夕暮れ時、赤く染まる街道をミカサは一人馬を走らせていた。
左手の川の水面が夕日を赤く散らしている。
馬を走らせるミカサの脳裏には昼間のジャドでの会話がよぎっていた。
(ここで騒ぎを起こすなと言われているだろ。夜まで待て)
あれはなんだったんだろうか。
昼間に騒ぎを起こすなというだけだろうか、それとも夜を待って騒ぎを起こそうということなのかもしれない。
それにしては血相を変えて今にもとびかかって来そうだった男がすぐに冷静になったものだ。
ミカサは森に入り、ジャドへの道を馬を駆って走った。
ミカサには何もないなら何もないでよかった。
もし手持ち無沙汰ならジャドに出るらしい温泉にでも入って帰ればいいだろう。
森を走って、開けた街道に出る、もうすぐジャドの街が見えるだろう。
日はほとんど落ちてあたりはだいぶ暗くなっていた。
ジャドへの道を走らせて小高い丘をのぼると、丘からジャドの街が見えた。
「ジャドが、燃えてる…」
ミカサが丘から見たジャドの街は
ところどころ家々が燃え上がり、まるで太陽のように暗い空を照らしていた。
何が起こっているのか。ミカサは馬の手綱に力を込めた。
馬は小さく鳴くとジャドへの道を全力で駆け出した。
◇
ジャドの街へ馬を走らせていると、
ひとつ、またひとつとジャドの街の家が燃え始めた。
ミカサはジャドの外縁を東に回り、ジャドの東の外れにある兵舎に向かった。
馬を走らせていると眼前にジャドの兵舎が見えてきた。
兵舎には明かりがなく、中に誰もいないと思われた。
ミカサは兵舎の前で馬を止めると手綱を兵舎の柱にくくり、
兵団のマントをひるがえらえて、燃えるジャドの街に走った。
街頭を走っていると、左手で燃える民家の炎がミカサの左頬を照らした、
炎の熱気が軽く肌をなでる。
見ると、道の前方に道端に倒れるクラリスと、その前でブレードを構えたミーシャ。
その向こうにそれぞれ剣や手斧を持った男たちが今にもミーシャに切りかかろうとしているのが見えた。
右手の建物の上には弓矢を持った男が矢を取り出している。
クラリスはわき腹にナイフが突き刺さって倒れ。ミーシャも左肩に手投げナイフが突き刺さっているようだった。
ミカサは走る足をさらに速め、右手の建物に立体機動装置のアンカーを射出した。
「くそっ…」
燃える街の火に照らされたミーシャが小さく毒づいた。
「ミーシャ…逃げて…」
ミーシャの後ろでナイフが刺さったわき腹から血をにじませたクラリスがうめくように言った。
「いいから静かにしてろよ」
ミーシャが言うとクラリスは小さく馬鹿とつぶやいた。
「おらああぁぁぁぁぁっ!!」
ミーシャの目の前で大男が大鉈を振り上げる。
ミーシャに向かって振り下ろされる大鉈を、ミーシャは右手のブレードではじくと、
よろけて後ろにたたらを踏んだ。
左肩に刺さったナイフが火を吹くように痛んだ。目の前の大男がぼやけて見える。
そのとき、ミーシャの斜め後ろの建物の上で弓を持った男が矢を持ち、弓を引き絞った。
ミーシャの前でそれを察した大男はミーシャの目の前でニヤリと笑い顔を浮かべた。
建物の上の男が弓をさらに引き絞ったとき、
後ろから走ってきたミカサが男にタックルした。
「!?」
事態が飲み込めず狼狽する男をよそに両腕で男の胴体をつかんで建物の上を走ると、
そのまま男をつかんだまま建物の上からはるか下方の地面へ向かってジャンプした。
「あ、あああぁぁぁあああああ!?」
ミカサにつかまれて地面に向かって頭を向けながら男が叫ぶ、
そのまま男は頭から地面に突っ込み、石畳が割れて頭をめり込ませると、
体をビクンと二度震わせてそのままだらりと動かなくなった。
両手でつかんだ男の上半身で落下の衝撃を殺したミカサは、そのままミーシャのほうに走った。
「お、おおおおおおおおおお!!」
ミーシャの目の前でその光景を見ていた大男は、
