Fate/Grand Order 朱槍と弟子   作:ラグ0109

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#46

マンションの解体…と、両儀さんは事も無げに言い放つ。

実際に解体するとなると爆破やら何やらで吹き飛ばすのが定石なのだろうけど、今は異常事態が起こっている。

具体的に言うと、このマンションは物理的な手段…更には魔術的な手段でも破壊できないようになっている。

1度自分でも魔術的手段で外壁を破壊してみようと魔石を何度か放り込んでみたのだけれど、破壊された瞬間にまるで時間が巻き戻されるかのように破壊された箇所が修復されてしまった。

両儀さん曰くこのマンションには人ならざる存在…アンデッドが徘徊していて、各階に英霊達が住み着いている状態なのだと言う。

このマンションに居る英霊を追い出さない事には破壊することができず、ご丁寧な事に各部屋には特別な封印が施されている。

この封印自体は特定の条件を突破すれば破壊することができる…と言う事までは分かったんだけれど、如何せん魔術に関してはルーン魔術以外は門外漢。

具体的な条件まではハッキリとは分からないままだ。

 

「1度取り壊したってのに、幽霊屋敷となって夢に出てくるとはね…」

「両儀さんは詳しいんで…?」

 

異空間と化しているマンション…そのエントランスから1階に巣食うアンデッドを2人で処理をしていると、両儀さんは深いため息とともにぼやく様に呟く。

 

「まぁな。魔術師、荒耶 宗蓮が作り上げた場所がここだ」

「魔術師…って言う事は、此処って工房!?」

「それならまだ可愛げがあるんだけどな。ここはきちんと市に届け出を出して、まっとうな建設業者が働いて、普通に住人募集をしていたんだぜ?もっとも、住人以外は寄り付かない場所になっちまったんだけど」

 

魔術工房として住宅地のど真ん中にこんな目立つ建物を建てて、何も知らない人々が住んで暮らしていた…?

異常にも程があるのでは無いだろうか?

魔術や神秘は秘匿されて然るべき、と言うのが魔術世界における基本…らしい。

僕にはそんな意識がてんで無かったからお守り作ってたりしてばら撒いていたのだけれど、普通の魔術師としては絶対に考えられない行動だろう。

しかもこのマンション…造りを見る限りでは完全に一般向けの住宅と言った感じで、魔術的な独特な雰囲気と言った感じがまるでしない。

ぶっちゃけて言えば、住めるならこんな高層マンションに住んでみたいなって言うのが本音だ。

普通なのに此処は異常をきたしている。

ここを造り上げた魔術師は、一体どんな心境でいたのだろうか?

 

「もしかして、ここの住人全員…?」

「…ここは死を蒐集した展覧会だ。寿命。病死。事故死。暴力死。そういった死に方を集めて飾って観察してたのさ。此処に住んでたやつらは1日生きて、死んでを繰り返してる」

「……」

 

訳が分からない。

生きては死んで死んでは生き返って…そしてまた死ぬ。

生きているものはいずれ死ぬ…それは今日かもしれないし明日かもしれない。

いずれと言う事が分かるだけで確実にサイクルとして生死を繰り返していく意味が分からない…こればっかりは首謀者に話を聞いてみないと分からない所だろうけど、今回はそんな必要もないだろう。

なんせ、異常を起こしているのは英霊…付け加えるならば英霊を呼び寄せた張本人が元凶だ。

恐らくこのマンションのどこかに居るだろうし、その時にこの場を造り上げた意図を問い質せば良い。

緩慢なゾンビ、脆いスケルトン、霞の様なゴースト…これらのアンデッドは僕と両儀さんが世間話でもしながら片手間に掃討していく。

これらのアンデッドに共通しているのは、現代日本で良く見られるファッションに身を包んでいる事だろう。

スーツのゾンビとか現代社会の風刺っぽくて、直視しづらかったな…。

 

「廊下に徘徊してるゾンビはアレだぜ。以前から、この建物の住人だ」

「はぁ…」

「もう何年も前に死んでるって言うのに、持って生まれた運命の果て…その()()は絶対に変わらないってことを証明する為だけに集められたからな。ループなんてのは生易しい。ここはリトライする場所だ。お前が来る前からここの住人は死に続けている」

 

…でも…リトライだと言うのであれば…そして、此処が1度取り壊されていると言うのであれば…きっとどこかで綻びが生じたのだろう。

その魔術師が証明しようとした運命の果てと言うものは、否定されたと言う事なのだろうか?

