Fate/Grand Order 朱槍と弟子   作:ラグ0109

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#34

ガリアの地を無事に制圧してから数日…そこで従属を強いられてきた人々の解放…加えて戦線の迅速な整理と防衛網の構築は突貫作業で進められた。

何処からともなく現れる連合ローマ帝国の手勢から自陣の領域を守るためには、常に速度が優先される。

戦争は長引けば長引くだけ、国を疲弊させていってしまう…それは彼方も同じことなのだけれど、彼方は僕達と違って疲弊を恐れる必要も無ければ、無尽蔵とも言える魔力の塊たる聖杯を所有している。

この戦争、今は圧しているとは言えども僕達が不利だと言う点は変わってはいなかった。

 

「君は…此処に残っていても良かったのかい?」

「あっちはマシュにエミヤが居ますし、もしもの時はカルデアから追加の戦力を呼ぶことが出来ます。ガリアは取り返したばかりで防衛網の構築が不完全…何かあってからでは遅い」

 

ガリアに作られた野営地でルーンを彫り込んだ魔石を作っている僕に、心配そうにブーディカが声をかけてくる。

僕はそれに対して建前上の理由を述べて朗らかに笑って返す。

僕と立香さんは、二手に分かれて行動することにした。

理由は言うまでも無く先の戦闘に依る蟠りが原因だ。

納得は出来ても理解はできない…まして葛藤をしていない様に見えれば余計に彼女と溝を開ける事になる。

余計な雑念は戦場において命取り…いや、立香さんは戦闘中なら損得勘定抜きで行動してくれるだろうけどね。

ただ…彼女には考える時間が必要だとは思う。

…成すべき事の意味を。

 

「ふ~ん…まぁ、君みたいな手練れがこうして残ってくれるのはありがたいけどね。でも、あんまり無理しちゃ駄目だよ?」

「あはは、無理なんてしてませんよ」

 

…いやまぁ、考え事ばかりしていて、ガリアの地の平定もあって寝られなかったんですがね。

別に宝具で敵兵を蹴散らしたところで、良心の呵責なんてものは無い。

僕には僕の成すべきことがあるし、それをする為にはどうしても生き残る必要がある。

だからこそ、僕は道端の小石を蹴り飛ばす様に暴力を彼らに振るった訳だけど。

ただ、一般的な道徳心から言ってしまえば、僕の行った決断と言うものは悪と言えるだろう。

なんせ、最たる動機が死にたくないから、だからね。

 

「なら良いけどさ…困ったことがあったら、お姉さんにちゃんと言うんだよ?君はなんだか見てて危なっかしいからね」

「タハハ…お師匠や兄さんによく言われます」

「だったら、きちんと生活態度を改めなくちゃね」

 

ブーディカと2人で顔を見合わせてクスクスと笑っていると、ブーディカの背後にあるテント…その出入り口にかけられたカーテンの隙間から恨みがましい視線が注ぎこまれてくる。

そうだね、清姫だね。

清姫は僕が他の英霊に現を抜かしているんじゃないかと気が気でないのだろうけど、そもそも僕は彼女と契りを結んだことは無いので、そんな風に思われる筋合いが無い訳で…。

 

「ところで、その大量の石はどうしたの?」

「あ~、備えあればと思って地道に作ってたんですよ、魔石。手榴弾って言えば分かります?」

「実際に見たことは無いけれど、知識にはあるよ。爆弾ってやつでしょ?」

 

言うまでも無くブーディカはこの時代の女性だ。

よって手榴弾なんて見たことも聞いたことも無い筈…それなのに知っていると言うのはどういうことなのか?

お師匠曰く、これは英霊の召喚を補助する聖杯に原因があるそうな。

なんでも、1度聖杯と言うパスを通して召喚される英霊には聖杯側からあらゆる知識がインプットされるそうで、なんだったら最新の服飾の流行まで頭の中に入ってくるとか。

ただ、凄まじい量の情報量と言う事には違いないため、その単語が出てくるまでは頭の中にはどう言ったものなのか思い浮かばないそうな。

 

「そうです。効果は目くらまし程度ですけど、戦場じゃ命取りですからねぇ…」

「へぇ…これ、何個か貰ってもいいかい?」

「どうぞどうぞ。地面に投げつければルーン魔術が起動しますから」

 

ブーディカは僕の作った魔石を幾つか手に取ると、懐に仕舞い込み手を振って離れていく。

…胸の谷間に仕舞い込む人初めて見た…う~ん、でかい。

テントからこちらの様子を伺っていた清姫は、相変わらず険しい表情で此方を見つめ続けている。

多分鼻の下を伸ばしていると思ってるんだろうなぁ…そんなこと言われても僕も男ですし。

僕はその視線に気づいていない素振りで小石を皮袋に詰めていき、腰にぶら下げておく。

これで戦闘中でもすぐに取り出して使う事ができるだろう。

 

「ロマン、立香さんの方は順調?」

『順調だよ。今のところ敵らしい敵は出ていないし、快適な旅だろう』

 

ネロ一行が出立してからと言うものの、Dr.ロマンから聞かされる状況には心配するようなものは無かった。

流石にイタズラに戦力を送り込むような真似をしないか…。

向こうにはもうカルデアが関わってきていることは分かっている筈…胡坐をかいて高みの見物でもしているのだろうか?

