お久しぶりです。難難難産すぎて更新してませんでしたが、一応どうにか書きました。細かいところは後日修正したいと思います。
マルタは困惑していた。
悪であるなら祈りで説得などと内心豪語していた先の自身を叱咤したい。
目の前で神に祈りを捧げる男。確かに彼は“悪”といえるのだろう。
だが、生まれながらにして悪であることを決められ、救いを求め神に祈る人間に、自分は何ができるのだろうか。
夜の静けさと相まって厳かな、むしろ不気味とも言える雰囲気を醸し出す冬木教会。
たどり着いたそこに慣れた様子で進んでいく凛。アーチャーは見張りと言って門に背をかけて自分らを見送った。
開かれる扉。中に入ると、私が生きていた頃のものと比べると些細な趣きの差はあれど、一目で礼拝堂と言える空間が広がっていた。
「これが今の世の教会なのですね」
信仰者として、一言では言い表せない万感の想いを込めて、呟く。
その、誰に言ったつもりでもなかった一言に、奥から重々しい声が返すように響いてきた。
「ほう、どうやらこの血なまぐさい戦争に、あまり似つかわしくない信心深いサーヴァントが召喚されたようだ」
言葉とともに身長190以上の大男が、神父が着るであろう正装を纏って暗がりから出てきた。
これが神父?随分と鍛えているのね。ヤコブやれるかしら。
「そういう貴方も教会の神父というには、少し物々しいですね」
思ったより、頑健そうな肉体。足運びからもそれなりに戦いに身をおいているであろうことは予想がつく。
「現役を離れて久しいが、代行者をしていたものでね。今でも鍛練はしているのだよ。サーヴァントには到底及ばないがね」
「まあ流石の代行者っていってもサーヴァントと生身で渡り合ったら人間やめすぎよ。で、綺礼本題に入っても?」
「ふむ、再三の呼び出しに応じないと思っていたら、今さらやってるくるとは、どういう風の吹き回しかね、凛」
「ええ、私もここに来る予定はなかったんだけれど、こっちの二人が用があるっていうから連れてきたのよ。このへっぽこマスターにちょっと聖杯戦争について説明をお願いできないかしら。監督役でしょあんた」
凛の言葉に、士郎とマルタをしばし見たあと得心言ったように頷く。
「ようこそ、冬木教会へ。私は言峰綺礼。この聖杯戦争における監督役をしている。新たなマスターとサーヴァントよ。君たちを歓迎しよう」
「綺礼。余計な挨拶はいいわ。あんたが歓迎なんて口にしても寒々しいだけだから」
凛が言うことも最もである。この男の立ち居振舞いは見たものの本能的に警戒心を与えるような何かがある。
「失敬な。形式に則ったまでだ。さて、凛が私に頼みごとなど、記憶を探ってもあったか怪しいことなのでね。監督役として以上に励もうではないか」
胡散臭い笑みと共に神父の口から語られる聖杯戦争。
何故、この聖杯戦争が行われるのか。
冬木の聖杯とは何なのか。
10年前の災害。
「以上が、私が知りうる聖杯戦争に関する知識だ。衛宮士郎。戦う覚悟はできたかね?」
「ああ、嫌というほどにな。二度とあの悲劇を繰り返さないために、俺はこの聖杯戦争を止める」
神父は士郎の言葉にわざとらしく首を傾げる。
「止める?ほう、君は聖杯に願いをかけるのではなく、止めるとそう言ったのか」
「何度きかれても同じだ。俺はこのふざけた戦いを止めるために戦う」
綺礼は士郎の意志に対して何かを確かめるように頷くと、マルタへと問いを投げかけてきた。
「サーヴァントよ。君にも願いはないのかね?君のマスターは聖杯を止めると言っている。君の願いは聖杯では叶わなくなるぞ?」
「心配はいりません。言峰神父。私の目的も士郎と同じですから。だから、貴方のその揺さぶりは無意味よ」
「揺さぶりとは心外な。私は監督役として忠言したに過ぎない。にしても願いがないというのはどういうことかね。サーヴァントは聖杯に願いを託して召喚されるはずだが」
