Fate/Grand Order 朱槍と弟子   作:ラグ0109

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#21

作戦開始から早2日。

ベースキャンプからクー・フーリン達を呼び寄せて、役割分担の確認を終えてティエールを出発。

それから僕たちはエリザベートのドラゴンブレス(ゲリラライブ)を軸に、オルレアンに不規則なリズムで攻撃を仕掛け続けている。

無論、近くに居ると僕達にまでとんでもない被害が出るので、エリザベートには単独ワンマンライブに行ってらっしゃいと言って、別行動させているのだけど。

夕暮れに暮れなずむ平原…ワイバーンの死骸が積みあがったちょっとした山に腰掛け、僕は遠くに見えるオルレアンを見つめる。

 

「ここにきてアナグマ決め込まれるたぁなぁ」

「恐らく、籠城するだけの余裕があると言うことか、此方が攻め込まないと言う確信があって出てこないかのどちらかでしょう」

「あちらには無尽蔵の魔力炉である聖杯があるのだろうからな。余裕を持つと言うのも当然であろう」

 

クー・フーリンは狩りとったワイバーンの肉を手際よく解体して血抜きをしながら、つまらなさそうに吐き捨てる。

心躍る様な戦場になるかもしれない、と意気込んだは良いものの、蓋を開けてみれば定期的に現れるワイバーン退治に従事する羽目になったのである。

これは面白くないだろう…なんせ相手に護国の将が居るのだ。

そう言った武人と槍を交えるのは、兄弟子にとって生甲斐にも等しいのだろうから。

 

「おう、嬢ちゃん、火ぃ起こしてくれよ」

「はい。お料理の時間でございますね?」

 

僕の背後にしがみついていた清姫は、兄弟子の言葉に頷いて漸く離れる。

…なんていうか、彼女が居ると本当に何か大切なものを失いそうな気がしたので立香さんの護衛に(押し)付けようとしたのだけれど、これを清姫が頑なに拒否。

こうして、僕の班に炊事係として付き従うことになった。

勿論、戦闘においてはバーサーカークラスの名に恥じない攻撃力で、僕たちの助けになってくれるのだけれど。

清姫はカルデアからの補給物資の中から携帯用の竈を出し、手際よく調理の準備をする。

本人曰く家事スキルA+++らしい…まぁ、実際料理は美味しくできていたし、甲斐甲斐しいので良いお嫁さんにはなれると思う。

盲目的でなければ。

 

「して、良太よ…明日はどうするつもりか?」

「アナグマを決め込むのであれば埒が明きませんし、立香さん達の首尾次第ですが…」

「俺に師匠が居るんだ、並大抵の事じゃ勝利は揺るがねぇってもんさ」

 

お師匠はオルレアンを顎で指し示しながら、攻め込む段取りをつけるべきだと提案する。

流石にそこそこの抵抗をするものだと思っていたけど、籠城戦に持ち込まれるとは思っていなかったので僕としても肩透かしも良いところだった。

何事も物事は上手くいかないもの…僕はカルデアに通信を入れ、立香さん達の様子を伺う。

 

「ロマン、あちらはどんな塩梅ですかね?」

『はぐれ英霊の1人と接触して、一緒にそちらに向かってもらっている。ドラゴン退治のエキスパートだから――』

「ロマン…?」

 

朗報が聞こえた瞬間、突如通信がぶつ切りになり途切れる。

それと同時に周囲の魔力濃度が格段に濃くなり、まるで神代の頃にまで急速に遡ったかのようだ。

おそらく、待機中の魔力濃度が急激な上昇を見せたことによって、まるでジャミングの様にカルデアとの繋がりが断たれてしまったのかもしれない。

 

「お師匠、兄さん…何か来ます」

「おうよ…ビリビリとした殺気が、あの城からこっちに向けられてやがる」

 

僕はワイバーンの屍の山から立ち上がり、オルレアンの方へと目を向ける。

それに合わせて、夕食の支度にとりかかっていた清姫はその手を止め、僕の元まですり寄ってくる。

僕はそれを片手で制しつつもオルレアンから目を逸らさず、城の影で蠢く巨大な何かを見やる。

夕日に照らされる体躯は光を吸い込む黒…その体は城が犬小屋に見えるほど大きく、広げる翼は力強くも禍々しい。

正に悪竜…竜の魔女が使役するに相応しい巨大なドラゴンが、僕達を睨み付けている。

 

