Fate/Grand Order 朱槍と弟子 作:ラグ0109
#29
―――流れ星を見た…
――――――鮮烈に夜空を駆け抜け、そして消えていく様は…
―――――――――あぁ、まるで戦士の様なのだと…
――――――――――――
―――そう、確信したのだ―――
朝…僕は目を覚ましてからまず、隣で静かな寝息を立てている存在にゲンナリとしつつ体を起こしてベッドから抜け出る。
全身に微量な魔力を流して、魔術回路を一時的に励起させることでコンディションをチェックする。
一ヶ月弱…お師匠に鍛えられ、兄弟子と駆け抜け、特異点を2つ解決したお陰なのか…それともメディカルチェックの際には発見できなかったのかは分からないけれども、僕の魔術回路の総数は全部で27本へと増えている。
魔術回路が増えると言う事は、それだけ魔術を行使するための魔力が多くなると言う事で大変喜ばしいことだ。
特異点Fは偶然に。
第一特異点は死に物狂いで駆け回って。
そうして突破してきたのだ…今後も運だけで突破できるとは限らないし、実力が身に付いていくのは今後の事を考えれば重要な事だろう。
励起した魔術回路に勘付いたのか、ベッドの中で眠っていた存在がモゾりと体を起こして目元を擦りながら此方を見つめてくる。
「おはようございます、
「…心臓に悪いから、ベッドに潜り込まないでくれるかな?」
「まぁ!
「変なルビ振らないでくれるかな!?」
ベッドの中に潜り込んできた存在…それは言うまでも無く
清姫は毎晩のように着物を着崩した状態で僕のベッドに潜り込み、ヒシっとしがみ付くような形で眠りに就いている。
既成事実を用いて正式に責任を取らせようと言う恐ろしい計画が垣間見えて、僕としては非常に心臓に悪い。
良家のお嬢様で透き通る様な白い肌、
と言うか犯罪案件ですよ、えぇ…。
「わたくし、諦めません。必ずやますたぁを…ふふふ…」
「ほんと、勘弁してください…」
ゲンナリとしながら部屋の隅に置いてある両親の位牌に挨拶をしつつ、軽い筋トレを行う。
腹筋や背筋をする際は清姫に足を押さえてもらい、腕立ての際は背中に座ってもらう。
この時ばかりは流石に会話を行うだけの余裕や邪念を抱く事なんてある訳もなく、部屋には僕の苦し気な息遣いが響くばかりだ。
もっとも、清姫は邪念ダダ漏れのウットリとした顔をしていた訳だけれども…。
筋トレを終えれば清姫を放り投げる様にして部屋から追い出してからシャワーで汗を流し、僕専用に新調されたカルデア戦闘服へと身を包む。
僕達マスターが身を包む礼装には、3つの固有の魔術スキルが設定されている。
これらのスキルはカルデアからの魔力供給をメインにして作動するようになっていて、使用者に負担をかけないようになっている。
本来の設計思想としては、魔術を使えないド素人でも魔術による援護を円滑に行う為…だったか。
立香さんは魔術の素養があると言う事なので、所長が時間を作っては実践的な魔術講座を開いて叩き込んでいる。
僕の場合はお師匠がルーン魔術を叩き込んでくれたお陰もあってか、援護の為の魔術はそれ程困っている訳ではない。
故に、僕の着込んでいるこのカルデア戦闘服のスキルは通常の物とは異なるスキルが付与されている。
1つ目はガンド…相手の運動機能を一時的にマヒさせる呪いを放つもの。
2つ目はオーダーチェンジ…これは離れた位置に居る英霊と英霊同士の位置を交代させる為の転移魔術だ。
適用されるのはあくまでも英霊だけであって、人間は位置を入れ替える事が出来ない点は注意が必要だと思う。
3つ目は霊子譲渡…緊急的な魔力補充をカルデアからの魔力供給で賄い、宝具の起動を補佐する。
僕としてはこれが一番重要なスキルになる。
理由は言うまでも無くカルデアを介さず契約をしているお師匠…スカサハが原因だ。
お師匠はカルデアを介して召喚されていない弊害で、現界を保つためには僕の魔力を使用する他無く、僕が契約している3騎の中で一番の大喰らいと化している。
