真・カンピオーネ無双 天の御使いと呼ばれた魔王   作:ゴーレム参式

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 第一話にしてカンピオーネのあのキャラが登場します。

 はたして〝彼女〟がヒロインであるかどうか読んでからのお楽しみです。

 それではどうぞ。


第一章『悪王の魔神』
普通の終わり


 神殺しの王――カンピオーネ。

 

 人であるにも関わらず神を殺し、神たらしめる力…権能を簒奪した覇者。

 

 地上の何人たりとも抗えない力を振りかざし、地上に君臨する魔王。

 そんな彼らの偉業と傲慢と暴力に人類は畏怖し、屈服する。

 

 だがしかし、その権威は今や意味を持たず。

 

 かつてカンピオーネたちが謳歌した世界は、新時代という荒波に飲まれ、技術の発展の影響により誰しもが神と同等の力を有す時代へと変わった。

 

 絶対王政から民主主義の世になった世界にもはや唯一無二の王は不要。

 

 カンピオーネの名はもはや過去のものとなり、彼らの栄光は儚くも消え去ったのであっ―――

 

 

 

「何してんだルリ…?」

 

 独り言で語るルリに一刀が語りに割り込んだ。

 

「ちょっとしたテコ入れです。ほら、作者って誤字脱字が多い上にテンポの悪い描写ばかりでしょう? ただでさえ種馬が主人公なので読者の心が遠くに行かないようこうしてフラグを立てつつUAとお気に入り数を増やそうと思いまして」

「魂胆が浅はかだ。あと。不人気前提かよ」

 

 いらぬお節介を焼くルリに一刀は呆れる。

 

 二人がいるのは東京都浅草の人通りの少ない路地裏にある七階建てビルの六階。

 そこが一刀たちの住い兼仕事場である便利屋『いえっさ』である。

 

「さてと、ボケはここまでにして本題に移りましょう」

「急に話を変えるんだな、おまえ…」

「それが作者のクオリティです。では、はいこれ」

 

 ルリが取り出したのは折れ線グラフが描かれたボードであった。

 しかも、線は緩やかに底へ下がっていた。

 

「ここんところ表の依頼が少ないため、我が家の経営は著しく右肩下がりです。貯金とここの運営費と家賃を計算すればあと半月程度で我が家の家計が火の車になるのはたしか。早急に手を打たねばなりません」

「まぁ、たしかに最近依頼が来ないけどそこまで心配する必要ないだろう? あと一か月も平穏に生活が送れるんだし、そこまで考えなくても…」

「いいえッ。経理と家計簿を預かる身としてほっとけません。ただでさえ一刀はいろいろと問題を起こすくせに、おせっかいと下心で依頼人から料金を受け取らないんですから。お金を工面するこっちの身にもなってください」

「あっはははは……すいません…」

 

 ルリの鋭く尖った視線に、反論する気力を削がれ苦笑するしかなかった。

 見た目が少女(邪神?)に家計簿をまかせる大人がここにいた。

 

「と、いうわけで来月まで乗り切るため手を打っておきました」

「ヤッホ~! ルリルリ、おまたせさ~ん♪」

 

 事務所のドアから陽気な声で、何者かが無断で入ってきた。

 一刀が振り向く。声の主は眼鏡をかけたスーツ姿の尻軽な青年であった。

 

「…何にしき来たんだマダオ」

「オイオイ、せっかく親友が来たのに冷たい態度やなぁカズピー」

 

 彼の名前は及川祐。

 一刀が高校時代の悪友であり、現在は正史編纂委員会に所属する公務員(一刀がカンピオーネのことを知っているが、一刀のお願いで組織には凄腕の魔術師として紹介している)だ。

 

「クズ眼鏡もとい及川さんに頼んで裏の仕事を回してもらったんです。巨大組織の職員のコネクションって便利ですね」

「くっくくく、ワイがいてよかったやろうルリちゃん♪ あと、クズ眼鏡のところは聞かなかったことにしとくわ」

 

 便利屋『いえっさ』は主にネコ探しから助っ人までジャンルなく仕事を請け負うが、仕事が少ない場合は正史編纂委員会で手を焼く仕事を代理としてもらい生計を立てているのであった。

