島村家の元フェザー級日本チャンピオン~challenge again~ 作:伊吹恋
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↓干し芋でもらった東北きりたんの実況動画↓
https://youtu.be/DJ-AtxvKF9k?si=N2bCuBBk6upAQDpO
喫茶店に現れたゴツイ体格をした和風正装で現れた大男。
パッと見ても一樹の頭2つ分は身長が違う。
着物から覗く手をよく見ると深い傷跡が見える。
そんな大男と一樹は重苦しい空気の中で互いに睨むように見つめている。
「…で、何しにこんなところまで組長さんが出張ってきた?」
などと聞いているが、本題はあの雷電という男のことであることは十中八九間違いない。
そんな一樹の一言に締盟は口を開く。
「なるほど、ヤクザ相手でも肝の据わった奴と聞いてどんな奴かと思ったが、想像以上に肝が据わってやがる」
締盟は一呼吸入れて呼吸を吐き、言葉を繋いだ。
「だがそれだけだ」
その言葉に、一樹の身体の筋肉が強張るのがわかった。
何気ない言葉ではあるが、その一言は今目の前にいる男の圧倒的な貫禄や威圧が伝わる一言なのはわかったのだ。いつの間にか一樹の額から嫌な汗がにじみ出てきて、頬を伝う汗は冷たく、身体中の筋肉が危険信号を送る。
この場から逃げたい。
この場に居たくない。
声を発するな。
殺される。
いつの間にか喉の筋肉も硬直し始め、思うように言葉が出せない。頭に思い浮かぶ言葉を口に出そうとするが、一樹の口元は魚が呼吸を行うよう開き、そして唇が小刻みに震えだす。
これは恐怖だ。圧倒的な威圧感による恐怖が一樹を襲っている。
並みの人間なら泣き出しているであろう。
並みの人間ならすぐにでもこの場を離れて逃げているだろう。
あの雷電という男の比にもならない。完全に一樹は『極道』という存在を舐めていた。
彼はその名の通り、『その道を極めし者』なのだと。
気圧されてはダメだ。一樹は下唇を噛み、痛みで意識を保つ。唇を噛んだことにより血が流れてる。
「フッ、恐怖心を抑え込むために自傷するとはのう、俺はいろんな男に出会ってきたが、お前のように向かってくる奴は初めてだ」
「生憎、俺は面子なんてもんを持ってるわけじゃない。だが、アンタには面子を保たなきゃいけねえって身体が訴えてくるもんでな…」
「今にもチビリ上がりそうな面でよく言うわい」
目の前に出されている酒を煽りながら男は口を開く。
「さあて、本題に移ろうと思うんだが、何のことかわかるだろ?」
「…あの雷電とかいうやつの話か?」
「そうだ。奴はどんな形ではあれスジの通ってない稼ぎ方をした。それは締盟組の面子をつぶしたのも同然だ。本当なら指一本詰めるぐらいはするんだが…奴とは絶縁という形で組織から追放した」
「……」
雷電、りあむをひどい目に合わせた元ボクサーと言っていた極道。
やり方としてはカタギである一樹から金を巻き上げようと画策していた男。その男の処遇を聞いても、一樹の顔は晴れるものでもなかった。
「嬉しくなさそうだな」
「…俺は他人が不幸になって喜ぶような趣味はねえな…」
「お優しいこった」
ダァン!拳をテーブルの上に叩きつけ前のめりに身体を出す一樹。その目に締盟は一瞬身構える。
「勘違いしてもらっても困るが、アイツが今ここにきていたら、俺は確実にあの男を半殺しにしてた。どんな形であったにしろりあむを危険な目に合わせたのは変わりねえんだ。アイツの心にはその時の恐怖が深く刻まれている。実際あの後りあむは今の生活を維持するために懸命に仕事をするようにはなった。だがそれが成長を促すような出来事だったとしても許されるもんじゃねえ。例えりあむが許したとしても俺は許さねえ」
「…優しいと言ったのは撤回しよう。お前は厳しいやさしさを持った男だ」
綺麗にされた灰皿を締盟の前に差し出す一樹。それをみて締盟も懐から紙煙草を出して一本口にくわえると、ライターで火をつけた。
「…吸うか?」
「…」
差し出された紙煙草を一樹は手に取り一本口に咥えてライターで火をつける。
口の中に入れた煙は苦く、懐かしいような感じがした。
「んじゃあ、ここからが本題なんだが、あの雷電の策はお前の実母がやったんだよな?」
「…嗚呼、そうらしい」
「それまでにお前は実母と会ったのか?」
「いや、あの日以外に会ったことはない。まあ、これからも会うことはないだろう」
「俺が気になるのはそこだ」
口に咥えた煙草を灰皿に添え、火先の灰を灰皿に落とす。
「お前の母親はどうやってお前のことを知った?」
「…」
「お前は今や昔の性じゃないらしいじゃねえか。名前が同じだとしても、お前みたいな名前の人間は数多くいる。その上、子供の頃に別れてるんなら、大人になったお前の顔がどうなってるのなんて気にする人間なのか?」
「…何が言いたい?」
「わしは思うに、誰かがお前の情報を母親に教えたんじゃないのかと思っている。理由はわしにもわからん。何のためにお前を使ったのかもわからんし、お前を使ったとしてそのメリットがどこにある?」
それは一樹も考えていた。何の確証をもって今の島村一樹が櫻木一樹であることに気付いた?そもそもどこから情報をもらった?誰の差し金だ?
