Fate/Grand Order 朱槍と弟子   作:ラグ0109

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#22

「おのれ…おのれぇっ!!」

「重ねて命じます。我が敵をその身が崩壊するまで殲滅しなさい。あはははっ!」

 

鮮血の伝承(レジェンド・オブ・ドラキュリア)と言うのは恐らく、ヴラド公の持つ特殊なスキルなのだろう。

名前から察するに、ヴラド公の吸血鬼としてイメージつけられたその側面を前面へと押し出す、ある意味不名誉極まりない代物だろう。

ヴラド公の肉体にこそ大きな変化は見られないものの、全身から黒い魔力が溢れ出し、喉が渇くのか首をかきむしりながら憎しみを竜の魔女へと向ける。

しかし、竜の魔女…黒ジャンヌはそれを嘲笑うかのように手に持っていた本を燃やしながら令呪による強制命令権を発動させる。

ヴラド公はその強制に抗う事が出来ずに、わなわなと体を震わせながらゆっくりと此方へと視線を向ける。

血よりも朱く暗い眼、口を開いて息を吐き出せば異常発達した犬歯が見える。

万人がイメージするであろう吸血鬼と言うその存在が、僕の目の前に存在している。

ヴラド公は乾いた唇を舌で湿らせた瞬間、その姿を霞ませる。

 

「あぶねえ!!」

「血…その、温かい血は()()のものよ!!!」

 

瞬きをした瞬間に僕の目の前に現れたヴラド公は、一切の躊躇なく鋭利なナイフの様に伸びた爪を備えた手刀を僕の喉元目掛けて叩き込もうとする。

しかし、クー・フーリンはその凶行を許さずに僕を蹴ることで跳ね飛ばし、手刀の一撃を朱槍を以てはじき返す。

 

「げぅっ…!!」

 

凄まじい衝撃が僕の身体に走り、痛みに意識が明滅するものの慌てて受け身を取って地面を転がり素早く体を跳ね起こすと、その直前にまで僕が居た所に無数の矢が突き刺さる。

矢と言う事はアーチャーの英霊が此方を攻撃してきたと見て良いだろう。

僕はルーン魔術を起動させて、矢避けの結界を自身の周囲に張り巡らせていく。

遠くに清姫が龍と化して吐き出すドラゴンブレスによる炎が見える。

あの分であれば、恐らく此方に戻すことはできないだろう。

ワイバーンが集中的に清姫に集まり始めている為だ。

 

「兄さん!!」

「おうよ!」

 

クー・フーリンは全身に僕から提供される魔力を行き渡らせ、ルーン魔術による筋力、敏捷のステータスを爆発的に増加させる。

ヴラド公と鍔迫り合いを演じていたものの、突如跳ね上がった力を前にヴラド公は無様にも両腕を跳ね上げさせられ、その腹を思い切り蹴り抜かれて弾き飛ばされる。

弾き飛ばされたヴラド公は地面に直撃する瞬間に、肉体を無数の蝙蝠へと変じさせて大空へと舞い上がり、朱く輝く月を背に蝙蝠の化け物にも見える悍ましい姿を晒す。

その姿には最早護国の将と言う人の面影は無く、人の血や肉を啜る悪鬼の様な醜さしかない。

 

「そうよ、それでいいのよ…さぁ、戦いなさい串刺し公!!」

「スカサハ、上のデカブツの足止めは頼むぜ。あの吸血鬼の引導は俺が渡す」

「よかろう…良太、お主は…」

 

ヴラド公が悍ましい咆哮を上げる中、黒ジャンヌはさも愉快気に嗤い僕達を見下し続ける。

クー・フーリンはそんな黒ジャンヌの様子に苛立ちを隠そうともせず、全身から魔力放出を行う。

お師匠はクー・フーリンの言葉に素直に頷き、僕の方へと視線を向ける。

その視線は何処か心配そうで、らしくないようにも思える。

 

「構いません、此処で討ちとります!!」

「良かろう。魔境、深淵の英知…かの邪竜に見せてくれようか」

 

お師匠は自身の周囲に10本のゲイ・ボルクを呼び出すとそのまま、上空に待機する邪竜ではなく、黒ジャンヌに向けて撃ち込みつつ跳躍する。

黒ジャンヌは油断をしていたのか突如飛来してきたゲイ・ボルクを目を見開きながら視認し、手に持っていた旗を振るって黒焔を出して迎撃していく。

 

