Fate/Grand Order 朱槍と弟子   作:ラグ0109

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「まずはこのマンションの近くにある雑木林へと向かう。英霊の殆どが退去した状態とは言え、この場は特異点だ。このマンションは常に怪異を呼び寄せ続けてしまう以上、そこに至るまでに戦闘は避けられないものと思え」

「いや、避けないだけですよね?」

 

オガワマンションのエントランスホールまで来た僕とお師匠、両儀さんは、エントランスホールに大きく掲げられているマンション周辺の地図を前にこれから進む場所を確認する。

お師匠はその手に持つ朱槍を指差し棒代わりに使用して、槍の穂先を今いる現在地から駐車場の先にある雑木林へと指し示す。

指し示された場所は若干開けた場所であり、焼却炉と書かれている。

この特異点を支える楔は、どうやらその焼却炉と言う場所にあるようだ。

 

「なぁに、駐車場を徘徊するゴーストは憑りついたところで空を飛びたくなる程度だ」

「空…?あぁ、あのビルのやつも居るのか」

 

両儀さんはお師匠の言葉に何か思い出したのか、駐車場のゴーストに検討がついたようで適当に相槌を打つ。

この特異点は、どうも両儀さんと関わり深い存在が多数集っているのかもしれない。

対処に困る様な事態があれば、両儀さんの知恵を借りるのが最善かな…?

 

「何人か一纏めで行動してるはずだ。お前の師匠を相手するよりかはまだマシなんじゃないか?」

「お師匠はちょっと基準にできないと思いまーす」

「お前の師匠は化け物かなにかか?」

「ノーコメントでお願いしまー…いでっ!」

 

両儀さんは、この場に居る英霊であるお師匠を基準に話そうとするけども、各階にいた英霊を僕からの魔力供給が出来ていたのか不確かな状態で退出させていたことを考えると、お師匠を天秤に載せるのは如何なものかと思い反論すると、お師匠から脳天に拳骨を()()()叩き込まれる。

 

「ワシとて傷つく事くらいはあるのだがな…?」

「もうちょい優しいとありがたいんですが…」

「…仲のよろしい事で」

 

両儀さんは呆れたように肩を落とすと右手にナイフを逆手に持ちながらエントランスから出て行ってしまう。

僕は慌てて両儀さんの後を追い、駐車場へと向かう。

両儀さんはまるで散歩するかのような足取りで駐車場の敷地内を歩いて行き、有象無象に近いゴーストをナイフの一閃で掻き消していく。

 

「あの娘の眼はな、物事の結末・終焉と言ったものをなぞることが出来る。故にその線にも似た終焉をなぞる事で、ああも容易く存在を消滅させることができる。有機物は言わずもがな、無機物から果ては概念存在に至るまでな」

「…あの眼で見て、対象を斬る必要があると言う事は、当たらなければどうと言う事は無いって事ですよ…ねっ!?」

 

駐車場を渦巻く様に現れる死霊の群…そのただ中にあって、両儀さんは赤い革ジャンを翻しながらまるで羽虫を手で払う様に無造作に一撃で斬り伏せていく。

…有機無機問わずに殺す事ができる能力。

一体、あの眼にはこの世界がどのように映っているのだろうか?

僕は概念礼装である朱槍をこの手に持って、襲い来る白いドレスを着込んだ少女のゴーストの胸元に槍を突き立て、瞬時に真名開放を行う。

 

「『穿ち散らす死華の槍(ゲイ・ボルク)』!」

 

内側から無数の槍の穂先が花の様に少女のゴーストの内側から突き出し、そのエーテル体を霧散させ消滅させていく。

その一撃を皮切りに無数のゴーストが襲い掛かって来るのだけれど、僕は朱槍に魔力を込めながらそれらを一蹴するように穿ち貫いていく。

有象無象…どころではなく、此処に居るゴーストは脆い。

本来であれば何かしらの未練に強く縛られるが故にその存在を確立するのに、無理矢理呼び出されているからだろうか…?