それは一樹の姿を知っている人間。一樹の素性を知っている人間だ。一樹の身内の人間であり、近しい人間。
そうなると数は限られる。だが、
「俺の身内だとしたらあり得ない話だ」
断言した。これが島村一樹という人間だ。
どんな人間であろうとその人柄をちゃんと把握し心から人を見る。
「断言するじゃねえか。根拠はあるのか?」
「家族だからだ」
締盟は一樹のその表情を見て目を見開く。
「…いいねえ、その目…さっきまでチビリそうな面した奴とは思えん」
男は煙草の箱を懐に戻し、席を立つ。
「気に入った。お前のこれからの試合、見守ってやる」
ゆっくりと歩み進める締盟の後ろ姿を一樹はずっと見ている。
店から出ていく締盟の後ろ姿は目が離せないほどに大きく、広かった。一樹は締盟の後ろ姿が見えなくなるまでずっと視線を入り口に向けていた。
「…久しぶりだ…こんなにヒリヒリした雰囲気に晒されるのは…」
椅子の背もたれに背中を預け、手に持っている煙草を口につける。
「組のトップになるのもわかるな…ありゃあデケェわ」
煙草の先端の火はジジジという静けさのある部屋に響き渡るように聞こえた。
島村一樹 日本フェザー級三位入り。
木崎京介 フェザー級新人王戦参加資格獲得。
それぞれの志を胸に一樹たちは練習に明け暮れていた。
一樹はもちろんフェザー級王者に。恭介は新人王トーナメント優勝に向けていた。
一番早くて恭介の新人王戦が早いだろう。一樹はその後にチャンピオンカーニバルに向けて王者である橘咲耶に挑戦状を叩きつけていたが、その返事はまだ来ていない。
それもそのはずだ。咲耶は現在ベルトを返上しており、次の対戦相手も決まっていたのだ。
OPBF東洋チャンプの『アルテミス・ラック』現在21戦21勝を収めている無敗のチャンピオンだ。
「そりゃあ、ベルトを返上した奴から来るわけねえわなぁ」
元々ダメもとに送ったこともあり、一樹はすぐに納得していた。第3位である一樹より世界への挑戦状を受けるのはプロとしても現実的であり当たり前だ。
だが心残りもある。
「もう一度お前と闘うことが出来ればなぁ…」
過去にこの二人はプロのリングで引き分けになっている。あの時は一樹が日本チャンピオンだったことから引き分けの防衛成功という形だった。助かったと思ってはいるものの、あの頃の二人は全く納得してなかった。
あの時の決着を今度こそ付けれると思っていた。だがそれがもう叶わない。今回で咲耶は完全にベルトを返上して世界に飛ぶ。決着がつけられなかったのが心残りだった。
「仕方ねえ…仕方ねえんだ」
握りこぶしを強く握り必死にその悔しさを抑える。
これはただの一樹の我が儘に過ぎない。それを咲耶に言うのは酷だ。だから飲み込むしかない。
「お兄さん?」
スポーツ雑誌を読んでいる一樹の目の前に立っていたのは凛、未央、卯月の三人。
「どうしたの?」
心配そうに顔を覗き込んでいる三人。それに対し一樹は雑誌をテーブルに置き三人に向き合う。
「大丈夫だ。ただ…」
「ただ?」
「歳を取ると、後悔ばっか思い出すなってな」
チャンピオン不在となると言うことはその王座を決める試合が取り決められる。
実質ランキング上位にいる2人が試合を行いチャンピオンを決めることになる。つまりは自動的に一樹はランキング2位になった事になる。
どの道一樹の道は一気に近づいてはいる。
「さて」と一言口にして一樹は席を立つ。
「練習あるのみだな」
缶コーヒーをゴミ箱に捨て、席から立ち上がろうとする一樹。表情は確かに微笑んでいるものの、その笑顔には確かな陰りが見え、寂しそうだ。
「お兄ちゃん…」
「コラッ」
後頭部を優しくはたかれるような感覚が一樹に感じられる。髪に触れる程度のその感触ははたかれたというより撫でられたに近い何か。後ろを見ると、そこには両手を腰に当てて仁王立ちしている音々の姿があった。
「んだよ音ねえかよ…どうしたんだ?」
「それはこっちのセリフだよ。そんな元気がない顔して、お仕事に支障が出るよ?」
「…」
気づいてはいた。あまり表に表情を出すまいとしていたのにそれが筒抜けだった。かくいう卯月もそれに気づき心配そうな表情をしている。