 

「ほい、今回の依頼や。依頼料はちゃんと指定の口座に振り込むようになってるさかい」

 

 そういって、手に持った封筒をルリに渡す。

 

「すいませんね。公務員の仕事が忙しいのに、こうして仕事まで回してくれて」

「えぇって。カズピーとは親友やし、こうしてルリちゃんに喜んでくれるならやすいもんやでぇ。…ところで、例のブツをいただけるんですか?」

「ブツ?」

「わかってますよ。ハイ」

 

 はやくよこせと手招きする及川に、ルリは紙袋を渡した。

 

「いったい何をもらったんだ?」

「気になるかカズピー…?」

 

 及川が紙袋から出したのは―――女性もののパンツだった。

 赤くフリフリが付いた薄いランジェリーで、使用済みなのかしわくちゃで、シミがついていた。

 また、袋からブラジャーからソックスらしき布地か覗いていた。

 

「うふふふふルリちゃんのおぱんちゅ♪ これさえあればワイは三日徹夜ができるでぇー」

「……おまえ、たしかこの前、同僚の女の子と付き合ってた言ってなかったか?」

「それとこれとは話は別やでカズピー」

 

 最低だな。いや、変態だ。

 ニヤニヤと笑って片手でパンツを握る及川を、一刀は冷ややかな眼で軽蔑する。

 どうしてこんな男が女にモテるのか、高校時代からの続く疑問に首を傾げた。

 

「ほんじゃ、まだ仕事あるさかい。ワイは失礼するわー」

 

 軽いステップで室内から立ち去る及川。

 一刀は窓から路地裏をランランとスキップする変態の背中を見詰めながら、隣にいるルリに尋ねた。

 

「………ところで、ルリ。及川に渡した下着っておまえのなの?」

「そんなわけないでしょう。アレは近くのオカマバーのママさんの下着です。なんでもこの前、三人で飲みに行ったときクズ眼鏡のことをいたく気に入ったらしく、自分の想いを代わりに渡してちょうだいと頼まれましたので。しかも使用済みです」

「自分の使用済みパンツ等を渡すオカマもアレだけど、騙してオカマのパンツを渡すおまえは最低だな」

「ママさんから豚骨で有名なラーメン店の餃子付きクーポン券をもらったので。あと、バレなきゃいいんです。どうせ幼女に幼女のパンツを要求する変態を騙しても罪にはなりません」

 

 それもそうだな、と一刀は知らぬが仏の変態にひそかに手を合わせた。

 

「それでは依頼に取り掛かりましょう。仕事は早めに越したことはありませんので」

「まぁ、いいけど。んで、あいつが持ってきた依頼はなんだ?」

「えっとですねぇ…――」

 

 袋から取り出した資料に目を通す

 

「最近、多発している失踪事件の究明です」

 

 

===========================

 

 豊島区のとある廃工場。

 誰も寄り付かない工場内には怪しい男たちが10人、散策していた。

 日本人ではない。ボサボサの髪に濃い黒ひげ、黒い肌にライン状の入れ墨。ラフな格好だがその下から肉厚な巨漢で、風貌からしてイスラエルの人だろうが、厳つい顔つきと手に持った拳銃からして堅気の者ではないことはわかる。

 

『手筈は整った』

『あとは運ぶだけか』

 

 男たちがアラビア語らしき言葉で会話している中、工場の中央の柱の下で二人の少年少女が縄で拘束されていた。

 

「こらぁぁぁ!! いい加減、解放しなさいよッ!!」

 

 両手両足を縛られた少女――草薙静花が叫ぶ。

 

 ことの発端は一時間前に遡る。

 草薙静花は買い物の道中、怪しい男たちが幼い少年を車に連れ込まれようとしたところを発見。

 ほっとけない性格に、義侠心にかられ少年を助けようとするも、男たちに気づかれてしまい、少年と一緒に誘拐されてしまったのであった。

 

「ひぐッ…ひぐッ…!? おねいちゃん怖いよぉ~」

「ほら、泣くんじゃないの」

 

 となりで同じく縛られている少年が泣きじゃくる。

 年齢は自分より下だろう。年上として静花は強気を装い、慰める。

 

「泣いたら相手の思うつぼなんだから、ここは我慢よ。が・ま・ん。ぜったい助けがくるはずだから辛抱するの。いい?」

「う、うん、わかった…」

(と、いったものの、警察に助けを呼ぼうにも携帯は家に置いちゃったし、お兄ちゃんはおじいちゃんの頼み事で海外に行ってるし、おじいちゃんはおじいちゃんで知人の家で当分帰ってこないし、あたしが居ないことい気づいてはくれそうには……アレ? 詰んでいる?)

