲイ・ボルク合戦の勝敗を見守る。

だが、僕たちは忘れていたのだ…お師匠は何本ものゲイ・ボルクを持っていたことに…。

ゲイ・ボルク同士の激突は、双方に込められた魔力が切れると言う形で唐突に終わりを迎え、その瞬間にもう1本…本命のゲイ・ボルクが今だ立ち上る煙の向こうから投擲される。

その威力は先ほどと寸分も変わらず、投擲することで風圧により晴れた煙の向こう側では満足そうに笑みを浮かべるお師匠の姿が見える。

その姿は流石に爆発に巻き込まれたせいかボロボロで、左目がつぶれたのか目を閉じてしまっている。

だと言うのに、その威圧感は健在だ。

クー・フーリンは真名解放を終えたばかり…ついでに言うと僕の魔力が底を尽きかけていて、とてもじゃないが2射目は間に合わない。

そこへエミヤが前へと躍り出て、右手を飛来する朱槍に向かって翳す。

 

「エミヤさん!?」

「此処は私が耐えてみせます、だからエミヤさんも!!」

 

立香さんは自身の英霊がこれから行う事が理解できず、マシュも再び宝具を使う為にラウンドシールドへと魔力を込め始める。

 

I am the bone of my sword.(体は剣で出来ている)――『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』!!!!」

 

アーチャーの掌に薄い紅色をした蕾が現れた瞬間巨大な7枚の花弁で出来た花へと変じ、眼前に障壁が7枚展開される。

このエミヤと言う英霊は一体何者なのだろう…ありとあらゆる剣を呼び出し、あるいは矢の代わりとして扱い、そして今は巨大な盾を作り上げて見せた。

ロー・アイアスとゲイ・ボルクが衝突した瞬間、クー・フーリンの時と同じく拮抗状態を作り上げる。

しかし、その盾は1枚、また1枚と薄氷を割る様に容易く突破されていき、4枚まで破壊されてしまう。

 

「エミヤさん、遠慮しないで私のありったけの魔力を使って!」

「了解した、マスター!!」

 

エミヤは突き出していた右腕に左手を支える様にして添え、膨大な魔力を盾に流し込む。

それと同時に僕はクー・フーリンに対して目くばせで指示を送りこむ。

今は無防備になっている…このチャンスを逃す訳には行かない。

クー・フーリンが姿を消した瞬間、耳元に金属音が再び響き始める。

やはり、光の御子…その速度はあらゆる英霊を凌駕しているのかもしれない。

やがて、残り1枚となった盾にゲイ・ボルクが食い込み始め破れそうになった瞬間、マシュがエミヤを押しのけて大盾を構える。

 

「真名、偽装登録…!うぅぅわぁぁぁぁぁ!!」

 

裂帛の気合と共に解放される守護結界。

それはマシュの気迫に呼応するように光り輝き、ゲイ・ボルクの勢いが急速に落ちていく。

行き場のなくなった魔力が守護結界の外で爆発を起こし、目を焼くほどの閃光が――

 

 

 

パシュっと言う音と共にコフィンの扉が開き、僕たちはフラフラとした足取りで管制室へと出る。

魔力と言う魔力は底を尽き、最早足元はおぼつかない。

対照的に、立香さんはまだまだ元気があると言わんばかりに確りとした足取りだ。

 

「いやー…スカサハさんってすごいね!」

「はい。あれで英霊化の影響で実力が100%引き出せていない状況だと言う事ですので、実際の女王スカサハはもっと強いと言う事になりますね」

 

立香さんの言葉にマシュは同意するように頷き、補足説明を行う。

その言葉に僅かばかり頬をひくつかせた立香さんは、迂闊な発言をしないように注意しようと心に固く誓っていた。

 

「皆お疲れ様、随分と大暴れしたみたいだね」

「大暴れなんてもんじゃないですよロマン…地獄…僕にとっては…」

 

ロマンは朗らかな笑みを浮かべて僕たちの元に歩み寄り、皆を労っていく。

根っこが善人だと言う事が彼の身体からにじみ出てくるようだ…この人が裏切者ではなくて本当に良かった…。

 

「藤丸 立香、ぼさっとしていないで早く来なさい!貴女にはこれから魔術に関する講義を受けてもらうんですからね!」

「ゲェッ、所長!?」

「マリー、発電所の方は目途がついたのかい?」

 

偽・英霊オルガマリー所長は、頬を怒りで上気させながら立香さんの襟首を掴む。

昨日のレイシフト中にめそめそしていたのが、まるでなかったかのようだ。

意識を切り替え、精力的に働くことでレフの1件を頭の片隅に追いやっているだけなのかもしれないけど…。

 

「えぇ、奇跡的にメイン動力に傷が入ってなかったから…そちらも首尾よくやりなさい」

「はいはい、所長殿の仰る様に頑張りますよ」

 

所長はロマンの返事に満足したように頷き、そのままズリズリと立香さんを引き摺って管制室を出ていく。

英霊化してから筋力が上がったのだろうか?

ぼんやりとそんなことを考えると、後方でクー・フーリンとエミヤが会話しているのが聞こえてくる。

 

「君の師匠は…」

「皆まで言うな…またあそこに突っ込まれるぞ!」

「承知した…だが、あれで軽めなのだろう…?」

 

ひそひそとした小声での会話は、エミヤにトラウマを植え付けるのに十分なインパクトがあったらしく顔色が些か優れていない。

お師匠もなんだか、面白い玩具を見つけたみたいな目をしていたし、エミヤの受難はこれからも続いていくのかもしれない…。

僕は一先ず訓練前に支給された戦闘服から制服に着替えようと管制室を出ようとしたのだけれど、いきなり体を後ろから担がれてしまう。

 

「やはり体力が無いのが一番の問題だな…この後は屋内訓練場へ向かって筋力トレーニングだ」

「え、あの…もう無理ですお師匠!」

「そら、まだまだやることは山積みだ」

 

お師匠は鼻歌交じりに僕を地獄の4丁目辺りに連れ出すべく歩き始める。

 

「うわぁぁぁぁん!!助けて!助けてぇ!!!」

「「……」」

 

クー・フーリンとエミヤに助けを求めるべく手を伸ばすが、2人ともさっと目を逸らして僕の事を見捨てる。

…大英雄とそれに張り合う英雄が同時に僕の事を見捨てた瞬間である。

僕はもうすべてを諦め、訓練を受ける他なかった…。

翌日、僕は体を起こすことも儘ならないほどに痛めつけられたことは、言うまでも無いだろう。




エミヤが辿ったルートは曜日修練場鯖抜きフルコース
良太たちが辿ったルートは超級種火ランダムコース
そしてラスボスお師匠という何ともアレな構図

次回

幕間の物語

「どーして、こうなっちゃったんだろうね…」

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