Fate/Grand Order 朱槍と弟子 作:ラグ0109
燃える、燃える、燃える、燃える…。
見渡す限り業火に包まれた街、冬木は轟音と共に瓦礫が飛び散り、辛うじて原型を保っていたオフィス街のビルが崩落していく。
炎が燃え上がる音、瓦礫が崩れ落ちる音に混じるのは、無数の獣の声と空気を斬り裂く快音だ。
戦闘開始から早30分…僕と立香さん、マシュは戦場にて前線で鬼神の如き戦いを繰り広げる赤と蒼の軌跡を呆けたように見つめる事しかできないでいる。
本来であれば、僕や立香さんが魔術や礼装に施された魔術スキルを駆使して彼ら英霊の闘いをサポートすべきなのだろう。
それが、できない。
本来であれば、マシュは彼らに混じって…あるいは彼らが撃ち漏らした敵をその大きなラウンドシールドを以てして撃退すべきなのだろう。
それが、できない。
赤い錬鉄の英霊の無限とも思える剣が、蒼い猟犬の英霊の深紅の槍が、敵対するすべてを1つ残さず撃滅せしめてしまう。
獅子の肉体に山羊の頭と蛇を合成された強力な魔獣
「ったく!これも腐れ縁の1つなんかねぇ!?」
「あぁ、まったくだ。ただ、今までと違う点があるとすれば、君とこの街で共闘していると言う点だがね」
蒼い猟犬…クー・フーリンが悪態を尽きながら神速の踏み込みで深紅の軌跡を残しながら突撃をし、木っ端の様にアンデット…スケルトンの群れを粉々に吹き飛ばせば、赤い錬鉄の英霊…エミヤの黒い弓から放たれる
「ハッ!月でも手ぇ組んでやった事もあったっけなぁ!?」
「何時の話かね!?こんな時でもなければ、私と君が手を組むなぞ考えられんのだがね!」
まるで気心知れた友人の様に世間話をしながら敵対存在を蹴散らしていく景色は現実味を感じさせず、まるでアメリカのアクション映画を見ているかのようにも感じてしまう。
『大分数が減ったわね?大橋までの道を切り開けたのならそのまま突破して爆心地へと向かいなさい!』
「りょ、了解です、所長!マスター、東雲さん、行きましょう!」
「そ、そうだね!」
「じゃぁ、マシュを先頭に突っ切って、兄さんとエミヤに殿をお願いしよう!」
消滅したはずの特異点F…炎上し、呪いに汚染された冬木を僕達は駆け抜け始める。
第一特異点よりも濃い死の気配を漂わせるこの街の異常を解決するために―――
―――1時間前…カルデア管制室―――
「それで…緊急事態発生って…何があったんです?」
カルデア内にスクランブル要請を示す警報が鳴り響き、僕と立香さん、マシュは管制室へと規定通りに戦闘態勢で集合する。
その場には既にクー・フーリンとエミヤの姿もあり、2人とも何処か神妙な面持ちで立っている。
カルデアスの前に鎮座された聖杯から所長が肉体を実体化させると、カルデアスが回転して特異点を示すポイントを指し示す。
そのポイントは日本…それも、過去に異変を解決した冬木市のようだけど…。
「それは今から説明します。ロマニ、カルデアスに情報を」
『了解。さて、まずはこれを見てくれ』
カルデアスに示されたポイントを拡大させると、そこはやはり以前赴いた冬木市であり、依然として街全体が燃え上がっている。
航空写真のように街全体を俯瞰するようにしか確認できないものの、そこには人が生活している痕跡はやはり無い。
今もそこかしこを魔物たちが闊歩し、いる筈のない得物を追い求めているのだろう。
「この特異点Fは、以前私たちが解決を図ったものと完全に一致しているの。教会や柳洞寺での戦闘の痕跡や、大聖杯の存在していたエリアにも崩落跡が確認されていることからそれは間違いない。…問題は、消滅したはずのこの特異点が今になって復活したのかが分からなかったのだけれど…」
「そこからは私が説明しよう、オルガマリー・アニムスフィア」
「エミヤ先輩…?」
