4人は馬を駆って街道を走らせていた。
道を走っていると道を歩く男が一人過ぎ去っていく。
涼しい風が4人の肌をなでていき、
道の左手には川の水面が朝日を反射し、右手には木々が通り過ぎていった。
「いやぁ、馬をはしらせてるとずいぶん気持ちいいね」とアルミン。
「そうだね。私も馬で走るのが好きだけど、みんなで走る分新鮮だよ」とクリスタ。
このまま走れば駐屯兵団が管轄する休憩所があるハズだ。
そこで少しやすんで近くで馬の競走をするのもいいかもしれないな。アルミンは馬を走らせながらそう考えた。
もっとも馬術に関していえばクリスタには適いそうになかったが。
しばらく馬を走らせていると、先頭のミカサが左手を上げて3人を制止した。
ミカサが馬をとめたそばで一同が馬をとめる。手綱を引かれた馬が少し頭を振って小さく歩いた。
「ここからは馬を引いて少しあるく。こっちにきて」
「え、森に入るのかい?」アルミンが言いながら馬を引いた。
ミカサに言われてエレンとアルミンとクリスタは少し疑問に思ったが、
馬を引いて森の木々の間にはいっていった。
巨大な木々の間の芝生を4人が馬を引いて歩いていく。
しばらく歩くと、
木々のあるところから上に伸びる高い崖が見えた。
そしてその間に崖を割るように道が伸びているのがわかった。
エレンが少し驚いてつぶやくように言った。
「ここにこんな道があったのか」
「そう、あった。ここを進む」
ミカサを先頭に一行は崖底のような道を歩いていく。
クリスタがまわりを見渡しながら
「よくこんな道があるってわかったね」
「以前このあたりに来たときと風の流れが違ったから、調べてみたらこの道を見つけた」
「そ、そうなんだ。さすが鋭いね」とクリスタ。
「おそらく先日の大雨で道をふさいでた岩が崩れたんだと思う」
一行がさらに歩いていくと、崖沿いの道からさらにさっきのような森に入った。
森に入ってしばらく歩くと、開けた街道に出た。
「ここからまた馬に乗ろう、それであの街にいこうと思う」
ミカサが指をさしたほうを見ると、
そこには大きな街があるのが見えた。
家々のやねからちらほら煙があがっている。
「おお、こんなところに出るんだな」とエレン。
「あれはジャドだよ!狩猟と牧畜が盛んな街だ」とアルミンが輝くような表情で言った。
ミカサが馬に乗って軽く手綱をはねさせる。
馬がゆっくりと走りはじめた。
「それじゃぁ行こう。少し早いけどいい昼食が食べられると思う」
◇
ジャドの街の路上では人々が行き来していた。
中央通には商店がいくつも並び、ガヤガヤとした雑踏で埋め尽くされているかのようだ。
「そ、そんな馬鹿な・・・」
そうつぶやいたエレンは椅子に座り。両の拳を握り締めた。
その両目はエレンの目の前の机の上を凝視している。
机の上には熱い鉄板の上に肉厚の鹿肉がおかれていた。
肉厚は5cmほどあり、表面からは肉汁があふれている。
塩とハーブで味付けされたステーキはかぐわしい芳香をかもし出していた。
そのステーキの皿のとなりにはパンが並べられ、その奥にはサラダが置かれている。
エレンたちがいるのは酒場だったが、エレンたちの机にはそれぞれ茶が置かれていた。
「ジャドは狩猟と牧畜が盛んだからね。だから酒場でも比較的手ごろに肉料理が食べられるんだよ」
四角いテーブルを囲んだアルミンが言った。その隣にはクリスタが座り、向かいのエレンの隣にはミカサが座っていた。
ミカサがうなずいていった。
「輸送に労力がかかるし、保存にも気を使うから、兵団ではごく一部の上官しか肉料理は食べられないというけど」
ミカサがテーブルの上を見渡して続けた。
「ジャドなら産地だから狩りや牧畜で育てた動物の肉料理を食べることができる」
向かいのテーブルのクリスタが言った。
「ほんとにすごいね。トロストからジャドに来ようと思ったら山間部を迂回してかなり時間をかけないとこれないけど、あの近道を通れば一時間とちょっとだもの。この料理、お持ち帰りはできるのかしら」
クリスタはトロスト区の兵団員にも肉料理を届けてあげられないかと思案した。
少し考えて思いついたようにいう。
「そうだ。兵団のみんなにもあの道を教えてあげればみんなジャドにすぐこれるんじゃない?」
「それはちょっと考えたほうがいいな」とエレン。
「いや、それはまずいことになるかもしれない」とミカサが言った。
「え、どうして・・・?」
クリスタが少しびっくりしたように言う。
クリスタの隣のアルミンが搾り出すような様子で言った。
「いや、あの、サシャ・・・がね・・・」
「ああ、サシャ・・・」
クリスタが心当たりがあるようにつぶやいた。
クリスタは力なく笑いながら、
「ハハハ・・・だめ、かなぁ・・・」
普段から食事が味気ないとこぼす食欲の権化のようなサシャが
肉料理を食べられると聞けばすぐさま走ってジャドに向かうだろう。
そしてはらがはちきれるくらいまで肉をつめこむだろうし最悪戻ってこないかもしれない。
「まぁそのあたりは検討事案だな」
エレンは言って鹿肉を頬ぼった。
油の乗った、だがしつこくない肉汁が舌の上で転がる。
「うまいな。やっぱり俺たちだけで食べるんじゃぁもったいないかもしれない」
◇
「・・・それでさぁ。そのとき教官が『そうだな!?』って同意を求めるもんだから全員黙ってうつむいたんだよ。
そしたら下から教官が顔を出してきて『そうだな!?』ってまた言うから『え、えぇぇ!!』って驚いて肯定したみたいになったんだよ。いや、それはただ驚いただけなんだが」
エレンの話を聞いてアルミンとクリスタが笑い声を上げる。
ミカサは小さく笑ってテーブルのパンを口に運んだ。
「アハハハ、それは仕方ないよエレン。もしそこで否定してたら余計こじれて最終的にまたマラソンが加わってたかもね」
アルミンが笑いながら言う。
エレンが小さくためいきをついて答えた。
「まぁそれだっていやというわけじゃないんだけどな。結局は自分のためなんだし」
そのときエレンははっとしたように気づくと、
右から迫るミカサの手からハンカチを取り上げるとそれで口をぬぐった。
口をぬぐいおえるとハンカチをミカサに手渡す。
「だからミカサ。言えば自分でやるっていってるだろ」
「・・・いい、それじゃ二度手間だから」ミカサは言いながらハンカチをしまった。
それを見てアルミンが笑う。
「アハハ、エレンもミカサの気配が読めるようになったんだね」
「エレンも私の気持ちがわかるようになってきたみたい。それはとてもいいことだと思う」
とミカサ。その様子はすこしはにかんだようにも見える。
「いや、この場合は身体的な意味だろ」
エレンは言ってミカサの腰に目をやった。
「ところでいくら兵舎から遠出するとはいえ、立体起動装置まで持ってくる必要があったのか?」
ミカサは兵団のマントのしたに立体起動装置を装備してきていた。立体起動装置の上にマントを羽織るのは砂埃を払う意味合いもあった。しかしそれはほとんど必要のないことでもあったが。
「一応念のために、途中で何か問題が起こるかもしれないし」とミカサ。
そのとき、エレンたちの座っているところから扉をはさんだ反対側から
何かが倒れる音が聞こえ、騒然としているのがわかった。