真・カンピオーネ無双 天の御使いと呼ばれた魔王   作:ゴーレム参式

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女神と天の御使い…ときどき後輩

 草薙護堂はカンピオーネである。

 三月末、平凡な青年だったにもかかわらず、イタリアの地にて常勝の神ウルスラグナを討ち果たし、見事神殺しを達成。魔王の称号であるカンピオーネを勝ち取った。

 それを機に、公式で七人目となるカンピオーネに全世界が驚愕し畏怖され、彼の人生は大きく変わった。

 そして、約一ヶ月後の故郷の日本にて――

 

「まずい…死ぬ…」

 

 現代進行中で死にかけていた。

 

 ことの発端はローマにて自称愛人こと赤銅十字の天才騎士エリカ・ブランディーネに預かった一枚のメダリオンから始まった。

 エリカより預かったメダリオン。それは天上の叡智が込めれた神具のひとつ『ゴルゴネイオン』であり、それを日本に持ち込んだことにより歩く天災こと『まつろわぬ神』を引き寄せる原因となってしまった。

 世界一の霊感を持つ媛巫女こと万理谷祐理の霊視により、まつろわぬ神はギリシャ神話の軍神『アテナ』と発覚。

 自称平和主義者としてアテナを交渉し日本から立ち去ること進めるが、隙をつかれ女神の接吻より死の呪詛を肉体に注ぎ込まれて瀕死――というより死ぬ一歩前に陥っていた。

 

「ぐっ⁉」

 

 とっさに己の中にある化身のひとつを発動させ、糸が切れた人形のように倒れ伏す。

 それにより、草薙護堂は“一回”死んだ。

 

「まったく、世話が焼けるんだから!」

 

 エリカは剣を握り、倒れ伏す護堂を守るようにアテナに立つ。

 

「……人の子よ命を捨てるつもりか」

「私は騎士…主と誇りのために死すのであれば、それは本望!」

 

 呪力を高め、虚栄を張るエリカ。

 相手は神。魔術と剣術が使えるただの人間では太刀打ちできない存在。

 その存在と対自できるのは後ろで死んでいる主だけだ。

 エリカは知っている。護堂は死んではいない。彼がウルスラグナより簒奪した権能『東方の軍神』。十の化身を使用することができ、その中には死んだ状態から蘇生する『雄羊』がある。ちらっと、護堂を見るとわずかだが生気が吹きかえっていた。

 

(とはいえ状況は最悪ね。隙を作って護堂を連れて逃げないと…)

 

 あと数時間すれば草薙護堂は完全に復活する。しかしその間は無防備となるのが『雄羊』の欠点であった。

 だとすれば自分ができるのは逃げの一手。愛しき魔王を生かすための戦略撤退である。

 

「…愚かな…」

 

 アテナは手元に黒い大鎌を作り出し、目の前の人間を殺すため一歩ずつ歩み寄る。

 一発触発の空気にて、赤の騎士が動こうとした瞬間――

 

「はい、そこまで」

 

 パンッ、と手をたたく音と同時に騎士と女神の間に北郷一刀が現れ、割って入った。

 

「…む? 何者だ貴様…?」

 

 突如現れた一刀に首をかしげるアテナ。

 一方、エリカはポーカーフェイスを崩し驚きを隠せずにいた。ただし、それは相手が見知らぬものに対する驚愕ではなく、数年ぶりの知人の突然の登場による驚きであった。

 

「北郷一刀…なぜあなたがここに!?」

「仕事でね。この事件を解決するため雇われたんだ」

 

 数分前のことである。

 一刀が武蔵野神社にバイクで向かう道中、正史編纂委員会からの連絡で(霊視した万里谷からの情報から)まつろわぬ神が街中に現れ同族とその騎士が向かっていることを知り、権能で居場所を特定し現場に急行。到着したころには護堂は倒れ、さらに知り合いであるエリカが女神相手に挑もうとしていたため、(すこしKYであるも)二人の間に割って入ったのがこれまでの経緯であった。

 

「まさかとは思ったけど、こんな場面で再開できるなんてね。資料で知ってたけど、世間は狭いもんだな」

「えぇ、私もよ。まさか元彼がこんなタイミングよくあらわれるなんてね思ってもみなかったわ」

「はいはい、誤解を招くこと言わない。俺たちそんなん仲じゃないだろう」

「ふふ、つれないわねぇ」

 

