真・カンピオーネ無双 天の御使いと呼ばれた魔王   作:ゴーレム参式

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 久々に登校します。
 遅れてしまいもうしわけありませんでした。
 駄文なので読みづかもしれませんが、どうぞ。


神話の魔王と天から堕ちた御使い

―――調査対象の顕現を確認。

 

―――鑑定開始…エラー。『進歩』アジ・ダハーカの規定が満たしていません。

 

―――原因究明の為プロセスを再チェック………チェック完了。

 

―――カンピオーネ・タイプ『天魔王』の介入を発見。全行程に不具合あり。

 

―――プランの修正のため―――に現状報告……確認。予定の一部を変更。続行を承認。

 

―――これより、調査対象およびイレギュラーの戦闘記録を開始します。

 

 

=====================

 

 

 

「はっきり言おう。めちゃくちゃピンチです(汗)」

 

 

 頭から血を流しながら一刀はヤケクソ気味で笑っていた。

 無機質に建っていたビル群は跡形もなく崩壊し、整備された道路はクレーターだらけの荒野と化す。

 まつで原爆で崩壊した世紀末な街並みに、一刀はこの荒野を変えた怪獣(神)を見上げた。

 

「どうしたカンピオーネ! 貴様の力はそんなものか!!」

 

 巨大な双翼で宙に浮かぶのは純白の鱗に包まれた三つ首の巨龍――アジ・ダハーカ。

 ゾロアスター教最凶の魔神アンラ・マンユより作り出された神造龍。千の魔術を操り。毒の息を吐き、傷口から無数の猛毒を宿した爬虫類や蟲を生み出す最強の怪物。その生命力は不死に近く、頭を潰されようが、心臓を貫こうが、首を落とそうが決して死ぬことはなく、多くの人々を苦しめた。

 ザッハークと同質とされ、最後にはスラエータオナの手によって封印された。

 その神に造られた暗黒竜は傲慢な態度で、真紅の瞳で一刀を見下ろしていた。

 そんな魔王に対し一刀は愚痴をぶつけた。

 

「あのさぁ、そもそもバカでかい魔法陣から核弾頭とか焼夷弾とミサイルとか雨みたいに降り注いだあげく、口から荷電粒子砲とか波動砲とかコジマ粒子をアルティメットバーストみたく吐くわ、必至にその攻撃を潜りぬけて攻撃しようと懐にはいったらATフィールドとか斥力場とか多重防御結界で防御するわ、皮膚をニュー超合金Zみたいな金属に瞬間変換してがっちり固めるわ、それでようやく傷つけたと思ったら即完全回復するという鬼畜大魔王チート無敵相手にどう戦えばいいんだよ!? もうすこし手を抜いてくれちゃっていいだろうッ!!」

「その鬼畜大魔王の過剰火力をわりと余裕で生きてる貴様がいうかッ!?」

 

 互いに互いの出鱈目さに驚愕する人間の魔王と神話の魔王。

 ちなみに、今更だが一刀が乗っていたシャンタク鳥は波動砲の余波で夜空の星となってしまった(合唱)。

 

「そっちこそ、ほんとに神話の神なのか? 異世界の力を100%どころか200%強化して使うなんってことありえない。つうかなんで抑止力を無視して使えるわけ? (一様俺もだけど)さすがにこの世の理に反してるんだけど…?」

「ほう、おぬし、我が使用した術の原点(オリジナル)を知っているようだな。よかろう。塵芥な脳しかもたぬおぬしに分かりやすく教えてやる」

 

 暗黒竜は上から目線で語る。

 

「我が権能『千の魔術』は古今東西から未来、はたまた並行世界まで、あらゆる術――魔術から錬金術に科学技術、武術、あらゆる分野の『術』を網羅し、その術と術によってもたらされる産物を結果を力として完璧に、そして究極まで高めて振るうことができる。抑止力であろうと運命であろうと、すでに存在してるものを否定することはできぬ!! よってこのような芸当もできしまうわけだ。トレースオン!」

 

 アジ・ダハーカの周りに、通常サイズの刀剣からその巨体に合わせた刀剣など多種の武具が無数に造られ、展開されていく。その光景に一刀は見覚えがあった。

 

「士郎の投影魔術!?」

 

 おかしい話ではない。相手はすべての魔術を使える神話の魔王。並行世界にいる親友の固有魔術を使えても不思議ではなかった。

 アジ・ダハーカが腕を下すと、それを合図に無数の刀剣たちが一刀の頭上へと一斉に降り注ぐ。

 一刀が舌打ちして、その刀剣の雨を避ける。乱射された刀剣は大地やまだ健全な建造物にに突き刺さり、元都市だった場所は剣が生える森林地帯と化す。

 

 

(ギルガメッシュがすべての『宝』、オジマンディアスがすべての『建造物』ならあいつはすべての『術』ってところか。安心院さんでさえ一京以上のスキルをもってたけど、無限のスキルってどんだけ~!? インフレってレベルじゃないんだけど!?)

 

 アジ・ダハーカの権能に驚きのあまり声を出せず唖然とする一刀。

 だが、ここはポーカーフェイスで外面を保ちつつ、次の疑問点を述べた。

 

「それでもまだ納得できない。もともともお前らは不完全な神格(素体)で降ろされた神格。そんな奴が容量を超えるほどの力を扱えるのはおかしい!」

「たしかに、通常のまつろわう神でも真の神でもこれほどの権能()を振り回せば先に(神格)のほうが壊れてしまうだろう。しかし、我がもう一つの権能を用いれば、全知全能など赤子同然。なぜなら我が器の強度に限界はないのだからな!」

「強度に限界がない……っ!? 不死の権能か!?」

「いかにも。我が不死は『天命』。まつろわす時まで殺されない、天が与えてもうた宿命(呪い)!! これがある限り我はまつろわす時まで死は訪れぬ!!」

 