こうなるとお師匠、クー・フーリン、清姫の3騎を同時に動かすと魔力を賄いきれなくなる可能性がある。
もちろん令呪を緊急バッテリーの様に使えば問題はある程度解消されるものの、令呪は全部で3画しかなく、1日に追加補充される画数も1画までと長期的な戦闘を見た時に不安が出てしまう。
そうした問題を解決するために、ダ・ヴィンチちゃんを筆頭にカルデアのスタッフが特別に霊子譲渡スキルを開発してくれる事になった。
とは言え過信は禁物…性能自体は令呪による魔力ブーストの20%相当と言う事なので、タイミングは非常に難しいものになるだろう。
「…よし」
鏡で身だしなみをチェックして整え終えれば、僕は部屋の扉を開ける。
其処には頬を膨らませて不満顔の清姫、デミサーヴァントとして武装状態になったマシュ、カルデアの制服に身を包んだ立香さんが立っていた。
「お、今日も同衾だったのかな?」
「立香さん、顔がゲスいっす」
「あ、あはは…東雲さんは準備は良いですか?」
立香さんは何処か狂気を感じるような瞳でニヤニヤと僕の事を見つめ、マシュはそれに乾いた笑いをあげつつも僕に声をかける。
僕はその言葉に静かに頷いて、静かに一歩踏み出す。
「それじゃ、行こうか」
[アンサモンプログラム スタート]
[霊子変換を開始 します]
コフィンに入ってからやや緊張した面持ちで目を閉じる。
今回の舞台は1世紀ヨーロッパ…イタリア半島を起源とし、地中海を制した大帝国…古代ローマ帝国だ。
その領土は広大であり、特異点Fは言わずもがな、第一特異点なんて比較にならない。
敵も味方も分からない状況に送り込まれる中で、頼りになるのは仲間である立香さんとマシュ…そしてカルデアに来てくれた英霊達だけだ。
だけど、やるしかない…この特異点を解決しなければ、僕達は静かに死ぬしかないのだから。
求められるは聖杯の探索…果たして、今回は無事に終える事ができるだろうか…?
[レイシフト開始まで あと3、2、1……]
[全工程
[グランドオーダー 実証を 開始 します]
レイシフトによる感覚は奇妙なものだ。
まるで意識がどこかへ落ちる様に…。
身体がどこかへ行ってしまうような…。
そういう不安な感覚が一斉に襲い掛かる。
とは言え、そんな感覚はほんの数秒の事であって、すぐにレイシフト先へと移動することが出来る。
肌に感じる柔らかな太陽の光、鼻をくすぐる蒼い香り。
ゆっくりと目を開くと、そこは爽やかな風が吹く草原の丘だった。
「ふぅ…今回も無事、転移に成功しましたね」
「うぅ…この感覚は慣れないなぁ…」
「キューウ、フォーウ!」
マシュと立香さんは周囲を見渡しながら、ホッと胸を撫で下ろしている。
どうやら前回同様にフォウまでついてきたようで、マシュの盾の影から飛び出して立香さんの胸に飛び込んでいる。
…小動物の特権だなぁ。
気を取り直して、僕も周囲を見渡すと、傍らに清姫とクー・フーリンの姿があることを確認する。
「古代ローマっつってたな…って事は、あの赤い皇帝サマの時代かね?」
「兄さん、時代的にはもう亡くなってますよね?」
今回のこの特異点の年代は紀元60年…クー・フーリンの没年は紀元2年と言われていて、微妙に時代が嚙み合わない。
故にクー・フーリンがこの時のローマ帝国の皇帝と知己と言う可能性は限りなく低く、また皇帝が知っていたとしてもアルスター伝説を目にしていた、と言う可能性が高いだけに留まる。
あ、そういえばこの時代であれば、影の国に通ずる道がまだ開けている可能性がある。
もしかしたら、千里眼でこの時代に生きていたお師匠が此方を見ている可能性があるなぁ…。
「言ったろ、英霊は様々な時代の聖杯戦争に呼ばれるってな。月で行われていた聖杯戦争で、ちょっとばかしネロっつー皇帝サマのところで客将やってたことがあるのさ」
「兄さんは有名ですもんね…北欧じゃ日本で言うナマハゲ扱いだって聞きましたよ」
「フィンの野郎に騙される程度には馬鹿なナマハゲだけどなー」
フィン、と言うとフィン・マックールの事だろうか…?
