真・カンピオーネ無双 天の御使いと呼ばれた魔王 作:ゴーレム参式
第二章を書き終えることができずまことに申し訳ありません。
ちょくちょく投稿できるよう努めていきますのでどうかよろしく。
「…気分はどう?」
護堂が最初に目にしたのは見下ろしながら訪ねる金髪少女の顔。
死にかけから復活したため意識が朦朧としているも徐々に意識が覚醒して、自分が置かれた状態を把握した。
ただいま、エリカに膝枕をされているところだ。
「……うっお!?」
「きゃっ!?」
恥ずかしさのあまり上半身を起こし、顔を赤くする護堂。
咄嗟に起き上がったため、エリカはすこし驚くも護堂が完全に復活したことに安心し溜息を洩らした。
「その様子じゃな大丈夫みたいね」
「すまん。看病してもらって…」
「いいわよ、愛する男を癒すのも愛人の役目だし。本音を言えばもうすこし寝顔をみたかったけど」
と、小悪魔的な笑みを浮かべるエリカ。
その笑顔は住人の男が見れば惚れ惚れするほど可愛げがあり、護堂も照れくさそうに頬を掻くもエリカのペースに載せられていることに気づき、視線をずらすように周囲の状況に目を向けた。
自分たちがいる場所は公園だ。
夕暮れの夕日に照らされ、橙色から薄暗さへと染まりかけていた。アテナと出くわしたときはまだ夕日が落ちてない。おそらく一度死んでから約二時間は経過しているのだろう。
「俺が寝てる間なにがあったんだ?」
「そうねぇ、一言で片付けるなら助けてもらったの」
「助けてもらったって…誰にだ?」
アテナから死の呪詛を叩きつけられ、意識が途切れた後の記憶がない。状況から察してエリカが動けなくなった自分を運んで公園まで撤退したのだと思っていたがどうやら違ったようだ。
護堂はさらにエリカに質問しようとすると、第三者の声に阻まれた。
『――発見。カンピオーネおよびエリカを確認しました』
バシャバシャと黒い翼を羽ばたかせ、ベンチに座るエリカの横へ鎮座するそれは一匹の烏であった。
「なっ!? カラスがしゃべった…!?」
「あら、ムニンじゃない。お久しぶり」
『首肯、お久しぶりですエリカ』
カラスが喋っていることに驚きを隠せない護堂に対し、まるで知人のように接するエリカとムニン。
「えっと…エリカ、このカラスと知り合いなのか?」
「紹介するわ。この子はムニン。北欧神話の主神オーディンの使い魔で、今は私を助けてくれたカンピオーネの…まぁ護堂の『猪』みたいなもんよ。伝令鳩ならぬ伝令カラスってところね」
『挨拶。ムニンです。はじめまして草薙護堂さま』
「あぁ、これはご丁寧に、護堂です…」
丁重にお辞儀をするムニンに、挨拶する護堂。
カラス?に頭を下げるのもアレだが、これまで出会った神様と同族と比べてムニンの礼儀正しい態様についつい真面目に答えてしまうのであった。
ふと、護堂がエリカのセリフに気が付く。彼女はたしかに私を助けてくれたカンピオーネ、と。
「って、ことは俺以外のカンピオーネが助けてくれたのか? この日本で?」
「そういうこと。ついでに言えばあなたと同じ日本人よ」
「は? 日本のカンピオーネは俺だけって言ってなかったか?」
これまで彼女と周囲の言葉から、日本で初めて誕生したのは自分だけ、と、護堂はそう記憶していた。
しかし、エリカは飄々と説明する。
「それはあくまで公式においてよ。実際の所、世界には裏の組織すら知られていないカンピオーネが何人もいるの。はっきりとした人数は不明だけど護堂と合わせて十人以上はいるはずよ」
「十人以上!? 俺やドニ―みたいな奴がほかにもいるのか!? しかも十人!」
「えぇ。不確定要素が多いから公式には載せられていないけどね。知られていないのはもしもこれが本当だとしたら世界が大混乱になるから結社たちが非公式として噂程度に緘口令を引いてるため。なんたって世界でめちゃくちゃすることができる魔王様が数十人もいるかもしれないんだから当然の処置ね」
「たしかに、俺の時もカンピオーネになっただけで周りが大慌てになったな。でもなんでそんな奴が助けてくれたんだ?」
「どうやら仕事の都合らしいわ。あとその人、私の知り合いだからいずれは挨拶しないといけないわね」
「へっ、知り合い?」
「そぉッ。あと、サルバトーレ卿みたいにいきなり勝負を吹っかけるほどバトルジャッキーじゃないから安心しなさい」
「そいつはありがたいけど、信用できるのかその人?」
「できるわ。騎士道とエリカ・ブランディーネの名に誓って」