「あのドラゴンが居るからこその籠城かぁ…」

「うむ…実に屠り甲斐のある巨躯よな」

「そう言うのはアンタだけだぜ、スカサハ?」

 

お師匠とクー・フーリンが朱槍を手に取るのと同時に、僕も格納していた朱槍を手に持つ。

確かに大きく、遠く離れた位置に居るにもかかわらず、此処まで魔力濃度を神代にまで回帰させるその覇気は此方の戦意を委縮させるに十分な迫力を有している。

けれども、お師匠は…僕らはその程度では怯まない。

これで怯むようでは、そもそもお師匠の厳しい修行に長期にわたってついて行けるわけがない。

 

「闇の時間である。血の晩餐である」

 

唐突に響く男の冷酷な声。

僕は素早く清姫を突き飛ばして距離を開け、お師匠とクー・フーリンも素早い身のこなしでその場を退避する。

僕たちがその場を離れた瞬間に、足元から鋭い杭の様なものが飛び出していく。

何も無かったはずのその場所に突如として現れた杭は、その場に残ることなくバシャッと言う音と共に液体へと還っていく。

 

「ほう、腑抜けでは無いか…。貴様らの血はさぞや美味であろうな?」

 

夕日が地平線へと消えゆく中、無数の蝙蝠が大空から舞い降りて人型を成す。

闇を思わす黒の貴族服に身を包んだその男性は、淡くも美しい金糸の様なブロンドをたなびかせ、冷酷な光を宿す鋭い眼差しが僕達を射抜く。

底冷えするようなその眼差しの鋭さは僕の心の片隅に恐怖を生み出すが、僕はそれを飲み込んで真っ直ぐに受け止める。

 

「護国の将、ヴラド・ドラクレア(小竜公)とお見受けしますが、如何に?」

「ほう…()()()と余を呼ぶか…ククッ」

 

あえて、僕は敬意を払う。

いかに反英雄、反英霊であろうとも…彼の功績は讃えるべきものだからだ。

元来、ドラキュラ…否、ドラクレアとは竜の息子と言う意味合いである。

それが転じて訛り、吸血鬼の名として扱われるようになったのだ。

そんな僕の敬意にヴラド公は肩を震わせ、片手で顔を覆いながら静かに笑い始める。

どこか自嘲気味に感じるその笑みは、己の立場を正しく理解しているからこその悲しい笑みの様だ。

 

「いかにも、余こそがヴラド・ドラクレア…いや、ツェペシュである。余は闇に堕ちし、狂いし悪魔である」

「…清姫、君に頼みがある」

 

僕は簡潔に清姫に頼みごとを言う。

要は、ヴラド公との戦いに横槍が入らないように周囲のワイバーンを片付けてもらうと言うだけ。

彼女の性格上僕の頼み事は決して断らない。

心苦しくはあるけれど、彼女は竜種であるとは言えただの小娘だ。

勿論僕よりも遥かに戦闘能力は高いけれど、同じ英霊同士となれば話は別…下手すると足を引っ張りかねない。

だからこそ、彼女には露払いを頼むのだ。

 

「分かりました、ますたぁ…この清姫、必ずやますたぁの言いつけをお守りいたします!」

 

僕の予想通りに清姫は満面の笑みで頷き、颯爽と駆け出す。

ヴラド公は、彼女を横目で見るだけで手出しをしようとはしない。

 

「お師匠、良いですね?」

「…まぁ、良かろう。私の出番はすぐに来るだろうが、な」

 

次いで、うずうずとしているお師匠に釘を刺す。

万が一が無いと言え、億が一はあるかもしれない…それに、あのオルレアンの巨大な悪竜に対抗するにはお師匠の全力稼働が必須になってくる。

僕が生粋の魔術師でない事が本当に悔やまれる…もう少し魔力量が多ければ使える手も多いのだけれど。

 

「さてと…もうちょい派手にやり合えると思っていたが…サシの決闘になるか」

「で、あるな。なに貴様の血を戴き、次に貴様のマスターの血を戴くだけだ。単純に順序の差である」

 

クー・フーリンは、僕の前に出てヴラド公と対峙する。

夜の帳が完全に落ち、空には朱い満月が昇る。

彼方には爆音が、そして豪焔が上がり、ワイバーン達の悲鳴が平原に響き渡る。

 