これまた時代が合わないので知己じゃないはずなのだけれど…もしかしたらギリシャ神話ばりにあれこれ話が盛られているのかもしれないなぁ…。
「…あの光の輪…此処にもあるんだね」
軽い談笑を行っていると、立香さんは空を見上げて渋い顔をする。
…冬木の時は曇天に覆われ見えなかったけれども、フランスの時にはキチンと目にすることができていた巨大な光の輪が、この時代の空にも存在する事が確認できる。
この時代に輪があると言う事は、更なる以前の時代…紀元前にあたる時代から存在している公算が高い。
とは言え、今はこの場の特異点の解決が優先だ…現状害を感じないのであれば、放置しておくしかない。
『とりあえず、現状の報告をしなさい』
「所長、此方は全員無事にレイシフトを完了しました。問題は、この場が首都ローマではないって事なんですけど」
所長からの通信で、僕はすぐさま返答して現在地の確認を急がせる。
今回のレイシフトの予定ポイントは首都ローマの筈だった。
今いる場所は何処までも続く青々とした丘陵地帯であり、首都と言うには活気と言うものが存在していない。
丘陵地帯から見える範囲にあるものと言えば、整備された街道くらいだ。
この街道はローマへと続く道であり、物資の移動や軍の派遣をスムーズに行う為に最優先で整備された…と言う事を学校で習った。
広大な領土を持つが故に、治安維持のための軍の派遣は重要な意味合いを持つのだ。
『ちょっと、ロマニ!どういうことなの?』
『あれ、おかしいなぁ…きちんと首都ローマに設定されているんだけど…いや、位置的には近い場所にレイシフトしているんだけど』
「転送座標の調整ミス…でしょうか?」
「時代は正しいんですよね?」
…フランスにてドえらい目に合った身としては、この座標ズレに関しては本当に勘弁してもらいたいと思っている。
目を開けたら剣林弾雨の戦場でしたとか本当に勘弁してほしい…。
マシュは、不思議そうな顔で首を傾げ、立香さんは冷や汗を一筋かきつつ時代の確認をする。
『うん、時代に関しては問題ないよ。ローマ帝国第五代皇帝――ネロ・クラウディウスが統治する時代なのは確かだ。でもおっかしいなぁ…』
「でもドクター、すごく牧歌的な丘ばかりなんだけど…」
「フゥー…フォーウ!!」
立香さんから飛び降りたフォウは、高く飛び跳ねてある方角に何か起きているとアピールを行っている。
僕達はそちらへと目を向けるものの、なだらかな丘くらいしかない様に見える。
だけど…クー・フーリンは何かを感じ取ったのか、ニィッと笑みを浮かべる。
「あぁ、匂う…匂いやがるな。こりゃ大規模な戦闘が近くで起きてやがる」
『待て待て、この時代に首都の郊外で大規模な戦闘なんて起きた記録はないぞ!?ネロ・クラウディスだってまだ晩年と言う訳ではない!』
『ロマニ、もう特異点に足を踏み入れているのよ?つまり、何かしらの異常が起きていると言う事。聞きなさい、まずはその戦闘に介入しなさい。首都が近いと言う事はそこへ攻め入ろうとしている筈よ』
「音のする方向へ急ごう!」
僕達は顔を見合わせて頷き、フォウを先頭になだらかな丘を駆け抜けていく。
霊体状態で姿を隠していたお師匠とエミヤも姿を現す。
「エミヤさん、何が見えますか?」
「ふむ、大部隊と少数部隊の戦闘だ。どちらも『真紅と黄金』の意匠を用いているが、少数部隊の方は若干異なる。あれは…」
「おうおう、見えるねぇ!皇帝サマがはりきって戦ってるじゃねぇか!」
エミヤはアーチャー特有の鷹の目を用いて、戦場を戦う部隊の違いを僕達に伝えていき、少数部隊の先陣を切っている存在へと目を向けた途端に曖昧な表情になる。
クー・フーリンもその存在が見えたのか、エミヤとは対照的に快活な笑みを浮かべる。
「先陣切って戦ってるのが第五代皇帝のネロ・クラウディウスだ。皇帝サマは生身でも強いみてぇだな!」
「ほ、本当に暴君ネロなんですか!?歴史資料では男性であると…!」
僕も学校の授業ではネロ・クラウディウスは男である…と言う事は習っている。
故に歴史の齟齬を感じざるを得ないものの、女帝と言う存在は好ましくないと思っていた歴史家が勝手に改変したのか、それともあのアーサー王の様に性別を偽っていたのかのどちらかなのだろう。
