一度命を救った人間がまた殺されるなんて、寝覚めが悪いじゃないの。
そう、自身に言い聞かせるように、私情などこれっぽっちもないと言わんばかりに、先を急ぐ。
『凛、これはサーヴァントの気配。しかも2体いるぞ』
霊体化したアーチャーが警告するように告げる。
分かっている。先の膨大な魔力反応はサーヴァント召喚によるものだろう。そして、彼の家にはランサーが証拠隠滅のために、衛宮君を襲っているのは間違いない。
誰かが、衛宮君を守っている?
彼は、魔術師ではないはずだ。でもサーヴァントがいる、ということは。
『考えるのはいいが、もうすぐ着くぞ。ランサーらしき気配は遠ざかるようだが、どうするかね?』
うっさい!そんなのわかってるわよ!
お節介焼きだか何だかわからないが、自身のサーヴァントは頼んでもないのにあれこれやったり言ったりと、まるで自身のうっかり癖を理解してるかのような態度で癪に障る。
「行けばいいわ。家訓に従い優雅に、どんな事態であってもうまくやってみせるわ」
門の向こうから会話が聞こえる。私たちの存在に気づいたのか、サーヴァントらしき女性の声と、それと会話する、彼の声。
とことんあいつって、運がないのね。
どうしてかわからないけど、あいつはサーヴァントに下の名前で呼ばれるマスター様で、一度死んだにも関わらず、またこんな戦争に参加する羽目になって。
なら、ここで終わらしてあげるべきかしら。
さっきのような感傷はない。魔術師として、敵となりうるものは排除する。それぐらいのスイッチの切り替えぐらいは心得ている。
とりあえず、内心驚かされたから、驚かせてやろうかしら。
門をくぐり言葉を紡ぐ。優等生らしく、でも魔術師らしく。
驚愕する彼の顔は、今日の記憶のなかでは一番愉快なものだろう。だが、それよりもまずは
あら、随分と美人を召喚したのね。
門の影に隠れていた赤い主従は、それを払うかのように月明かりの下に歩み寄る。士郎は先の言葉と状況から、この主従もまた自身とマルタと同じ関係性であることを悟る。
「遠坂…お前、どうしてここに?」
「サーヴァント同士の戦闘の気配がしたからね。取りのがしたランサーを横取りされるのも癪じゃない?」
「取りのがした…っ!あの校庭で戦ってたのは遠坂だったのか!」
「あら、見てたの」
まるで、初めて知ったかのようなリアクション。そのあとのことなど露とも知らない。凛は自身の面の皮の厚さにわずかながら感謝する。
「ま、正確には、私じゃなくて私のアーチャーが戦ってたんだけどね。で、衛宮君。レディのお誘いにはのってくれないのかしら?貴方のサーヴァント、えーと、あれ?セイバー…じゃない?」
凛はここにきて思い違いに気づく。まだ唯一召喚されてなかったクラス、セイバー。最優と呼ばれるそのクラスは、自身が最も手駒にしたかったクラスである。だが、なんの因果か名前もわからないアーチャーが呼び出されてしまったわけで、セイバーを召喚したであろう彼を苛めてやろうと内心考えていた。
「え?セイバー?この人は」
「士郎、待ってください」
マルタは迷っていた。このマスターは士郎とは既知であり、少なくとも出会い頭に襲ってくるような質の人物ではないことは、会話から読み取れはした。
だが、魔術師であり、マスターであるからには聖杯にかける望みがある。
話すべきか。話さぬべきか。
しかし、このマスターとだけ二人でやっていくには、難しいと判断する。もし戦闘になったなら自身がどうにかするしかないが、訪ねるくらいなら問題はないだろう。
「貴女はアーチャーのマスターということで、よろしいでしょうか?」
「そうよ。そういう貴女は?セイバーじゃないなら何だというの?」
「セイバーではありません。ですが、私の正体を明かすには条件があります」
「何かしら?」
目の前のサーヴァント。見た目から聖職者であることは読めるが、どうにも油断ならない。どうにも自身と同じ性質をどこかに感じるのだ。
「2つ、あります。片方を飲んでいただければ、私のクラス、両方を飲んでいただければまだマスターである士郎にも伝えていない真名を明かします」
