空を流れる雲が赤く染まっている。
ほとんど落ちた日がジャドの街の上空をうす赤く照らし、
それ以上の炎が街から空に巻き上がっていた。
ミカサはジャドのはずれの駐屯兵団の兵舎を出ると、
ジャドの街の上空を立体機動で駆けていった。
ジャドの建物が高速で後ろに過ぎ去っていく、
ミカサはまた前方の建物にアンカーを射出し、
燃えるような空を飛翔していった。
今ジャドの街には数百人からなる野党が襲撃し、
今も略奪や殺人を続けている最中なのだ。
「・・・」
ミカサは建物の上を疾走し、飛翔しながら
高速で過ぎ去る眼下の街頭を見下ろした。
薄暗い街路には血を流した数人の男が倒れているのが見えた。
二人の男はすでに死んでいる、もう一人はうずくまってうめいていたが、
遠目からでも明らかに出血量が多すぎた。
ジャドの市民が野党に刃物で切りつけられたのだと思われた。
今からあの男を助けることはできないだろう。ミカサはそう判断した。
ミカサが過ぎ去ると、男はしばらくうごめいてすぐに動かなくなった。
立体機動でかけていると、街路に倒れているのは男だけであることに気づいた。
おそらく男は殺され、女はさらわれているのだろう。
野党たちの目的のひとつはひとさらいだろうというミーシャの予想はおそらくあたっているように思われた。
ジャドの建物の上を走っていると、
火が放たれた家屋から近くにも遠くにも、いくつも火柱が上がるのが見え
叫び声や悲鳴が聞こえる。
ミカサは街の中心のほうを見て、さらに上空をかけていった。
目の前の扉からガンガンガンと扉を強くたたく音が聞こえる。
ジャドの酒場の娘、アンナは知り合いたちと酒場の二階の一室に立てこもっていた。
部屋の外からは野党たちの粗暴な笑い声や叫び声が聞こえる。
その声を聞いて、アンナの近くの知り合いがヒッと小さく叫び声をあげた。
部屋の後ろと左右の窓からも叫び声や怒鳴り声が聞こえてくる。
アンナは酒場の二階の部屋を見回した。
しかしいくら部屋を見回しても、
アンナの父親と妹の姿が見えなかった。
いったいどこにいるのだろう?無事でいるのだろうか?
ここに非難する前、駐屯兵団のビグスさんとウェッジさんが
さらわれた女たちを助けにいくといっていた。
もしかしたらそこに妹もいるかもしれない。
「そのタンスをもってこい!扉を補強する!!」
部屋の中にいた男が叫んだ。
そのすぐあとに、扉がひときわ強くたたかれ、
ガンという音とともに勢いよく扉が開かれた。
部屋にいる女たちがそれぞれに叫び声を上げる、
扉の向こうから入ってきたのは、
右手に長刀を携えたヒゲ面の男だった。
扉の前にいた男がヒゲ面の男の前で尻持ちをついて倒れた。
「あ、あああぁぁ・・・」
男は尻持ちをつき、うめきながら後ろに下がろうと手を動かしている。
ヒゲ面の男はそれを見下ろすと、ニヤリと軽薄な笑みを浮かべ、
右手に持った刀を振り上げた。
それとほぼ同時に部屋の後ろの窓から影が飛び込んできた。
その影は窓から部屋に入るとすぐさま扉に向かって疾走し、
笑うヒゲ面の男の横を細長い金属質の閃きとともにすれ違っていく。
ビシュッ
音がして、ヒゲ面の男が何かと思うと、
その音は自分の右腕から発せられたものだとわかった。
男がそちらのほうを見ると、振り上げた右腕が切り飛ばされ、
ドクドク血がふきだしている。
「ああああぁぁぁ!?お、おでのうでえええええええ!?」
ヒゲ面の男は叫び声を上げ、ついでさらに切り裂かれていた腹部から血を流して
その場に倒れた。