「そうかい…戦士の礼儀だ。名乗らせてもらうぜ」

 

クー・フーリンは槍を構え、ヴラド公に対し鋭い殺気をあてる。

ただそれだけで荒れ狂う風が巻き起こったかのように、ビリビリと大気が震えだす。

ヴラド公もずぷり、と掌から鋭い杭の様な槍を取り出して構える。

 

「ランサー、アルスターの戦士クー・フーリン。我が名を手向けとし、その心臓…貰い受ける」

「来るが良い大英雄…我が領域にてお相手しよう」

 

轟音の様な咆哮と共にクー・フーリンの姿が霞む。

持ち前の速力を十全に活かしたその速さは僕の目には捉えきれず、影さえも掴ませない。

対してヴラド公は悠然と構え、地に槍を突き立てる。

 

「『血濡れ王鬼(カズィクル・ベイ)』」

 

槍の穂先から地を赤く染め上げ、瞬時に無数の杭が地面から突き出していく。

だが、それらの杭をもってしてもクランの猛犬は捕まらない。

何故ならば、クー・フーリンは既に高く跳躍して一直線にヴラド公へと襲い掛かろうとしていたからだ。

しかし、それを許すほどヴラド公も見立てが甘いわけでもない。

 

「ちぃっ!」

「串刺しの時間だよ、クランの猛犬よ。モズの早贄の様に無様を晒すと良い」

 

地から突き立てられていた無数の杭は触手の様に蠢き、空中で無防備なクー・フーリンへと一斉に襲い掛かる。

失策に気付いたクー・フーリンは、素早く手に持つ朱槍を振るう事で急所目掛けて突き進む杭を薙ぎ払う。

杭に朱槍が当たった反動を利用して体をよじりながら杭の腹を蹴りつけて更に跳躍、朱槍に魔力を込めて一気に突き出す!

 

「オラァッ!!」

「ぬっ…!?」

 

魔力を込められた朱槍は持ち手の半ばから鞭のように伸びて、杭の隙間を縫うように槍の穂先をヴラド公へと直進させる。

真名解放無しとは言え、一刺一殺の呪いの朱槍…心臓とはいかないまでも、確実に対象を食い破る猟犬の様に相手を追い詰めるのだ。

だが、ヴラド公は驚きはするものの慌てはしない。

 

「チッ…!」

 

ヴラド公は吸血鬼の側面を強化された状態で召喚されている様で、自身の肉体を変化させることで槍の一撃から容易く逃れる。

それも無数の蝙蝠になることで、対象を自身から蝙蝠へと逸らし上手く難を逃れる。

クー・フーリンの着地の隙を見逃さないヴラド公は、蝙蝠から霧へと更に肉体を変化させ、クー・フーリンの背後へと素早く移動する。

 

「他愛なし」

「舐めてんじゃ…ねぇっ!!」

 

背後から掴みかかろうと掌を伸ばすヴラド公に、クー・フーリンは振り向くことなく石突でヴラド公の腹を突き刺してそのまま投げ飛ばす。

獣の如き直観か、それとも先ほどの光景が目に焼き付いていたのかクー・フーリンは石突についた血を素早く払いつつもその場から離れる。

血が杭と化して、クー・フーリンの肉体を串刺しにしようと襲い掛かって来たからだ。

 

「光の御子よ…貴様が真にそれであるならば、余を焼くことさえ容易いであろう?」

「言ってろ、タヌキが…」

 

まるで逆再生の早回し…ヴラド公の腹の傷は、何事も無かったかの様に血が傷に向かって吸い込まれていき、衣服と共に傷が塞がっていく。

吸血鬼としての権能を如何なく発揮していると言う事か…。

 

「まだ、余力はあるな?何を躊躇しているのかは知らぬ…しかし、それで余を斃せるとは思わぬことだ」

 

クー・フーリンは口角を不敵に吊り上げ、身体を引き絞る様にして槍を構えて一気に直進する。

ヴラド公もそれに付き合う様に真っ直ぐに進み、互いに槍を交えて火花を散らしていく。

槍が交差するたびに甲高い音が響き渡り、血の匂いが徐々に濃くなっていく。

遠くより、暴風が吹き荒れるかのような羽ばたく音が響き渡る。

それと同時に、遠くから聞こえてきていたライブも消える。

どうやら、彼女も因縁の相手に巡り合った様だ。

 