 神話においてアジ・ダハーカはスラエータオナの手によって討伐されるも、アジ・ダハーカは彼に殺されずダマーヴァンド山の地下深くに幽閉されてしまった。その訳は大方二つあり、一つはアジ・ダハーカを傷つけるとその傷口から猛毒の魔物が大量に生まれるため。もう一つはザッハーク同様、ゾロアスター教の天使、もしくは女神がアジ・ダハーカの死期はまだとし、彼が終焉の時に未来の神話的英雄に倒されるまで封印されたというもの。

 神話の蛇として最後には《鋼》の剣神によって末路わされるが神格だが、ここである問題点があった。それはほかの蛇と違い《鋼》によって完全に末路わされず、あまつさえアジ・ダハーカを殺すことができる英雄は未知なる英雄。

 つまり、アジ・ダハーカの命を絶つ英雄は神話の世界に顕現していないということ。

 また、この蛇の終わりは神々が決めた定めたもの。神であろうとも神が決めた宿命において、殺すことも、死なすこともできず、よってアジ・ダハーカはいずれ現れることが分からぬ英雄に殺されるまで、永遠に生き続ける結果となってしまった。

 まさに抗えぬ運命が、かの神に不死を与えるといって過言ではない。

 

「されど、今回はいささか条件が悪い」

 

 アジ・ダハーカの腕に亀裂が生じ、体全体に広がり肉体の一部が崩れ落ちる。

 

「やはり、このような不安定な顕現では我が呪いも完全とはいぬようだ。我がこの世界にいられるのはせいぜい20分程度が限界であろう」

「…つまり、さっきの戦闘で10分消費したから、あと約10分でアンタは構造崩壊を起こして死ぬってところかな」

 

 その通りだ。と、赤い双眼で一刀を見下ろしながらアジ・ダハーカが首肯する。 

 

「ようは時間制限内で片方が生き残ったほうが勝者。わりとシンプルじゃないか。まっ、どっちにしろさっきの戦闘で俺の生存確率が証明されたからこの勝負は俺が有利だけどね」

「フンッ、それはどうかな偽物」

「?」

「我に言わせればその僅かな時間があれば貴様ごとを葬ればいいのこと。神話の大魔王がただで死ぬとおもうか!」

 

 胸を大きく張り、アジ・ダハーカが天壌に向けて吼える。

 

「貴様の実力と不屈の精神を称し、我が神殺し抹殺の秘策と秘儀、そして真なる魔王の権威をみせてやろう――我は造形。神々の悪意より生まれし、生きた兵器なり。ひとたび起動けば、血肉を抉り、人徳を汚し、命を奪いつくすは厄災振りまく歯車とならん。そう、我こそは三千世界を恐怖と絶望に落とす悪なりけり」

 

 アジ・ダハーカが呪文を紡ぐと、白き巨体に異変が生じる。

 

「されど悪があるところ善あり、正義あり。絶望の果ての憎悪の底。輝きばかりの希望生まれるは必然。そう、我は希望の生みの親。黒き災厄を振りまき、一筋の光を掴む、栄光の母神なりて!!」

 

 呪文を唱えるたび、真っ白な鱗が茶色く変色し、強靭な肉体に亀裂が走る。しかし、それは死に向かう肉体の自然崩壊でなく、新たな生へ向かう自然適応への清かであった。

 それはまるで蛹となった芋虫が蝶へ変身するため、殻の中で体を全部溶かすような生物の神秘。

 殻と化したアジ・ダハーカの身体は瘡蓋のように剥がれ落ち、粒子となって消えると、そこには一人の女性だけ残された。

 金色に輝く長髪をツインテールで結び、メリハリのある褐色の肌に龍の鱗のような文様を浮かばせる露出度が高い純白の衣を纏い、アジ・ダハーカと同じような深紅の瞳で一刀を見下ろしていた。

 その風貌はまさに美の女神と思わせるほど神々しく、また、邪神のような禍々しさと闘気と、対極のオーラを合わせて放っていた。

 そんな美少女を一刀が見上げなら困惑した顔をしていた。

 もちろん、巨大怪獣だったアジ・ダハーカがまさかの擬人化して美少女になるのは誰だって驚くだろう。しかし、一刀が驚いていたのはそれだけではない。

 なぜなら、彼女の顔は――、

 

「…パンドラ?」

 

 肌の色も、髪の色も、瞳も、着ている服装もバストとも違う。しかし、その顔立ちはカンピオーネの生みの親、真の神パンドラと似ていた。髪型も酷似し、身長も同じ。人の顔を覚えない剣バカがいたら「イメチェンでもした?」と首を傾げるほどで、2pカラーだといっても違和感がない。ただし、その顔に浮かべた表情は正反対。

 本物のパンドラが満開に咲いた花なら、あの少女は冷たい鉄製の造花だろう。

 

「――パンドラ。確かに(あたし)はあなたたちカンピオーネの母、魔王の生みの親(パンドラ)。同時に、我はあなたたち愚者に恩恵を与える全てを与える女(パンドラ)でもないわ」

 

 変なところで煩悩全壊してる一刀を無視して、少女は淡々と告げる。

 冷静に補正する少女に、一刀は気まずい心境で質問する。

 

「えぇ…それじゃーアンタはアジ・ダハーカ、なのか…?」

「それも違う。(あたし)はアジ・ダハーカを土台として生まれてきたけど、あの方はあくまで私の基礎(イケニエ)。我を造りだすための素材であり母体(前世)でしかない。――我こそ、あなたたち傲慢な生物に罰と試練を与えるため、神によって造られた邪悪なる蛇。そう、我は人類の天敵。この地上に災いと絶望を振りまき、神が与えてしまった奇跡を回収めるために誕生まれてきた、無感情な悪意の機械人形。それが我」

 

 自らを無機物と機械的に言葉を発する少女。

 一刀は数秒の間を開けて、アジ・ダハーカが何をしたのか推察した。

 

「千の魔術で自分で自分を改造するなんて、そうそういないぞこれ」

――『肯定。敵性アジ・ダハーカの神格基盤の再構築を確認。同時にパンドラの神格が追加され、アジ・ダハーカは新たな神へと新規化されました』

 