 一刀と出会ったのか先ほどの緊張が解け、微笑するエリカ。

 そんな彼女のそばでうつぶせに倒れる護堂が一刀の眼に入った。

 

「それで…アレが君の王様?」

「そうよ。この私エリカ・ブランディーネが見出した私の伴侶。貴方より数段、数百倍いい男なんだから」

「……死んでいるようにかみえないけど?」

「アテナの死の言霊を吹き込まれたのよ。キスでね」

「…カンピオーネの身体に呪術をたたき込むならその方法が一番だろうけど、うっかりすぎじゃない?」

「いっつもボカァするあなたにだけにはいわれたくないわね」

――『検査報告、対象を草薙護堂と判明。現在死亡中ですが、化身により蘇生されています』

「復活系の化身か…たしか東方の軍神だったな」

「――おい、其方ら」

 

 返事のないただの屍状態の護堂の前で会話する二人に、女神が言葉を放つ。

 

「神の御前でなにを呑気に雑談などしておるのだ…神罰をあたえるぞ」

「一刀、あのまつろわぬ神は――」

「あぁ、わかっている。しかも原初に近い神格だな」

 

 ルーン文字などが浮かぶ右目でアテナを観察する一刀。

 正史編纂委員会からの連絡とミーミルの瞳で照らし合わせ、目の前のまつろわぬ神の正体がまつろわぬアテナであり同時に不完全な神格だと鑑定した。

 対し、アテナもまた知恵の女神として一刀の変異した右目と雰囲気から彼の正体を看破した。

 

「その眼…まるで我が身すら見抜こうとするような異形な瞳…もしや妾と同じ知識の神に類するものか…だとすれば人の身で所有するとなら、貴様はそやつと同じカンピオーネということか」

 

 鎌の先を向け、一刀を問いかける。

 

「名を名乗れ新たな神殺しよ。妾の刃を止めた件を不問にしてやる」

「では、初めまして女神様。俺は北郷一刀。便利屋を営んでいます。あと副業で神殺しもやってます。ここは重要だから覚えておいてくれたら幸いだ」

「便利屋…? 珍しい職だな。そもそも神殺しは本業ではないのか?」

「実際のとこ神殺しなんてそんなもんだろ? 暇を持て余しいる神様と遊んで報酬を得る。そんなもん副業で十分だろう」

 

 黒王子と(一様)ジョン・プルートー・スミスがいい例だろう。

 同じ神殺しだが、二人の本職は冒険家兼研究者と大学教授の秘書。世間からすればそれは仮の姿だろう述べるが、彼らにとって神殺しはただの手段であり趣味の一環だ。

 もっとも、片方の関して趣味と本職の没頭したため幸せをのがしているがそこは触れないでおく。眉間の銃口を突きつけられる恐れがあるので。

 

「では、その副業とやらで妾と遊んでくれるか、神殺しよ」

「君がその気なら、優しく可愛がってあげるよミニ女神さま」

「ほうそうか…ならば――」

 

 女神は地面を蹴り、居合を詰め鎌を振り下ろす。

 

「結べ、繋げエーテルの糸」

 

 一刀が聖句を紡いだ瞬間、極細の光糸が数本交差し、壁となって女神の黒い鎌を受け止める。

 渾身の一撃ではないにしろ、直立不動のまま微動もしない相手にあっけなく自身の刃を止められたことにアテナは一瞬目を疑う。だが、すぐさま冷静になり、眼を細めたまま障壁のように張る肉眼では捉えきれないほどの細い糸を観察する。

 

「ふむ、気配からして蜘蛛女(アラクネー)に関連する系譜のものか。権能とはいえ妾とこうして対面するとは皮肉な縁だな」

 

 ギリシャ神話にはアラクネーと呼ばれる機織りの女性がいた。

 彼女は機織りの腕は機織りも司るアテナを超えていると豪語しアテナと機織りの勝負をするも彼女が作った織物に激怒し、彼女の頭を打ち据えた。その後、アラクネーは己の愚行を恥じ自殺するも、アテナは彼女の織物の才能を認めたのか、それとも怒りがおさまらないためか、祝福か呪いなのか彼女はアテナによって蜘蛛へと転生させられてしまった。