得物の前で舌なめずりは三流のやる事と言われているけど…。

存外に英霊に慕われていないだけだとしたら、此方としてはありがたい限りだ。

相手方の行おうとしていることは人類史の否定…ひいては英霊達の否定だ。

慕う英霊が居たとしたら、反英雄と呼ばれる存在くらいなものだろう。

 

『あぁ、でも通りがかりの行商から()()を見た、なんて話を聞いたらしいよ』

「女神ですか…それって神霊って事になりますよね?」

 

神秘を残しているとはいえ、この時代は最早人と神とが決別をした後の時代と言われている。

その転換期となったのは古代ウルク…名高い英雄王ギルガメッシュの時代らしいんだけど、それはまぁ置いておいて…。

お師匠曰く、世界が人間の手に委ねられてから世界の物理法則と言うものが確定していき、神様…つまり神霊がこの世界に干渉することはできなくなったとか。

神霊クラスの顕現はエミヤの様な守護者…つまり抑止力が排斥してしまい出来ないんだとか。

仮に顕現してしまっても必ず勝利する存在を抑止力が送り込んで、早急に鎮圧してしまう。

だったら、この人理焼却はなんなんだと言いたくなってしまう訳だけど…抑止力はどうも本人たちが気付かないところで起きているらしく、そうなった場合観測や認識はできないとのことだ。

…ハハッマサカネー。

 

『君の懸念していることは分かる。そもそも人づての噂を聞いただけだから真偽は分からないし、何より――』

「ダウンサイジングされた英霊である可能性が高いと言う事だ。そうだな、魔術師?」

「お師匠、兄さん苛め終わったんですか?」

「苛めとはひどい言い草だな、良太?軽いウォーミングアップの様なものだ」

 

Dr.ロマンとの会話に割り込む形で、斥候と言う名のトレーニングに出ていたケルト最優にして最美(自称/ただし僕としては否定要素はない)の槍使いであるスカサハが戻ってくる。

お師匠はクー・フーリンの首根っこ掴んで引きずる様にしてスパルタクスを連れ立って出ていったので、一緒に帰って来るものかと思っていたのだけれど…。

 

「その…兄さんとスパルタクスの姿が見えないんですが…」

「あぁ、あいつの両腕を縛り上げて手頃な飛竜の巣に叩き込んできた…スパルタクスはそのままだが、セタンタは圧制者と囁いておいたから仲良く運動しているだろう。ランサーにしてキャスターだからな、今一度効率の良いルーン魔術を叩き込むには打って付けだろう?」

「待って、アンタ何言ってんですか…」

 

お師匠は後ろ髪を払って爽やかな笑みを浮かべた後に、その形の良いバストを下から持ち上げる様に腕を組んで僕を見下ろす。

僕はスパルタクスの件で顔を青褪めさせるものの、その仕草にうっかり見惚れてしまい、少しばかり顔を赤くして首を横に振って本題に戻る。

兄さんには頑張って逃げ帰って来てもらいたい…こんな事で令呪を切りたくないし、念話が無い辺り余裕は余裕なんだろうし。

 

「は、話を戻しますけど、ダウンサイジングってどういうことですか?」

「言葉通りの意味だ。神としての権能を可能な限り削ぎ落し、()を英霊の器になるまで落とす。そうすることで神霊も抑止力に目を付けられずに顕現することは可能だ。そも、英霊と言うものは本来、人が扱えるようにしたものだからな。英霊も器の格が上がることでより本体に近い実力で顕現することができる」

『女王の言うとおりだよ。英霊として顕現しているのならば、仮に敵対していたにしても僕達で対処はできるはずさ』

 

格が上がれば本体に近くなる…あれかな、スーパー・サーヴァントだとかハイ・サーヴァントみたいな名前が付いてたりするんだろうか?

安直に過ぎる気はするけどネ!

ただ、そう言った格が上がった英霊はお師匠の言葉通りであるなら人間では制御できないのだろう。

人が扱えるようにしたものがサーヴァント…ってことなんだから。

 

「お師匠の全力って言うの…いつか見てみたいなぁ」

「ハハッ、ならばお主は鍛錬を今よりもより多く積んで、影の国へと単身参らねばならんだろう。人理を修復すれば、影の国もまた修復される…無論、私もな。さぁて、お主は私を魔境に叩き返す日が来るか見ものだな」

「…絶対に会いに行きますよ」

 

夢の中でしか会えない人。

だからこそ、僕は生きてこの人に会ってみたい…会いたいと思っているのだから。

 

