トロスト区 訓練場
平らにされた荒地に104期訓練生が集められていた。
それぞれの兵団への所属は決まっていたが憲兵団もまだ内地へは行っておらず、訓練に参加していた。
整列する兵士たちを朝日が斜めからさしこんでいた。
教官が声を張り上げる。
「本日はまず格闘術の訓練から行う!!各自指定されたものとペアを組め!!それぞれノックダウンされたほうが負けだ!!まさかこの程度で物怖じする腰抜けはいないだろうな!!そんなやつは俺が自ら巨人の口に放り込んでやる!!
負けたものは鍛錬不足としてマラソンをプラスしてやる!!ありがたく思うことだな!!」
ミカサはライナーと、サシャはコニーと、エレンはアニと、ジャンはユミルとそれぞれ組み、そのほかの兵士も実力の均衡するように相手を組まれている。
ライナーが体をのばす
「俺の相手はミカサか。まぁ順当だろうな。」
104期生主席のミカサと次席のライナーがペアを組むのは誰が見ても順当だと思うだろう。
ミカサは黙って腕を伸ばしている。
二人にサシャが話しかけてきた。
「お二人さんお二人さん。ここはひとつ相談があるんですが、よろしいですか?」
「ん?なんだよ」
ライナーが不審そうに尋ねる。
「ええ、私とミカサとライナーとコニーで、トーナメントなんていうのはいかがでしょうか」
コニーが乗り気でいう
「おお、なんだそれ、いいぜやってやるよ」
サシャが続ける。
「それでですね。優勝者には賞品として、今日の晩御飯をそう取りということで、よろしいですね?」
「よろしいですねじゃねぇよ。どうするミカサ?」
「私は、かまわない」
ミカサが続ける。
「みんなには申し訳ないと思う。私とエレンの夕飯の餌食になってもらう。私一人じゃ、きっと食べきれないから」
ライナーがニヤリと笑う。
「へぇ、言うじゃねぇか。いっとくがミカサ。お前が104期生で主席だからって、そりゃあ総合的な判断だ。格闘術だけでいうなら、決してその評価があてはまるわけじゃないってことを教えてやるよ」
◇
エレンとアニ
「俺はアニとか、ライナーとだって負けるつもりはなかったんだがな」
そう聞いてアニがかえす
「へぇ、私が相手じゃ不満だっていうの?」
「いや、そういうことじゃねぇよ。ただアニは女だし、蹴りで足が痛くなっちゃうしな」
ふぅん、といってアニは両腕を顔前に掲げる。
「それじゃぁ死に急ぎ野郎が壁外調査で真っ先に死なないように。少し生存本能を刺激してあげる」
エレンも戦闘態勢にかまえる
「やれるもんならやってみろよ。俺の格闘術だってこの3年で向上したんだ。返り討ちにしてやるよ」
◇
ジャンとユミル
「あーかったりぃなぁ。ユミルお前、降参しないか?」
ジャンがユミルにもちかけるとユミルは小さくわらった。
「あぁ?マラソンなんてごめんだね。あんたのほうが降参したらどうだい、そのほうが痛い思いをしなくてすむ」
ジャンが頭をポリポリかいた
「そうか、交渉決裂だな。朝飯のときはミカサのことで相談にのってくれたのに、なんだか悪いな。それに俺の気持ちに気づいてる人間がいるとは、お前の勘のするどさを見直したぜ」
「気にしなくていいよジャン。私はあんたのことがそんなに嫌いじゃないんだ。クリスタによってくる男どもに比べればね。あと知らなかったなら教えといてあげるけどそれはだいたいみんな気づいてることだよ」
「そういわれると悪い気はしねぇな。だが」
ジャンが構える。
「ここはひとつ教訓を教えておいてやるよ。勝負ってのは非情だってことをな」
ユミルが両腕をかまえ、ジャンにジャブを二発打ち込む。
そのジャブをジャンはかまえた両腕でそれぞれさばき。ユミルに右ストレートを打ち込んだ。
ユミルの眼前にジャンの右拳がせまる。
ユミルは身をかがめてジャンの右腕を交わすと、
そのまま右腕をしたに振りかぶりジャンのあごにアッパーぎみに右腕を振りぬく。