 従属神と同化して力を底上げするまつろわぬ神や、赤の他人ならぬ赤の他神に近いもの変神するまつろわぬ神もいたが、己の神話を完全に捨てて、まったく別のモノになる神は一刀の中では出会ったことはなかった。

 いや、似たようなものはあったが、あの女神と目の前の魔王とは転生する工程(プロセス)が違うか。

 

「…それで、君のことどう呼べばいいんだ?」

「別、好きに呼んでいいわ。我は神話に存在しない造形物。神を名をつけるのは神話を紡ぐ人間だけよ」

 

 …なんとういうか、普通のまつろわぬ神とちょっとずれてて調子が狂うなぁ。と、一刀は思った。

 本来、神にとって人間は、気に入った者を除きすべて石ロコか虫のような視点でしかみえず、人類全体に興味を示さないのだなのが通常だ。まつろわぬ神が人の事情を気にせず自分勝手に暴れるのも、この性質が大きい。

 しかし、眼前の女神は神話に背くまつろわぬ神らしからず、神話を紡いだ人間たちになにかしらの想いを感じれらた。

 それは、それとしてだ。

 名前がないの少々不便だ。元はゾロアスター教の魔王であったが、今はパンドラの神格と悪魔融合?して別のモノ(神格)になっている。いわゆる新品の神様だ。なにかしらの、名前をつけたほうがいいだろう。

 一刀がピカピカの神様の名前を考えようとすると、ミーミルの瞳が空間ウィンドを開く。

 

――『提案。名称を付けるなら〝アズダハ・ドーラ〟でいかがでしょうか?』

「アズダハ・ドーラ…かぁ…」

 

 アジ・ダハーカは現在ペルシア語形でアズダハー、パンドラは本来の表記でパンドーラと呼ばれている。

 それらを混ぜて、アズダハ・ドーラ…安直すぎませんか賢者様?

 

「アズダハ・ドーラ…うん、気に入ったわ」

 

 相棒に意識を剥けてる間に、勝手にお気に召したようだ。

 すこしだか、無表情であった顔に僅かに微笑が浮かんでいる。

 

「それで。わざわざ皮を剥いでまで新しく生まれ変わったのはただ自分が凄いことを威張るためか? それともその義母よりもボリューム満点なボディーで俺を悩殺するためかな? かな?」

――『疑問。なぜ二回いうんですか』

 

 だってさー、あの女神様の2pカラーで、しかもロリ巨乳だよ。レアだよレア。ちょっとばかし興奮してテンションが上がってもどこも可笑しくなかった感。

 

 

『ひどい! あたしよりそっちの贅肉だらけのあたしのほうを選ぶなんて!? お母さん泣いちゃう!!』と義母の声が響いたけど、これは幻聴だ(良心が痛いがムシムシ)。

 

 

前世(あたし)がいったはずよ。我は。そのためなら我は真の魔王となる。来なさい、光輪!」

 

 アズダハ・ドーラが叫ぶと、頭上から黄金色に輝く輪っかが出現した。

 それは一刀はアジ・ダハーカの召喚を防ぐため、あえて月函の外へ置いてきた光輪であった。

 魔術による召喚だろう。巨大な輪はアズダハ・ドーラの身長の二回りほどの大きさまで収縮し、彼女の背に展開された。

 

(アジ・ダハーカ)の分霊はこれを用いて神格を底上げをしようとしたようだけど、これにはほかにも別の使い道もあるのよ。それをみせてあげる。廻れ、光輪!」

 

 アジ・ダハーカが叫ぶと光輪は高速で回転し、金色に輝きだす。

 

「不死の領域開門。真の神パンドラの権能に接続。権限を掌握し、簒奪の秘儀を改ざん。愚者に与えられし、神のかけらよ、災厄の函へと送還りたまえ」

 

 途端、一刀は自身の体――正確には内面から自分を構成してる歯車が抜き取られているような感覚に襲われた。

 すると、右目の視界よりミーミルの瞳からの警告欄が表示された。

 

――『警告!? 警告!? すべての権能が敵性に強奪。回収されています。この…ままで…は……カンピオーネたちの権能が―――』ブッツン

「ミーミル? おい、どうした…ミーミルッってば!?」

 

 突如としてテレビの電源を無理やり引っこ抜かれように、エラーの表示がプッツンと視界から消えた。

 何度も呼びかけるも、ミーミルの瞳は一向に応答しなかった。

 

「…まさか、その姿になったのは俺たちから権能を…」

「そう、あなたたちの力、奪ってやったの」

 

 アズダハ・ドーラは不敵な笑みで口元を上げていう。

 

「カンピオーネはほんらい神殺しの母パンドラの仲介のもと簒奪の秘儀によって神の力を与えられる。だったら、子に与えたものを親が取り戻しても不思議じゃないでしょ?」

 

 やられた。一刀は奥歯を嚙み締めた。

 カンピオーネが倒した神から権能を奪うには、必ずパンドラの仲介の元、簒奪の秘儀というシステムによって権能を簒奪するのが当たり前。

 ならば、そのシステムの悪用して、権能を横領するということもできなくはない。ただし、そんなことは起こりゆるはずない。なぜなら、簒奪の秘儀はカンピオーネの責任者であるパンドラでしか使えず、また中立であるパンドラが不正を染めるなどありえないのだ。また、そんな裏技をしようとする輩など、人間やカンピオーネ、はたまた神や運命でさえいない。むしろ、バカバカしくて考えることも実行する気もないのが妥当だろう。

 そう、カンピオーネの義母の顔をした魔王を除いては。

 

「この光輪にはいろいろと機能があるの。そのひとつが次元湾曲。時空を歪ませ、アストラル界を素通りにして直接不死の領域にこの世界と一部衝突、そのうちにパンドラから簒奪の秘儀の所有権を奪ってやったわ。もちろん、秘儀を奪ってもパンドラとその夫エピネテウスでしか使えない禁術(システム)禁術だから、前世のままだったら所有権があっても使用権はない。――でも、今の我はパンドラの神格を備えた魔王()。パンドラの神格(ID)さえあれば、簒奪の秘儀を使用するだってできるし、千の術で簒奪の秘儀を改造して、与えられた恩恵をすべて回収することも、使うこともできるのよ。こんなふうに!」