真剣な表情で自身を込めて言うエリカ。
かつてカンピオーネのサルバトーレ・ドニ―にひどい目に合わされ同族に不信感を抱く護堂だが、エリカの真っすぐな目と真剣な姿勢に護堂は彼女の言葉を信じ、逆に、彼女がそこまで言わせる同族に興味を抱いた。
「にしても、エリカの知り合いのカンピオーネかぁ…どんな奴なんだそいつ?」
「あら、護堂ったら。愛人の過去の男を知りたいなんて。独占欲でも沸いたのかしら」
「ちげぇって。ただちょっと気になっただけだ」
うっふふふ、と微笑しておちょくるエリカに護堂はツッコム。
やはり、赤い悪魔だと改めて思った。
「それよりもアテナのほうだ。 もしかして、そいつが俺の代わりにアテナを殺ったのか…?」
「………」
「あれ? エリカさん?」
『エリカ、対象が説明を求めています。至急に事態の通達を』
「……そうね。こうして楽しく雑談しても事態は変わらないし」
沈黙するエリカは護堂と顔を向き合う。
その表情に焦りと苦笑が見え隠れしていた。
「よく聞いて護堂。実はね――」
エリカから告げられた事実に、護堂は「まじでッ?」と驚愕と落胆が混じった表情でつぶやいた。
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「これはひどい」
甘粕は眼前に広がる光景に向かって感想をぶつけた。
都市のど真ん中で、巨大ビルがすっぽり堕ちるほどの空いた巨大な穴。
まるでドリルで貫いたように垂直に穿ち、地獄の底まで続くような深い闇がそこにあった。
その闇の周りには瓦礫と化したビル群があちらこちらと倒れ、道路はひび割れ、もはや大地震の被害地だと過言ではない。
約二時間前のことである。突如として空から極光の柱が天から堕ちたと通告を受け、甘粕ら正史編纂委員会の職員たちが現場に急行。急いで調査や情報規制やらでただいまてんてこ舞いで作業をしていた。
「これもアテナの仕業なのですかね」
「――たわけたことを。妾とてここまで無用な破壊はやらんぞ」
「ッ!?」
突如として奈落の底から響いた凛とした声。
その声を共に穴の底から何かが飛び出し、甘粕と正史編纂委員会の職員の前へ姿を現した。
それは中学生ほどの小柄な少女。だが、人間の生存本能から少女からにじみ出る圧倒的な威圧感と死の気配に人間ではないと告げていた。
「まつろわぬ神…アテナ……様……」
職員の誰かが言った。
正史編纂委員会では日本に上陸したのはギリシャ神話の女神アテナという情報がすでに上がっていた。
ならば人間ならなずものは眼前の女神であり、神具を求めて日本に来たアテナ以外そういない。職員たちは結論付ける。
が、甘粕は腑に落ちないでいた。
世界一の媛巫女の霊視とカンピオーネの愛人兼騎士からの情報で間違いなくこの地に来たのはアテナであることは確かだ。しかし、その女神がなぜこんな奈落の底から這出たのだろうか?
日本初のカンピオーネがやったのなら、彼の愛人からなんらかの報告があったはずだ。
甘粕は唾を飲み込み、この状況を考える。
…ふと、アテナの右手に気が付く。
彼女の右手にはボロボロになった青年のコートの襟を掴んでいた。
甘粕はその青年に見覚えがあった。
――数時間前、自身が直接依頼を頼んだ便利屋本人だ。
「一刀さん!?」
「……ふむ、察するに其方らこやつの知り合いかなにかか」
ならば還すぞ、とばかりに一刀を乱暴に甘粕に投げつけるアテナ。
甘粕は咄嗟に一刀を受け止める。身長と体重から受け止めた反動で尻もちを搗くもすぐさま一刀の生死を確かめる。
白いコートは燃やしたように所所焼き焦げ、右腕の袖は肩までない。肌も煤と泥まみれで右腕は火傷で痛々しくなっていた。
なにとりもまつろわぬ神と関わって正直言って生きてることはありえないと職員たちそう考えていた。
だが、彼らの想像とは裏腹に、
「……息がある…」
首の脈から感じられる鼓動があった。
おそらく気絶しているのだおろう。命に別条がないことに安堵する甘粕。
その事実に彼の仲間たちは驚嘆していると、アテナは無表情で告げた。
「よかったな。こやつがいなければ今頃このあたりの者どもが冥府に落ちるところだったぞ」
「それはどういう意味ですか?」
「そこまで教える義理はない」
アテナは近くの傾いた電灯へ飛び移ると「おっと、言い忘れておった」と何かを思い出して、甘粕達を見下ろす。
「言っておくがそやつは丁重に扱え。ソレは一様妾の戦利品であり、妾に貸しを貸させたモノだからな」