所長を軽く手で制し、錬鉄の英霊エミヤが前へと出る。
彼は幾ばくか眉間に皺を寄せていて、些か不機嫌そうにも見える。
「…あまりこういう事情は話すものではないとは思っているのだが、今回ばかりはそうも言ってられなくてね。今回の原因に関して心当たりがある」
「エミヤさん、もしかして…この冬木と縁がある英霊なんですか?」
「それも含めて説明させてもらうよ、マスター。まず私が英霊となった経緯に関しては置いておく…その部分はあまり関係が無いのでね」
立香さんの言葉にエミヤは小さく頷き、腰に手を当てて軽くため息を吐く。
どうも、その辺の記憶は本人にとってあまりいい思い出でも無い様で少しばかり渋い顔をしている。
「まず前提として私は冬木における第五次聖杯戦争に召喚された英霊であり、またその聖杯戦争の生き残りであるマスターでもあった男だ。故にこの時の聖杯戦争の事情には否が応にも詳しくなってしまっていてね。ついでに言えば、そこの猟犬も第五次にてランサーとして召喚されている」
「ほんと、腐れ縁なんですね…」
「それな。ほ~んと嫌んなっちまうよなぁ?」
僕がポツリと呟きながらクー・フーリンとエミヤを見比べていると、クー・フーリンが茶化す様に口を開き、エミヤがそれを咳払いをすることで制する。
「話を続ける。端的に言って、この頃の冬木の聖杯は凶悪な呪いに汚染されていてね。あらゆる願いを叶える願望器としての役割は果たすが、必ずそこに生じる過程は負の側面しか見出さない。例えば、自身が世界で一番優れた魔術師になりたいと願えば、世界中の優秀な魔術師全てを呪い殺す事で、結果的に願った人間を世界で一番優れた魔術師にする…と言った具合にね」
「そんな…」
「所謂辻褄合わせ…と言うやつだろうな。結果が願ったものであれば、
少女、と口にした時、エミヤの目が何処か朧げな物を見るかのように遠くを見つめていることに気付く。
それはもう手を伸ばしても掴むことができないもののようで、しかし朧気であるが故にそれをはっきりとは認識することが出来ないような…。
「今回の異変は恐らく、その少女が埋め込まれていた聖杯の欠片が引き起こしたものだろう。故にその位置も特定がしやすかった」
「良太、前に行動したときにセイバーが聖杯を奪った時の事を話したのは覚えているよな?」
クー・フーリンの言葉に僕は小さく頷き、あの時話していたことを思い出す。
「確か、聖杯の模造品がセイバーの大聖杯確保とほぼ同時に爆発を起こして呪いを撒き散らしたんですよね?」
「おう、その聖杯の模造品ってのが、コイツの言うお嬢ちゃんの事なんだろうよ」
「おそらく、だ。故に今回の目的地は冬木市の住宅街エリア…その爆心地と言う事になる」
冬木でキャスターだったクー・フーリンと合流してから目撃したあの爆心地は、非常に強力な呪いが渦巻いていると言う話だった。
その強力な呪いこそが汚染された聖杯の残滓…と言う事なのだろう。
問題は、その呪いに対して僕達がどの程度対抗できるのか?と言う事なのだけど…。
「その呪いに関しては、今回ばかりは私が協力するとしよう」
「お師匠?」
どうするのだろうか、と頭を捻った瞬間、霊体化していたお師匠が実体を現して僕の隣に突如として現れる。
お師匠はモデルの様な歩きで前へと出ると、此方へと振り向く。
「流石に街1つどころか世界を焼き尽くしかねん呪いを前に、対策1つ無くして立ち向かわせるのはしのびないと言うもの…過信をしてもらっては困るが、それなりの対策をお主達に施すとしよう」
「そんなにエグいんですか?…その、呪いって言うのは…」
立香さんは不安そうにお師匠を見つめると、お師匠は何処か力強く頷いてニコリと笑う。