「ファヴニール!この鈍間!!私を守りなさい!!」

『!!!!!』

 

ファヴニール…確か…ニーベルンゲンの指輪に出てくる邪悪な竜。

ジークフリートとの激闘の果てに斃され、かの英雄が竜殺しと呼ばれるきっかけになった存在だ。

邪竜は自身に向かって跳躍してくるお師匠に向かって顔を向け、口の端から炎を漏らし始める。

その凄まじい熱量は口から洩れる炎の光だけで察するには充分であり、その口から放たれるであろうドラゴンブレスが直撃しようものならば、トップサーヴァントであろうとひとたまりもないだろう。

充分に引き付けられてから放たれるドラゴンブレスは、確かにお師匠に向かって放たれる。

しかし、お師匠は足の裏から魔力をジェット噴射させる様にして跳躍の軌道を無理矢理変更し、しかしまるで舞うかの様にドラゴンブレスを避けて手に持つゲイ・ボルクに魔力を込め始める。

ドラゴンブレスに目が眩んだ僕は、爆発するような音のする方へと目を向ける。

まるで、小さな隕石が降り注いだかのようにクレーターが無数に出来上がり、血生臭くも爽やかな風が吹いていた草原とは思えない光景となっている。

 

「『血濡れ王鬼(カズィクル・ベイ)』!!」

「おらぁっ!!!」

 

ヴラド公は自身の腹を掻っ捌く様にして開き、腸や溢れ出す血を無数の杭として放つ。

それは、腐臭ににた悪臭をまき散らし、此方の戦意を削ぐ勢いだ。

だが、それでもクー・フーリンの槍の冴えは鈍らない。

むしろその鋭さは徐々に増していき、悪鬼どころか神すら穿ち殺さんとする勢いだ。

クー・フーリンは自身に向かってくる杭に向かって極限まで練り上げた魔力を込めた一突きを解放し、一気に融解させていく。

その一撃は因果逆転の力はなくとも膨大な熱量を持ち、振れていない地面は捲り上がりながらガラス状に溶けていく。

流石にこの一撃を受けては吸血鬼と言えど焼き尽くされるのみ。

故に自信の肉体を霧のようにして霧散させることによってヴラド公はクー・フーリンの一撃を難なく回避する。

 

「わわっと…!!」

 

神代の激戦にも似た光景を呆けて見ていた僕の顔の横を、遠方より射られた矢が通り過ぎていく。

何れも僕の頭を狙って放たれたものだけど、僕の矢避けの結界が上手く働いてくれたおかげでギリギリの位置で逸らすことに成功している。

現在、僕の魔力は2人に分けてしまっているので、自衛用の結界が弱まってしまっている。

今はまだ神秘を纏っていない矢なので何とか凌げてはいるものの、敵のアーチャーが宝具を使用してきたら僕の命はすぐに消し飛んでしまっていることだろう。

なので、僕はギリギリの死線をお潜り抜け続けなければならない。

当たるかもしれない、と言う絶妙な距離感を保つことで真名ばれを恐れるであろう相手の心理をついて宝具を使わないと言う選択を取らせ続ける。

だけど、それも超時間行えるようなものではない。

もって5分…その間に暴走するヴラド公と頭上に居る黒ジャンヌとファヴニール…さらにはエリザベートのお相手の撃破をこなす必要がある。

裏目と言えば裏目…まぁ、僕も無茶を言っている自覚はあったし、態と立香さんを戦場から遠ざけてはいたのだけれど!

だけれど、どの道やらねば僕らは全滅必至…僕自身死ぬ気はさらさらないので、死ぬ気で魔力を捻出しつつ逃げ続ける。

上空へと見やると、お師匠は絶えずゲイ・ボルクを黒ジャンヌへと撃ち込み、黒ジャンヌはそれをファヴニールを盾に、あるいは自身が繰り出す黒焔と剣ではじき返す。

戦場を見渡すと既に50を超えるゲイ・ボルクが、かつてヴラド公が行った串刺し刑の様に地に突き立てられている。

その朱槍の林の中を、黒と蒼が幾度も交差し火花を散らしていく。

黒は悪鬼ヴラド公…吸血鬼のもつ純粋な『暴力』と多様な変化でクランの猛犬を翻弄し続ける。

対する蒼はクランの猛犬クー・フーリン…その手に携えている朱槍は2本。

1本は師匠であるスカサハから下賜された愛用の朱槍。

そしてもう1本は、お師匠が黒ジャンヌを攻撃した際に落ちてきた旧い朱槍だ。

多様な変化に翻弄されてはいるものの、その槍の鋭さは正しくお師匠と並び立つに相応しく、時折炸裂する炎が見える。

槍術と原初のルーンによる、強力な魔術を並行して行っている為だ。

これらの手数はヴラド公の手数に勝るとも劣らず、互いに傷を増やしながらも一切の手は緩めない。

総力戦の名に相応しく、死闘がこの場を支配している。

 