そう言い残してアテナは北東の方へと飛び立ち姿を消した。
残された甘粕達は呆然と立ち尽くし、アテナが飛んで行った方角をただ見つめていた。
そのとき甘粕に抱えられた一刀の手がぴくりと微動したことに、彼らは気づいてはいなかった。
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「……にしてもあやつの“アレ”は一体なんだったんだ……?」
奈落の穴から抜け出したアテナは気休めにビルの屋上で足を降ろした。
脳裏に浮かぶのは因縁の攻撃で我が身が傷つけられそうになった時だ。
あとすこしで大地すら穿つ極光の柱に飲み込まれそうになった瞬間、自分を守るように身を挺す敗者の姿。そして、右手に掲げた巨大な五芒星の魔法陣と
「魔法陣がどういうものなのかは判別できたが、あの無限そのものといっていい力とそれを可能とする機関がようわからん。いや、仕組みは大体察しているが、あれが神の権能なのか神具なのか妾の知恵と知識を照り合わせても読めきれん。そればかりか―――」
知恵の神の職業病かついつい推理してしまうアテナだが、優先事項を思い出し、思考を切り替えた。
「いいや、それよりも蛇を取り戻すのが先決だ。もしもあやつが妾の蛇を横取りしておるなら少々…否、かなり面倒なことになる」
神話の時代から続く因縁の相手。
完璧であった古き神に戻ろうと、決して後れを取らないであろう宿敵がこの地にいる。
戦いの時は近い。
神と神殺しとの逆縁の戦いではない。神と神との宿縁の殺し合いだ。
「今宵アテナは古の《蛇》を奪還する。誰であろうと邪魔をさせぬッ」
まつろわぬ古き神になるため、アテナは東京の上空を進む。
彼女が通った軌跡は闇に包まれ、街の明かりと空の星から光を奪いつくしていく。
さながら光を飲み込む空飛ぶ巨蛇のようであった。
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一方、武蔵野神社では巫女服の万里谷祐理が神具ゴルゴネイオンを結界で隠す儀式をしていた。
「護堂さんたち…大丈夫なのでしょうか…」
護堂たちと別れてから二時間ほど。彼からの連絡もなく心配する祐理。
不安になり弱気になるも、護堂との約束を思い出し不安を振り払う。
「護堂さんも頑張っているはずです。ならこちらも最善を尽くさなければ」
気合を引き締め、メダリオンを隠そうと結界を維持させる。
が、そんな彼女の決意と裏腹に天はさらなる試練を与えた。
――ズッドオオオオオオオオオオオン!!!
隕石が落ちたような爆音と衝撃。
まるで外国のハリケーンのように神社の扉を吹き飛ばし、祐理に襲い掛かった。
「きゃぁぁぁっ!?!?」
突然の爆音と衝撃になすすべもなく転げ跳び悲鳴を上げる祐理。
「なななななにごとですかッ!?」
狼狽する祐理はゴルゴネイオンを手にもち、外へと飛び出した。
清掃が行き届いた風流が漂う寺院の庭。
しかし、今では木々がなぎ倒され、地面には大きなクレーターが出来上がり庭の景色が台無しになっていた。
そして、元凶らしき人物がクレーターのど真ん中に居た。
「みーつけた。そんなところにあったわけね」
威風堂々と仁王立ちして祐理を不敵に見据える少女。
炎のように赤く月明りで毛先が金色に光る長髪と犬の着ぐるみの頭のような帽子。
煌びやかで紅く露出が目立つ軍服らしき衣装にリンゴをモチーフに彫刻された首輪。
身長と体格は祐理とあまり変わらないが、健康的な肌と無駄な肉のない引き締めた筋肉質な肉体など可憐な百合のイメージな祐理とは相対的にこちらは情熱の薔薇。まるでローマの女将軍的な印象であった。
年は態度から察して祐理より二つ上だろう。少女から女性になる中間といったところ。
「突然で悪いけど、そのメダルをこちらに寄越しなさい。どうせアテナに渡してもろくな事にはならいし」
「ど、どうしてアテナのことを――っ!?」
傲慢無礼に要求する赤の少女に、祐理は訳の分からずどうすればいいか分からずにいると突然として彼女が視界が変わった。
媛巫女がもちあらゆるものを読み解く霊視だ。
「そんな…なぜ、あなた様までこの地に…」
その霊視から赤の少女の正体を知り、祐理は驚きを隠せず口元を手で押さえ後ずさった。
そして、彼女の名を告げた。
「アテナと対となるギリシャ神話の戦神―――アレス!!」
闇が刻々と迫る時間。
戦神アレスは闇を背にして、ニヤリと不敵に笑った。