Fate/Grand Order 朱槍と弟子 作:ラグ0109
連合ローマ帝国首都…僕達は皇帝ネロと立香さんの居る部隊とは別に単独行動で首都を別方向から攻略している。
敵方の目的は皇帝ネロを殺害することで、人理修復を失敗させることだ。
もしそうなのだとしたら、現状最高武力を誇るお師匠達を別行動させるのは愚の骨頂とも言える。
しかし、過信でも何でもなく立香さんと契約している英霊は守護に長けた英霊が居る。
盾の英霊と融合しているシールダー・マシュ・キリエライト。
あらゆる武器を投影、複製してその鷹の目を以て戦場を俯瞰するアーチャー・エミヤ。
そして強大な国家から自国を守り抜いた護国の鬼将バーサーカー・ヴラド三世。
この3騎の護りがあれば、並大抵の敵でもなければ突破してネロを傷つける事はできないだろう。
故に僕達は単独別行動で遊撃に出ている。
劣勢あればその戦場へと赴いて殲滅し、更に次の戦場へと駆け巡る。
最高武力を自負するからこそ、そしてその武力を今まで目立つように振るい続けてきたからこそ、
いつその武力が自身の喉元に突きつけられるのか、分からないからだ。
「戦いは得意ではないのですが…」
「その割にゃ一番張り切ってるじゃねぇか、蛇の嬢ちゃん!」
清姫の嘆くようなボヤきに対して、快活な笑みを浮かべてクー・フーリンが手に持つ朱槍で清姫に迫る敵兵を吹き飛ばす。
その動きは一切の無駄がなく、一種の芸術の様にも感じられる。
「
「軽口叩いていられるなら、まだ余裕かなぁ…」
清姫は頬を膨らませると口元を手に持つ扇子で隠して、僕の方へとチラチラと熱の籠った視線を向けてくる。
一応緊張感のある戦場なのだろうけど、僕はその視線にがっくりと肩を落として呟く。
連合ローマ帝国は戦力の殆どを人間に依存している。
士気の高さは狂気に近い高さがあるため、ネロ率いる軍団よりも高いと言わざるを得ないものの、士気が高いと言うだけで個々の質はそこまで高いものでは無い。
ましてや、もう首都にまで攻め入っている都合上、展開できる部隊にも限りがある状態だ。
故に―――
「「「「全ては連合ローマ帝国の為に!!!」」」」
戦場に幼過ぎる声が響き渡る。
戦場に老いた声が響き渡る。
包丁を、工具を、農具を…自分たちが持てる武器を持って、首都に住まう人々が僕達に対して牙を剥く。
そこには老いも若いも存在せず、自分たちの住む国を守るための必死の抵抗が窺える。
これが戦場の狂気なのだろう。
これが守ろうと言う狂気なのだろう。
この場には畜生しか存在しない…少しばかり、立香さんとマシュが心配だ。
「くっ…これが為政者のやる事なのか!!!」
襲い掛かってくる子供を、老人に躊躇する兵士が悲鳴のような声を上げる。
彼にもきっと故郷で同じような子供が、妻が、両親が帰りを待っているのだろう。
だから、敵を打ち倒すと言うその
そんな光景を傍目に、僕は淡々と朱槍を振るう。
薙ぎ払って首を落とし、眉間を貫き、心臓を穿つ。
「死にたくなければ、僕の邪魔をするな…!!!」
腹の底から声を出し、威圧する。
兎に角、圧倒し続ける…敵を、味方を。
敵であればその姿に躊躇し、味方であればその姿に光明を見出す。
僕達は今、負けられない戦いをしているのだ。
故に、敵が何であろうと僕は決して躊躇をしない。
後悔を…しない!!