「お主…はぐれを此処で使い潰すつもりか?」

「…潰れるのであれば、それまででしょう。僕たちは勝てる手段を以て勝たねばならない」

「に、しては立香を遠ざけているだろうに…」

「…本命は彼女ですからね」

 

僕は右手首を掴んで祈る様な面持ちで、クー・フーリンの戦いを見守る。

決して、令呪は使わない。

この令呪を使うタイミングはまだ先…あの神代の竜との対峙で使うべきなのだ。

お師匠は僕の傍らに立って、僕の真意を見透かすように声をかける。

聖剣の一撃すら防ぎきるマシュの盾。

あらゆる宝具を湯水のごとく扱う事の出来るエミヤ。

そして、はぐれ英霊3人の内、1人は竜の魔女と同じルーラーであるジャンヌ。

一方此方はお師匠と兄弟子と言う百戦錬磨が居る代わりに、お師匠に本領を発揮させることが難しい僕と、戦い慣れをしていない清姫、自称アイドルの血濡れの伯爵夫人…捨て石になるならばこちら側しかない。

幸いにして本領を発揮できないとは言え、お師匠は充分に強く、兄弟子もまた生き汚さで言えば一等賞だ。

億が一でも充分に生還できるはずだ。

 

「本命は立香さん…とはいえ、此方も本命のつもりであの魔女に挑むのですから、此処で潰れられても困りますよ」

 

長々とした槍戟は、やはり将と戦士の差であるのかクー・フーリンに軍配が上がった様だ。

ヴラド公の槍を的確にいなし、返す手で確実に肉を削ぎ落す。

もちろんその際に現れる杭はクー・フーリンの肉体を傷つけていくが、矢避けの加護によって確実に致命傷だけは避けていく。

また、ヴラド公とてバックアップがあるとは言え、無尽蔵の回復機能を持っているわけではない。

燃料()がなければ吸血鬼の権能は働かないのだろうから。

 

「悪いがここで店じまいだ…『刺し穿つ(ゲイ・)――」

 

ヴラドの槍を弾き飛ばし、がら空きとなった心臓目掛けて真名を解放せんとした瞬間に上空から黒い焔を伴った剣が僕達に向けて襲い掛かってくる。

僕は両足をルーン魔術で強化しつつ全速で後退することで直撃は避けるものの、剣が地面に直撃した瞬間に起きた爆炎によって体を軽く炎で炙られてしまい、慌てて着ていた外套を脱ぎ捨てる。

お師匠とクー・フーリンも奇襲に対して回避行動を取ることで難を逃れ、上空に浮かぶ黒い影へと目を向ける。

 

「これは余の戦いである。邪魔をするな!!」

「戦い?殺されかけていたくせに良く吠えるわね!ほんと、笑っちゃうわ!!」

 

それはあまりにも巨大にして強大…びりびりとした覇気がその巨躯から発せられて全身が粟立つ。

全長にして20メートルはあろうかと言う黒色の悪竜が、僕達を殺気だった目で睨み付けている。

その頭には見知った顔の色違いの少女が立っている…なるほど、あれが黒ジャンヌか…?

 

「でも、私は寛大です…負けかけていた貴方に更なる力を与えましょう。死ぬ気で戦いなさい吸血鬼」

「貴様…それは余に対する侮辱と知れ!!」

 

せせら笑う様に竜の魔女はそう宣うと、ヴラド公は顔を怒りに歪めて敵意を竜の魔女へと向ける。

どうやら、ヴラド公からの人望は得られていなかったようだ。

 

「侮辱?兵器に誇りも何もないでしょうに!いまさら何を言ってるの、化け物の癖に!だから、私は命じます」

「貴様ァッ!!」

 

ヴラド公は背から巨大な蝙蝠の翼を広げて大空へと飛び上がり、一直線に竜の魔女の元へと向かう。

だが、一足遅い。

竜の魔女は小馬鹿にしたような笑みを崩さずに宣言する。

 

「ヴラド三世、令呪を以て命じましょう――」

 

 

 

―――鮮血の伝承(レジェンド・オブ・ドラキュリア)を暴走させなさい。

 

 

 

真の夜の帳が、今堕ちる。




うん、そうだね、ブーストだね。
さぁ、好き勝手やるぜぇ…!


次回

ナイト・ハント

「主よ…お許しください」

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