「うむ、エグいな。なんせ、存在自体は神代の頃より存在していた泥と同質のものだ。神秘を失った人間ではひとたまりもあるまい。しかし、この特異点の放置は後々に大きな災いとなる可能性がある。それにだ…」
お師匠は会話を区切ると、いつも僕を扱いていた時の様な凄く
…僕達は最早覚悟を決めなければならない様だ…。
「この程度の困難で逃げ出したり失敗を犯してしまうようであれば、人理修復なんぞ夢のまた夢。必死に食らいつけよ?」
「「デスヨネー」」
お師匠の言葉に僕と立香さんは同時に同じ言葉を口にして、がっくりと肩を落とした。
―――現在…冬木大橋途上―――
「やぁぁぁっ!!!」
マシュが裂帛の気合と共に盾を構え、まるで走る城塞の様に橋の上に溢れかえるスケルトンの軍団を弾き飛ばしていく。
後方では絶えず炸裂音が響き渡っているのが聞こえ、クー・フーリンとエミヤが奮戦しているのが分かる。
2人にはタイミングを見計らって此方へと合流してもらう手筈になっている。
こと、クー・フーリンは戦場における仕切り直しに長けた英霊だから、適当なところで切り上げてくれるだろう。
「マシュ!もうひと踏ん張り!!」
立香さんはカルデアの制服に備わっている魔術スキル『瞬間強化』をマシュに施し、マシュの膂力を大幅に引き上げる。
礼装による魔術スキルはクールタイムに時間がかかる欠点があるのだけれど…。
「これもオマケ!道を切り開いて!!」
「はぁぁぁぁっ!!!」
僕がルーン魔術による身体強化をタイミングよく加える事で、マシュの英霊としての力を存分に引き上げ続ける。
シールダー…盾とつけられたエクストラクラスの英霊は、こと守ると言う一点において非常に強力な力を見せる反面、攻めの一手となると凡庸な能力しか有せないでいる。
本来であればそんなことはないのだろうけど、クラスとしての型枠が攻撃をすると言う事を不得手にしてしまっている様だ。
マシュは決して速度を緩める事無く進軍を続け、僕達もマシュから遅れないように必死に走り続ける。
勿論、僕と立香さんもこの戦場から生き残るために、身体強化を魔術によって行っている。
あと少しで大橋を抜けられる…と言うタイミングで、無数のスケルトンがまるで壁の様に立ちふさがり、マシュの盾を正面から受け止めて弾き飛ばす。
「うあっ…まだ…まだ行けます!」
弾き飛ばされたマシュは素早く体勢を整えて着地し、素早く盾を構え直して足を踏ん張らせる。
全身から魔力を放出させると同時にスケルトンの壁が崩れ、まるで鉄砲水の様に僕達へと雪崩れ込んでくる。
「真名・偽装登録…はぁぁぁっ!!」
マシュは躊躇することなく宝具を展開することで眼前に迫ったスケルトンの群れを結界によって受け止め、こちらへと進ませないようにする。
しかし、大橋に残った撃ち漏らした敵は僕達の背後へと迫りつつある。
「立香さんはマシュの援護を!背面は僕に任せて!」
「お願いします!!」
僕は概念礼装であるゲイ・ボルクを展開して握り込めば、素早く朱槍を回転させながら体を捻ってまるで引き絞られた弓の様に突撃する瞬間を待ち構える。
同時に立香さんは令呪を起動させれば、マシュの宝具を補助してより堅固なものへと強化する。
宝具を持たないただのアンデッドの群れであれば、結界を破るのに時間がかかるはず…ここで僕達がすべきは…。
「マスター!マシュ・キリエライト!走れ!!」
「おうよ、マスター。テメェは真っ直ぐ目的地に突っ走りなぁっ!!」
スケルトンの群れが間近に迫り、一気に蹴散らそうと一歩踏み込もうとすると、上空から無数の矢がそれこそ嵐のように降り注いでスケルトン達を射抜いていく。
それと同時にクー・フーリンが僕の横を一瞬通り過ぎた後に跳躍してマシュの防御結界を飛び越え、その手に持つゲイ・ボルクへと魔力を送り込む。
「おまけだ!此奴も持っていけ!