ジャンは身をよじってアッパーをよけると、腕を構えたまま少し後ずさって距離をとった。
「なかなか動けるなユミル。だが俺だって104期生6席だ。このまま持久戦になればお前が不利だな!!」
腕をかまえたままジャンがニヤリと笑う。
ジャンのいうとおりジャンの持久力はかなり高いほうで、このまま持久戦に持ち込まれればユミルのほうがさきにヘバってしまうかもしれない。
「・・・ジャン、あんた何かおかしい感じはしないかい?」
ユミルが腕を構えながらしげしげとジャンの様子を確認する。
「なんだ?特にどこもおかしくはないが、はったりならやめとくんだな。俺はその手にはのらねぇ」
「おかしいなぁ。なかなか効果がでないのかなぁ」
ジャンがいぶかしんでいう。
「なんだ?ユミル、お前何をいって・・」
そのとき、ジャンは自分の体の異変に気づいた。
体が重い。いや、違う。何か腹部に異常がある。何かが爆発するような。
ジャンが顔色を変える。
「ぐっ、これは・・・いったい・・・」
ジャンが軽くたたらを踏んでユミルのほうを向く。
「おーおー?どうやら効いてきたみたいだねぇ」
ユミルがニヤァっと邪悪な笑みを浮かべる。
ジャンは逡巡した。これはいったいどういうことだ?さっきの攻防で何かされたのか?
ユミルは自分にジャブを2発とアッパーを1発はなった。そのときか?
ジャンはややガードを下げる。腹部がキリキリと痛んできた。
「ジャン?腹が痛むのかい?もしかして朝食で何か当たるものでも食べたんじゃない?」
いいながらユミルは両腕を構える
「たとえば、日数がたちすぎたパンとか、カビが生えたチーズとか、それとも、利尿剤が入ったシチューとかさぁ!!」
「なっ、朝飯のときか、一服盛りやがったな!?」
今やジャンの下腹部はパンパンに膨れていた。激しく尿意をもよおしている。
「くそっ、てめぇ、きたねぇぞ!!」
ユミルが両腕を掲げてジャンに突進する。
「かちゃあいいんだよかちゃあ!!」
ユミルがジャンにジャブを繰り出す。ジャンはたたらを踏みながらユミルの拳をガードした。
「やめろ!腹は狙うな!」
ユミルは執拗にジャンの腹部に攻撃を繰り出す。ユミルが右足をジャンの腹部に放つとジャンはそれを左腕でガードしてたたらを踏んだ。
「おいおいジャン君、こんなところで失禁かい?そんなことしたらミカサに嫌われちゃうかもなぁ?」
ジャンはユミルをにらんで右、左のコンビネーションを放つ。
「どうした?力が入ってないぞ。もっと腹に力を入れろよぉっ!!」
ユミルがジャンに拳を放つ、腹部への攻撃を防ぐと、ユミルのアッパーがジャンのアゴをかすめる。
「だいたいミカサはエレンにべったりだろうがぁ!!はじめから脈なんてないんだよぉ!!」
攻撃しながらユミルが言い放つ。ジャンはにがにがしげにうめいた。
「そういう、ことじゃねぇだろうがぁっ・・」
「怒った?怒ったのかい?いいよ。もっと怒ってわれを忘れな!!」
「いや、逆だな」
ジャンが静かにユミルを見据える。
「罵られれば、罵られるほど、逆に怒りがわいてこない」
ジャンがユミルの攻撃を受けながら体勢を立て直す。
「今沸き起こる感情は、お前を打ち倒すという感情だけだ!!」
ジャンがにらみ、右腕を振りかぶる。
「ユミルウウウウウウウウウゥゥゥゥ!!」
「ああああああああああああああ!!」
そのとき、ユミルがジャンの背後を指さした。
「ミカサが格闘で服がはだけてるぞおお!?」
ジャンは冷静に状況を分析した。わかっている。ユミルのいっていることは十中八九うそだ。
うそだとわかっている。だがそう思いながら、気がつくとジャンは背後を振り返っていた。背後には誰もいなかった。
次の瞬間、頭に鈍い痛みが走る。
「すきありいいいいい!!」
ユミルが放ったハイキックがジャンの頭部をとらえ、
ジャンはそのまま吹き飛ばされて倒れこんだ。
「・・・若いな。ジャン」