 

 最悪の状況に頭を抱える。

 周りには犯罪臭漂う厳つい男たちに、誰も近寄らない廃工場。

 普通の少女ならこの状況で心が折れて泣くものだが、草薙家の一族はそこまで肝は小さくはない。

 周囲を警戒しながら、何とかしてここから脱出する手段を模索する。

 

 しかし、そんな静花とは裏腹に男たちは縄に縛れた少年の襟を掴み、少年ごと持ち上げた。

 

「た、たすけて!?」

「ちょっと! 小さい子に乱暴するんじゃないわよ!」

 

 静花が食いつくが、他の男たちが身体を抑え込む。

 その間に少年は三人の男たちに連れてこれてしまった。

 泣き弱で叫ぶ少年の声に静花は巨漢の男たちに抑えられるも、抵抗して暴れようとする。

 

「離せ離せ! 離せぇーッ!!」

『大人しくしろ!』

『おい、このガキどうする?』

『すこし、犯せば黙るんじゃねーの』

『それいいなぁ』

 

 アラビア語を知らない静花は男たちの会話を理解できず抵抗を続けるも、男たちは地面に押さえつけた静花を仰向けの態勢を変え、彼女の上着を破いた。

 

「い、嫌ッ!? やめてッ!?」

 

 静花は必至に抵抗しようとするが、男のひとりがナイフを彼女の頬の近くに地面にめがけて突き刺した。

 

「ひっ!?」

『ちょっとだまってろ』

 

 ナイフで頬がすこし斬れ、うっすらと血が流れ、静花は恐怖のあまり血の気が下がり、身体が硬直する。

 その間、男たちは邪な顔で彼女のスカートを強引にめくり下ろそうとする。

 

(た、助けて…お兄ちゃん…ッ!?)

 

 男たちの手で汚れていく中、この場に居ない兄に助けを呼びながら涙を零した。

 

 ぎゃぁぁぁぁぁああ!?

 

 涙が地面に落ちたとき事態は一変する。

 男性らしき悲鳴が部屋の外から響き、男たちの背後の壁より彼らの仲間の一人が壁を突き破ってきた。

 

『げっはぁぁぁぁぁ!?』

 

 壁を突き破った男はそのまま地面に転がり動かなくなる。

 輪姦しようとした男たちの手が止まり、驚きながらとっさに後ろを振り向く。そのため、倒れている男の状況がよく分かった。手足が折れ、顔が潰れて陥没し、身体中に男の血痕らしき血が付着していた。

 撲殺された仲間を見て男たちは背筋を凍らせると、壁の向こうから足音が聞こえてくる。

 

「さすがファラオの予言。ビンゴだ」

 

 工場の通路から繋がった壁の穴からひとりの青年が入ってくる。

 茶髪で澄んだ茶色の瞳の好青年らしい風貌であった。黒いシャツにジーズン、そして、真っ白な軍服風のコートを羽織り、手にはべっとりと血がついていた。

 おそらく、このガキが仲間をやったんだろう。

 青年の後ろから倒れ伏す他の男たちの姿があり、男たちは警戒する。

 

(この人いったい……)

 

 その男たちの後ろで静花は恥部隠しながら、男たちが青年に注目してる間に後ろへ下がる。

 対して、青年は服を破けられ涙目になった静花を見て、一瞬きょっとんとすると、男たちににっこりと微笑みかけ――

 

「んで、お前ら…ソノ汚イ手デ何シヨウトシタ…?」

 