相手がスケルトン…さらに言えば橋の上と言う事もあり威力は大分抑えられてはいるものの、クー・フーリンが放った必殺のその一撃は、投擲された瞬間にまるで大樹から枝が伸びる様に無数に分裂していって寸分違わずスケルトンへと突き刺さる。
たった二手で、クー・フーリンとエミヤは、スケルトンの群を蹴散らしてしまった。
英霊とただの魔物との絶対の格差はあるだろうけど…これほどまで戦闘能力に差があると、少しばかり魔物に同情をしてしまうかもしれない。
僕と立香さん、マシュは互いに視線を交わして頷き、すぐさま爆心地である巨大クレーターへ向かって走り始める。
クー・フーリンとエミヤは引き続き殿役だ。
このまま爆心地まで、ゾロゾロと魔物達を引き連れていくわけにもいかないからね。
骨の擦れ合う音、何かが燃え尽きる音、かつてが崩れ去る音…その死の大合唱の中走り続けるとクレーターが目の前に広がってくる。
「立香さん!マシュ!行くよ!!」
「行こう!」
「はい!マシュ・キリエライト、突撃します!!」
クレーターへと飛び出すと、斜面に着地してまるでスケートの様に滑っていく。
中心地に向かうにつれて徐々に…血なまぐさい臭いが漂ってくる。
それは、まるで地獄の釜の蓋を開けた時に似て、僕達の心を徐々に凍り付かせていく。
…今回、お師匠と清姫はカルデアに残っている。
お師匠は試練だから、の一点張りで来なかったのだけれど、清姫に関しては練度不足…更に言えば冬木の呪いの特異性を考慮してメンバーから外すことになった。
冬木の聖杯からあふれ出す泥は、英霊が触れると性格が反転し、制御から離れてしまうそうだ。
清姫の場合、もし制御を離れてしまった場合強大な障害となってしまう可能性が高い…それも僕を執拗に狙ってくることになって身動きが取れなくなってしまう。
そう言った事態を考慮し、かつて第五次聖杯戦争を経験してきたクー・フーリンとエミヤが僕達をバックアップする事になったのだ。
僕は頭の片隅でちょっと失敗だったかもしれないな、とボヤきながら斜面を滑り終えた勢いのまま爆心地の中心まで一気に駆け抜ける。
果たして、そこにあったものは…。
「女の、子…?」
それを前にして、僕達は足を止めてその場に立ち尽くしている人物を見る。
その少女は焦点のあっていない視線をある方向に向け続け、うわ言の様に『センパイ、センパイ』と言い続けている。
どこかあどけなさが残る顔には呪いが侵食しているのか、ひび割れの様に染みが広がり、身体を黒い帯状の物が肌を覆っている。
足元はボコボコと泡を立てている黒い泥の様なものが溜まっていて、僕が一歩足を踏み出した瞬間その泥は一気に広がり一斉に隆起し始める。
「しょ、所長!女の子が!」
『藤丸、落ち着きなさい!あれはもう死んでいるわ!』
「で、でも…!」
泥はあっという間に少女を守る様に覆いつくすと上半身だけの巨人の様に人型となり、顔のない頭を此方へと向けてくる。
「っ…!お2人とも下がって!!」
『そんな…アレの反応はサーヴァントそのものだ!あの少女の遺体が霊核の代わりになっているとでも言うのか!?』
マシュは危険を察知して盾を構え、僕は立香さんの前に立ってゲイ・ボルクを構える。
泥巨人の解析を進めていたDr.ロマンは、英霊と変わらない存在だと判明したことで驚いた様に大声を出す。
ニタリ、と誰かが笑った気がした。
泥巨人はその大きな両腕を天高く振り上げれば、そのまま無造作に僕たち目掛けて振り下ろしてくる。
流石にシールダーと言えども質量差があってはそのまま圧し潰され、あの泥の中に取り込まれかねない。
立香さんをマシュに抱えさせれば、僕と二手に分かれる様にして飛び出してその一撃をギリギリのところで避ける。
泥巨人の剛腕を避けた瞬間に僕は朱槍を地面に突き立てて剛腕によって生じた衝撃波で吹き飛ばされないように踏ん張り、同時にルーン文字を起動させて高密度の火炎弾を5発作り出して泥巨人に撃ち込む。
しかし質量差か…それとも高密度の魔力集合体だからなのかは分からないけど、着弾する瞬間に僕の作り上げた火炎弾は霧の様に霧散してしまう。
「僕達じゃ太刀打ちできない!?」
「東雲さん!!」
泥巨人が僕の方へと注意を向け、薙ぎ払う様に腕を横薙ぎにしてくる。