「私の願いは生前とうに叶っています。ここに召喚された目的は聖杯を止める。それだけですから」
綺礼はその言葉に微かな動揺を見せるように目を見開く。
「願いがない...まさか。お前はルーラーのサーヴァントなのか」
「綺礼あなた知っているの?ルーラーの存在を?」
綺礼は動揺を抑えわずかに頷く。
「エクストラクラスとして存在することはな。その装い、聖人に連なるものか。ふむ、ならばその目的も理解できるが、つまり君が召喚されたということは、この聖杯戦争に異常があると、そう聖杯が判断したのだな」
「そういうことです。あなたはルーラーについてどこまで?」
「ああ、あくまで伝聞の範囲でだ。まさかこの地に召喚されるとは思いもよらなかったがな。して、ルーラーよ。君の召喚された経緯について、監督役として聞かせてもらってもいいかね?」
綺礼への説明は一通り行われた。 だが、いまだこの監督役も怪しいと判断し、聖杯戦争に問題があるという説明に留め、聖杯そのものへの言及は控えた。
「話はわかった。だが君がどのクラスであっても戦争であることに変わりはない。精々調停に励むといい。私としても、この戦争に異常があると判断した場合は、監督役として助力はしよう」
「ええ、ご協力感謝いたします。ところで、言峰神父、失礼ですが、当代の神父の祈りを一聖職者として拝見したいのですが、もしよければ」
この短時間で垣間見えた男の性格から、マルタはおおよそ目の前の男は悪であると考えていた。此度の聖杯戦争の異常にも何かしら関与している可能性も低くはないと既に判断している。
そのような人間ならこの申し出に対して、難を示すだろうと、そうであれば、聖杯戦争など関係なく聖職者として説得を試みようとの考えだったが。
「構わない。本物の聖女の前では私の祈りなど、取るに足らないものだろうが、それでも良ければ」
言峰神父は別段、どうということもなく礼拝堂を奧へと進み、主の像の前に跪き、厳かな声で祈りを捧げ始めた。
「天におはします主よ今、私たちに行くべき道を示してください」
その姿は、真だった。心から主へと祈りを捧げるものに他ならない。
「今、私たちに真の命を示してください」
疑ってしまった自身を恥じるほどに彼は聖職者として粛々と祈りを捧げている。だが
「主に喜ばれる心を」
余りに苦悩に満ちている。迷いに満ちている。救いを求めている。何に?
「人生を不幸に陥れるものから私を遠ざけて下さい」
それはおそらく彼自身に他ならない。
「いつも欠点ばかり探しているまなざし、いつも不平の種ばかり探している舌、いつも不平や意地悪を育てている心から 私を遠ざけて下さい 」
これは他者のことではなく、自分のこと。悪である自身を指し示している。
「与えられたものを喜ばず、ありもしないものを求める心」
喜べるわけがない。最初から悪としていたのだから。それはきっと苦痛だっただろう。他者の喜びと苦しみを分かち合えず、生まれた意義の見えない悪逆に。
「私たちを遠ざけて下さい」
声に、その姿に秘められた祈りを全て理解してしまった。
「人生を楽しみ、また人々ともに楽しむことができる心をお与え下さい」
それは歪んだ魂ゆえに獲得してしまった淀みなき祈り。
誰も責めることはできないのに彼だけがそれを責め続ける。
「それほど褒められたものではないが、こんなものだろうか。満足頂けたかね」
「ええ、素晴らしい祈りでした」
心からそう思う。
「私にも祈らせて頂いても?」
私の言葉に言峰神父は、薄く笑い
「聖女の祈りを間近で見られるとは聖職者冥利に尽きる。ところで、一度主のもとへ召された君は何を祈るのかね」
そのように意地の悪い尋ねかたにももはや憐れみを抱くのみである。だから私は、目をそらさず告げた。
「迷える魂に救いがあらんことを」
憐れな求道者のために祈りましょう。