 

 アジ・ダハーカが叫ぶと、赤き夜空が曇天に覆われ、天候が嵐となる。

 地上にはどこからともなく、仔馬ほどの灰色の狼の群れが現れ、一刀を囲むと一斉に飛び掛かってきた。

 

「これって、たしか狼爺の!」

 

 一刀は月衣からパールのようなものを両手に取り出し、二本の鈍器で狼たちを脳天から殴り潰す。

 アズダハ・ドーラは続いて新たな呪文と聖句を唱えると、彼女の背後からリボルバー式の大砲が錬成され、その銃口から七発の光弾が流星群のように連続で発射された。

 

「こんどはアニーの魔弾ッ!?」

 

 大陸を焦土と化させる月神の魔弾が閃光となって天魔王を撃ち抜こうとする。が、一刀は仁王立ちのままパールのようなものを構え、一息で七発すべての魔弾は二本のパールのようなものでハエを叩き落すかのように斬り捨てた。

 

「まだまだ。我は神と魔王の災厄(恩恵)を閉じ込めた禁忌の函。すべての神と魔王の厄災(暴力)を所有する天地人恐れる禁断の兵器に底はなしッ!!」

 

 アズダハ・ドーラが両手を振り下ろした瞬間、右腕から業火を、左腕から吹雪を放出。膨大な紅蓮と紺碧の熱量と冷気が合わさり莫大な爆熱の壁となって一刀へ押し寄せる。

 

「今度は俺のかよ!?」

 

 容赦のないチビ魔王にツッコミをいれ、一刀は前方に陣を指で描く。すると描いた陣は五芒星の紋章が刻まれた障壁となり業火と冷気を防いだ。

 旧神の紋章(エルダー・サイン)。邪神に対し決して屈しぬ、善神の結界だ。

 クトゥルフ神話の神群において、絶対的な効果をもつ盾に邪神の暴力は通らない。

 そう、()()()()()()()()()()()は――。

 

 シュッパン!!

 

 赤と青の奔流を塞き止めていた紋章が、突如として炎と冷気の渦ごと縦一閃に切り裂かれた。

 

「なっ!?」

 

 その僅か驚きた刹那、一刀の懐に右腕が銀色の腕へ変えた小さき魔王がいた。その手には、一本の剣を握りしめ、腰を低くし剣を振り上げようと構えている。

 

「しまっ!? 剣バカの…!?」

 

 条件反射で後方へ身を下がる一刀だが、小柄な少女とは思わせない達人を超えるのほどの神業の一太刀が、彼の右腹から左肩にかけて斜めに一閃する。

 その刃が通った一刀の身体から血が噴き出し、その痛みに苦虫を噛むように後ろへと跳躍し距離をとった。

 

「痛っ、権能だけならまだしも、本人以上の技量でこられると厄介好まないな…っ!」

 

 大きく開いた斬口を手で押える一刀。

 臓器までは刃が届いていないが、不治の効果をもつ万物切断の権能によって流血が止まらず、白いコートを真っ赤に濡らす。

 もしも、その刃の持ち主の腕前なら、奇襲でも行くから対応はできたはずだった。が、相手は幾千の技と術を滑る魔王。剣の王を超える剣〝術〟と全てを断つ刃が合わされば、たとえ無双を誇る《鋼》でもたやすく一刀両断としてみせても過言ではない。

 アズダハ・ドーラは剣を空振りして付いた血を払うと、ニヤリと口元を上げて不敵な笑みを見せる。その次の瞬間、アズダハ・ドーラが一瞬のうちに距離を詰め、一刀の頭上に剣を下ろそうとしていた。

 

「ッ!? このぉぉおおお!!」

 

 その太刀を一刀は身を横へとひねり、紙一重で回避。そのまま体重移動でアズダハ・ドーラにタックルした。むろん剣が振れないよう左腕でアズダハ・ドーラの細腕を拘束する。

 このまま関節技で決めようと、胴体の傷の痛みに耐えながら腕に力を入れるも――

 

―――チッ!!

 

 アズダハ・ドーラが舌打ちをした瞬間、その舌打ちを起動スイッチにして転移の術で拘束から抜け出し、一刀の背後に立っていた。

 急いで後ろへ振り返る一刀。しかし、振り返った先には背中に拳法の構えをとる巨大な腕を生やし、さらに美声で詩らしきものを歌いながら巨大な拳で衝撃波を今すぐにぶっ放そうとする少女の姿が―――。

 

「……あぁ~これは避けられないな…」

 

 額に冷や汗を流す一刀。

 急いで振り向いたのでカウンターをする態勢は取れず、コンマ0,00000001秒以下で放たれるため防御行動は不可。

 そのため、

 

「ぶっ飛びなさい!!」

 

 重量+握力+衝撃波+速度+神業の武術=魔王すら吹き飛ばすバカげた破壊力。

 武侠の王も頷く素晴らしき拳撃に、一刀は文字通り曇天の空へとぶっ飛ばされてしまった。

 

 

 

 

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「もしもーし。生きてますかー?」

 

 ところ変わって、一刀に置いてけぼりをされた静花。

 現在、彼女は屋上と化した最上階のビルの上で、突如として倒れ付した戦団の一人を揺するっていた。

 しかし、戦士はなんの反応もせず、まるでただの屍のまま横たわったままだ。

 

「もう、なんなのさ。怪獣みたいのが光る卵みたいになったらそのまま消えちゃうし、その次はこの人?たちが急に倒れちゃうし、妖精ぽいのはどっかに飛んじゃうし、アタシこれからどうすればいいのよ~!!」

 

 右の左もわからない現状に頭を悩ます静花。

 実際のところ、一刀の権能がアズダハ・ドーラに奪われたため、呪力供給が立たれ電源が切れたたロボットみたく硬直したのが原因である。また、隷属した精霊たちも邪眼の効果が切れたため自由になって飛び去ったわけだが、そのことを一般人の少女が知る由もなかった。