叫んで大鉈を振り上げた。
ミカサは両手にブレードを持って大男に疾走し、
大男が大鉈を振り下ろす前に、大男の前で両手を数度ひらめかせた。
男の両腕が切り飛ばされ胴体から血を流して男が崩れ落ちた。
「ミカサ!?」
横から走ってきたミカサに気づいたミーシャをよそに、
ミカサは崩れる大男の横を通り抜け、
さらにその後ろの男たちに向かって走った。
ミカサの目前の男は三人、その後ろにも5人ほどいる。
ミカサは三人の男たちのほうに走る。
「しねええええええええええええ!!」
ミカサが眼前に迫った男がさけび、剣をミカサに向かって横から降りぬいた。
ミカサは男に走って上にジャンプすると、頭をしたにしながら体を横に一回転し、
ひらめくブレードで男の首をはねとばした。
そのまま滞空し、次の二人の男たちの間に頭から落下すると、
右手を床に突き出して、その右手で落下の衝撃を吸収した。
同時に片手の逆立ちの体勢のまま剣を上から振りおろしていた左の男の腕をけって剣をはじきよろめかせると、
右手を地面につけたまま体を回転させ、左手に持ったブレードで右手の男の両足を切り飛ばした。
次に右手に力を入れて左にとび、体勢を足を下にして着地すると同時に、
右手のブレードで左手でよろめいた男の胴体を右から斜めに切り裂いた。
「ミカサ!!投げナイフ使いがいる!!」
ミカサの後ろからミーシャの叫び声が聞こえる。
それとほぼ同時に、複数の男たちがいるほうのさらにむこうの建物の上から、
三本のナイフがミカサに向かって疾走してきた。
ミカサの目前に刃をギラつかせた三本のナイフが疾走する。
ミカサは両手のブレードをひらめかせ、三本のナイフをほぼ同時に打ち払うと、
はるか遠方でナイフを投げた小男を確認し、
右手のブレードを振りかぶり、右手を振りぬくと同時にブレードをはずし、
ミカサの右腕から高速で投げられたブレードの刃が回転しながら空中を疾走し、遠方の建物の上の小男の首に着弾しその首を切り飛ばした。
ギャリギャリギャリギャリ
音を立てながらミカサが右手のブレードを取り付ける。
「いったん引け!!」
剣やナイフを持ったゴロツキたちがその場から離れ始めた。
「だいじょうぶ?何があったの?」
ミカサは後ろに振り返ってミーシャたちに駆け寄った。
ミーシャも左肩を押さえて地面に座り込んでいる。
「や、野党だ…日が落ちるのと同時に、ジャドに攻め入ってきた。50人はいるな、100人以上いるかもしれねぇ…」
ミーシャの隣でクラリスもわき腹を押さえてうずくまっている。
「二人を兵舎に運ぶ、情報がほしい」
ミカサは二人を担いで兵舎に向かった。
「馬が、二頭いないな、誰かが、馬にのっていったのか…だが、間に合わない、だろうな」
ミーシャが馬屋を見て途切れ途切れに言った。
ジャドから近郊の街へはかなり距離があるのだ。今から応援を呼ぶことは難しい。
「キグナスさんと、ビグスと、ウェッジがいない。大丈夫かな…」とミーシャがつぶやくように言う。
ミカサは兵舎の扉を開けて、二人を下ろすと机の上の明かりをつけた。
すると、その部屋の隅に人影がいるのがわかった。
「…」
ミカサがそちらを見ると、それはヤークトだとわかった。ヤークトはうずくまってビクっと震えた。
「ミ、ミカサ殿。二人を助けていただきかたじけない…拙者は…拙者は、恐ろしいのでござる!」
ヤークトが搾り出すように言った。
「兵団として、今戦う必要がある」
と、ミカサ。
「せ、拙者などすぐに殺されてしまうでござる!!」
「やつらの目的に心当たりはある?」
ミカサは質問を変えた。
部屋に寝かされたミーシャが言う。
「特別な目的はないように思う、略奪や人さらいだろうな」
「……」
ミカサは少し考えると、扉に向かった。
「勝たなければ、死ぬ。戦わなければ、勝てない」
そういうと、ミカサは燃えるジャドの街へ走った。