翌日の朝
兵舎の外はやや肌寒い空気だったが、気持ちのよい朝日が心地よかった。
ミカサは兵舎の外で馬を2頭用意し、エレンが来るのを待っていた。
__________遠出?
昨日の訓練が終えたあとエレンがミカサに聞き返した。
ミカサは静かにうなずいていった。
「そう。先日馬を走らせていたときにいいところを見つけたから、エレンもそこにつれていってあげようと思う」
「いいところ?なんだよそれ。いったいどこなんだ?」
興味深そうにエレンが聞いてくる。ミカサがコクリとうなずいて続けた。
「うん、それは・・・」
「うぅ~夕食がぁ~・・・私の夕食がぁ~」
エレンとミカサの隣をサシャがトボトボと歩いていった。
サシャは全体的に体をガックリと落としてトボトボと歩いていく。
「なんだサシャのやつ、えらく落ち込んでるみたいだな、何かあったのか?」
エレンがサシャを見ていぶかしげにつぶやいた。
「サシャは朝の格闘訓練で私と夕飯を賭けた。それで私たちの夕食が多くなった」
「何やってんだよお前らは・・・」エレンは少しあきれたような表情で言って、
「で、いいところっていうのはどこなんだ?」
ミカサがコクリとうなずく。
「うん、エレンもきっと気に入ると思う、それは・・・」
「ミ~カ~サ~」
ミカサの肩にガッ腕がまわる。
ミカサの肩に腕を回したユミルがニヤニヤと笑いながら言った。
「聞いてくれよミカサ~。今日の格闘訓練でさぁ。これが少々笑えるんだが、ジャンの後ろにミカサの・・・」
「なにやってんだおまえええええぇぇぇ!!」
叫び声がユミルの話をさえぎった。
三人が声のするほうを見ると血相を変えたジャンが歩み寄ってくる。
「おやぁ。これはジャン君」
ユミルがニタ~っと邪悪な笑みを浮かべて続ける。
「なんだか腹の調子が悪かったようだが、もう大丈夫なのかなぁ~?」
「うるせぇ!そりゃぁもとはといえばお前のせいだろうが!!っていうかミカサに何話そうとしてるんだお前!!」
ユミルは少し黙って何か考えた様子をすると、再びミカサのほうを向いた。
「そうそう、それでさぁ、ジャンが・・・」
「だからそれを言うんじゃねぇぇぇぇぇ!!」ジャンが声を荒げる。
するとユミルがグリンとジャンのほうを向いた。
「お~お~威勢がいいなぁジャ~ン。いいのかなぁそういう態度。私はあんまり好きじゃないなぁ~、口が滑っちゃうかもなぁ~」
「ぐっ・・・」
ジャンはニヤつくユミルをよそに考えをめぐらせた。
もし、もしだ。
もしユミルがミカサに
俺が格闘訓練で後ろでミカサの服がはだけてるといわれて、
本能的に振り向いたなどといわれてしまったらどうなるだろうか。
ジャンの心臓は凍った腕でわしづかみにされたような心地になる。
『私はジャンのことを買いかぶっていた。もっと堂々としている好青年だと思っていたのに・・・』
『そのような話を聞かされては、私のあなたに対するこの気持ちも見直さざるをえない・・・』
悲しそうなミカサの顔がジャンの脳裏によぎる。
そのようなことになってしまうかもしれない。いや、そうなる可能性はかなり高いといってもいいかもしれない。
ジャンの体をいやな汗が流れる。
ユミル、なんてたちの悪いやつだとジャンは思った。
どうやら完全に弱みを握られてしまったようだった。
「ユミルさん。ここはひとつ穏便にお願いします!!」
結果、ジャンはユミルに頭を下げることを選んだ。
仰角45度のきれいなおじぎだった。
「うーん、どうしようかなぁ・・・」
なおもユミルがもったいぶるように迷う様子を見せる。
くそっ、遊んでやがる、ジャンはにがにがしげに思った。
ジャンの目元を冷や汗がよぎる。
「ユミル!」
ユミルの名前を呼ぶかわいらしい声が聞こえる。
ユミルとジャンはそろってそちらのほうを見ていった。
「ク、クリスタ!」と、ジャン。
「げぇっ、クリスタ!」と、うめくようにユミル。
「げぇとは何よユミル!」
クリスタが少し怒った様子でユミルにつめよる。
「ジャンが困ってるじゃないの!ミカサに何を話そうとしてるのよ!!」
クリスタがユミルに人差し指をさして糾弾する。