「このババア、私ばかり攻撃をして!!」

「口の聞き方から躾けねばならんとはな…まったく、その邪竜ファヴニールもお前の元では宝の持ち腐れだな」

 

大凡そ聖女と呼ばれていた存在が言ってはいけないような罵倒をお師匠に浴びせてくるけども、お師匠は意に介した風もなく絶えず黒ジャンヌに向かって攻撃を仕掛け続ける。

苛立ちのあまり黒ジャンヌは気付いていないが、お師匠はまるでにじり寄る死神の様にジワリジワリと距離を縮め続けている。

ファヴニールも取り付かれる愚を避けるために不用意に肉弾戦を行う事ができず、防戦を強いられ続けている。

ヴラド公も首筋に牙を突き立てられない苛立ちを忌々し気に唸り、クー・フーリンに猛然と襲い掛かる。

クー・フーリンは対照的に不敵な笑みを浮かべながらも、その目は獰猛な猟犬が如くだ。

ブラド公はクー・フーリンに向かって手刀を貫手の要領で叩きこみ、宝具の真名を解放。

腕から無数の杭が突き出していく。

手刀を紙一重で避けるクー・フーリンは、襲い来る杭を離すために旧い朱槍を腕に向かってかち上げる様に突き出しつつ手放す。

さすがにこれにはヴラド公も腕を跳ね上げない訳にもいかず、朱槍に貫かれたままの右腕を掲げる様に上げてしまう。

 

「『アンサズ』!!」

 

高らかに宣言するように紡がれるルーン魔術起動の呪文。

それはキャスタークラスの時に得手としていた、炎の魔弾を生み出すルーン魔術。

たった1発の魔弾はバスケットボール大の大きさで練り上げられて、身動きが取れないヴラド公の胸元に炸裂する。

爆炎が2人を包んだ瞬間、クー・フーリンは素早く周囲のゲイ・ボルクへと駆け寄っては燃え盛るヴラド公に向かって投擲し、腹に、肩に、足に…容赦なく串刺しにしていく。

いずれも死の呪いを纏った古い朱槍だ。

内包されている神秘は言わずもがな、ヴラド公の肉体を傷つけるには充分であり、やがてその肉体は仰向けに倒れて地面へと縫い付けられる。

 

「この一撃…手向けとして受け取るが良い…その心臓を貰い受ける――」

「ヒュ……」

 

ヴラド公の身体に跨る様にして立ったクー・フーリンは、静かに死刑宣告の言葉を紡ぎ出す。

せめて、化け物では無く戦士として死ねと言わんばかりに。

 

「『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)』――」

 

逆手に持たれた朱槍を心臓目掛けて突き立てる様に下ろし、しかしすぐさま引き抜いて飛来する矢をヴラド公の血を振り払いながら凄まじい勢いで叩き落していく。

その槍捌きの前には矢など止まって見えると言わんばかりだ。

心臓…正確には霊核を破壊されたヴラド公は、クー・フーリンに手を伸ばしながら塵の様に消え去り、戦場に吹く風がその塵を運んで痕跡を消していく。

 

「手古摺ったな…わりぃ、マスター」

「兄さん、清姫と合流して弓手を討ち取ってください。アレにいられるとマシュの盾があっても立香さんの身が危ない」

「いや、そいつには従えねぇな…こっちはテメェに消えられたら困んのさ!」

 

そう言うなりクー・フーリンは僕の目の前まで一瞬で踏み込み、僕の脇腹を通す様に朱槍を突き出す。

その直後に金属がぶつかり合う甲高い音が響き渡り、何者かの気配が遠退いていくのが分かる。

 

「くっ…そう簡単にはいかないみたいだ」

「馬鹿が…アサシンクラスでもないやつが、暗殺者の真似事とはな」

 

集中力を切らしていた所為なのか僕は背後にまで迫っていた危険に気付けず、危うく死ぬ寸前だったようだ。

慌てて背後へと振り返ると、羽帽子を被った中世的な人物がサーベルを構えて立っている。

その表情は笑みを浮かべてはいるものの、どこか空虚さすら感じられる。

 