 これにより、蜘蛛と美女の要素を併せ持つ蜘蛛女という種が誕生したのである。

 また、アトラク=ナクアとアラクネー、どちらも同じ蜘蛛の神格のため、アテナが看破するのも当り前である。

 

「とはいえ――」

 

 一旦離れたのち、アテナは大鎌を振り子のように何度も振るった。

 かつて罰を与えた怪物と連なる異能など、自身がすこし本気を出せば脆弱な糸などすぐさま切れると確信していた――はずだった。

 

「……どうなっておる、その糸は? 妾の鎌をもってしても断ち切れぬとは……」

「なんたってスーパーロボット100体を吊るしても切れないくらい頑丈だから、そんな鎌じゃぁ一本も斬れないよ」

 

 数回、数十回も打ち込んでも女神の刃は魔王の肉には一向に届かない。

 そればかりか己の神気で精製した壊れないはず鎌の刃が欠けてしまっていた。

 

「ふむ、どうやら侮っていたのは妾のほうであったか…しかも…」

 

 アテナはちらりと一刀の後ろを見る。

 そこにエリカと倒れ伏していた護堂の姿がなかった。

 

「さきほどの神殺しと騎士を逃がしたか。まぁよい。こちらのほうが楽しめそうだ」

 

 アテナは最初の神殺しから目の前の神殺しに興味を持ち始め、欠けた鎌の刃を指で治ると元の鋭い刃へと治り、鎌を構える。

 

(エリカたちは撤退できた…あとはこのミニ女神様をどうするべきか…)

 

 数十万の光糸を展開しながら、一刀は腕を組んだまま考える。

 実際の所、権能を使えば目の前のまつろわぬ神――ましてや神格がひとつ欠けている神など容易く殺せるが、そんな物騒なことをしたくないのが本音であった。

 しかし、相手はヤル気十分。殺意がこもった瞳には冷徹な視線を零していた。

 戦と知恵の女神アテナ。彼女の頭の中で目の前の神殺しを殺す策でも考えてるに違いない。

 

「(しょうがいない。ここは思い切って…)――アテナ」

「ん? 命乞いか、神殺しよ…?」

 

 もっともそれないだろうとアテナは高を括った。相手は神すら殺す魔獣。どんな勝負でも勝つためなら手段を取らない魔王。

 警戒を怠らず、睨むように見据えたままいつでも鎌を振れるよう身構える。

 そして、そんな魔王が口から出てきた言葉は、

 

「降参。和平を求める」

「……はっ?」

 

 アテナは毒気が抜けた様に間抜けな声を洩らした。

 なにせ、勝つことだけを考えるあのカンピオーネが戦う前に敗北宣言をしたのだ。その証拠に一刀は手を上げ、片手には小さな白旗を振り、彼の周りに展開されていた光糸(の気配)が消えていた。

 

「どういうつもりだ神殺しよ…?」

「どうもこうもただの武力放棄だよ」

「馬鹿を申すな。ようやく楽しくなってきたというのに途中で抜けるなど無粋すぎるぞ」

 

 無表情で不機嫌な声色で反論するアテナ。

 けれど、一刀は飄々とした態度で答える。

 

「悪いね。だけどこのままやってもお互いメリットがないから。一旦、互いの事情を聞いてから後の考えよう。理由もない戦争は無駄な血を流すだけだ。幸い、こっちは手を出していないし、まだ交渉する余地があると思うんだけど…」

 

 一刀の言う通り、アテナが振るう鎌を防いだだけで攻撃など一切しておらず、先に手を出したのはアテネであった。それでも、

 

「…先ほどの神殺しもそうであったが其方ら神を舐めているだろう。神と神殺し。互いに殺し合う関係。それ以上の理由は無かろうに」

 

 当り前だとばかりに言うアテナ。

 だが一刀は微動せず言い返す。

 

「種族の違いだけで戦うなんて、子供っぽいよ女神様」

「…なんだと?」

「それともあれかな? 何の理由もなくし一方的に無抵抗の奴をいたぶるのが女神様(アンタ)の戦争か? だとしら気品も知性ない。まるで獣だ。知恵を司る女神が聞いてあきれるよ」

「………」

 