 

「…今のうちに北郷さんの安否でも確認しにいこうかなぁ…。静かになったからたぶん無事だと思いたいけど、見た感じ戦場というより危険地帯ポイし…きのこ雲もあったし放射線出てたらどうしよう…つうかアタシここにいて平気なの? 放射線ここまで届いていない?」

 

 ちょうどお目付け役もおらず、安全性も不安になりつつ、静花はこのビルから出ることを模索し始める。

 と、曇天の空から重力に従って大きい何かがドッスンっと、彼女の近くに落ちてきた。

 

「なにッ!? 今度はなんなの!?」

 

 慌てて落ちてきたものを警戒する静花。

 落ちてきたのは―――

 

 

「痛たたたた……さすがに馬鹿力と衝撃波の吹き飛ばしコンボはきつい…」

「北郷さん!?」

 

 怪獣らしきモノと戦っていたいたはずの青年がいた。しかも、衣服はボロボロで胴体から大量の血を滝のように流していた。

 

「あれ、草薙ちゃん? ってことはここって…スタート位置に逆戻りかよ」

「そんなこ言ってる場合…その血…早く処置しないと!?」

 

 傷の手当てになるものを探す静花。

 しかし、彼を手当てする前に横槍が入る。

 

「へぇー、アレを受けてもまだ余裕があるなんて驚きね。さっきの一撃、カンピオーネでも悶絶ものよ」

 

 二人が声の主へと振り向くと、いつのまにかアズダハ・ドーラが宙に浮いて二人を見下ろしていた。

 一刀は静花を守るように前に一歩でる。

 

「あいにく、打撃系には耐性があるからな。こんな程度のケガしてたらとっくの昔に魚雷に殺されているし」

「…貴方、いったいどういう人生送ってるわけ?」

 

 ?マークを浮かべ、可愛げに首傾げるアズダハ・ドーラ。

 でも、あえて教えない。まつろわぬ神に知らなくていいこともある。むしろ下手に伏線を引くとあとあと怖い。

 

「北郷さん、あの子いったい誰?」

「ざっくり一言で説明するなら、街中で暴れまわっていた元怪獣」

「あぁ、なるほど…ってえぇぇ!?」

 

 アズダハ・ドーラの正体が巨大怪獣だということに驚く静花。

 まぁ、リアルで怪獣が怪獣娘になっちゃえば、誰も驚くのは当たり前か。

 そんなリアクションをしている静花にアズダハ・ドーラは興味もなく一刀に向けて口を開く。

 

「それにしても落胆ね。前世の時と比べて歯ごたえはない。もしかして、この姿のせいで調子がでなくなったのかしら?」

 

 たしかに、アジ・ダハーカがアズダハ・ドーラになってから一刀は迎撃を除いて、自ら攻撃に転じることをしなかった。

 しかし、一刀はほそくそ笑って言い返す。

 

「よくいうよ。下手に手を出せば、こっちが負けるような仕掛けを施してる癖に」

「あら、なんのことかしら?」

「とぼけても無駄だよ。アンタの目的は俺たちカンピオーネの根絶。そのためにわざわざパンドラから権能を強奪してまで、神としての誇りを捨てて戦ている。そんな奴が奪ったものを振りかざすだけでことをなそうなんてこと、神話の大魔王としていささか無策だろ」

「……へぇ、脳筋ぽいと思ったけど、結構用心深いのね」

 

 目を細め、蛇のように見つめるアズダハ・ドーラ。

 そう、一刀はアズダハ・ドーラを攻撃をしなかったのではない。できなかったのだ。

 なにせ、彼女は元は悪辣な魔王。姿形・性格が変わっても、その本質は前世譲りの大魔王であることは間違いない。どんな罠や仕掛けを用意しているのか注意する必要があった。

 その結果、事態はさらにややこしいことになっていた。

 

「いいことを教えてあげる。簒奪の秘儀はいま、我の命と繋がっている。もしも、我が死ねば、命と同化している秘儀は消滅する。けっして不死の領域へと還ることはない。そうなったら最後、権能の簒奪もできなくなるし、なにより地上に新たなカンピオーネは誕生しなくなるわ。永遠に」

「そういうことか…」

 

 これはまいった、と一刀は肩をすくめる。

 不死であるため魔王を殺せず、殺したら神に対抗する力と手段を失う。

 どう転ぼうが、結果的に龍蛇の魔王の勝ちであった。

 

「そうとう嫌われちゃってるなら俺たち。そこまでして排除したいなんて、よっぽど俺たちのこと嫌いなのか」

「あたりまえよ。あなたたちのような魔王は我の…神話の魔王を侮辱してるようなものよ」

「侮辱って、俺なんかやりました?」

「やる以前に存在自体をダメなのよ」

 

 まさかの存在否定。

 そこまで言わなくてもいいのではと、ツッコミたいが彼女の憎悪に満ちた眼光に言葉を止めた。

 

「魔王とは…新たな歴史の転換期を迎えるための、いわば世界への人柱。魔王が掲げる悪が、世界に正しさを導き、幸福な可能性に満ちた未来へと動かす原動力となる。そのためだけに魔王は存在している。ただ暴力を振るうために不条理を掲げ、ただ不幸と災いを与えるために無慈悲を貫き、ただ命を奪うため道徳を汚し、そして、ただ世界を生かすためにすべてから否定され最後には惨め死ぬ」

 

「でも我は、この命が無意味でもないと信じている。我の悪が、我の死が歴史を造る骨子となって、未来へと紡ぎられていく。我を討った英雄が弱き者たちの心の拠り所となってくれる。そこははきっと、〝あたし〟にさえ予想できない、幸せに満ちた世界でしょう。だったら、我の生は無駄ではなくなる。我の死で我で成し遂げられぬ栄光が生まれるなら、我は喜んで、悪を謳う魔王の役を演じる。それで他者に否定されようとも、同情されようとも、この人生だけは最後まで貫き通してみせる。それが我が思い描く理想の魔王…その生き様よ」