視界の端を黒い靄の様なものが掠めると同時に、鈍く光る矢が僕の眉間に吸い込まれるように放たれる。
「やれやれ、影の国でもないと言うのに、此処には血気盛んな獣しかおらんな?」
「お師匠!」
放たれた矢は真っ直ぐに僕へと突き進んでくるも、当たる直前で横から伸びた腕が矢を掴みそのままへし折る。
戦場に合ってその美しさに翳りを見せる事も無く、威風堂々とした出で立ちはネロとは違った輝きを放つ。
女王スカサハ…ケルト、アルスター伝説に於いて最強の戦士。
お師匠が助けてくれなくとも、その矢は僕に届くことは無い。
備えあれば憂いなし…ルーン魔術による矢避けの加護を施していたからだ。
こうして、お師匠が僕の前に出張ってきたのは、ひとえに僕の頭を冷やす為だろう。
「取るに足らん獲物ではあるが、あの英霊擬きは私が請け負う。お主達は合流地点へと急ぐが良い」
「分かりました。兄さん、清姫!」
「おう!」
「はい、ますたぁ」
お師匠が弓兵の英霊擬きの元まで移動を開始すると同時に、民兵たちに混ざって俗に言うゴブリンと呼ばれる下級のモンスターとキメラの部隊が僕達の前へと躍り出てくる。
僕はすかさず腰のポーチから石を2つ程取り出して、ゴブリンたちの一団へと向けて放り投げる。
「『ソウェイル』!『ユル』!」
16番目のルーン文字、ソウェイルは太陽を意味するルーン文字。
13番目のルーン文字、ユルは根本的な変化を意味する他に180度の方向転換の意味を持つ。
僕が刻み込んで作ったルーン文字は、通常のルーン魔術に比べて魔力を使用しなくて良い分、単純にしか力を発揮することが出来ない。
だけど、シンプルな力しか必要が無い場面においては、これほど扱いやすいものはない。
僕が文字の起動の為に名を叫んだ瞬間、僕ら側では突如目を抑えて叫び転げまわるモンスターと人々の姿しか見えない。
しかし、実際にはソウェイルによって強烈な閃光があの一団の中で起きている。
では、何故僕らには閃光が届かなかってのか?
言うまでも無く、ソウェイルの魔石の手前で発動したユルの魔石によって、魔力による光の進行方向が捻じ曲げられた為だ。
「逃しません…ハッ!!」
清姫が手に持つ扇子に魔力を込めて振り払うと、高密度の火炎弾が高速で発射され、ゴブリンたちの肉体に当たると同時に炸裂していく。
着弾と同時に小規模の爆発を起こす為、ゴブリンの肉体から飛び散った破片が周囲に居る存在全てに牙を剥き、効率的に敵を排除し続ける。
「イっちまいなぁ!」
クー・フーリンはそんな清姫の爆撃に巻き込まれないように、朱槍を用いて棒高跳びの要領でゴブリン達の頭上を軽々と乗り越えてキメラの背に降り立てば手早く蛇の尾を突き穿ち、朱槍を振り払いながら蛇の尾を引きちぎる。
痛みに暴れ狂うキメラの身体から跳躍して離れると、素早い踏み込みでヤギの頭を一撃で蹴り潰し、流れる様に体を回転させて獅子の頭の眉間に朱槍を突き立てて生命活動を停止させる。
「突破します!!」
僕は後方に控えていた部隊に指示を送り、一気に王宮の前まで雪崩れ込もうとする。
こんな、戦いは…早急に終わらせなくてはならないだろう。
このまま首都に住まう人々を相手にし続けては、こちらの軍勢の士気が下がり続けてしまい、やがて劣勢に追い込まれてしまう。
その為にも迅速に王宮へと向かい、連合帝国の首魁を打倒する必要がある。
「まだ、出てくるのか…!」
「チッ…宝具を開帳しねぇとは言え、下手に戦えばマスターがもたねぇ」
「ここはわたくしめが、焼き払ってしまいましょうか…?」
まるでB級ゾンビ映画の様に、民家から路地から人々が手に武器を持って…あるいは石を投げつけて撃退しようとしてくる。
僕達は手段を選ばない…後々の戦いを考えれば、ここで宝具…それもバーサーカーの物を開帳するのは躊躇われるけど、時間が無い。
僕がゆっくりと頷こうとした瞬間、僕達の背後から鼓舞するような咆哮の様な叫びと共にローマ帝国兵士の部隊が飛び出していく。
「東雲殿は我らに構わず王宮へ!我らがネロ・クラウディウス皇帝陛下と共に僭称皇帝を!!」