ユミルは両手をクリスタの前に出していった。
「いやぁ違うんだよクリスタ。ちょっとジャンをからかってただけでさ、いやほんとだって」
「もう」
クリスタはそういうとジャンのほうを向いていった。
「ユミルがごめんねジャン。こういうことしないように私のほうから言っておくから、ユミルのこと許してあげてね」
「えっ・・・」
ジャンは少しポカンとした様子で
「あ、ああ。わかった!助かったよ!恩にきるぜクリスタ!!」
クリスタがユミルを兵舎にひっぱっていく。
ジャンもそれにつれられるように兵舎に向かった。
(クリスタ、お前は天の使いだ!!)ジャンは思った。
(ああ、私のクリスタは天使だなぁ)引っ張られながらユミルは思った。
「なんだったんだ?ちょっと気になるな」
クリスタに引っ張られていくユミルを見ながらエレンが言った。
「で、いいところっていうのは一体どこなんだ?」
「・・・」
ミカサは少し押し黙ると
「やはりついてからのお楽しみということにしておく」
「なんだよもったいぶるなぁ」
「私たちも食堂にいって夕飯を食べよう。そしてそれはサシャとコニーとライナーの犠牲のもとに成り立っている」
「え、コニーとライナーも賭けてたのか、まぁ兵士には引けないときがあるといってたし、そういうことなんだろう」
ミカサとエレンは話ながら食堂に向かった。
____________________________
夕飯のときに今日の時間はいっていたから、そろそろ来るはず。
そのとき、兵舎の角からエレンが曲がって歩いてきた。
ミカサがエレンを認めると、エレンの後ろに誰かが歩いてくるのがわかった。
エレンの後ろに歩いてきたのはアルミンだった。
_______エレンはやはりアルミンにも声をかけたのだ。二人で出かけるのもよかったのだが。
ミカサがエレンに声をかける。その声には少し明るい響きがある。
「エレ・・・」
そのとき、アルミンの後ろからクリスタが歩いてくるのが見えた。
「エレン、どういうことか説明してほしい」
◇
「いや、このまえはクリスタにもずいぶん世話になったから、この休日に慰労をかねてもいいかなと思ってな」
馬を走らせながらエレンがミカサに言った。
「・・・本当にそれだけ?」
エレンの隣で馬を走らせていたミカサがたずねる。
「?・・・それだけってそれ以外に特に理由もないだろ?」
エレンがキョトンとした様子で言った。
その後ろでアルミンの隣で馬を走らせていたクリスタが言った。
「ねぇアルミン。本当に私もついてきてよかったのかな?なんだかミカサは知らなかったみたいだけど」
クリスタの隣でアルミンは弱弱しく笑っていった。
「問題ないと思うよ、ちょうど今ミカサも了解したみたいだし。僕としては大歓迎なんだけど」
「大丈夫かな?よかった~」
クリスタがホッとしたように言った。
(か、かわいい)
アルミンは安心したように笑顔になったクリスタを見てそう思いながら
「そういえばクリスタは昨日の格闘訓練は誰とやったの?クリスタはマラソンはしてなかったよね?」
「私?昨日の格闘訓練はベルトルトとだったよ」
「えっ、ベルトルト!?」アルミンはぎょっとして言った。
ベルトルトは104期生の中でも第三席で文句のない実力者である。
彼は格闘訓練では手を抜いていたのだろうか。しかしベルトルトの体力から考えればクリスタに勝ち目があるとは思えなかった。
「104期生の10位以内で組ませる縛りでもあったのかな、ベルトルトによく勝てたね」とアルミン。
「ああ、それなんだけど」クリスタが気がついたように続ける。
「昨日の格闘訓練で、ベルトルトと組んだあとに私が構えたら、ベルトルトが『すいません負けました』って、あれでよかったのかな・・・」
馬を走らせるクリスタは申し訳なさそうな様子だった。
「ああ、そういうことか」アルミンはつぶやくように言った。
まぁベルトルトならそうするだろうなぁとアルミンは思った。誰だってそうする。僕だってそうする。
馬を駆る四人は平野を山間のほうに向けて走っていた。
最近監獄学園を読んで微妙にそういうノリに影響されてる気がするようなしないような