槍を振り払って纏わりつく崩壊しかけのエーテルを落とすと同時に、お師匠が1歩前進して頭上から降ってくる()()()()()()()()()()()を弾き飛ばす。

 

「マスターを()りゃぁ終わりと思ってたんだがな…アンタが居る以上それを許す訳もねぇわな」

 

聞きなれた声が頭上よりかけられる。

その男は、駐車場に設置されている大型の照明装置の上にしゃがみ込む様にして此方を見下ろしている。

見覚えのあるドルイドの衣装にフードを目深く被った男の表情は伺い知れないけれど、間違いなく獣の様な笑みを浮かべている。

こちらを見下ろす男は肩に担ぐ様にして持っていた樫の杖を僕に差し向け、複数のルーン文字を展開させていく。

 

「冬木じゃぁ手を組んだが、俺も雇い主にゃ逆らえないんでな…此処で死んでもらうぜ、良太」

「クー・フーリン!!」

 

生暖かく湿った風が僕達の頬を撫で、樫の杖を持った男…クー・フーリンのフードが外れてその素顔を露にさせる。

その顔はまるで呪いに侵されたかのようにひび割れ、黒い魔力を溢れ出させている。

まるであの冬木で出会ったアーチャー・エミヤの様だ。

 

「…!!」

 

真紅の軌跡が照明装置を支える木の幹の様な柱を斬り飛ばす。

言うまでも無くそれはお師匠の手によるもの。

斜めに斬り飛ばされた柱はゆっくりとズレ落ちていき、バチバチと言う火花が散る音と共に駐車場の敷地に倒れ込んでいく。

鈍く重い金属音が敷地内に響き渡ると同時に、クー・フーリンが上から軽い身のこなしで降り立つ。

 

「随分とご執心じゃねぇか、スカサハ?」

「この身は英霊…であれば、弟子であろうとマスターは守るもの。セタンタ、久しぶりに本気で稽古をつけてやる…ついてこれなければ死ぬしかないぞ?」

 

お師匠の身体から吹き付けるような殺気が放たれ、大気が渦巻く。

朱槍をくるりと回し、お師匠は此方に視線を僅かに送った後に僕の視界から消え去る。

同時にクー・フーリンも姿を消し、駐車場の敷地内に甲高い金属音が短い間隔で響き渡り続ける。

キャスターと言えども身体能力をルーン魔術で補強すれば十二分に前線で殴り合いを行えるクー・フーリンは、恐らくあの様子ではこの特異点を仕切っている存在からのバックアップを受けている筈。

英霊の身となって全力ではないお師匠に対して、何かしらのサポートをするべきなのかもしれないけれど、僕は駐車場で繰り広げられる死闘から背を向けて雑木林の先にある焼却炉へと向かう。

両儀さんは既に先行して焼却炉に向かっている為、1人でお師匠の言う手古摺る問題に対処しなくてはならない筈。

あの特殊な魔眼を以てしても攻撃が当たらなければ実質無害だと言う事を考えれば、僕がサポートに入った方がまだ勝算があるはず。

駐車場の敷地から雑木林までルーン魔術による身体強化を行って、一歩踏み出し動き始める。

駆ける――僕の両脇に停められた車が大きく歪み、爆発…爆炎が衝撃波で吹き飛ばされ路面に亀裂が走る。

駆ける――上空から跳ね上げられた車が降って来て、僕を圧し潰そうとするけどあと数センチと言う所で僕の前方へと弾き飛ばされていく。

駆ける――前方へと弾き飛ばされた車体の表面に猟犬の如き形相のクー・フーリンが僕に向かって樫の杖を差し向ける。

駆ける――僕が1歩踏み出した瞬間、足元から槍の様に鋭い枝が僕の心臓目掛けてアスファルトの下から突き上げてくるも、僕は瞬時に身を捩りながら手に持つ朱槍で枝を斬り払いながら棒高跳びの要領で大きく跳躍する。

跳ぶ――跳躍した先に、行く手を阻む様に車が地上より弾き飛ばされる。

跳ぶ――手に持つ朱槍に魔力を込めて紅蓮を迸らせて迫りくる車体に向けて全力の突きを放つと、切っ先が触れた所から車体がまるでプリンの様に柔らかく貫かれていき爆発を引き起こす。

跳ぶ――爆炎に身を晒されながらもカルデアスタッフお手製の魔術礼装の保護能力のお陰か礼装の表面が僅かに焦げる程度で被害が済み、爆発の衝撃を利用して一気に雑木林まで突き進む。

跳ぶ――だが、足りない…僅かばかりに勢いが足りなかったために戦場である駐車場の敷地内に着地せざるを得なくなるも目の前に現れたお師匠が涼しい顔で僕の二の腕を掴むと無造作に上へと投げ飛ばされる。

 

「し…ぬぅぅぅっ!?!?」

 