ユミルがジャンを見下ろしていう。
「お前も歳かわんねぇじゃねぇか・・・」
小さくうめいて、ジャンは力尽きた。失禁は死守しながら。
「わるいね。それじゃあマラソンがんばってくれ。今度ミカサとしゃべる算段くらいはつけてあげるよ」
◇
アニとエレン
アニは両腕を眼前に構えたままじっとエレンをにらんでいる。
エレンも中段に構えてアニの出方をまつ。
と、アニが動いた。
ダっとエレンの眼前までダッシュしてワンツーのコンビネーションを放つ。
エレンは初撃を右腕で受け、次の拳を身をよじってよける。
(ガードしてもいってぇな)
そのままエレンは右腕をふりかぶり、アニに右ストレートを放つ。
アニは眼前に腕を上げたまま、横に体をずらしてエレンの右うでをかわす。
そのまま半回転してエレンに裏拳をはなつ。
「くっ・・・」
エレンはうめいて、アニの裏拳を後ろにのけぞってかわす。アニの拳が鼻先をかすめた。
アニはそのまましゃがみながら回転してエレンの足をけりつける。エレンはそれを察知してジャンプしてかわす。
「なかなかやるじゃない」
アニは回転しながら立ち上がりそのまま回転してエレンの上体に後ろ回し蹴りを放つ。
エレンはその足を右腕でガードするが衝撃でよろめく。
アニはエレンを崩した右足をそのまま持ち上げてかかと落としを放つ。
エレンは両腕を持ち上げてかかと落としを受け止める。
アニはかかと落としをした右足をひっこめて交差的に左足をエレンの上体に放つ。
エレンは身をよじって左足の突きをかわした。
(くそっ、やっぱつぇぇな。ここはインファイトに持ち込む!)
エレンが突進したとき、アニの姿が消えた。
エレンがどこかとアニを探したとき、エレンの体が宙を舞った。
◇
ミカサとライナーとサシャとコニー
「ようし、それじゃはじめようか、じゃあまずは俺とコニーでいこう」
ライナーが言う。
ミカサはエレンとアニが打ち合っているほうを見ながらその話を聞いていた。
「・・・三人に、提案がある」
コニーがミカサにたずねる。
「なんだよ提案って、今さら晩飯をかけるのはなしだっていってもダメだからな。安心しろ。俺が勝ったらもらうのは半分にしといてやるよ。どうせ食いきれないだろうしな」
「えっ、私はすべていただきますよ。もともとそういう話ですし、そうしないとやる気になりませんからね」
サシャがきょとんとしたようすで宣言する。
ミカサが三人のほうを向いて言う。
「今から私一人とあなたたち三人でやろう。そのほうが早くすむ」
それを聞いてライナーがピクリと眉を上げる。
「へぇ、いいのかミカサ?いくらお前が強いといっても、俺たちは三人とも104期生の10位以内だぞ?」
ミカサがライナーのほうを見る。
「なにか問題があるの?私が負けたら、あなたたち三人でトーナメントをすればいい。一人減るんだから、そっちのほうが都合がいいでしょう?」
「ほぅ、あとで撤回はなしだぞ」
「いいんですか?私は晩御飯のためならいっこうにかまいませんよ」
「いいのかミカサ?いっとくが手加減はしないからな」
ミカサが言う
「それでいい。どうしたの?怖気づいたの?」
三人がミカサを取り囲む。
「やあああぁぁぁああああああ」
コニーが叫んで、ミカサの右側から走ってくる。
それを合図にライナーとサシャもミカサに走ってきた。
コニーがミカサにつかみかかる。
ミカサはしゃがんで回転しながらコニーの足に回し蹴りを放つ。
「うおっ!?」
コニーが足をはらわれ体を横にして宙に浮く。
ミカサは瞬時に立ち上がって右足を高く掲げ、体を横にしたコニーの胴にかかと落としを放った。
「ごあっ!?」
ミカサのかかと落としがコニーの胴に突き刺さり、コニーは地面にたたきつけられた。
「うおおおおおおおおおお」
「てやあああああああああああ」
前からライナーが、後ろからサシャが走ってくる。