「以前、私はあなたを知らず、暗闇の中、不安と孤独と恐れに満ちた人生を歩んでおりました」
ルーラーの祈り、聖女が行うそれは神秘的とも言える雰囲気を纏っている。
「このような私をあなたのもとへと導いてくださった信仰の友を感謝します」
これは求道者のための祈り。先の私の祈りをきいてなにかを理解したのだろうか。
「いま私の近くに道を求めておられる方がおります」
道、ああ求めてやまないとも。いまだ自身が生まれ落とされた意味を理解できないでいる。
「イエス様を私たち人類の救い主、人生の主として伝える事ができますように導いてください」
だが、何故だろうか。この自身に対しての祈りは。
「私は言葉の人ではありません。どうか聖霊の助け、知恵と力をお与え下さい」
意味など超越して、魂に救済を与えようとしている。
「そしてあの方も、あなたの中に真の道、真理、命を見い出すことができますようにお助けください。アーメン」
この一時、ほんの僅かな間ではあるが、あの聖女の祈りを正しく美しいものとそう感じた自分がいた。この私がだ。
「流石に本物の祈りは違うわね」
凛が私の後ろで、十人並みの感想を漏らす。否、そのような話ではない。
不意に、物心ついてから初めて感じる熱さが目頭を襲う。それに堪えるように瞼を閉じると、正面からルーラーが語りかけてくる。
「私では、ほんの一時しか叶いませんが、これが貴方の救済になると信じています。今のその心を忘れないで」
そう、おそらく私にしか聴こえない声で語りかけると、横をすり抜け二人を連れて外に出ていったようだった。
気がつけば、目頭の熱さが、頬を伝っていた。
「なあルーラー。さっきの祈りってあの神父に祈ったのか?」
「やはり、士郎はわかってましたか。そうです。あの祈りは憐れな神父のためのものです」
その言葉に凛が驚きを顕わに問いただす。
「はあ?綺礼に祈り?あんなやつに聖女様の祈りなんて贅沢にすぎるんじゃないかしら。結局なにも言ってなかったじゃない」
「凛、祈りに清貧は関係ありません。私の祈りと彼の祈りに如何ほども差はなく、彼の祈りもまた心からの立派なものでした」
「ルーラーの御墨付きか。随分なものね。で、それに感銘を受けて祈ったっていうの?」
言峰神父に対する印象が最悪の凛としてはどうしても納得いかない話なのだろう。どうにも半信半疑だ。
「確かに彼は凛の言うように悪なのでしょう。でも祈り救いを求める信仰者には間違いなかった。だから、代行者というにはおこがましいですが、彼に救いがあるようにと祈らせて頂いたのです」
「ルーラーは祈りひとつでそこまでわかるんだな」
感心したように士郎が言う。いや、それでもあそこまで真摯なものでなければわかったかもわからない。
「でも、あいつのあれはもう魂レベルで悪人よ。それこそ奇跡でも起きないと矯正できなさそうね」
「そうですね」
こちらの同意が意外とばかりに凛が振り向く。
「意外ね。神を信じていれば人は変われると言うとばかり思っていたわ」
「祈りで魂の本質は変わりません。しかし、その先行きに新たな道を示すことはできるのです。その道を見て、どう動くかで人は変われるのですよ」
「言葉の説得力が凄いわね」
そりゃ伊達に聖女やってないもの。
「まあ、矯正とまでは行かなかったけれど、いい薬くらいにはなったと思いますよ」
「どういうこと?」
「詳しくは言えませんが、奇蹟の一つ二つ起こせなくて何が聖女かって話です」
士郎と凛は私の説明ではしっくりと来なかったようだが、追及することでもないと思ったのか、それ以上なにかをいうことはなかった。
それにだ。
「こんばんは、おにーちゃん」
突然現れた災厄を前に暢気に話してる暇も無くなったからだ。
夜はどうにもまだ長いらしい。
ここにきて一番暗めのシナリオ。マルタさんと言峰をどうやって絡ませるか答えが殆ど見つからずに突入した感ある。
ヤコブ神拳VSマジ狩る八極拳もやりたかったですね。