全身の肉体をフル稼働させて跳躍をするよりも早く迫りくるその腕は、立香さんの叫びと共に僕に叩きつけられる…筈だった。
「だから!俺たち英霊が居るんじゃねぇか!違うか、マスター!?」
「兄さん!!」
「マスター、遅くなってすまない。マシュ、君はマスターを頼む」
「エミヤさん!」
僕に迫りくる剛腕は、クー・フーリンの放った原初のルーン文字による結界によって弾かれ、泥巨人はその衝撃に上体を大きく逸らす。
エミヤはマシュにマスターの護衛を頼むと、全身の魔力を漲らせる。
「クー・フーリン、時間稼ぎはお手の物だろう?」
「あぁ!?俺に指図してんじゃねぇぞ!」
「やれるんだな!?」
「誰に物言ってやがる!!」
エミヤが問いかけた瞬間、獣の様な獰猛な笑みを浮かべたクー・フーリンは、その俊敏さを活かして泥巨人を翻弄するかのように高速で動き回り、僕の物とは比べ物にならない高威力のルーン魔術を泥巨人へと放ち続ける。
だけど、魔術に対して特に高い耐性を持っているように思える泥巨人は特に疲弊した様子もなく、ルーン魔術ではじけ飛んだ部位をすぐさま再生させて、でたらめに腕を振り回し続ける。
『
『
『
クー・フーリンは不敵な笑みを浮かべながら嵐の様に繰り出される剛腕を掻い潜り、すれ違い様にゲイ・ボルクで腕や胴体を刺し貫き、着実にダメージを稼いでいく。
僕は合わせてルーン魔術を起動させる事でクー・フーリンの身体能力を強化し、その槍の一撃を、或いはその俊敏さを補助していく。
立香さんは意識を集中させてエミヤへと魔力を送り込み、彼の詠唱のサポートを必死に行っている様だ。
『
『
『
エミヤの肉体から莫大な魔力が溢れ出し、彼を中心に四方八方へ魔力が奔り、紫電が大気を駆け抜ける。
その爆発的な魔力放出量に、泥巨人はエミヤへと顔を向けてまるで求めるかのようにその右腕を伸ばしていく。
「テメェの相手は俺だって言ってんだ!この木偶の坊が!!」
「『ガンド』!!!」
クー・フーリンは伸ばされた泥巨人の右腕を真下から跳躍して、ゲイ・ボルクで一気に突き抜ける。
泥巨人から別たれた腕は上空高く舞い上がって爆弾のように破裂し、僕達の頭上に降り注いでいく。
僕とクー・フーリンはお師匠から授けられたルーン文字を一斉に起動させて、降り注ぐ呪いの泥を弾き飛ばしていく。
「真名・偽装登録…先輩、耐えてください!!」
マシュは、立香さんとエミヤを呪いの泥から守るために躊躇なく宝具を展開し、降り注ぐ呪いの泥をはじき続ける。
その守護結界はまるで城壁の様にも見え、そしてこんな状況でもなければとても美しく尊いものの様にも見えた。
『
『
エミヤが詠唱を終えると同時に彼を中心に炎の渦が広がって、僕達と泥人形を包み込んでいく。
不思議とその炎は熱が無く、ただ冷え切った鉄の様な冷たさだけが肌に残る。
炎の渦が収まり、ゆっくりと目を開くと目の前に錬鉄の英霊の大きな背中がある。
周辺は荒涼とした大地が広がり、まるで墓標の様に無数の刀剣が突き刺さっている。
空は暮れなずむ黄昏色をしており、巨大な歯車がまるでカラクリを動かしているかのように重い音を響かせながらゆっくりと回転している。
僕達は、クー・フーリンを含めて全員エミヤの背後に纏められ、泥巨人は僕達の前方100メートル程のところで佇んでいる。
『固有結界…大禁呪の1つじゃない!』
「…マスターでもあったと言っただろう?オレは元々魔術師でね…もっとも、できることはコレだけだったのだが」
所長の言う固有結界…それは術者の心象風景をカタチにして、現実に侵食させることで発生させる特殊な結界の事だ。
ただ、その展開、維持には世界からの修正力もあって非常に困難で、保っても数分が限度って事らしいのだけど…。
「…今、キミを休ませてやる。酷い悪夢だからな」
エミヤは此方を呆然と見つめている泥巨人へとゆっくりと歩き出せば、突き立っている剣の内の一振り…式典用の儀礼剣の様な宝具を手に取り徐々に駆け出す。
それと同時に周囲の突き立っていた剣が一斉に宙へと浮かび上がり、まるで豪雨の様に泥巨人へと襲い掛かっていく。
その一振り一振りが見紛う事なく宝具…神秘を秘めた兵装であることは疑う余地もなく、その宝具をあろうことかミサイルの様に泥巨人に降り注がせて爆発させていく。