 殺気に満ちた瞳で、青年――北郷一刀が男たちを睨む。

 先ほどまでの好青年からの変異ぶりと殺伐としたオーラに男たちは脂汗を垂れ流し、後方に置かれた重機に隠れた静花はその殺気に当てられ身体を震えていた。

 

『や、やっちまえ!』

 

 男たちのひとりが殺意に向けられる中、拳銃を一刀に向けた。

 ほかの男たちも命の危険を感じ、すぐさま拳銃を抜き取り、銃口を突き出す。

 

 ガタガタと震えながら男たちが引き金を―――

 

「――寝テロ」

 

 引けなかった。

 一刀が腕を振り上げた瞬間、突如として拳銃を構えていた男たちが倒れた。

 隠れていた静花は何が起きたのか困惑し、倒れた男たちを見る。

 

「フォーク?」

 

 男たちの眉間や急所に銀製のフォークが刺さっていた。

 おそらく腕を振ったとき目にも止まらなぬ速さで投げて刺したのだろう。そうに違いないと静花が思い、同時に人間業じゃないと確信した。

 

「さてと…」

 

 怒りが鎮火し、一刀は清々しい顔つきで静花に視線を移した。

 視線をむけられた静花はビクッ!と振動させ、身構えながら一刀を警戒する。

 

「あ、あなたは一体…!?」

「そう警戒するな――は無理な話か」

 

 今だ怯える静花に、一刀は目線を合すため膝をつく。

 内側の胸ポケット一枚の名刺を、身構える彼女に前に差し上げた。

 

「…便利屋いえっさ?」

「そうッ、ネコ探しから破壊活動まで何でもやる便利屋さ」

 

 名刺には『便利屋いえっさ』『北郷一刀』と書かれていた。

 静花は一刀の顔と名刺を交互にみると、肩にコートを被せられた。

 

「さすがに、その恰好のままじゃぁはずかしいだろ」

「へっ? あっ…///」

 

 男たちに服を破られたことに気づき、頬を赤くして敗れたところをコートで隠す。

 そして、無邪気に微笑む一刀に静花は警戒を緩めた。

 

「あ、あたしよりもあの子を助けて!? さっき、こいつらの仲間が連れて行ったのよ!」

「あの子…? 捕まっていたのは君だけじゃなかったの?」

 

 一刀が敵じゃないわかった静花は、すぐさま事情を説明した。

 すれ違いになったことに一刀は冷静に把握する。

 

「わかった。連れ去らわれた子は俺が助ける。でも、その前に君を安全な場所まで送らないと…」

「そんな悠長なこと行ってる場合じゃぁ―――ッ!?」

 

 途端、静花は言葉を詰まらせる。

 目を丸くし、アワアワと驚愕した顔で指を一刀の背後に刺した。

 一刀は「どうした?」と後ろを振り返ると、そこにはフォークが刺さった男たちが倒れたままガタガタと不自然に震えていた。

 

「今度はなんなのよ!」

「下がって…!」

 

 不可解な異変に静花が驚く中、一刀は彼女の前に立つ。

 

 小刻みに震える男たちは、すぐさま震えをやめる。すると、刺さっていたフォークが抜け落ち、ゆらりと立ち上がった。

 猫背になりながら頭を下げる男たち。しかし、彼らからは生気を感じられない。まるで死体のように腐蝕したような肌色となり、死臭が漂ってくる。

 彼らはゆっくりと顔をあげた。その顔面は先ほどの男たちとはかけ離れた醜い化け物であった。

 例えるならオークという豚の怪物に似ているが、ゾンビの面のほうが強い。

 先ほどまでイスラエル系の男たちは、グルルルと、唸り声を鳴らしながら、獣のように涎を垂らしてこちらをみていた。

 

「ににに、人間が化け物になったぁぁ!?」

「こいつらは…」

 

 一刀の右目が幾何学模様とルーン文字が浮かんだ金色に変わる。

 それは北欧神話の主神オーディンより簒奪した権能『北欧の軍神』の一端。ありとあらゆる情報を解析し視界に表示させる眼〝高位情報演算式〟(ミーミルの瞳)である。

 その瞳から化け物と化した男たちの情報とその正体が一刀の視界に表示された。

 