「大部隊は首都ローマを襲撃するつもりのようだ。後方にまだ部隊を控えさせている」
「それでは、立香さんは後方部隊の撃退を。僕達で目の前の戦闘に介入します」
「あっあの!…で、できれば人殺しは…」
『…割り切りは必要よ、藤丸?』
戦場に立つ…と言う事は、人を殺すと言う事に他ならない。
…時に犠牲を払わなくてはならなければ目標を達成できないならば、切り捨てなければならないだろう。
だけど、彼女は違う…彼女は、極力犠牲を出さないようにしようとしている。
命は等価値であるのだと、切り捨てて良い犠牲はないのだと。
「所長、その辺は現場サイドに任せてもらっていいですか?最終的に解決できればいい訳ですし」
『東雲…良いでしょう。ただし!怪我だけはしないように!!』
「「「はい!」」」
所長の言葉と同時に散開し、立香さん、マシュ、エミヤは後方部隊の襲撃を開始する。
彼女は2週間の準備期間の間に、他にも英霊を呼び込むことに成功している。
余程の事がなければ、彼女に傷をつける事は夢のまた夢だろう。
「まったく、お主は甘い男だな」
「それがますたぁの良いところ…流石はわたくしのますたぁですわ」
お師匠が呆れた様な声で軽くため息を吐き、清姫はここぞとばかりに僕の腕に抱き着いて頬を赤らめながら此方を見上げてくる。
僕はそんな清姫をやんわりと離しながらお師匠へと目を向ける。
「殺し殺されなんてしたくないのが
「ほう…お主は覚悟できていると?」
「僕は貴女の弟子で、心構えも叩き込まれましたから。だからこそ、立香さんの代わりに手を汚す立ち位置に居られるってもんですよ」
僕は概念礼装であるゲイ・ボルクを手に持ち穂先を大部隊へと向ける。
「先手は清姫…宝具を解放して皇帝陛下正面の部隊を蹂躙、残った部隊をお師匠と兄さんで各個撃破します!」
「承知した」
「おうよ!」
「承りました、ますたぁ…それではご照覧あれ!!」
清姫はにこりと華の様な笑みを浮かべ、その身を燃え上がらせる様に魔力を放出する。
その炎の勢いは天を衝き、その身を龍へと変じさせる。
『転身火生三昧!!!!』
全てを焼き尽くす龍へと変じた清姫は、皇帝ネロと衝突していた部隊をその身の炎で包み込み焼き尽くしていく。
突然の横槍に大部隊は混乱に陥り、急速に勢いが衰えていく。
僕の傍らから跳躍で大部隊のど真ん中に降り立ったお師匠とクー・フーリンは互いに背中合わせで周囲を見渡す。
「力を見せるが良い、勇士。出来なければお前の命を貰うまで」
「おう、かかってきな」
お師匠は凛とした声で涼やかに兵士達を見つめ、クー・フーリンは獰猛な猟犬そのものの殺気を放ち槍を構える。
更に後方からは何かが弾ける衝撃音、空気を裂くような音が此方からも響き渡り、大部隊は混沌の極みへと達する。
クー・フーリンが雷光の如く踏み出せば人が木っ端の様に弾き飛ばされ、お師匠が軽やかに舞えば血風が嵐の様に吹き上がる。
この2騎に加えて部隊を蹂躙し続ける炎の龍の存在に、戦意を失ったのか蜘蛛の子を散らす様に撤退を始める。
「なんだよ、あっけねぇな…」
「ただの兵士の中にも玉があると思ったのだが…期待外れだったな」
立ち向かう事をせず、逃げていく兵士達を見て矛を収めたお師匠とクー・フーリンは、心底がっかりしたような声を上げる。
かたや影の国にて英雄を鍛え上げ続けた伝説の存在…かたや鮮烈にその生涯を駆け抜け、未だに恐れられる最強の戦士だ。
立ち向かおうと思う人間は、自惚れ屋か自殺願望者だけだと思う。
清姫は戦闘が終わったのを確認してその身を人へと戻し、両手を広げて此方へと駆け寄ってこようとしているのが見える。
勝敗は決したと見て良いだろうな。
僕は魔術で上空へと信号弾を放って遠くに居る立香さん達に合図を送り、ほんの5分程度の戦闘らしきものが終わったことを伝えるのだった。
第二章はっじまっるよー!
なんとか…なんとか、いつもの長さに抑えられた…筆がノるって怖いですな…
さぁ、5/1からはCCCコラボだ。
林檎(グーグル)カードは持ったか!いくおぉっ!!!
次回
「僕ぁ思うんですよ…案外歴史ってアテにならないってね」
「…まぁ、アーサー王然り目の前の皇帝陛下然りだしね…」
「なんだ?余の話か?余も混ぜよ!」