もっとも当人はこの場に居ないし、それを確かめようとは思わないけれど。

 

「粗方掃除は終わったが…これでダメだったらどうしたもんかな…?」

「開いたら開いたで不安はありますけどね…」

 

両儀さんが104号室の扉を開けようと手を伸ばす前に、ガチャと言う音と共に内側から扉がゆっくりと開かれる。

どうやら、僕達がしてきたことは無駄とはならなかった様だ。

両儀さんと一緒に顔を見合わせてこちら側から扉を開き、一気に中へと踏み込む。

果たして、この部屋に待ち受ける者は―――

 

「む…随分と遅い到着だな、良太?」

「…お師匠?」

「師匠…?」

 

其処にはこの特異点に流れ着いてから逸れてしまっていた僕の師匠…スカサハが何ともリラックスした様な体勢でソファーに座って両手でマグカップを持っていた。

色々と突っ込みたいところをグッと抑え込んで、ただそれだけならば良かったのだけれど、問題はその服装。

お師匠と言うといつもは黒いピッチリとしたスーツ、肩と足に申し訳程度の金属鎧、そして気品のあるヴェールを頭に被っているのだけれど、今回ばかりは違う。

白のニットワンピースに素足…普段黒づくめの戦装束でいるので、こういった姿はとても新鮮に映る。

 

「…何やってるんです?」

「お前たちが此処に辿り着くまで、少しばかり息抜きをな。そう怖い顔をするでない」

「なぁ、東雲…この女知り合いか?」

「僕の魔術と槍の師匠です…」

 

お師匠は非常にリラックスした様子で、両手で持ったマグカップの中身をちびちびと飲んでいく。

両儀さんはそんな呑気な様子にガッカリと言うか毒気を抜かれたという様な雰囲気でお師匠を眺め、僕はホッとしたものか怒った方がいいのか分からない心持ちで深いため息を吐き出す。

 

「このマンションを造り上げた魔術師は随分と優秀だったようだな。暗く冷たい影の国の様な陰気が溜まっていれば、ワシとてリラックスすると言うものだろう?」

「だからって武装解除して呑気に温かい飲み物飲んでるってのもどうなんですかね…?」

「まぁまぁ、堅い事を言うな。5階までの入居者は粗方片付けておいたのだ。もっとも、それですべてと言う訳ではないがな」

 

お師匠は呑気に背伸びをして立ち上がると、未だ目を丸くしている両儀さんの元まで歩み寄る。

流石に警戒したのか両儀さんは意識を切り替えていつでもナイフを構えられるように身構えるけど、お師匠は顔を近づけて目を覗き込むだけに留めている。

 

「なるほど、副次的な物とは言え、随分と高位の魔眼を備えているな?」

「なんだよ?」

「いいや、なんでも」

 

惜しむような視線を僅かばかり見せた後に、お師匠は此方へと向く。

両儀さんなら、もしかしたらお師匠を殺せてしまうのかもしれない。

その目で見た物に刃が届くのであれば、だけど。

両儀さんは両儀さんでお師匠の様子に怪訝な顔になり、お師匠と同じように此方を見つめてくる。

 

「東雲、コイツ味方か?」

「そこだけは保証します。無茶振りはしてきますけどね」

「良太、ワシは出来る事しかお主に課してはいないのだがな?」

「できるかできないかギリギリのラインじゃないですかやだー」

 

僕はその場で頭を抱えて蹲り、今日に至るまでの修行の日々が脳裏に走馬燈の様に駆け巡っていく。

スケルトン、ワイバーン、クリード…ウッアタマガッ!

両儀さんは僕を同情するかのように見つめ、お師匠は蹲る僕の背中に腰掛ける。

 

「話を戻すが、5階までに住み着いていた英霊達の大半は退去してもらっているが、腹立たしい事に私だけでは対処に手間取る部分があってな」

「お師匠で手間取るって相当じゃないですか…」

「なに、時間がかかると言うだけでな。セタンタ達が予定通りレイシフトしてしまっている以上、ワシ達でどうにかする必要がある]

 

お師匠の保有するスキルの中に、神殺しと呼ばれるものがある。

このスキルは文字通り生前神を殺した事があったために付与されたものであり、神性を持つ者の他に死霊特性を備えた物にも高いダメージを与えることが出来る。

そう言った特性を持つ者にとっては天敵とも言えるスキルであり、オガワハイムに集うエネミーの大半がアンデッドであることを考えると、お師匠が手古摺ると言うほどの相手とは一体…。

まさか魔神柱と言う事も無いだろうけど…取り巻く状況が状況なので、アレが関与しているとは思えない。

 

「本来であればワシもレイシフトするところだったのだろうが、マスターである良太とワシの結びつきはセタンタ達の比ではない。故にワシも此処に放り込まれる形になったのだろうな」

「兄さん達が居ないと言うのは手数的に頼りないですけど、お師匠が居るだけまだ気が楽な方ですね…」

 