『
内包した神秘の量にも依るのだろうけど、その一撃一撃は間違いなく必殺の一撃と言える。
エミヤは一気に跳躍してその少女の元まで飛び込むと、手に持った儀礼剣を胸元に深々と突き刺し、真名を解放する。
「『
「人類の抑止力、と言えば聞こえは良いが、その実態はただの掃除屋と言うやつでね。私が目指していたモノとは遠くかけ離れた存在だったよ」
特異点での異常を無事に解決したその夜…たまたま寝付けなかった――実際は清姫がベッドでモゾモゾしていた――僕は、廊下で立香さんと鉢合わせ、食堂で温かいココアでも飲もうと食堂へ向かった。
すると、そこにはエミヤが清潔感のある白いエプロンを身に着けて水回りの清掃を行っていた。
彼が召喚されてから、食堂はエミヤが担当することになっている。
レのつくオジサンの爆破テロによって人員が少なくなってしまったカルデアの負担を少しでも減らし、ついでにバランスの良い食事を提供すべきだろうと彼が言い出したのが事の発端だ。
僕と立香さんはエミヤに事情を説明すると二つ返事で承諾してくれて、すぐに甘いホットココアを用意してくれた。
そうして静かな食堂にホットココアを啜る音が響く中、エミヤが誰に聞かせるでもなく口を開く。
「多を生かすために少を切り捨てる…言っている事の正しさは理解できても、私はそれを受け入れる事ができず、疲弊し、摩耗し、磨り潰されていった。そんな果てにあったのは過去の自分を殺して未来を無かった事にする…等と言う、くだらない願いくらいなものだ」
「その…エミヤさんは…それで第五次聖杯戦争へ?」
「まったくの偶然の産物だったがね。あぁ、結果はロクでもなかった。笑い話にしかならん」
エミヤは肩を竦めてニヒルに笑うと、僕達2人を見つめる。
「結果がどうあれ、そこに至るまでの道は間違ってはいないんだ…と自分自身に言われ、あまつさえ敗北を喫したのだからな。…だが、磨り減ってしまった私には随分と効いた」
「…あの女の子が言っていたセンパイって…言うのは…」
「さて、ね…もう遠い昔の話だ。あぁ、2人とも…飲んだ後のマグカップはきちんと水につけておいてくれ。明日朝食の準備をする際に私が洗っておく」
エミヤは立香さんの問いに軽く肩を竦めるだけに留め、霊体化して姿を消す。
彼は未来の存在…第五次聖杯戦争を生き延び、目指したものの果てに到達した人間なのだろう。
きっとそれは並大抵の努力でなれるわけでもなく、そしてなったあとも地獄の様な日々が続いたのだろう。
それでも…間違ってはいなかったと思える強さは…目指さなければならない強さの様に思える。
「…私ね、もっと頑張らなくちゃって思った」
「立香さんは、頑張ってるんじゃないかなぁ…?」
エミヤが消えてから暫らくして、ポツリと立香さんが言葉を漏らす。
どこか悔しさを滲ませたその声は、僕に向けられているようにも感じられる。
「今のままじゃ、私はマスターとしてはまだまだ足手まといなのかもしれない…マシュにも助けられてばかりだからね」
「僕は、お師匠に色々な術を叩き込まれてきた…だからやれる選択肢が多いってだけだよ?」
「それは、分かっているんだけどね…」
立香さんは残っているホットココアを一気に飲み干して、すくっと椅子から立ち上がる。
どこか落ち込んでいた様な表情だった立香さんは、両手で自分の頬を強く叩くと、びしっと僕に指を差し向ける。
「けど、私は東雲さんみたいに器用じゃない!器用じゃないからやれることを頑張るの!なので、これは宣戦布告デス!」
「はい?」
僕はキョトンとした顔で立香さんを見上げ、立香さんはフフンと不敵な笑みを浮かべて僕の事をまっすぐに見つめる。
「東雲さんよりも強くなくたって構わない、魔術が誰よりも下手でも構わない、だけど決して諦める事だけはしないってね!それじゃぁおやすみ!」
「お、おやす、み…?」
立香さんは足取りも軽やかに食堂を出ていき、僕だけがポツンと一人取り残された。
あぁ、なんか怒られそうだけど、設定とかは投げ捨てようって決めてたから書きました…満足。
評価堕ちそうですなぁ…(トオイメ
嘘次回
「大分増えましたな」
「て、てへ?」
「うん、りっちゃんはりきりすぎたね!」