「「「「我らがローマ帝国に勝利を!!!!」」」」
兵士達は手に持つ巨大な板状の盾タワーシールドを手に持って民兵達へと突撃し、無理矢理こじ開けて道を作る様に盾で押し広げていく。
それと同時に黒い靄の残骸と共にお師匠が上空より舞い降りてくる。
「思ったよりも手古摺ったな…行くぞ、良太」
「は…?」
感慨深げにお師匠が呟いたと思った瞬間、お師匠は僕の身体をいつかのお米様抱っこの様に肩に担ぎ上げて兵士達が作り上げた道を風の如く駆け抜けていく。
クー・フーリンと清姫もお師匠の後を追う形で走り始める。
「お、お待ちなさいスカサハさん!わたくしの
「お~お~、戦場のど真ん中でお熱いこって」
「走れますって、お師匠!」
僕は必死に体を捩って降りようとするものの、お師匠は僕の身体をがっちりホールドしてしまっていて離す気配がまるでない。
後から追いかけてくる清姫は執念なのかなんなのか、ランサーでも屈指の速度を誇るクー・フーリンよりも速く走ってお師匠と(主に)僕を追いかけてくる。
…安珍って人は健脚だったんだなぁ…なんて思っていると、お師匠の進行方向から聞きなれた鈍い打撃音が響いてくる。
どうやら王宮前へと到着したようだ。
此方に気付いたネロは、慌てたように此方へと駆け寄ってくる。
「東雲 良太!我らの兵はどうした!?」
「民兵がこちらに重点的に配置されていて、道を作るために今も戦い続けています」
「そ、そうか…ところで、どうしてスカサハに抱えられているのだ?まさか怪我でも」
「ハハッ、私の弟子だぞ。生半可な事では怪我はしないさ」
抱えられたまま答えた僕は、ネロに怪我でもされたのではないかと心配されてしまうが、すぐさまお師匠が乱暴に放り投げて無事であることを伝えてくる。
お師匠が放り投げると同時に、清姫が此方へと駆け寄って背中から思い切り抱きしめてくる。
もういっそ清々しいまでに空気を読んでくれない清姫の事を取り敢えず無視して、僕は話を進める事にする。
ネロの背後にいる立香さんとマシュが、軽蔑の眼差しで見つめてくるし…。
「へぐっ…雑過ぎません…?」
「そんなことは無いぞ?そんなことはな」
「無事で何よりだ…こちらも藤丸 立香の助力もあって無事に切り抜ける事が出来た。後は、あの方を…神祖ロムルスを打倒するのみ!」
ネロは、
…神祖ロムルス。
このローマ帝国を建国した偉大なる祖。
ネロは自身の国の原点に立ち向かわなくてはならない。
けれどもその歩みに迷いはない。
僕はその在り方をとても美しいものなのだと…この畜生溢れる戦場で場違いな事を思ってしまった。
「とは言え…このまま王宮へ乗り込むのは如何せん罠に自ら飛び込むようなものだ。どうしたものか…」
ネロは突き付けた剣の切先を下げ、困ったように首を傾げる。
言ってしまえば、この王宮は魔術師の作る工房と同じ役割を果たしている筈だ。
なんせ、聖杯が安置されている可能性があるからだ。
魔術師の工房は十重二十重の罠を仕掛けている…自身の成果を盗み出される可能性を少しでも減らすために。
と、すればその罠を上手く突破していく必要があるわけで…。
「考えても埒が明かない…皇帝ネロ、こうは思わんか?罠なんぞ踏み潰してしまえば良いと」
「お師匠、そんなんだからバーサーカーだって言われるんですよ?」
「ほう…?」
お師匠は人差し指をピンと立ててしたり顔で提案するも、僕はその案を即座に却下する。
この人の事だから、こんな非常時においても修行のノリで罠を突破させる気なのだろうけど、そうは行かない。
そもそもそんな事をしている暇は無いのだ。
「エミヤさんのあい あむ ざ ぼーん おぶ まい そーどでぶっちぎるのは?」
「唐突にやる気が無くなったのだがね…マスター?」
立香さんが思いついたと言わんばかりに手を挙げて案を出すものの、エミヤは頭痛がするかの様に眉間を揉み解しながらため息を深く吐き出す。
立香さんの言うソレは、おそらくエミヤの持つ投影品である
魔力を込める量を調整すれば、更地にならない程度に爆破することも可能だろうか?