「はっ?」
何をいっているのだこの女はてどうして衛宮君はなんのことみたいな顔をしているのかしら!」
「凛、声に出てるぞ」
「だってこんなワケわからない提案なにか怪しいに決まってるじゃない!でも、衛宮君の表情からはなにもわからないし、どう判断しろっていうのよ」
「いや遠坂。なにもわからないのは俺の方だ。真名とかクラスってなんだ?」
その言葉に、何かがキレかける音がしたが、家訓を言うお父様の声が辛うじて聴こえて、深呼吸をして一つ、告げた。
「衛宮君は馬鹿なのかしら」
「なんでさ」
「理解してもらえたでしょうか、アーチャーのマスター」
「ええ、十分に理解したわ。こいつが、マスター以前の存在で、このまま潰すのは私のプライドが許さないってことがね」
「それは助かる」
「あんたがいうな!!で、つまり条件の一つってのはこのへっぽこマスターを手助けしてほしいとかそんなの?」
「察しが良くて助かります。正確には、マスターとしての最低限の知識を彼に伝えて頂ければと思います」
「で、二つ目ってのは?」
「それは、おそらく一つ目の条件が済んでからの提示の方が伝わると思いますので、その時に教えましょう」
凛はその答えになんとも言えない嘆息をすると、玄関へと歩き出す。
「なーんか、うまくのせられた気がするけどいいわ。この程度の労力で情報を得られるならよしとしましょう。ねえ、衛宮君、お茶出してくれるかしら?私、寒いなか走ってきて疲れてるの」
「え?あ、いいけど。てかいまいち状況が飲み込めないんだが、遠坂は敵じゃないってことでいいのか?」
「はあ、あんたのせいでやる気が削がれただけよ。今夜は見逃してあげるから明日から覚悟なさい」
居間にて、机を挟む形でそれぞれの主従が向かい合う。士郎の右にはマルタ。部屋の奥に立つようにアーチャーという図式だ。
士郎が、魔術師であったこと、にも関わらずろくな魔術が使えなかったことに凛の怒りが幾度か沸点を越えたが、辛うじて聖杯戦争について説明をすることはできた。
「まあ概要は伝えたわ。あとはそうね。冬木教会に行くのが早いかしら。どうしてこんな争いをするのかとか、あんたのふぬけた考えを正すなら適任のやつがいるし。この聖杯戦争の監督役ってのがいてね」
「教会、ですか。この地にもあるのですね。私としても一つ祈りを捧げたいと思います。士郎、アーチャーのマスターの言う通り、行ったほうがいいでしょう」
マルタとしては、祈りを捧げるという目的もあったが、この聖杯戦争の監督役に会いたいとも思った。自身が召喚されるような異常な聖杯戦争なら、それの監督役も怪しいのではないかと考えたからだ。
「で、私としては、ここまでで一つ目の条件は果たしたと思うんだけど、クラス、明かしてくれてもいいんじゃないかしら。そんなわざわざ隠すようなものでもないと思うんだけどね。別に知った瞬間襲ったりもしないわ。今日一日くらいは停戦してあげるから」
お茶を啜りながら話の区切りと言わんばかりに凛が提案する。
実際、クラスごとに大きな相性差などないのだ。これはゲームではない現実の戦争だ。都合のいいステータスや展開が用意されてるわけではない。まあ対策を練る程度のことは出来るから知って損という訳ではないのだが。
「いいでしょう。その言葉を信じましょう」
マルタは、今置かれているクラス、そして、その役割を厳かに告げた。
「私は、ルーラー。裁定者のサーヴァント。この聖杯戦争が世界に歪みを与える可能性があるとして、それを止めるために召喚されました」
今日何度目だろうか。
「はっ?」
ああいけない。どうにも今日は余裕がない。やっぱりお父様の形見を使ってしまったことがショックだったのか。それとも衛宮君が魔術師だったことか。まあなんにせよこいつが悪い。よし落ち着いた。大丈夫よ。遠坂凛。私はcoolよ。
「衛宮君、後で覚えておきなさいよ。で、ルーラー?初めて聞くんだけれど、聞き間違えじゃなければ、聖杯戦争を止めると言ったかしら。説明お願いできるかしら」
どうやら、話をする余地はまだありそうですね。