「なんにせよ、その女神との邂逅は吉兆になるだろう。私の見立てではな」

『女王の千里眼ともなれば、ほぼ確実でしょうね。立香ちゃんにも伝えておくよ』

「早くこの特異点を解決しないとですしね」

 

…レイシフト中、シフト制とは言え残った職員をフル稼働して、休みなく僕達の存在実証を続けていかなければならない。

少しでも僕達の存在実証に乱れがあると、レイシフトが失敗してしまって最悪自分と言う存在が消え失せてしまう。

今こうして何でもなく生きていられるのは、縁の下の力持ちとも言えるスタッフの皆の頑張りがあるからに他ならない。

レイシフトしてから2週間近く経とうとしている事を考えれば、あまり呑気に事を構えていられないのは事実ではある。

 

『とは言え、焦っても仕方がないわ。東雲、何事も落ち着いて事を進めなさい…良いわね?』

「所長…」

 

所長が通信に割り込む形で僕の焦燥感を拭い去っていく。

確かに焦りは禁物だ…失敗は絶対に出来ないのだから。

 

「とは言え、こうも動かないままでは、考え事をどうしたってしてしまうものだろう?」

「…ソンナコトナイデスヨー」

「いいや、私が見るにそんなことはある。なので、お主を私が直々に扱いてやるとしよう。悦べよ?」

「ワァ、ウレシイナァー」

 

何となく、嫌な予感がして僕はジリジリとすり足で後退していったものの、一瞬で背後をつかれ両肩に手を置かれて耳元でお師匠に囁かれる。

これが青少年的に大人の階段を登る的お誘いであったのであれば、本当に…本当に嬉しかったのだけれどそこは鍛錬中毒であるお師匠…甘い囁きなんて欠片も無かった。

僕は今朝見た兄弟子と同じような状況で、ズルズルと野営地から引きずり出される羽目になったとさ。

 

 

 

 

「圧政には反逆を!反逆には痛打を!!おぉ!すべて我が愛で抱擁しよう!!」

「圧政者じゃねぇっつってんだろ、筋肉ダルマが!!」

 

見渡す限りの遮蔽物がない平原を、2人の男が疾走する。

1人は後ろ手に縛り上げられ、両腕の自由が利かなくなっている男、クー・フーリン。

もう1人は青白い筋骨隆々の大男、スパルタクス。

クー・フーリンはスパルタクスが振るうグラディウスによる剣閃を紙一重で避け、ルーン魔術による足止めを幾度も施していく。

スパルタクスの宝具の特性は事前にブーディカから説明されていた事もあり、可能な限りダメージを与えないものを選択して使用している。

その宝具…疵獣の咆哮(クライング・ウォーモンガー)はスパルタクスにダメージを負わせるとその一部を魔力と変換し、傷つければ傷つけるほど強くなると言うものだ。

流暢に会話を行っているように思えるが彼の狂化ランクはEX…故に傷つくことに一切の躊躇は無く、また相性がいい。

そんなお陰で、クー・フーリンはワイバーンの巣ではスパルタクスを傷つけないように守りながら戦う必要があったし、今もこうして些細な嫌がらせ程度のルーン魔術で追いつけないように野営地へと走っているのである。

 

「ったく!なんでこんなのが味方なんだっての!」

「これぞ我が愛!故に圧政者よ!汝の愛を我に授けたまえ!!」

「愛をくれてやるんだったら、美人の姉ちゃんが良いに決まってんだろうが!」

 

会話がほぼ通じないとは言え、こうして返していないとクー・フーリンとしてもだんだん気が滅入ってくるのである。

もうそろそろ野営地に着く…そうすればブーディカが何とか抑え込んでくれる筈、と思った矢先、クー・フーリンの視界の端に数百人規模の人外の存在が映る。

人外…と言ってもそれらは皆人の姿…しかし、そこに実体が無いのだ。

クー・フーリンはしめたと笑みを浮かべ、スパルタクスへと向き直る。

 

「おい筋肉ダルマ!あれを見ろ!お前の大好きな圧政者だぞ!!!」

「なに!?フフフ…フハハハハハ!おぉ!あんな所にも圧政者が!今日と言う日は神が与えてくれた試練の日!!さぁ、友よ!私と共に行こう!!!虐げられた人たちを解放するのだ、ゆくぞぉ!!!」

 

疵獣の咆哮…その名の如く咆哮を上げながらスパルタクスはクー・フーリンが指示した人外の集団…否、英霊レオニダスの宝具へと単身突撃していく。

本来であればローマの手前で陣取る筈であったレオニダス…しかし不幸にもクー・フーリンに目を付けられてしまったが故にスパルタクスを嗾けられてしまい、使命を全うすることはできなかった。

 

「フハハハハ!我が愛は!!爆発するぅっ!!!!」




さようなら、レオニダス。次の出番はウルクだ。

お待たせしてしまって申し訳ない…失踪だけは絶対にしないので、そこだけ信じていただければ、と。

次回予告
「良い具合に振り回されてるな…」
「いやぁ…困ったね、これ!」
「良いから手ぇ動かせっつーの!」
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