下手に爆破して聖杯が回収できなくなると、厄介極まりなくなってしまう。
皆で顔を突き合わせて知恵を絞ろうとすると、王宮の巨大な門が重々しい音を響かせてゆっくりと開いていく。
「先輩、門が…!」
「ハッ、どうやらお招きしてくれるそうだぜ…行くかい皇帝陛下、マスター?」
ゆっくりと門が開かれると、戦場の熱気を忘れてしまうかのような冷たい風が吹きつけてくる。
僕達は互いに顔を見合わせて静かに頷き、王宮への一歩を踏み出した。
王宮の中には人の気配が一切無く、あるのは濃密な魔力…そしてピリピリとした殺気だけだ。
その殺気は目の前の謁見の間から放たれており、どこか苛立ちの色合いが非常に強く感じられる。
謁見の間まで歩いてきた所、やはり首都と同じくこの王宮もネロの王宮と同じ構造をしている事が分かる。
そうなれば、此処に至るまでそう迷うことなく、僕達は謁見の間まで辿り着くことができた。
王宮全体を包むような怒りを含んだ殺気…しかし、その割には一切の妨害が無い所が不気味さを助長している気がする。
「皇帝ネロ、準備はいい?」
「フフ、ここまで来て準備も何も無かろう?…行きずりの客将だったと言うのに、よくぞここまで余を支えてくれた。連合ローマ帝国に勝利した暁にそなたらに与える褒美は、かつてないものになりそうだ」
「褒美だなんて…私たちは私たちの目的があって協力していただけなんです。だから…」
「はい。陛下…ですからその褒美はこのローマ帝国の復興の為に」
ネロに声をかけると華の様な笑みを浮かべて胸を張る。
僕達はこの異常を解決すれば特異点から退去することになる。
行ったことは無かった事になり、決して誰の記憶にも残らない…。
だけど、それでいい…僕達は、全てを救う旅を続けなくてはいけないのだから。
「無欲な客将よな…。東雲 良太、頼む」
ゆっくりと扉を開けると、玉座に浅黒く筋骨隆々の威風堂々とした体躯の人物が腰掛けている。
その人物は僕達の姿を確認して満足げに微笑むと、ゆっくりと立ち上がりその両腕を広げる。
「…来たか、愛し子」
「うむ、余は来たぞ!誉れ高くも建国成し遂げた王、神祖ロムルスよ!」
ネロは僕達よりも前へ一歩出て、その自信に満ち溢れた笑みを向ける。
もはや誰にも屈しない、ローマ帝国第五代皇帝としての矜持を感じさせるその出で立ちは、少女であることを忘れさせてしまうほどだ。
「――良い輝きだ。ならば、今一度呼びかける必要はあるか、皇帝よ」
ネロは神祖ロムルスの言葉に首を横に振り、原初の火の切先を神祖ロムルスへと差し向ける。
「余は第五代皇帝だ!故に…故に、神祖ロムルスよ!余は余の剣たる強者たちでそなたに相対する!」
ネロが高らかに宣言すると同時に立香さんの両脇にエミヤとヴラド三世が出現し、その前を盾を構えたマシュが緊張した面持ちで立つ。
それと同時に僕の両脇にお師匠とクー・フーリンが朱槍を手に持って構え、僕の前には優雅に扇子で口元を隠した清姫が立つ。
「ハハハハ!!許すぞ、ネロ・クラウディウス。
高らかにロムルスは笑い、一歩前へとでると僕達に向けて右手を翳す。
その瞬間濃密な魔力の高まりを感じ取り、立香さんは何かに気付いたかのようにマシュに檄を飛ばす。
「マシュ!宝具開帳!急いで!!」
「了解、真名…偽装登録!いつでも行けます、先輩!」
マシュはネロの前へと出ると力強くその手に持つラウンド・シールドを突き立て、守護結界を展開する。
その領域はラウンド・シールドを基点に部屋の両端にまで届き、神祖ロムルスと僕達を分け隔てる。
「見るが良い…我が槍、すなわち――」
その守護結界を見た神祖ロムルスは不敵な笑みを浮かべると、自身の背後から真紅の樹木を創生しはじめる。
恐らくアレが神祖ロムルスの持つ宝具…僕達は何時でも離脱できる準備をして、ロムルスを迎え撃とうする。
「――
高らかな宣言。
その瞬間…視界は真紅で塗りつぶされた。
ここから更に戦闘に次ぐ戦闘…緊迫感のあるものに出来る様頑張ります。
次回
『祖の愛、子の愛』