 

「ゆえに、我はあなたちを否定するの。魔王としての資格も自覚もなく、ただ私欲だけに災いを混乱をもたらす害獣は世界に不要。あなたたちはただ神を殺して、そのまま人間として死んでしまえばいいのよ!」

 

 淡々と魔王の矜持を高々と唱えるアズダハ・ドーラ。彼女の言葉に一刀は出す言葉が見つからない。

 昔の自分なら彼女の言葉に同意したかもしれない。しかし――、

 

「なにがそのまま死んでしまえよ。アンタ何様のつもり!」

 

 一刀が異議を唱える前に、先ほどから黙っていた静花が吼えた。

 アズダハ・ドーラは静花の方をに視線を向ける。

 

「貴女…分霊の記憶からかすかに見覚えがあるわ。たしか、前世の復活を邪魔をしようとした人間。たかが小娘が我らの事情も分からず異議を申し立てるなんて図々しいわよ、死にたいの?」

 

 神と王の間に口をはさむなとばかりに畏怖の念を込めて睨むアズダハ・ドーラ。

 されど、その威圧をものともせず、静花は大声で叫ぶ。

 

「たしかに、あたしはカンピオーネとか神様とか、そんなオカルトてきなものをちょっと説明聞いた程度であまり事情とか常識とか知らないわよ。だけど、これだけははっきり言える。あんたが言ってるのはただのエゴ。自分の理想を他人に押し当てる最低の行為よ!」

「エゴですって…」

 

 静花に言葉に眉を吊り上げるアズダハ・ドーラ。一刀は突然の静花の行動に目を見開いて驚くも、黙りながら彼女の言葉に耳を傾けた。

 

「それに、なにが悪を謳う悪役よ。なにが死ねば幸せな未来よ。笑わすんじゃないわよ。幸せっていうのは、苦難とか不条理そういう障害を前にしても、苦難に悩まされても自分が掲げた信念と願いを曲げず、ただひたすらに乗り越えて初めて幸せを掴むこともできるし、なにより自分の人生に価値が見出せるの。なのに、アンタは自分には出来ないって決めつけたあげく、悪役に妥協してるだけの敗北者よ! 敗北よりも劣るただの負け犬よ! そんなやつが物事をすべてわかったような口を話すんじゃないわ! わかったかッ、この金髪ギャル魔王!!」

 

 もしも、魔術師や秘密結社らがみたら気絶してしまうだろう。神相手に啖呵を切るなどカンピオーネ以外、早々にいない。

 しかし静花は神に向かって文句を述べた。ただ、神話の魔王のエゴが気に入らないだけでない。命の恩人である北郷一刀を愚弄したことが許せないのだ。

 

「…クスッ、気が強い子だと思ったけど、いい度胸してるじゃないか」

 

 一刀は褒めるように彼女の頭を撫でる。

 突然、撫でられため反応に困る静花だか、おとなしく一刀に撫でられていた。

 そして、一刀はアズダハ・ドーラに向けて言葉を発した。

 

「アズダハ・ドーラ。アンタの言い分はようわかった。たしかに、アンタが掲げた悪で世界を救うことだってできる。そんな奴らを俺は知っている」

 

 一刀の瞼の裏で、ある忍びの男の背中が浮かんだ。

 背中に大罪を背負った赤雲文様の衣を纏う悲嘆の兄の姿を。

 

「アイツらはただ、純粋に世の中を良くしようと悪を演じた。自分を傷つけ、憎まれ汚名をかぶってまで、世界のため、ましてや大切な人のため、自分以外すべてを敵に回して死んだ(行きた)。そんなあいつらに俺だって憧れを抱いたこともあったよ。だから、俺もアンタの願いを俺は否定しない。――でも、アンタをアイツらと同じ悪だって俺は認めない」

「なんですって…?」

「アズダハ・ドーラ。アイツらの掲げた悪はただの死ぬだけの悪なんかじゃない。あいつらだけの正義。自分が選んだ自分だけの道なんだ。そこに他者の感情なんてない。ただ、その願いを叶える為の答えが悪だったから、悪の道を歩んだだけなんだ。本当はいろいろな可能性もあったはずなのに、あいつらはそれを選ばなかった。考えを一切曲げなかった。それがなんでかアンタにはわかるか?」

 

 親と一族を殺し、国を裏切り、世界を乱した最悪の悪。

 だが、その裏には純粋な想いと願いがあった。

 すべては世界の平和のため、

 すべては守るべき国のため、

 すべてはたった一人の愛する弟を助けるため。

 悪鬼羅刹の悪を偽り、自己犠牲で守るべきものを守った孤高なシノビの死に様(生き様)

 

「それが、テメェがテメェの足で歩むべき道だからだ。自分が一生背負うべき業。自分だけの理想。自分の手でつかむべき願望。みんな個人個人の信念を抱いて戦って散った。たとえ、挫折しようが倒れようが嫌われようが、アイツらは一点の曇りも後悔もなくいい顔で逝ったんだ。そんな人生を苦しみながらやるのが悪を掲げた者たちの宿命だ。それに比べてアンタはどうだ神話の大魔王? あんたは魔王の矜持を自慢げに話してたけど、それはアンタが、魔王の矜持を述べたアンタがやるべき役目だろ!」

 

 信念の押し付けは、他者にとっては不条理の押し付けてと変わりない。

 そんな不条理と重みを一刀は知っている。

 

「アンタは間違いなく神話の魔王。それも誰もが認める不倶戴天の神だよ。でも、それだけだ。末路わぬ神と一緒……、ただ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。草薙静花が言った通り、正義の理想を夢見て妥協した奴が、本気で世界を救うことなんてでるわけない!」

「・・・・・・・・ふふふふ、ここまで我を異論つくなんてそうとうなバカか、死にたがりの愚か者しかいないわ」

「はっ、そらりゃそうさ。なんたってこれはあんたと同じ、独善的で傲慢で、それでいて理想的な()()()()()()()()

