島村家の元フェザー級日本チャンピオン~challenge again~ 作:伊吹恋
8月26日 島村一樹の復活戦の日取りが決まった。各ボクシング記事はその事で持ちきりとなった。『元日本フェザー級チャンピオンの凱旋』『あの人気アイドルの兄がリングに再び』ポスターも各ボクシングジムに貼られていた。
そのポスターは牢獄のようなところでボクシンググローブを付けたトランクス姿の一樹が椅子に座っている姿だった。そして決まり文句は『眠り続けた獅子が解き放たれる』だ。
「こっぱずかしいにも程がある・・・正面姿で不良のように座ってくださいって言われてそれでやったが・・・まさかこうなっているとはな・・・」
武内とニュージェネの三人に是非店に飾らせてくださいという強い希望で店の窓に二枚ほどはっ付け終わって改めて一樹はポスターを目にする。
自分の店に自分の試合の告知をする。これ以上ナルシストじみたことを見てみて改めて恥ずかしさを表す一樹。そこに武内が一樹に話しかける。
「私が考えました」
「アンタかよ!?」
「キャッチコピーとイラストイメージも私が考えました」
「アンタはアイドルのプロデュースだけで無く、ボクシングのプロデュースもするのか?」
「・・・!それは考えてなかったですね・・・今度一樹さんとシンデレラプロジェクトとのコラボ企画を提案してみます」
「す る な !」
とりあえず今は5月後半。夏の暑さがし始める頃、外は熱く、とても長時間外に居たら汗だくになってしまいそうな程熱い。
一樹は4人をクーラーでほどよく涼しくなっている部屋に招き入れ、アイスコーヒーをテーブルの上に出す。一樹もアイスコーヒーを片手にカウンターに置いているテーブルにドッカリ座り、足を組みコーヒーに角砂糖を一個入れる。
「全く、熱くてかなわねえ・・・汗がどっぷり出るから減量には持って来いだが、熱中症には注意だな・・・」
「減量はいつから始めるの?」
アイスコーヒーにミルクを入れながら未央が話しかける。
「そうだなぁ・・・俺は普段減量中でも動くし、基本準備期間は2ヶ月前にはするな」
「ふぅん・・・因みに、減量ってどんな感じなの?ダイエットみたいなものじゃないんだよね?」
「ただのダイエットならいいんだがな・・・減量というのはある意味過酷だ・・・」
「・・・聞くが怖いけど、どんな物なの?」
凛の一言に一樹は「それを聞いちゃうか・・・」という顔をして口を開く。
「まずは短気になる。食事制限をするから腹が減ってストレスになる。次は飲み物だ。一日の水の摂取量が限られるからな」
「でもお兄ちゃんは身長の割に軽いのでそこまで過酷な減量はしなくていいんです」
と卯月が付け加えるように言う。
「フェザー級のウェイトは122から126ポンド体重数字で表せば55.34kgから57.15kg、それまで体重を調整して初めて試合に出る権利を得るんだ」
「因みにお兄さんの体重は?」
「68キロだ。だから俺は2ヶ月で10キロ近くの体重を落とすという事になる」
「それでは、一樹さんは一ヶ月に猛特訓をして、残り二ヶ月間を減量と練習ということになるのですか?」
「そういうこと、腹すかせた状態で練習があるからな、当然ストレスはたまるしカリカリすることもある。だから7月からは俺に会うなよ。下手したら俺の必殺メガトンパンチが飛ぶぞ」
そう言いながらも一樹はそんなことをする気はさらさら無く、一樹は自分から極力CPメンバーと接触を避けるつもりで居た。突発的に暴言や無神経なことを言うのは目に見えている。
「と言う訳で、本格的の練習は明日からする。そのための準備も出来てる」
「準備って?」
一樹は不適に笑い、目を見開き、口を開けた。
「夏の定番、海合宿じゃああ!!」
車を走らせ俺達は目的地である海に向かっていた。今から向かう場所は俺がバリバリの現役だった頃に夏に試合が決まったら使っている合宿場だった。あそこは練習場が広い上に部屋も多い。それこそ練習に来る選手10人ほど来ても空き部屋がいくつもあるほど。
何でも昔会長が旅館だったのを買い取ってそこを練習場にしたとかなんとか言っていた。
今、俺達はCPメンバーと俺と京介、後は武内さんが付いてきている。なんでこの合宿にCPメンバーを入れているのかというと、今度の俺の試合の日にちと同日にライブがあるからだ。だから俺の復帰戦は見に来れないとは言っていた。
「しっかし残念だぜ。俺の試合を生で見てもらえないのは・・・」
「ごめんなさい。お兄ちゃん・・・まさか日が重なるなんて・・・」
「いいんだよ。俺には俺の試合があるようにお前にも自分のすることがあるんだ。・・・っと、そろそろ目的地が見えてきたぞ!」
「「「わ~!」」」
フロントガラスから見える青い海、そしてその横に立っている大きな建物、俺達ボクシング選手の練習場であり、今日来ているメンバーCPメンバーの練習場になる場所だ。