 一刀に煽りに、アテナは青筋を浮かべえ無言で彼を睨む。しかし、ここで怒りにまかせて殺せばそれこそ彼の言う通りになってしまう。

 神話を背いても戦争を司る神として、地中海を支配していた女王(アテナ)。感情にまかせてプライドを捨てるほど無能ではない。

 

「そこまで言われてしまうと、戦と知恵を司る女神として刃を収めるしかあるまい。よかろう。其方との話…退屈しのぎに付き合ってやる」

 

 手に持った鎌を消し、敵意を解くアテナ。それでも信用はしてないため警戒は怠らない。

 

「して、カンピオーネ。其方は戦うには理由が必要といったな。ならば応えよう。妾は望むのは蛇…ゴルゴネイオンのみ。それを手に入れ妾はかつて奪われた歳と地位を取り戻す。それが妾がこの地に来た理由であり目的だ」

「歳と地位…つまり過去の栄光か。俺としてはそのままのほうが十分かわいらいしいと思うけど?」

「其方が良くても妾は不満なだけだ…。だいたい女神として女王としてこんな小柄で半端な力など権威と威厳もなかろう」

「そういうもんかなー」

 

 上に立つ者は必ずしも完璧ではない。

 かの英雄の王も完璧であることに傲慢しては格下に足をすくわれひどい目にあわされ、さらにその性格から多くのトラブルを引き起こしてきた。

 かのポンコツ魔王も世界を蹂躙することができるほどの暴力を持ちながら遊戯感覚でいつも失敗し、そのポンコツから世界を滅ぼす側なのになぜか世界を救ってしまうというオチをつけてしまっていた。

 だが、そんな短所を彼らは恥じることはしなかった。なぜなら彼らにとって長所も短所も自身という個性であり魅力であり、己の大事な一部なのだ。

 自身の短所も弱さもすべて受け止めてこそ世界全ての上に立つ存在――。

 それが一刀にとっての理想とする王もしくは神の理想像であり憧れ。

 過去を惜しむことは理解できる。が、“今”と“前”を見向きもしないアテナの行動理念に一刀は呆れてしまう。

 ただし、それは話の隅に置いとくとして…、

 

「質問するけど、蛇を取り戻したら後はどうするつもりなんだ?」

「むろん久方ぶりの力を確かめるためまずはこの街を蹂躙しようぞ…」

 

 一刀の質問にアテナはポーカーフェイスを崩し、口元を上げて邪悪な笑みを浮かべた。

 まるで女神の笑みというより、悪魔の笑みであった。

 

(セリフは暴君だけど、やろうとしてることは子供だなこの子)

「今、妾に対して無礼なこと考えなかった神殺しよ?」

「気のせいだよ、気のせい」

 

 考えてることはお見通しとばかりのアテナの視線に、笑って誤魔化す一刀。

 どちらにしろ、アテナが目的の物を手に入れたらはた迷惑な災いが起こるのは確定事項だろう。悪友の予言もあるため、下手をしたら東京どころか世界の終わりかもしれない。

 一刀は道化の笑みの裏で脳をフル回転させ、目の前の女神様の暴走を止める秘策・奇策を考える。

 その間、一秒未満。一刀は名案を思いついた。

 

「それじゃーこうしよう。街に手を出さない代わりに、俺が君の蛇を取り戻して君の相手をする」

「…冗談か神殺しよ?」

 

 猜疑の目を向けるアテナに、一刀は自信ありげに頷く。

 

「アホらしい…妾が其方を信用できる確証などどこにもない…というか其方、今さっき降参したばかりではないか。敗者がすぐに勝者に挑むなど愚かで恥なことだぞ」

「たしかに身勝手かもしれない。でも降参しても神殺し(子守)の仕事を途中で放り出すわけにはいかない。俺が言うのはあれだけど神様でも一度くらい魔王を信じてほしいんだ。頼む」

「……敗者の癖に勝者に頼むとは本物の愚か者だな其方…いっとくが貴様をここで八つ裂きにした後蛇を取り戻しこの国で力を振るうことだってできるのだぞ。さきほどの神殺しが生きていればまた妾の前に現れるだろうが、それでも妾と戦えばおそらく被害がでる。どちらにしろこの国は戦場となることには変わりはない」

「そうだな。君は戦争の女神…君の周りは常に戦場が広がっている。戦禍が起こるのも無理はないよ。――だとしても君はそんな態々周りに危害を加えることなんて絶対にしない」