ミカサはつかみかかろうとするライナーの両腕をつかみ、そのままジャンプしてライナーのこめかみに右膝を打ち込む。
こめかみに右膝を食らってライナーがよろめく。
空中に浮いたミカサに後ろからサシャが左ストレートを放った。
ミカサは空中に浮いたまま左足でサシャの左腕を打ち落とし、さらに左足をふりかぶってサシャの左顔に打ち込んだ。
「あぐっ」
うめいて、サシャが吹き飛ばされる。
ミカサは地面に着地すると、すぐさまライナーに突進して右肩から体全体でライナーの巨体を打ち上げた。
「がぁっ!」
ライナーは少し宙に浮いて、そのままたたらを踏んで後退する。
「俺はこの程度でダウンせんぞ!」
ライナーが体勢を立て直してミカサを見たとき。ミカサはこちらに走ってきていた。ついでミカサの体が消える。
「なっ!?」
ライナーがミカサを探すと、ミカサはジャンプしてライナーを飛び越しながらライナーの肩の服をつかんで背後に着地し、
そのままの勢いで全身に力を入れた。
「うおおおおおっ!?」
ライナーの体が持ち上がる。
ミカサは前方のエレンとアニのほうを見ながら全身の筋肉に力を入れる。ライナーの体が宙を舞った。
◇
エレンとアニ
エレンが宙を舞ったと思うと、地面に倒れた。
(何が起こった!?アニに転ばされたのか?)
エレンが起き上がろうと体に力を入れる。だが、体が動かない。
「抜け出せないよ。ガッチリ極まってるからね」
エレンが気がつくと、アニの顔が眼前にあった。
エレンがうめく
「うわっ、ぜんぜん動けねぇ。でも」
エレンが続ける
「アニの手足だって極めるので使えないだろ」
アニはフッと息をした。
「そうだね。手足は使えない。でもここがあるだろ?」
そういうとアニはエレンの首下に顔をもぐりこませた。
「なっ、なんだよ!?」
アニが口をあけてエレンの首を軽くかむ。
「ここだよ。ここには人間の太い血管が通ってるんだってさ。ここをかみきられたら。誰だって致命傷になるだろうね」
そういってアニがエレンの首筋に歯を当てる。
「おいっ、アニっ、やめろよくすぐったいだろ!」
エレンが体をじたばたとするが、体が極まっているので抜け出すことができない。
「わかってないね、エレン。ここを噛み切られたらあんた死ぬんだよ?ほらここだよ。この太い血管さ」
アニがそういってエレンの首筋をグニグニと甘噛みする。
と、そのとき、二人の上を大きな影がよぎった。
「なんだっ!?」
エレンがうめく。
アニは異常を察知して、さっとエレンの上から離れる。
すると上から何か大きなものが降ってきた。
それはミカサに投げ飛ばされたライナーだった。
ライナーの巨体がエレンの体の上に衝突する。
「ぐっぐあ」
エレンがうめいてぐったりする。
「なんでライナーが空から・・・」
アニは言ってあたりを見回す。
するとミカサがこちらのほうに歩いてきているのがわかった。
「ああ、ミカサか。あんたほんとに人間?どうやったらライナーをここまで投げ飛ばせるのさ」
ミカサが静かにアニにたずねる。
「今なにかおかしなものが見えた、気がする」
ミカサがアニにたずねる。
「ねぇアニ。次は私とやらない?」
アニがにやりと笑ってこたえる
「へぇ、そうだね。私の格闘術がミカサにきくのか、興味がなくもないよ」
アニが続ける
「でも、やめとこう。そもそも私たちがやる理由もないし」
アニはそういってスタスタと歩く。
「じゃぁエレン。マラソンよろしく。私の勝ちでいいだろ」
エレンがライナーの下敷きになってうめく。
「うぅっ、わかった・・・なんか不本意だけどな」
ミカサはアニが歩き去るのを見てから、
エレンにかけよった。
「エレン、大丈夫?その、」
少し言いよどんで続ける。
「今日の訓練が終わったら少し時間を割いてほしい。明日の休日についていい話がある」
エレンはうめく
「ああ、わかった。わかったからとりあえずライナーをどかしてくれ。お、重い・・・」