酒場の部屋の扉の外側にいた野党たちが叫び声を聞くと、
それと同時にその部屋から黒い影が飛び出してきたかと思うと、
その影が廊下を駆け抜けてこちらに疾走し、すぐにとおりすぎていった。
ヒュンヒュンヒュンヒュン
影が野党たちを通り過ぎると同時に鈍く反射するブレードが閃き、
男たちの腕が斬り飛ばされ、腹部から血を噴出し崩れ落ちていく。
「なっ!?」
目の前で崩れていく男たちを見ていた四人目の男の前に、
その黒い影が高速で疾走してくる、
男が反射的に手に持った刀を突き出すと、
影は廊下の右の壁に飛ぶとそこから左上の天井に反射し、
突き出された刀をかわして男の左上空を通り過ぎていった。
ついで突き出した男の腕が斬り飛ばされ、首が両断されて男は廊下に倒れた。
宿屋の前の街路では数十人の野党たちが燃える街を背に、逃げ送れた人たちを手当たりしだいに襲っていた。
「や、やめ・・・やめて・・・」
両手を突き出し後ずさる男の目の前で
一人の野党が右手にもった鉈を男の腹部に突き刺した。
両手を突き出していた男は口をパクパク開けて小さくうめくと、
口から血を噴き出してそのまま崩れ落ちた。
それを見てまわりの野党たちが笑い声を上げた。
また別の男たちは近くの家屋を家捜ししている。
男たちが笑い声をあげて少ししたとき、
酒場のほうから叫び声が上がった。
街路にいた野党たちは最初それが仲間が市民を殺した叫び声だと思っていたが、
その叫び声にさらに連鎖するように叫び声があがっていく。
そして酒場の入り口のほうを見たとき、
ちょうど入り口に入ろうとしていた野党の頭の横から
何かが飛び出してきて、その男の首が両断され崩れ落ちた。
野党たちが何かとその影を見ると、
酒場の入り口から飛び出してきた影は、
入り口の前の地面に落下すると、さらに上空に跳躍し、
酒場の前で4人の野党が固まっている中心に落下した。
4人の野党の真ん中に落下する瞬間、
両手のブレードで二人の男を切り裂いた。
二人の男が血を噴き出しながら仰向けに倒れる。
影はさらに着地し、右手側でこちらを見た男を下からブレードを切りあげて
胴体を切り裂く、そのままの勢いで半回転し、背後で鉈を振り上げていた男に
上から左手のブレードを振り下ろすと、男の肩口から腹部まで切り裂かれ、血しぶきを上げて倒れた。
建物を燃やす赤い炎を背にして、
両腕にブレードを携えたミカサを数十人の野党が取り囲んでいた。
「・・・」
ミカサは炎に赤く照らされながら、
無表情で野党たちをみつめた。
男たちはギリギリと歯をかみしめると、
それぞれの獲物を握りミカサに殺到した。
ミカサが殺到する野党たちの攻撃をさばき、
返すブレードで数人の男を切り裂いた。
しばらくしたとき、宿屋の二階の窓から、ミカサを呼ぶ声が聞こえた。
「兵団員さん!!」
ミカサが見ると、扉を補強して再び立てこもった二階の部屋の窓からアンナが顔を出しているのがわかった。
「ジャドの人たちがさらわれて、ジャドの西の森に連れて行かれてるらしいの!!ビグスさんとウェッジさんが向かったけど、兵団員さんも力を貸してあげて!!」
「しかし・・・」
ミカサはそれを聞いて逡巡した。
目の前で殺気立っている野党たちも十分な脅威だった。
アンナはさらに続けた。
「お願いします!みんなを助けてください!!」
突っ込んできた野党がミカサに振り下ろした刀を右にかわし、
同時に男の腹部を切り裂く。
「・・・すまない」
ミカサは小さくいうと、ジャドの西の森に向かうために
立体機動で建物の上にとんだ。