「ほう、なぜそう言える?」

「だって君は()()()()()()()()であり同時に()()()()()()()()()アテナだから。攻めてくる敵を返り討ちし、目的の物ために卑怯な手を使ってでも勝利を掴もうとしてでも、決して面白半分で無関係な無抵抗な国や人々を傷つけない。だって守護する者が自分の気まぐれだけで他人の平和を踏みにじって戦乱を起こすなんて本末転倒もいいところだ。そんなことするのは無知で野蛮で本気を忘れた畜生以下の悪性腫瘍(ゴミクズ)だけ。たとえ神話に背いても、人間の常識を当てはまらない神でも、戦争と知恵を司るならば、やってはいけないことをわきまえてるはずじゃないのか。かつて男に地位と純潔を奪われた女王様だった君なら…ね」

「……むっ」

 

 飄々とした態度から真剣な表情で語る一刀に、アテナは一瞬不機嫌になるが、一刀は止めとばかりに笑顔のまま言葉を紡ぐ。

 

「それに俺は君に敗北を宣言したんだ。勝者の要求を答えるのも敗者の務め。なによりも君みたいなかわいい子の願いを叶えるのは男の使命だ。君が満足できるならこっちは喜んで協力してあげるよ女神様♪」

「……はぁ、調子が狂うな其方は…」

 

 支離滅裂だ、と突っ込みたくアテナだが彼の笑みに裏がないことに見抜き、ため息と一緒に肩を落とした。

 

「とはいえ先ほどの神殺しと違って女神の扱いがうまいものだな、其方。神としての性質を利用してあーだこーだと言って丸め込もうとするとは…口が達者すぎる」

「そりゃそうさ。なんたって神くらい対処できなきゃ―あいつらと渡り合えないから。魚雷とか運び屋とか外道探偵とか外道神父とか地獄の補佐官とか魚雷とか」

 

 ぶっちゃければまつろわぬ神より彼らの方が何千万も恐ろしいと、一刀は思う。

 特に探偵と補佐官がワンセットなら、世界中のカンピオーネが集まってもこの二人には勝てないだろう。精神っと肉体がぽきぽき折れるのが安易に想像できる。ほんと、マジな話で。

 

「魚雷? わからんが、まぁよい。どちらにしろ蛇を取り戻したらあやつと戦わなくてはいけないからな。ここでいささか無駄な力を使いたくはないのは妾にとっては得策かもしれん…」

「あやつ?」

 

 その言葉に気になる一刀だが、突如としてミーミルの瞳から警告表示が展示された。

 

――『緊急報告! 衛星軌道上より超高エネルギー反応あり! こちらに向かってきます!』

「「ッ!?」」

 

 アテナも気配に察知したのか一刀と共に頭上の真上に視線を向ける。

 

 そして、二人が見た。

 光速で垂直に落ちる流星のような光の塊を。

 

「チッィ、よもや城塞の守護者たる妾が奇襲を見落とすとは…」

 

 もはや避けることも防ぐ時間もなく、光が二人を押しつぶそうとする。

 

「この借りはあとで必ず返すぞ…■■■――ッ!」

 

 アテナの叫びは一刀と共に光に包まれ周囲のビル群ごと大地を穿った。

 

 

 

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 地表から遠く離れた地球と宇宙の間――衛星軌道。

 

「死んだ…? いいえ。あいつなら冥府に落ちてもひょっこり戻ってくるだけね」

 

 生身の生物では到底生存できない領域に赤一色の少女が立っていた。

 手には三色ボールペンのような剣が握られているも、剣は粒子となって霧散し消えてしまう。

 

「やはり使用制限がかけらてる…。オレの私有物なのにどうして制限があるんでしょうか」

 

 首をかしげるも、まぁいいか、と考えるの止めた。

 なってしまったらしょうがない。

 回数は確認できたし、奥の手もまだまだある。

 

「あいつが現世に戻ってくる間、暇つぶしにあいつの大事なモノを奪いましょうか。あいつの悔しがる顔が楽しみだわ♪」

 

 アテナと同じようにニヤリと笑みを浮かべ、赤い少女は隕石のように地上へと急降下する。

 

 アテナと続き新たな災い。

 その降臨に二人の神と魔王以外、地上の住む者たちは知る由もなかった。

 

 

 

 


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