 

 ――ブッツン。

 何かが切れる音がした。

 逆鱗にふれたのか。ほそくそ笑っていたアズダハ・ドーラは突如として機械人形のような無機質な表情となり、その眼には怒りと狂気が渦を巻いて孕んでいた。

 また、その小さい躯体から重苦しい威圧感と極寒の冷気があふれ、曇天から降る雨が凍り雹となる。

 

「バカは死んでも治らないっていうし、いいわ。どちらにしろ貴方はこの世から塵一つ残さず消してあげる。それが真なる大魔王が偽物の魔王に対する最後の敬意と知りなさい!!」

 

 アズダハ・ドーラから放たれる冷気と雹が収束し、氷の大蛇を作り出した。

 

「そっちがその気なら、俺も真なる魔王に敬意を表して教えてあげるよ。魔王の貪欲な強欲をね」

「笑わさせないで。本気もクソも、牙を抜かれた獣に何ができるっていう!!」

 

 氷の大蛇は咢を開き、一刀と静花を飲み込もうとする。

 静花の氷の大蛇に腰を抜かすが、一刀は臆せず、大蛇に向かって飛び上がり――

 

パックン!

 

 氷の大蛇に丸のみにされた。

 

「って、北郷さぁぁぁん!?!?」

 

 あっけなく食われてしまった一刀に、声を荒げて叫ぶ静花。

 しかし、次の瞬間、

 

 シュッパーン!!

 

 

 氷の大蛇は一刀両断され、その中から牛の頭を象った槌矛を構えた一刀がいた。

 

「…そういえば、貴方にはまだそれがあったわね」

 

 アジ・ダハーカを追い詰めた英雄フェリドゥーンの『牛頭の槌矛』。

 元がアジ・ダハーカであるアズダハ・ドーラにも有効であろう。

 一刀はそのままその槌矛でアズダハ・ドーラを突き刺そうと槍を前へ伸ばすが、

 

カッキ―ン!?

 

「もっとも、当たらなければ意味がないわッ」

 

 槌矛の剣先がアズダハ・ドーラを貫く寸前、五芒星の紋章が描かれた障壁によって停められてしまった。

 

「あんたも使えたのかよ」

「当然。神の象徴とはいえ、これは善神が人のために与えもうた魔術。()()()の我が扱えないわけじゃないわ!」

 

 英雄の矛と善神の盾。ふたつの矛盾がせめぎ合うが、盾のほうがやや優勢であった。

 

「どれだけ神話で苦渋をなめた英雄の獲物でも今の我にはその剣は届くことはないわ!」

 

 矛と止めてる間、右手に雷霆で造られたような巨大な槍を精製し、一刀を射貫き殺そうと構える。

 

「アンタの言う通り、この槍はアンタには届かない。でも――」

 

ボンッ!!

 

 魔を払う壁の前で、一刀は煙のように消え、手に持っていた矛は紋章の盾に弾かれ静花の近くへ突き刺さった。

 アズダハ・ドーラは一瞬だけ、動きを止める。

 そして、その一瞬の隙に、蛇に食われたと見せかけて影分身の術で二人に分かれ、彼女の背後から回り込んだ北郷一刀がいた。

 

「もう一本あったんらどうする!」

 

 その手には瓜二つの牛頭の槌矛が握られ、小柄な龍蛇の女神を貫こうとする。

 しかし――

 

「ナメないでくれるかしら?」

 

 背後を向けたまま右手で掲げた雷霆の矛先を背後に変え発射。

 雷の槍は一刀の身体を穿ち、貫いた。

 その光景に静花は口を押え恐怖し、アズダハ・ドーラは冷徹にほそくそ笑う。

 

「そんな小細工が我に通じると思ってるわけ?」

「―――あぁ、思ってるよ」

 

ボン!!

 

 雷の槍に貫かれた一刀が煙のように弾けて消えた。さきほどの分身と同じように。

 

「なんですって…!?」

 

 これにはアズダハ・ドーラも驚きを隠せずにいた。静花も同様で「どうなってんの!?」とばかりに驚愕する。

 そして、そんな彼女たちを追い打ちをかけるように()()()()()()()()()()()()がビルの陰から飛び出しアズダハ・ドーラを包囲した。

 

「えぇぇえええええええええええええええええ!?!?」

「これは多重影分身の術!?」

 

「「「「「「「「「HAHAHAHA!! さぁ、数の暴力を受けるがいいッ!!」」」」」」」」」

 

 900人の北郷一刀が槍やフォークを投擲し、全方面からアズダハ・ドーラを牽制。

 アズダハ・ドーラの旧神の紋章で防ぐも、残りの100人の北郷一刀が接近し、その結界を――

 

 殴る殴る殴る殴る殴る殴る蹴る蹴る殴る蹴る殴る蹴る蹴る蹴る斬る斬る殴る蹴る突く叩く殴る殴る殴る殴る殴る殴る蹴る蹴る殴る蹴る殴る蹴る蹴る蹴る斬る斬る殴る蹴る突く叩く殴る殴る殴る殴る殴る殴る蹴る蹴る殴る蹴る殴る蹴る蹴る蹴る斬る斬る殴る蹴る突く叩く殴る殴る殴る殴る殴る殴る蹴る蹴る殴る蹴る殴る蹴る蹴る蹴る斬る斬る殴る蹴る突く叩く殴る殴る殴る殴る殴る殴る蹴る蹴る殴る蹴る殴る蹴る蹴る蹴る斬る斬る殴る蹴る突く叩く殴る殴る殴る殴る殴る殴る蹴る蹴る殴る蹴る殴る蹴る蹴る蹴る斬る斬る殴る蹴る突く叩く殴る殴る殴る殴る殴る殴る蹴る蹴る殴る蹴る蜂蜜を塗る殴る蹴る蹴る蹴る斬る斬る殴る蹴る突く叩く殴る殴る殴る殴る舐める殴る殴る蹴る蹴る殴る蹴る殴る蹴る蹴る蹴る斬る斬る殴る蹴る突く―――