ここまで30秒足らず…呼吸する暇も無いほどの全力疾走の果ての跳躍と投げ飛ばしで、空中を無様に回転しながら駐車場の敷地を俯瞰する。

駐車場の敷地は2騎の英霊による蹂躙で見る影も無く荒れ果て、宙を漂うゴースト達も余波に巻き込まれてその総数を大きく減らしてしまっている。

敷地中央に2騎が制止した状態で立っているのが見える。

お師匠は若干戦装束に煤が付いた程度で、あくまでも涼しい顔で体に着いた埃を払っている。

対照的に、クー・フーリンは致命傷こそないものの全身に切り傷があり、大きく呼吸を乱していた。

圧倒的、と言うのかもしれない。

 

「随分と腕を落としたものだな、セタンタ?」

「こっちはゲイ・ボルク取り上げられてるって言うのに、アンタが二槍流なんてやったら俺の立場ないよなぁ!?」

 

クー・フーリンは大きく深呼吸をした後、全身から魔力放出を行い樫の杖を天高く掲げる。

地面に難なく着地できた僕の背後にある雑木林から同時にまるで暴風でも起きたかのように無数の枝がクー・フーリンの元へと集まっていく。

この宝具を…僕は見ている!

 

「お師匠!!」

「行け!ワシもすぐにカタを付ける!」

「させねぇぞ!燃え上がれ木々の巨人!炎となりて!!『灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)!!!』」

 

樫の杖を振り下ろすと、集まった木の枝が自然と組み上がっていき、巨大な人型へと変貌。

木々の擦れる音が咆哮の様に響き渡り、その胴体の内側から激しい炎が溢れ出す。

ウィッカーマンの肩へと飛び移ったクー・フーリンは、手始めにお師匠を踏み潰さんとウィッカーマンを操り思い切り踏み砕こうとする。

鈍重な動きのウィッカーマンの攻撃が当たる筈も無く、お師匠は大きく後退することで踏み付けを避け…しかし、踏み付けた先から迸る爆炎がお師匠の身体を包み込もうと蛇の様に伸びていく。

逃げ切れない…のであれば身代わりを用意するまでと言わんばかりに、お師匠は地面にルーン魔術を叩き込むことで巨大な氷の柱をいくつも作り上げて壁代わりにして難を逃れる。

 

「そぉぉらっ!!!」

「良太!!」

「やば…!?」

 

ウィッカーマンは踏み付けと同時に敷地内に転がっていた照明装置を拾い上げ、鈍重とは言え流れるような動作で槍投げの要領で僕目掛けて投げつけてくる。

ゲイ・ボルクは槍の名称として用いられてはいるのだけれど、その本質は槍術に由来する…なんて話がある。

つまるところ呪いの朱槍など無くとも正しいフォームで槍を扱う事ができれば、それはゲイ・ボルクと言えない訳でもないと言う事になる。

槍に見立てられて投擲される照明施設は、瞬時に空気の壁を突き破って爆音と共に赤熱化しながら僕の元へと突き進んでくる。

大した抵抗にはならないかもしれない…それでも僕は何もせずに倒れる訳には行かない。

秒と言う感覚でしか猶予が無いその瞬間、手に持つ朱槍にありったけの魔力を注ぎ込んで大きく構える。

早く、早く、早く…自身の身体を急かしたて、最短動作でゲイ・ボルクを投擲しようとし…視界に花弁が舞い散る。

 

「落とすわ」

 

静かに、凛とした声が響く。

両儀さんと同じ声…だけど声色は柔らかく、透き通っている。

視界に舞い散る花弁が渦を巻いてつむじ風になると、その中から鞘に納められた日本刀を一振り持った白い着物の麗人が現れる。

 

「上手く行くといいのだけれど…」

 

ちょっと不安になりそうな呟きと共に、女性は鯉口を切り抜刀と同時に撫でるような一閃を放つ。

その動作1つ1つに余裕が見て取れ、優雅さを感じずにはいられない。

果たして、迫りくる鉄塊は女性が放った一閃を前に豆腐の様に斬り裂かれ、運動能力すら失ってしまったのかそのまま路面に真っ直ぐ落ちて動かなくなる。

 

「斬り捨て、ごめんなさい?」

 

血糊を振り払うように日本刀を振って静かに納めると、女性は此方へと振り返って微笑みかけてくる。

突如現れた第三者の存在に、クー・フーリンはウィッカーマンの体勢を整えて僅かに後退させ、お師匠は一足飛びで僕の傍らまで移動してくる。

 

「あんまり名前を呼んでくれないものだから、()()()を片付けて来てしまったわ、マスター?」

「は、はい…?両儀…さん?」

 

両儀 式…と名乗っていた女性は、先ほどとは打って変わって何処か儚げな印象を覚える雰囲気を身に纏って目の前に立つ。

その雰囲気は、レイシフト直後に見た夢の中であった女性にとても近いように思える。

 