「なんにせよ、私は令呪によって君を斬らなければならない。あぁ、斬ってみたくなる…単身私たちに歯向かう愚か者を!」

 

デオンがサーベルの切っ先を此方に向けると同時に、お師匠が僕とデオンの間に割って入る様に空から降りてくる。

それと同時に僕たちの足元に13のルーン文字が展開されていく。

 

「宝具が来る!備えよ!!」

 

緊迫したお師匠の声と同時に、上空から豪雨の如き無数の矢が降り注いでくる。

その宝具は広域殲滅に適したものなのか、敵味方問わずに降りかかる。

それは黒ジャンヌや目の前のサーベルを持った英霊も例外ではなく、忌々し気に舌打ちしながら逃げ惑っている。

お師匠の張った原初のルーンによる結界は、急場で作ったためか降りかかる矢を逸らす範囲が徐々に徐々に狭まっていき、身動き1つ取ることも難しくなってくる。

 

「流石に撤退を考えねばな…」

「退いても無理そうですけどね…!」

 

お師匠は僕の魔力を元に結界を維持し続ける。

つまり、僕が完全にバテきってしまうと、結界を維持することが出来ずに矢によって穴だらけにされてしまう。

しかし、絶え間なく降り注ぐ矢は撤退を許さない。

必死に頭をフル回転させて打開策を練ろうとした瞬間、落ち着き払った男性の声が耳に届く。

 

「邪悪なる竜は失墜し、世界は今落陽に至る。出合い頭だが、これも運命だ…撃ち落とす。『幻想大剣・天魔失墜(バル・ムンク)』!!」

 

それは、上空から黄昏の剣気を伴って放たれた。

極度に大気中の魔力濃度が高まり、その大剣から放たれた一撃は矢の豪雨を弾き飛ばし、ファヴニールの頭の角を斬り飛ばす。

更に追撃と言わんばかりに、どこぞで見た特撮怪獣染みた亀の甲羅が超高速回転をしながらファヴニールの頭に直撃する。

 

「マルタ…あなた!!」

「安易に令呪切ってくれて助かったってもんよ、ジャンヌ・ダルク!」

「っ!退きなさい!!」

 

特撮怪獣みたいな竜…タラスクが直撃した瞬間に乗り移ったのか、あのラ・シャリテを襲っていたマルタが黒ジャンヌの目の前で、とてもしてはいけないような笑みを浮かべながら拳を揉み解している。

黒ジャンヌは慌てた様子でファヴニールに頭を振り払わさせて、マルタを引きはがすと同時に雲の切れ間へと逃げる様に飛び去っていく。

 

「病み上がりではこの程度か…そこな剣士よ、次はオレが相手をしよう」

「…いや、私はこのまま退かせてもらうよ。我らが竜の魔女も退いてしまったからね」

 

バル・ムンクを持つ剣士は、その大剣の切っ先をサーベルを持った英霊へと差し向けるが、意外にも理知的だったのかあっさりとサーベルを鞘にしまって背を向ける。

 

「あまり時間もない…君たちには期待しているんだから頑張ってくれなきゃ困る」

「っ…あなたは!」

「それは敵に聞く言葉ではない…それに聖女マルタの加護とそこのドラゴンスレイヤーが居れば大丈夫だろう。あぁ、次は殺し合えると良いね」

 

サーベルの英霊は言うだけ言うと、一足飛びで戦場を離れていく。

僕は倒れそうになる体を槍で支えながらもマルタとバル・ムンクを持つ剣士、ジークフリートへと目を向ける。

 

「清姫とエリザベートと合流して撤退…事情、聞かせてもらいますよ」

 

2人は僕の言葉に静かに頷き、敵対する意思を見せない。

もっとも黒ジャンヌを攻撃するくらいだから敵ではないのだろうけど…マルタに関しては詳しく話を聞く必要がある。

今ある問題を片付ける為、僕たちはさっそく行動に移した。




すまない…投稿が遅れに遅れて大みそかになってすまない…
しかも予告にあったセリフをいれられなくてすまない…

オリジナル展開です。
次の話で説明はしますが、スキルの拡大解釈がおきますのでご容赦をば…。

次回

どらごんばすたーず

「私が竜と認めて」
「私が竜を乗り回して」
「俺が竜を叩き落す」
「完璧ですね!」
「いやいやいや」
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