マルタはこの時点までが賭けだと思っていた。口では停戦と断言していたが、聖杯戦争を止めると宣言したこちらに対し、いつまでも穏便でいられはしないだろう。だが、彼女は動揺こそ見せたものの、それに対しての否定的なリアクションや攻撃的な態度は見られない。
つまり、この子が聖杯戦争に求めているものは、魔術師として全うな願いではない可能性が高い。
まだ確信を抱くには早いが、ある程度それを前提に話してもいいのではないか。
「説明は苦手なのですが、まず、ルーラーについてかそれとも聖杯戦争を止めると言ったこと、どちらから説明したらいいでしょうか」
凛は、食えない女ねと正直思った。今の質問でこちらのウィークポイントとまでは言わないが、何に重きを置いているか。聖杯戦争におけるスタンスや目的を計りに来たのだ。
何が説明が苦手よ。こっちの質問の意図を読む気満々じゃない。
だが、こういった質問を投げてくるということは、ルーラーもまた、警戒と信用がせめぎあっているのだろう。こちらの目的次第では、敵になることが確定するが、場合によっては味方ともなりうると思っているのか。
いいわ。その提案のってあげるわ。世界の歪みなんて聞かされたら、放置しておけないじゃない。
「そうね。なら聖杯戦争を止める理由ってのがききたいわね。それがつまるところ貴女の存在意義になるんでしょ?」
「理解が早くて助かります」
相手はこちらの意図を把握して、この答えを選んでくれた。若いのに聡明で優秀だ。流石にこの地のセカンドオーナーと先程の説明で言っていただけある。
「此度のこの地における聖杯戦争。原因は定かではありませんが、これの過程、または結果における影響により、世界に歪みを来す事態になると言うのが予想されます」
「原因はわからないのに、どうしてわかるのさ」
今まで話をきいていた士郎が、疑問を投げかけてくる。確かに確定してない未来がわかるというのもおかしな話だ。
「ええ、士郎の言うことはわかります。ですが、私がここにいる。その事こそが異常なのです」
「衛宮君、サーヴァントっていうのはね。さっき言った七騎以外が召喚されるなんてことは限りなく無いの。ルーラーなんて私も初耳だし、彼女の存在はイレギュラーそのものなの。でも、最初に裁定者って言ってたでしょ?なら、その存在意義も何となくわかるんじゃない?」
「アーチャーのマスター、貴女の言う通りです。そう、私は裁定者。ルーラーが呼ばれる条件は2つあります。一つは、その聖杯戦争が特殊で、どのような結果になるかわからないため、どの陣営にも属さないものとして呼ばれる場合。もう一つは、聖杯戦争によって、世界に歪みが出る場合です。今回は戦争の規模を考えると恐らく後者だと思われます」
「やっぱり、ね。とりあえずルーラーの言うことを信じるのであれば、聖杯戦争している場合ではないと」
「はい。ただ、正確には聖杯をどうにかしなければならないと私は考えています」
「どういうこと?」
「この私の召喚が、異常だからです」
「既にイレギュラーなんじゃないの?」
そう確かに、イレギュラーな召喚ではある。だが、それとは別の意味でこのイレギュラーな召喚には異常が発生している。
「本来、ルーラーは聖杯の防衛機構により呼び出されるため、マスターを必要とはしません。さらに、ルーラーが本来特権的に所持しているクラススキルが存在しません。つまり聖杯そのものが異常を来していると、そういうことだと私は考えています」
「ふーん。まあ筋は通っているわね」
それに補足するようにアーチャーが久方ぶりに声をあげる。
「だが、私のような通常のサーヴァントはこのように現界が出来ている。それは聖杯のバックアップなくして叶わない。しかし、君が聖杯から、まあいってしまえば、切られた理由というのはつまるところ」
「聖杯に繋がったままでは公平性に欠ける状態。または異常の原因そのものが聖杯にあるから」
飲み込みが早い。
「だが、ルーラーよ。君には今クラススキルがない。ならば、君のいっていることが真実であると何をもって証明するのかね?」