屍食鬼(グール)…? もしかしてあいつら…いや、こいつらはアラブのほうか」

 

 かつて出会ったグール(犬顔)とは別のものだとひとり納得する一刀。

 その間、グールと化した男たち8人のうち5人はネコ科の動物のようにとびかかろうと腰を低くする。また、残りの3人は片手に拳銃を持っていた。

 

「どうやら銃を扱えるだけの知能はもっているようですね」

「うっわ!?」

 

 突如として二人の間に現れたルリに静花は驚きのあまり飛び跳ねた。

 

「だ、誰よあんた!? どこから湧いてでたわけ!?」

「……一刀、誰ですかこのレイプされたかのような娘は? あっ、もしや、性欲が溜まりに溜まりすぎてとうとう犯罪に手を出して……」

「ルリさま、状況が状況なのですこし黙ってって…ッ!?」

 

 後退る(フリをする)ルリをほっとき、一刀は拳を構えた。

 猛獣に狙われた人間の立ち位置で、互いの距離を詰め、動くのを待った。

 ――先に動いたのはグールだった。

 

『ヤッチマエェェェェェ!!』

 

 先頭に立っていたグールの雄たけびに似た号令で、5体のグールたちが一斉に襲い掛かる。

 その後ろで3体のグールが一刀に向けて拳銃を乱発する。

 

「ルリ、この子を頼む!」

「しかたありませんね」

 

 やれやれと肩をすくめたルリは動けない静花を護るように立ち、袖の布で弾丸を弾く。

 一方で、一刀は乱射された銃弾を避けながらグールの顔面を殴った。

 

「ハァッ!!」

『ぐっへ!?』

『チッ、舐メルナ人間!!』

 

 殴り飛ばされた仲間を無視するグールたち。

 すると彼らの色と輪郭が徐々に薄くなり、醜い身体が消えた。

 

「消えた!?」

「観えなくなっただけです。伝承によればグールは姿と体色を変化させて、旅人に襲い掛かるう化け物。今風に言うと光学迷彩で姿を隠しているみたいな感じですね」

 

 驚く静花にルリが冷淡に説明した。

 アラブ伝承の人食い鬼はジンと呼ばれる精霊が人の死体に憑依して生まれた無明の魔物。

 群れとなって、姿を消し旅人を迷わせて人を喰らうため、姿を消す能力をもっているのだ。

 もっとも、

 

「そこッ…!」

『ごっへ!?』

 

 一刀の右目と視覚以外の五感の前には、彼らの小細工など無意味だった。

 一刀は不可視であるはずのグールを腕を掴み、引き千切った。

 

『何ッ!?』

 

 腕を腕力だけで引き千切られたことにグールは唖然とする。

 一刀は続けてほかの2体のグールの頭部を掴み、圧力で潰した。

 

『馬鹿ナッ!?』

『俺タチヲ紙粘土ミタイニ千切リ潰スナンテッ!?』

『シカモ、何デ俺タチノ位置ガ解ルンダ!?』

 

 姿を見せない不可視の怪物たちが戸惑う。

 けれど、一刀は、的確にグールたちの姿を捉えていた。

 空虚に手を伸ばし、グールの首を鷲掴みする。

 

『ガッハ!? …ドウシテダ、俺タチノ姿ハ見エナイハズ……!?』

「残念だけど俺の右目には不可視なモノでも視覚できるんでね。それに制限させた空間の中で姿を消して音の反響と臭いでバレる」

 

 〝高位情報演算式〟(ミーミルの瞳)は視界に映ったあらゆる事象・対象の情報を視界に映し出すことができる眼である。例え、光学迷彩で体色を変えようが、空気の流れやグールたちの熱線、足音から関節の音など、その他の情報をもとに彼らの姿など容易に見抜けられる。また、一刀の並はずれた五感と直感があれば、彼らの動きなど鮮明に察知できるのだ。

 

 ぐっぎ!