「妹ちゃんたちに心配させたくないなら気持ちを切り替えなきゃ!相手が強くなったんなら弟君も強くならないと!今は追いつかないかもしれないけど、追い抜いて見せる気概を見せないとみんな心配しちゃうよ!」
「…そうだ。それもそうだな」
一樹は精神面では強い人間ではある。だがそれは心に努力を重ねて自信という鎧を着こんでいるからだ。鎧を脱いでしまえば脆い精神状態になってしまう。
一樹も人だ。必要以上にナイーブになることもあれば、それ以上に精神的に落ち込むこともある。
「ちょいとやる気を下げ過ぎたな」
パキボキと身体の骨を鳴らしながら柔軟を行う。
足を伸ばし、体をバキバキと鳴らしながら次は拳を構えて2、3発ジャブを行うと、険しい表情は憑き物が落ちたかのような表情に変わった。
「よしっ、切り替えていくか」
両腕を上に向けて伸びをしながら一樹はトレーニングルームに戻っていく。それを見て後ろにいる4人は安堵したかのような表情になった。
トレーニングルームに入った一樹は「うぃ~」と少し間の抜けた挨拶をすると、一樹の前にトレーナーが歩いてきた。
「おう、一樹。早速出悪いがスパー頼めるか?」
「恭介の相手か?いいぜ」
「いや、恭介じゃない」
書類を見ながら口にするトレーナー。その表情は険しいものだった。
「復帰したお前にやらせるのは正直どうかと思う。だがこれはお前の成長につながると思った。…スパー相手はOPBF東洋チャンプ『アルテミス・ラック』だ」
トレーナーの後ろにいるのは金髪、蒼い瞳を持った偉丈夫。身長は一樹の少し上であり、身体を見るとその一つ一つが鍛えられた美しい身体付き。そして歩く動作は全くの無駄が見えない。しなやかで綺麗な動きだ。
一目でわかった。
――――コイツは強い
「東洋チャンプが俺と?実力的に俺は日本レベルなんだぞ?相手になると思うか?」
「だがキミは世界に手を掛けた男だろう」
流暢な日本語を男は口にした。それに驚いたし、自分のことを口にされたことも不思議に思った。
思ったより予習を済ませているらしい。
「島村一樹。元フェザー級世界第一位、一度引退を発表したが、その後復帰を果たし現フェザー級日本第二位の成績を収めている。得意スタイルはピーカブーを主体としたインファイター。堅い防御力と、すさまじい剛腕による破壊力を持っている。必殺技はスマッシュを改良した『S(mash)ing』と『コークスクリューブロー』。
どうやら今回の挑戦者はキミの親友らしいね。そして、彼は君と同じスタイルを持ったボクサー。腕試しに挑戦させてもらおうと思ってね」
スラスラ出てくる一樹の情報。まるで衣服を脱がされて丸裸にされているような感覚。そして誰もが不愉快に思える上から目線の物言い。その感覚は誰でもやられたらイラつくような言い回しだった。
「チィ…」
ムカつく野郎だ と口にするところだったのを必死に抑える。本心をむき出しにするのは流石に良くないと思っていた。苛立ちを舌打ちだけで押さえ、一樹はコツコツと歩く。
「準備してくるから少し待っててくれないか?」
「それにしても、キミずいぶんと女の子を侍らせてるね。是非ともお一人ぐらい紹介してほしいもんだ。そんな状態で良くボクシングに打ち込むもんだよ。いやはや、羨ましい限りだ」
ニタァっと笑っているアルテミスの顔が一樹の顔に近づく。
「…?キミも相当綺麗な顔をしているね。その手の相手には事欠かなそうだ。ボクシングよりアイドルをやってる方が君にはお似合いじゃないかい?」
「…少し待てって…すぐ用意してやるから」
あきれ顔に少し苦笑いを合わせたような微妙な表情をしながら一樹はスタスタと歩いていく。あれだけの挑発をされながらも食いつかなかった一樹を見てみな大人だと思うだろう。
だが付き合いの長い卯月と音々はわかっている。
怒っていると
後ろ姿を見せる一樹の表情。瞳に光を失い、怒りの業火が燃え上がっている鬼のような一樹の姿がそこにあった。
売られたケンカを買うのを選ぶのは俺の権利だ。
だから
今回は大枚叩いて買ってやるよ。
控え室から出てきた一樹は手にバンテージを巻き、Tシャツと柔らかい長ズボンのラフな格好で来た。すでにグローブも装着済みだ。
「いつでも大丈夫だ」