皆もその建物と海を見るために前に乗り出しフロントガラス越しにその光景を見る。って・・・
「前が見えねえぇぇぇぇ!!お前らそこをどけぇぇぇぇぇぇ!!!」
「うわー!大きい!!」
みりあちゃんは遠くで見ていた大きな建物が近くに来たことにより思った以上に大きかった事に感動していた。目をキラキラさせながら・・・。それに続くように莉嘉ちゃんやきらりが後に続いていく。練習場は海が見える崖の手前にあるため、浜辺から階段を使いその練習場に行ける。当然と言わんばかりに階段は長い。今女子たちは何も持っていない状態で階段に上がっていた。
えっ?合宿だから荷物ぐらい持って来てるだろうって?ああ持ってきてるぜ。その荷物は俺を含め京介と武内さんの男連中が持っている。俺は7つほど腕に持っている。因みに俺が持っている荷物は卯月、凛、未央、みくちゃん、かな子ちゃん、智絵里ちゃんそして俺の分を持っている。女の子の荷物だけあって重い、これで階段を上り下りするのはいいトレーニングになる。一週間これをやり続ければ足腰も鍛えられるハズだろう・・・。
「「はぁ・・・はぁ・・・」」
そのうち二人は早くもバテそうだが・・・。
練習場まで上がり、扉を開くとそこには小綺麗なリングがあった。
昔使ってた時と同じままだ・・・。
荷物を下ろして俺は近くにあったサンドバックに拳を叩く。ドスン!と重い音が響き、拳に少しだが痛みが走る。
これなら・・・もっと片足を前に出し、肩に力を入れて腕を捻り、腰も捻り込めば・・・。
「フッ!」
バシィィィン!!!
拳に襲いかかる強い衝撃と痛み。あの頃に確実に戻ってきている。後はどこまで元に戻せるかに掛かっている。
「京介、早速だが、スパーしてみるか?」
「えぇ~・・・ちょっと休みませんか?階段を上がりっぱなしで疲れましたよ・・・」
まあ、それもそうか・・・武内さんも珍しく汗かいてるし、このあとロードワークもあるしな・・・別にスパー自体は合宿期間までにやれば良いだけだし・・・なんせ二週間の合宿だからな。
「それもそうだな・・・じゃあ昼飯時まで自由行動とするか飯食って休んだ後に早速練習開始だ。それまで各自荷物を部屋に置くように。解散!」
さてと、部屋割は事前に紙に書いて渡してるし、俺も部屋に荷物を置いて食事の用意をするか・・・。
俺は自分の部屋に卯月と入り、荷物を置く。・・・ん?
「お部屋も広いですね、お兄ちゃん!」
「・・・卯月さん・・・君は何をしてやがりますのかな?」
「何って、自分の部屋に荷物を置いてるだけですよ?」
何を純粋な顔をしながら言っているんだこの天然天使は・・・。
「あのなぁ・・・卯月の部屋割はちゃんと紙に名前が書いてるだろ・・・」
「えっ、でも島村の名前は一個しか書いて無かったような・・・」
んなことあるわけねえだろ。ちゃんと今回の合宿名簿を見てパソコンに打ち込んだんだか・・・ら・・・いや、待てよ・・・。
俺は今回の合宿に参加するメンバーのリストを一度紙に書きそれをパソコンに打ち込んだ。昔も合宿になると俺が部屋割を決めていた・・・。俺はリストを紙に書いたものをファイルから引っ張り出ししっかり見るとそこには『島村兄妹』と書かれている所に横線が引いていた。つまり俺は、いつもの感じで卯月の名前を入れ忘れ、島村という字を一つだけ入れてしまってそのまま横線を引いてしまったということになる。
「(し、しまったぁぁぁ・・・!!!)」
卯月は不思議そうな顔をしてこちらを見ている。一方俺は顔から汗が吹きださんばかりに焦っていた。
ここで本当のことを言うべきか?だがこれは端から聞けば卯月の存在を忘れていたという事になる!俺の名前を入れ忘れたなどと言えばそれは他のメンバーは女子同士の部屋割にしているからいいが、卯月だけ一人部屋に追いやったという誤解を受けてしまう!そんな事を聞けば卯月は相当ショックを受けてしまうだろう!!どちらにしろ地獄だ!だがここで同じ部屋にしてしまえばCPメンバーに変態扱いされてもおかしくないのは必然!!どうすれば良いんだ・・・神様!私はどうすれば良いのですか教えてください!300円あげるから!!!
「お兄ちゃん、私は結局どうすればいいのでしょう...?」
そんな上目使いで俺を見ないでくれぇぇぇ!!
結局卯月は俺の部屋で決まった。まあよくよく考えたら俺達は兄妹なわけで、確かにぃ、卯月は最近見ない間に色々成長(どこがとは言わんが)もしたが、俺が独立して家を出るまでは卯月はよく俺と一緒に寝てたわけで、決してやましい事があるわけじゃないし、何ら問題はない。問題ない...多分...きっと...メイビー...。
今数週間前の俺がここにいるのなら、俺はそいつにガゼルパンチを放っているだろう。俺は誰に対してかわからない確信を胸に食堂に立ち、ヤケクソ混じりに料理をした。
2ヶ月も遅れてすいませんでした!
では次回もお楽しみにでは...ボックス!!