マスターガンダムの腕が貫通し、その上マグマの高熱で変形し融解してしまったシャイニングガンダムの残骸。
直せない訳じゃない。例えぐずぐずに溶けようとも原型を留めてさえいれば、DG細胞で元の形まで復元は可能だ。
だが、それでは意味がない。形は直せても、内部コンピューターに蓄積されたデータや完全に消失してしまった人工気力発生装置といった重要なシステム周りの機構を取り戻せない。
MFもある意味で鉄の塊と言っていい物たが、この有り様では文字通り鉄の塊である。
『俺の、俺のシャイニングガンダムがぁ……』
ここは地中深くのマシーンランドの格納庫。そこに回収され、安置されたそれを目の前に、俺は思わず
折角の、折角のシャイニングガンダムが、解析してデスアーミーやこの身に取り込めればどれだけ強化出来たのか……!!
『いい加減泣き止んだらどうです? 殆ど自業自得なんですから』
『せ、せっかく下半身作り直したのにぃ……!!』
そう、今の俺の下半身は節足動物を思わせる6本脚ではない。通常のMFと同じく、人間のソレを模した立派な下半身へと変わっている。
今まで取り込んだMSや戦闘獣のノウハウ、マシーンランドから吸収した恐竜帝国の科学技術。それらを纏め上げてDG細胞で構築した自慢の一品である。
……もっとも、当初の目的だった「ドモンの動作ログ」の回収が出来なかった以上、あんまり意味は無いのだが。
『チクショウ! 造った下半身に合わせて上半身も造り直して、久しぶりの二足歩行に慣れる為にリハビリ頑張って!! 今じゃ倒立だって出来るのに、全部水の泡じゃねーか!!!』
『くどいようですがほぼ自業自得です。というか、格納庫の床を叩くのもやめて下さい』
『……っ、ナビ子ちゃん! 生後1カ月にも満たない君に俺の悔しさと悲しさは分からないよっ!!』
『情けなさすぎて理解する気も起きません。もう一度言いますが自業自得です。繰り返すようですが自業自得です』
にべもなく切り捨てられる。
実際返す言葉もない。マスターガンダム腕が刺さってる上に胸部ハッチが開きっぱなしになってるのを忘れていたのは俺だ。くそっ、マグマ砲撃つよう指示出したのも俺だし、流石にナビ子ちゃんに八つ当たりする訳には……ん?
『ナビ子ちゃーん、もしかしてさぁ……マグマ砲撃ったらこうなるって気づいてた?』
『気づくに決まってるじゃないですか。私は貴方とマシーンランドを制御している複合コンピューターですよ? 気づかない方がおかしいですよ』
……おー、じーざす。真の敵は文字通り己の中に居た模様。
『なんで―――』
『「なんで言わなかったのか」ですか? ”マスターガンダムの腕”が回収できれば結果は同じだからです』
『……どゆ事?』
はぁー、とため息するナビ子ちゃん。言外に何故分からないと責められてる様な気がする。
『もしかして気づいてないんですか? DG細胞はデータをログとして記録できるんですよ?』
『……き、記録?』
『はい。流石にデータを共有するにはそのログを持ったDG細胞を取り込む必要があるんですが……まぁ説明もめんどくさいですし実践した方が手っ取り早いでしょう。という訳で、その腕、いつもの様に取り込んでみてください。あとはこっちでやりますから』
『お、おう』
シャイニングガンダムの胸部を貫通しているマスターガンダムの腕。それに手を伸ばし、いつもの様に取り込んでみたのだが……次の瞬間、軽率な自分の行動を死んだ方がマシなくらいに後悔した。
『っぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』
『……ふぅ、流石は東方不敗と言ったところですか。有象無象のソレとは比較になりませんね』
全身に書き込まれていく膨大な情報量とそれに伴って走る激痛に、俺は思わず叫びを上げていた。
それは爆発にも似て、まるで違う。燃焼しながらも熱量がどこまでも持続する感覚。
今まで無造作に吸収してきたデータや記憶とは違う。今までのが本を棚にしまうようなものならば、これは文字通り脳に直接焼き付けるようなものだ。
余りの激痛に耐え切れず、俺は格納庫の床転げまわった。
全長20mを超えるMFが転げまわるのだ、結果として周囲が滅茶苦茶になっていくが、生憎今の俺にはそれを気にする余裕はない。
『このまま付き合っていても良かったのですが、上も煩いですし、ちょうどいい機会ですので今まで蓄積してきた技術や経験も転送しましょうか。なに、狂ってしまう前に元のカタチに戻してあげますから心配いりません』
『や、やめ『では転送開始!』ぁああああああああああっ!?』
そこから先の事は思い出したくもない。
膨大な情報を送り込まれては激痛でのたうち回り、精神が壊れ切る前に強制的に元の形に戻されるを繰り返すという地獄を、俺は一年以上繰り返す羽目になったのだから。
『なに、その痛みは乗り越えられるものですから心配はいりません。次に言葉を交わす時、その時はお互いの顔を見ておしゃべりしましょうか』
◇
20mを超える巨体が一年近くのたうち回った結果、荒れ果て壊れ果てた格納庫。
設備や床と同化しているDG細胞が修復を始めているが、完全に元の形を取り戻すには今しばらく掛かるだろう。
そして、そこに佇む二ツの人影と、一つの巨体。
人影の一つ。
白いワンピースを着た、長い緑髪の少女が動いた。
「……どうですか? かつての姿になった気分は?」
問われた人影、二十歳程の青年が、その拳を握りしめて、傍にあった巨体、抜け殻となったデビルガンダムの残骸を殴りつける。
普通、人間が20mを超える鉄の塊を殴れば手を痛める、或いは怪我をするのが普通だ。しかし、今回は殴った手を痛める事も無ければ怪我をすることも無かった。
「おいおい、軽く殴ってこれとか、手加減覚えるまで結構掛かりそうだな……」
遠くで響く轟音を聞き流しつつ、頭を掻きながら呆れた様な口調で青年は呟く。
それは、別の世界から意識だけこの世界にやってきた、先日まではデビルガンダムと呼ばれていた存在。その本来の名は……
「それだけの物を溜め込んで、無為に腐らせていたという事です。貴方の目的である「死ぬまで生きる」を叶えたいなら早急に慣れてください。分かりましたねデビルガンダム……いえ、山田さん」
その名で呼ばれた瞬間、
「色々言いたい事もあるんだけどさぁ……まあ、それは置いとくとして、どれくらい経ったのか聞いてもいいかな? ”ナビ子ちゃん”」
「おおよそ一年と言ったところです。ネオ・ジオン戦争にバーム戦争。月ではギガノスが独立を宣言しました。他にも色々とありますが……取りあえず場所を移しましょうか」
「行くって何処に?」
問いかけてくる山田に対し、ナビ子と呼ばれた少女はニヤリと笑うと、
「……星見町。最近、美味しい喫茶店ができたそうですよ?」
一息の後、その笑みを妖艶なものに変え、
「……さあ、楽しい愉しいスーパーロボット大戦をはじめましょうか」
愉しそうに、それはもう愉しそうに、そう告げた。
MXむりやり開幕。