 一刀はグールの首を軽々と圧し折った。

 グールたちは自身の目を疑った。ただの人間だと思っていた者が自分たい以上の怪物であったことに、彼らは発狂寸前となる。

 

『人間離レシタ腕力、不可視ヲ見通ス目…テメェハマサカ…!』

 

 人外の身体能力で一刀の正体を知ったグールたちは、ありえないとばかりの顔で怯える。

 ようやく理解したのですか、と静花の隣でルリが学習能力のないグールたちにあきれていた。

 

「それで、まだヤル気…?」

『驕ルナ成リ上ガリノ人間ガ!』

 

 姿を現したグールたちは爆発的な跳躍で一刀の身体に取りつき、彼の頭、両肩両腕、横っ腹に嚙みついた。

 

『神殺シダロウト、強カロウト、喰ッチャエバ仕舞イダ』

『コノママ骨ゴト嚙ミ砕イテヤル!』

 

 骨を残さず食い尽くす、とばかりグールたちは顎に力を入れる。

 このままで無残に食われると静花は思ったが、隣にいる少女はただ茫然と立ち、助ける素振りをみせない。

 

「ちょっとあんた! なにぼーと突っ立てるんのよ!? あの人の仲間でしょぉッ!早く助けないとあの人、し、死んじゃうかもしれないのよ!?」

「ん? 別に大丈夫ですよ。幼女に心配されるほど一刀は弱くはありません」

「誰が幼女よ! あたしは中学生よ! つうか、なにが大丈夫なのよ! もろ食われかけてるじゃない!!」

「喰われてる? どこがですか?」

「どこって、肩と頭とか腹とかいろいろ嚙み付かれて…って、あれ?」

 

 改めて確認すると不可思議な点があった。

 それは化け物に喰われかけていにもかかわらず血が流れていなかった。

 静花の視点ではわからないが、実はグールたちの牙は一刀の肌に圧しただけで、皮膚の下まで通ってはいなかったのだ。

 

『ハ、歯ガ皮膚ニ通ラナイダト!?』

「ハハッ、神殺しだろう命を懸けて襲い掛かるその根性。蛮勇として称賛するよ。でも――」

 

 口元を上げてにやりと笑った。

 

「テメェらは終わりだ。…我が右手は紅蓮の劫火。愛無く、慈悲無く、ただ焼き尽くす無情な炎なり…!」

 

 右腕を掲げると、右手から紅蓮の炎があふれ出し、炎は滝の如く一刀ごとグールを包みこむ。

 灼熱の業火にグールたちは断末魔を上げながら塵となるまで焼き殺される。

 そして、一刀は微動せず紅蓮の炎を纏う。その姿はまるで炎の魔人だと、静花は怯えながら思った。

 

「ありえない…ありえない…こんなの…普通じゃない……!?」

 

 ただでさえお節介で誘拐事件に巻き込まれさらに強姦されかけた後、最後はオカルトという摩訶不思議な体験を目にし混乱する。

 そんな彼女にルリが、

 

「普通じゃない。えぇ、貴方にとってこれは普通ではありません。コレはただの現実(幻想)です」

 

 と、静花の隣で囁く。

 

「あなたたち…一体…何者なのよ…!?」

 

 理解できない出来事を理解できる答えを欲する静花。

 腕を震えさせる少女の問いに、今だ炎を纏わせる一刀が数秒の沈黙ののち答えた。

 

 

 

 

「便利屋いえっさの社長、北郷一刀。ネコ探しから〝神殺し〟まで依頼があればなんでもするただの怪物(フリークス)だ」

 

 

 

 

 

 

 

 これがあたしの普通が終わった瞬間。

 

 嵐のように訪れた幻想的な炎に包まれた怪物によって、あたしが知る平穏な日常が音を立てて崩れ去り、理解を超えた何かへと変化した。

 

 同時に、これがあたしの普通(物語)の始まり。

 

 なぜならこれが、いずれ世界の敵となる〝世界殺し〟『北郷一刀』と、世界の終わりを最後まで見届けたあたし『草薙静花』との最初の出会いだった…。

 

 

 

 

 

 

「ところで一刀。貴方が出した火が工場の隅に置かれていた資材に引火してますよ」

「まじっで!?ちょっ、誰かぁー!消火器ィィ!?」

 

 

 

 

 

 …たぶん(汗)

 

 

 

 




 誤字脱字があれば指摘してください。

 後日編集しますので。
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