「聖杯をその目で確認してもらうか、私の対魔力がEXであることに納得してもらうしかありません」
「対魔力EX!!規格外じゃない何それ!?殆どの神秘が消されるってわけじゃない」
「だが、存在しないわけではない。なら材料としては些か弱いな。何かルーラーに選ばれる英霊に特殊性などはあるのかね?」
「強いて言うのであれば、聖杯に掛ける望みがないこと、また特定の陣営に所属しないことがあげられます」
「あ、そっか。裁定者に我欲があっちゃ不味いものね。だから聖職者みたいな感じなの?」
「それが絶対ではありませんが、多くは聖人などから選定されます」
ここで、ようやく会話を飲み込みつつあるのか士郎が一つ疑問の声を投げ掛ける。
「ならどうして、ルーラーは俺に召喚されたんだ?特定の陣営に所属しないことが条件なんだろ?」
「ええ、そうですね。では士郎。貴方に聖杯にかける願いは何かありますか?」
「あるわけないだろ。そんな下手したら世界が危ないもの使うわけにはいかない。まあ、仮に全うな聖杯でも、これといって願いは思いつかないんだけど」
「はあ?あんたそれでも魔術師?少しはそのへっぽこ具合直してもらうとかそういう願いはないの?」
「へっぽこへっぽこ失礼だな遠坂は。そういうのは、自分の手で直して鍛えなきゃ意味ないだろ」
「あら、案外まともな考えなのね」
「そういう遠坂は何を願うんだよ」
「あら、私も聖杯にかける願いなんてないわ。ただ、これは遠坂の悲願でお父様が望んだことだから参加するの。勝たなきゃいけないから戦うの」
髪を手で払い、宣言する。
そう、私は勝たねばならない。遠坂として。
「で、ルーラー。つまり君が言いたいのは、我欲のないこんな青臭いマスターだからこそ、聖杯の代わりの現界における依り代として選ばれたと言いたいのかね?」
「青臭いは余計だろ」
「へっぽこ呼ばわりとさして変わらんだろう」
何故か煽るように士郎に対して挑発的な態度を示すアーチャー。
「やめなさい二人とも。でルーラー。つまり、アーチャーの言った理由で合ってるのね?」
「はい、そうです。士郎は私と同様我欲がない。勿論他にもさまざまな理由があるかもしれませんが、恐らくはこの一点が大きいかと」
「話がそれたな。結局のところ、君がルーラーであることを証明するものはないのかね?」
疑り深い眼差しでアーチャーが射抜いてくる。
「私自身は、主に誓って嘘偽りないと申し上げるしかありません」
「聖職者の矜持か。では先に言っていた、二つ目の条件の提示。それと真名の開示。そちらの話を進めたらどうだね凛。仮に嘘をついてるとしてもこのような小僧がマスターでは長くは持つまいし、私たちの敵ではないだろう。ならば、本人が真実と豪語する情報を聞き出して、今後に備えても損はないだろう」
そう、一息に言い切ると、話は終わったとばかりにアーチャーは霊体化しようとして
「ちょっと待ちなさい」
マルタが今までにない強い声音で、それを遮る。
唐突に空気がはりつめる。一触即発とも言いかねないその場において、口を開くことができたのはやはり英霊たる身であるアーチャーに他ならなかった。
「何かね。私の言葉が勘に障ったか?事実を告げたつもりだったのだが。それとも聖職者の身分でこの場で争うとでも言うのかね。私は一向に」
「そんなことはどうでもいいのよ!それ!その霊体化やめなさいって言いたいの私は!」
言葉を遮りマルタが声を荒らげる。誰も彼もが言ってることの意味がわからず困惑している。
「全ての魂はあの人の許に還ったの!なのにも関わらず霊とかあっちゃいけないの!わかる?」
「あ、ああ。つまり、霊は存在してはならないから、霊体化はやめろと?だが、我々サーヴァントもつまるところ霊体なわけであって」
「そんな屁理屈はきいてないわ。いいから、私の前でそれするのやめてくれる?これは私の信仰の問題なの。それでも霊体化するってんなら、ヤキいれるわよ?」
「あ、ああ。善処「あ゛?」了解した。君の前でやらないと誓おう。君の主に誓おう」