「お主…いや、問うまい。マスターを救ったのだから無粋と言うものか」

「影の国の女王様は苛烈だと思っていたのだけれど、話が早くて助かるわね」

「テメェ…繋がってやがるな!?」

 

クー・フーリンは何処か肝を冷やしたかのようにウィッカーマンの肩の上から声を荒げ、複数のルーン魔術を起動してウィッカーマンの能力を底上げして此方へと突き進んでくる。

 

「馬鹿弟子は私が仕留める。良いな?」

「なら、私が女王様の露払いね。ふふ、なんだかとても楽しい気分だわ」

 

1歩踏みしめるごとに爆炎が迸る。

撫でただけで人を消し炭にするなど造作もないであろうその業火を、両儀さんは今一度抜き放った日本刀を振り払うだけで斬り裂き、意味のないものへと消し去っていく。

 

「チッ!スカサハだけでなく、あの嬢ちゃんも居ると厄介だなぁおい!!」

「よそ見をするな!」

 

ウィッカーマンが大きく腕を振りかぶって此方を掴みかかろうとすると、赤雷の様な軌跡を伴ってお師匠がその腕に2本の朱槍を突き立てて取り付き、肩に居るクー・フーリンへと鋭い眼差しを送る。

 

「チィッ!!」

 

クー・フーリンは大きい舌打ちと共に複数のルーン魔術を起動させて、腕にしがみつく形になっているスカサハを撃ち落とそうとするも、その構築されたルーン魔術が一瞬にして斬り捨てられる。

 

「無粋だったかしら、キャスターさん?」

「まったくだぜ、お嬢ちゃん!!」

 

雲耀の如き一閃と共に、跳躍した両儀さんがその魔眼を以てクー・フーリンのルーン魔術を掻き消したが為だ。

クー・フーリンは何処か安堵したかのような笑みを浮かべて樫の杖を掲げ、両儀さんの影から飛び出してきたお師匠を迎え撃とうとする。

しかし、クー・フーリンは一切の反撃をせず、そのままスカサハによる紅蓮の一突きによって霊核を穿ち貫かれる。

 

「キャスターのクラスではこの程度だろう。…次はくれてやった槍を持って私の前に現れる事だな、セタンタ?」

「ったく…いい加減、ガキ扱いはやめてほしいぜ…」

 

霊核を穿たれたクー・フーリンは現界を保てなくなり、お師匠から離れてウィッカーマンの肩から落下しながらその存在を霧散させていく。

同時に制御を離れたウィッカーマンも膝から崩れ落ちる様に倒れ込み、その存在を炎と木々の枝へと戻していく。

お師匠は僕の傍らに降り立つと、呆れたように肩を竦める。

 

「やれやれ、戻ったらセタンタを鍛え直さねばならんな」

「今契約してるクー・フーリンとは別の存在なんですし、此処は穏便に…」

「今でも弱くなったと思っているくらいなのだから、鍛えるのは当然だろう?」

「アッハイ」

 

これ以上の問答は最早無駄だなと思った僕は、お師匠との会話を切り上げて目の前にいる白い着物へと着替えた両儀さんへと目を向ける。

両儀さんは、僕とお師匠の問答を興味深そうに観察していたようだった。

 

「2人とも、そろそろ楔の元へと向かいましょうか。女王様が手古摺るなんて言っていたものは斬り捨てたし、後は魔術師のマスターに任せる事にするわ」

「…さっきまでと雰囲気違いますよね?」

「ふふ、野暮なことは言いっこなしよ。さ、行きましょう?」

 

そう言うや否や、両儀さんは僕の背中をぐいぐいと押して雑木林の方へと連れて行こうとする。

やはり両儀さんも英霊なのか常人ではありえない程の力で押すものだから、僕は一切の抵抗ができずにそのまま押されながら歩くしかない。

そんな様子を見たお師匠は、ただただ呆れたように溜息をつくだけだった。




今月発売のキューズQ第三再臨お師匠とアルター私服お師匠のフィギュアで自分の首を絞めてます元気です。
FGOアポイベと言う何時かの柱狩りのお陰で当カルデアは非常に潤う事ができました(秒単位で消えた素材とQP)
次のイベントはぐだぐだ系との事で沖田オルタが筆頭候補に挙がってますが…果たして…?


次回
「此処は帯になることもなく捨てられるただの染み…貴様らカルデアの人間が気をかけるほどでもないだろうに」
「とは言え、拭えるのなら拭うのが人間ってものだと思う」
「愚かな…」

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