その言葉通りすでに臨戦態勢に入っている一樹。さっきまでの表情が嘘のように闘志むき出しにしているその姿に他の練習生も気圧されるほどだ。
一方のアルテミスも既にヘッドギアとグローブを付けてリングに上がっている。
表情はニタニタとした顔が浮かんでいる。
「こっちもいつでもOKだよ」
「そのニヤケ顔に一発ぶち込んでやるよ」
ここまで来たら一樹も闘志を隠さずにいる。目の前のムカつく顔をぶん殴るという一つの意思を持った状態でリングに上がる一樹。
いつもなら一樹はヘッドギアを付けないでスパーすることが多いものの、今回はヘッドギアを付ける予定にしている。いかに緊張感を保ちたいという信念を持っていても今回に関しては相手はOPBFチャンピオンだ。それを一個人の信念を取り出すのは余りにも失礼に値する。
ヘッドギアを手に取ろうとすると、アルテミスがストップをかける。
「キミはスパーでもヘッドギアを付けないと聞いた。ならキミのやりたいようにやって構わないよ」
ニヤケた顔で一樹に向けて言葉を重ねる。
どこまでも人をコケにしやがってという言葉が頭をよぎる。しかしジッと耐え忍びながら一樹はヘッドギアを取ろうとしていた手を引っ込めてリングに上がった。
「それじゃあスパーを始めるぞ。二人とも準備はいいな」
「いつでも」
アルテミスは拳を構えた。
「とっくに出来てる」
そう受け答えを行い一樹も拳を構える。
ファイト!という言葉と同時にゴングが鳴る。
一樹のお馴染み、インファイト向けスタイルのピーカブースタイルを取り
アルテミスは足をリズムよく動かしながらオーソドックス型の構えを取る。
「(また珍しい構えを取ってるな…まあいい、お手並み拝見だ!)」
先に動いたのは一樹だ。
身体全体を目に出すようなダッシュ。しかし、ただ突っ走っただけじゃない。
一樹の足は左に身体を動かすように相手の射程距離ギリギリでダッキングを行った。
一樹のスタイルはもはやインファイト向けというよりオーソドックスに近いものに変わりつつあった。これは相手が油断しているところを狙うための物。インファイトとしての一樹だけしか知らないものにとってはこれは予想外過ぎるだろう。
「(よしっがら空きだ!ここで左を―――)」
バシィン!
左を構えてはなったパンチ。
しかし、それは一樹の物ではない。
「(なっ―――)」
拳はアルテミスの物。しかも顔面をとらえている。完全にファーストコンタクトを一樹は取られていた。
「「「お兄ちゃん(さん)!?」」」
卯月たちが心配の悲鳴に近い声を上げる。それもそうだ。今まで一樹の練習を見てきた卯月や凛や未央から見ても一樹の拳は辛うじて見えるレベルだ。だが、相手の拳はまるで見えなかったのだ。
少しよろめくがすぐに体制を立て直す。
「(身体がほとんど動いてなかった。しかも相手が放ったのはジャブだぞ!?)」
唇が切れてしまったか、口元から鉄の味が広がる。リングに落ちる赤い水滴。
「(貫通力も申し分なくありやがる。まともに打ち合ったらこっちが持たねえかもしれねえ…だが!)」
一樹の足が動き出した。
「(足を止めるな!動きを止めるな!)」
猪突猛進という言葉が似あうであろうその突進力。相手のパンチを受けて警戒をしてしまったが、まだまだいける。
アルテミスの真正面で突っ込み、射程距離まで迫った。
アルテミスの拳が少し動く。
「(来た!これをブロックして、次のパンチを避ける!)」
パシッ!
グローブ同士が当たる音が耳に響く。次のパンチが来る。そう思っていた。
グググッ!
ブロックしたはずのアルテミスの拳が少し動いた気がした。
「(なにっ―――)」
ズガァン!!
ブロックしたはずのアルテミスのジャブは、力任せに一樹のブロックを強引にこじ開け、一樹の顔面をとらえて殴り抜けたのだ。
宙に浮くマウスピースが見えた。
身体が後ろにどんどん上向いていき、ドサンと一樹の身体はリングのキャンパスに倒れ込んだ。
何が起きたのか一樹には分からない。思考が定まらない。
「お兄ちゃん!」
卯月の声が練習場に響き渡る。しかし一樹の耳には
何も入ってこなかった。
一樹完全敗北なるか!?
一矢報いることはできるのか!?
次回をお楽しみに。