アーチャーが冷や汗を流しながら告げたその言葉に納得がいったのか。マルタはうんうんと頷くと、さあ話の続きをしましょうと視線を二人に戻して
凛が完全に引いてることに気づいた。
「ね、ねえルーラー、失礼なんだけど、貴女聖職者なのよね?眼光半端ないんだけど、べ、べつにヤンキーとかの英霊ではないの、ですよね?」
「………いいですか。アーチャーのマスター。貴女が今見たものは、忘れなさい。私はルーラーよ。信じてください。いいですか」
「いや、それは無理だろ。あんなの誰だって怖いだろ」
「え、衛宮君は知ってたの?」
「ああ、さっきランサーの槍をこう拳で」
グシャア
ルーラーの手元から音が聞こえたと思ったら、握り込まれた手の隙間から、砂のような細かさの湯呑みの欠片がこぼれ落ちてくる。
「あら、失礼しました。この湯呑み少し脆くなってたのかしら。アーチャーのマスター。これ直すことはできるでしょうか」
「は、はい」
「ところで、士郎。今何をいいかけたのですか?ねえ?士郎」
それ以上口を開けば、次はお前がこうなる番だぞ。
そんな幻聴が聴こえた気がしたので士郎は素直に口を閉ざした。
「それでは改めて二つ目の条件を申し上げます」
「お願いします」
「敬語は結構ですよ。アーチャーのマスター」
何故か畏まってしまってるアーチャーのマスターを正し、聖女らしく、そう、聖女らしく言葉を続ける。
「二つ目の条件は、私達との停戦を聖杯の真実を突き止めるまで延ばしてくれないでしょうか」
「まあ、そんなところよね。組むのは駄目なのかしら?」
「私はどの陣営とも協力する気はありません。ですから、貴女方が私達を利用して戦いを有利に進めることに干渉はしませんが、明確な協力関係は築けません。ただ、私達と同じように聖杯を止めることを目的としてくれるなら協力者として受け入れます」
「つまり、聖杯戦争続けるなら、中立。降りて、聖杯止めるなら味方にってことかしら?」
「その解釈で構いません。周りがどのような動きを取ろうとも、私のスタンスは変わりません。この地の聖杯はあってはならないもの。その前提で私は動きます」
「具体的にはどうするの?」
「やはり先に言っていた監督役に会おうと思っています。何か聖杯に関する重要な情報を握っている可能性がありますので」
「わかったわ。とりあえず停戦案については呑みましょう。協力に関しては聖杯次第で判断するわ。そんなところで構わないかしら?」
まあこちらとしても悪くない話である。自身と敵対しないことを約束した強力なサーヴァント。聖杯戦争に勝ち残るなら、これは駒としては素晴らしい。いざ敵対となれば、どうなるかはまだ未知数だが、マスターが衛宮君であることを考えるなら、こちらに分があるだろう。
「わかりました。それでは条件を呑んで頂いた礼に、私の真名を開示しましょう」
そう言うと、マルタはどこから出したか一冊の本を出した。それは、土蔵に置いてあった聖書である。
「それは…」
マルタは一つ頷くと頁をめくり始める。
「この聖書自体は何も魔術的な要素があるものではありません。世界にありふれた、最も読者の多い本。ですが、今回はこれを触媒にする形で私が召喚されました」
本来、英霊の召喚にはそれ相応の触媒が必要となる。
「ならどうして貴女は呼ばれたの?」
「我欲がないこと、聖書に私がいること、様々理由はあると思いますが、私はこれもまた主の導きだと信じています。私は召喚される時にきこえたのです」
私は人々の助けとなりたくて聖女として生きた。
「貴方の、士郎の祈るような助けを呼ぶ声が」
町を脅かす邪竜を退治し、あの人に憧れて生きた。
「ならば、聖女として助けを呼ぶ声にこたえたかった」
私は昔も、死後も、何も変わらず人々を救いたい
「それが、私、聖女マルタとしての生き方だからです」
故に、特別な理由なんていらない。誰かを救いたいと、そう思った心はきっと美しく尊いものだから。
私がここにいる理由はそれだけで充分ですから。
湯呑みを粉末にするのに必要な握力は
追記
誤字祭りだったので、少し修正しました。
あんこう祭りに行きたかったこの頃。