レイシフトを完遂している…と言う事は皆立香さん達と行動をしていると考えて大丈夫だろう。

兄さん達はお師匠と違って、現界に必要な魔力をカルデアからの電力供給によって賄うことが出来る。

宝具を使う事はできなくても、普通に戦闘する分には何とかなるはず。

彼女たちのミッションが無事に進んでいる事を祈りつつ、此方は此方で事態を打開する方法を模索しなくちゃ。

 

「で、事情通みたいな東雲のお師匠は、どの程度把握しているんだ?」

 

お師匠に腰掛けられる僕の存在を取り敢えず無視することにした両儀さんは、お師匠を何処か怪しむ様な雰囲気で問い質す。

知らない人間からすれば、お師匠こそが今回の元凶なのではないかと勘ぐってしまうのだろう。

しかし、お師匠はスキルによって千里眼を得ることができる。

兄さんの死期すら言い当てたその千里眼を以てすれば、状況を概ね把握することも可能なのだろう。

 

「この聳え立つ監獄の外と内の2つの地点に染みの様な楔が打ち込まれている。先ずはこの染みを取り除いてやる必要がある」

「お前、魔術師なんだろ?そう言うのを突破するような術を持ってないのか?」

「正確に言えば今の私は魔術師では無く槍兵だ。魔術も修めているが即効性のあるルーン魔術があれば戦闘に有利になると思ったから修めたと言うだけでな」

「涼しい顔でこんな事言ってますけど、そこら辺の魔術師が泣いて逃げ出すくらいには凄いんで…」

 

お師匠は基本的に凝り性の部類だ。

とくに武術に関連する事であれば貪欲に物事を理解し、習得し、自身の業とする。

先にも行った戦闘に有利になるからと言う理由だけでルーン魔術を使えるようにしたと言うだけでなく、それを弟子にまで教え込むほどに至っている。

かく言う僕もルーン魔術だけではあるけれど、お師匠から魔術行使のしかたを教え込まれている。

よもやこれが大元の原因で僕がカルデアに行く切欠になるとは思いもしなかったけれど。

時として、善意って思いもよらぬ方向に行くこと、あるよね…?

 

「片付けるならば、まずは外からが良いだろう。内を破壊した所で外から楔を補填されてしまうのでな」

「それで、その楔ってのがお前の言う手間取る部分って事で良いのか?」

「あぁ、お主もその目で見れば手間取ると言う意味も良く分かるはずだ」

 

お師匠は漸く僕の背中から立ち上がると、目の前で着ていた衣服を脱ぎ去ると同時に全身をいつもの戦闘衣装へと早着替えを行う。

どうやらあのニットワンピースは、この部屋にあった家人の私物らしい。

躊躇なく勝手に着る辺り豪胆と言うか何と言うか…。

 

「あの格好も中々悪くは無かったな。ダ・ヴィンチに衣服を用意させてみるか」

「お師匠はスタイル良いですから…」

 

僕としては非常に色々な所に悪いので控えてもらいたいと思うのだけれど、そこまで僕に絶対的な命令権がある訳でもないし、したところで地獄が展開されるのは目に見えている。

なのでこの想いはそっと胸の内にしまっておいて、適当に頷いておく。

 

「ところで東雲のお師匠…いつもそんな全身タイツみたいな服なのか?」

「そうだが…何か問題でもあるか?これでも伝統的なケルトの戦装束だが」

 

お師匠の戦装束は動きやすさを最優先にしているのか、金属鎧に相当する部分は肩と足首から先くらいなものだ。

あとは本当に皮をナメしたものと布を用いた全身スーツと言った趣のもの。

これは兄弟子であるクー・フーリンも同様なので、お師匠の言うとおりケルトの伝統的戦装束なのだろう。

ボディラインがくっきりはっきり出る物なので、人によっては羞恥を感じてしまうかもしれないのだけど、お師匠は気に留める所かむしろ強調してくるくらいなので最初の頃は何かとドギマギした事を思い出す。

 

「いや、なんかすごいなお前の師匠は…」

「ははは、僕はもう慣れましたけどね…」

 

お師匠同様にカルデアには凄い格好の英霊がわりかし居るので、両儀さんに見せてみたい様な気がするな…こういう反応されると。

僕は自身の頬を両手で軽く叩いて気を取り直し、先に外へと出たお師匠の後を追う。

先ずは今の異常を解決することを考えよう…カルデアと連絡を取る方法もきっとその先にあるのだと信じて。




開き直りも大事なんだなと思う反面打ちのめされてて更新が遅れてしまいました。

二部キャスこわいよぉ…(ゼパなんとか並感)


次回

「死にもの狂いでやれば、なんとかなるものよマスターさん?」
「ソーデスネ」
「言っただろう?時間がかかる、とな」
「ソーデスネ。ウワァァァン!!」

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