 

 息も止まらない連続コンビネーションで強固な神の壁を攻撃し続ける。

 その連続攻撃とカンピオーネの呪力耐性により、旧神の紋章が徐々に削られていく。

 塵も積もれば山となる。

 ならば、山も削れば塵となろう。その証拠に神の壁に亀裂が入り、放射状に広がっていく。

 

「このっ~! うっとしいぃハエ虫がぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!」

 

 アズダハ・ドーラは冷徹の顔を捨て感情を爆発。憤怒の咆哮をあげた。

 壊れかけた旧神の紋章をあえて爆散。その衝撃でとりついていた北郷一刀たちを吹き飛ばした。それにより北郷一刀の分身たちがあっけなく消滅する。

 

「偽物癖に! 神を殺しただけの人間の癖に! 人間に畏怖されただけの張りぼての王の癖に! 女神に気に入られただけの玩具の癖に!」

 

 両手を掲げ、頭上に巨大な黒い球体状の重力場を生成し、残りの北郷一刀(分身)たちを吸い込む。

 

「我らの意義(生き方)を汚すか―――勝利に餓えた獣(カンピオーネ)ェェエエエエ!!!!!」

 

 神話の大魔王の憤怒の叫びに呼応するかのように、漆黒の重力球がさらに巨大になりその引力が強くなる。

 そのたびに、アズダハ・ドーラの肉体がガラスのように砕かれていく。〝天命〟の呪いの限界であった。破片となったアズダハ・ドーラの肉片が重力球に吸い込まれていく。同時に彼女の命も削られ、暴食の黒い獣に食われらえていく。

 彼女の中にあるのは神話の魔王としての矜持ではない。自身らを差し置いて魔王を語るカンピオーネへの否定と己の矜持を汚されたための憤怒と憎悪が、地獄の業火も飲み込む怒涛に渦潮となり、カンピオーネを、否、その存在を肯定する神と世界を壊すという意志であふれていた。

 

「きゃぁぁぁぁ!?!?」

 

 静花は飛ばさないよう床に刺さった槌矛にしがみ付く。

 ブラックホールと化した重力球は貪欲にあらゆるものを喰らう。瓦礫、ビル、木々、椅子、机、家…そして、アズダハ・ドーラが生み出した曇天すらも。

 

 

 

―――それが弱肉強食の道理だッ造られた大魔王…!

 

 

 分厚い雲の布団が捲られ、淡い紅い夜空と深紅の月が顔をだす。

 そして、その夜空に浮かびながら深紅の月を背を乗せ、一本の槌矛を掲げる天の魔王がいた。

 

「世界はつねに変動する。人も町もルールも、そして善悪も。どれが正しいのか、どれが間違てるのか、それはその世界で生きて勝った奴が決まるんだ。たとえそれが不条理でも平等な権利なんだアジ・ダハーカ。いや、神代の魔王!」

「ほッ、北郷ォォォ~一刀ォォォォォオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 アズダハ・ドーラが意識を上に向けようとするが、もはや遅かった。

 

「チェエリォォォォオオオオオオオオオオオ!!!!!!」

 

 全力全開。フルパワーで魔神が造りし矛を投擲する。その矛は音素の壁を壊し、さらに軌道が重力球の真上なので貪欲な黒球の引力によりその速度は光速を超えた。

 その速度は第六宇宙速度に達した。

 

 アズダハ・ドーラは瞬時に理解した。

 なぜ彼が曇天の空に吹き飛ばされたかも、なぜ分身で自分を怒らせたのかも、なぜ本物の英雄の武具を使わず偽物を使ったのかも。

 それは、自分を完全に殺すため。

 それは、偽物が本物に勝利した事実を残すため。

 すべてはこの瞬間を…倒されるべき魔王が倒される場面を造るための布石であることを。

 そして、アズダハ・ドーラは気づいてしまった。

 自分が彼の勝利を確信し、自分が敗北たことを。

 それはまさしく、自分が求めた最後に倒される魔王の姿であることを。

 

「魔王として、認めなくてはいけないわね…」

 

 重力という貪欲な獣が、流星と化す矛を飲み込もうと鼓動する。

 しかし、矛は一筋の白き垂直の境界線となり、貪欲な重力球の底なしの腹を突き破った。

 

「……フフフ、いいでしょう。こんな汚れたモノ(称号)がよければくれてあげるわ」

 

 肉体を、命を、力を、存在すべてが、極光の境界線上に飲み込まれる。いや、正しくは虚構へ還されるというべきか。

 消えゆくアズダハ・ドーラはほそくそ笑みを浮かべ、境界線に立つ北郷一刀にむけて、口を動かす。

 

 

 

―――勝者よ、これは祝福ではない。

 

―――魔獣よ、これは呪詛ではない。

 

―――これは忠告。我を殺し我が認めた貴方への先代からの予言。

 

―――汝は魔王、生に栄え、死に終える悲しき機械。

 

―――誰からにも認められず、未来を奪われ、世界ために動き続ける孤独な哀願人形。

 

―――それがあたしを殺したあなたへの罪よ…新たなうたかたの魔王よ。

 

 

 

 その言葉を最後に、神話の魔王は不敵に、嘲笑に、悲嘆に、満足げに微笑みながら世界から消えた。

 残された一刀は空の紅い月を見上げ呟く。

 

「………そんなもん、俺が()()()()()()()()()でもう決まったもんだよ」

 

 自嘲しながら、視線を変え、ビルの屋上でいまも槍にしがみ付きながらこちらを見上げている静花を見下ろした。

 なにやら、怒ってるようで、「説明しろー!」とばかりの視線で静花が叫んでいた。

 そんな彼女に一刀は肩をすくめ、そして、安堵する。

 

(まぁ、俺の生き方で誰かを助けられるなら……上等かな)

 

 自己満足に満足しながら、天から落ち魔王へ堕ちた御使いは困惑する少女にどう説明するか頭を悩ますのであった。

 

 

 

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