ハリー・ポッターと十六進数の女   作:‌でっていう

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第0F話 空飛ぶフォード・アングリア

「おはよう、アル!」

「おはよう、キキちゃん!」

 

晴天に緑輝くミーティス家の庭、十時三十分。キキちゃんは時間ぴったりに来た。ちょうど一年前と同じように。しかし、ここから先は一年前とは少し違った。

 

「結局去年と同じ時間にしたけど、やっぱりまだ早いんじゃないかしら」

「そうかもね。ちょっと休んでから行こう。忘れ物がないかも確かめておかないとね」

 

大抵のものは『袋』に入っているので、忘れ物の心配などは不要なのだが、とにかく我々はキングス・クロス駅への移動を遅らせた。

もしも未来を予知できるのであれば、わたしたちはすぐに出発していただろう。だがそれは『もしも』の話。結局、出発は十時五十分まで先伸ばされることとなった。

 

「それじゃ、行こっか」

 

いつものように転移魔法で駅前に移動。九、十番線のホームまでやってくると、カートが壁にぶつかる派手な音が聞こえてきた。何事か、と音のした方に駆けつけると、そこにはまるで硬い壁に突っ込んで跳ね返されたかのような格好でハリーとロンが転がっていた。周りのマグルは大騒ぎするふくろうのヘドウィグを見て動物虐待だと騒ぎ立てたりしている。

 

「こんなところで何やってるのかしら? あなたたち」

「分からないよ。なぜか九と四分の三番線に入れないんだ」

「入れない?」

 

ハリーの答えを聞いたキキちゃんは、できるだけマグルに怪しまれないよう近づき、目の前の柱に手を触れる。確かにそこには柱が存在していて、その中に入ることはできないようである。

腕時計を見てみれば、十時五十九分。あと一分以内に入れなければ、わたしたち四人はマグルの世界に置いてけぼりである。

転移魔法で九と四分の三番線に移動できないかと試してみたが、この壁を抜けた先の座標は不明。もちろん直接ホグワーツに飛ぶことはできるが、ホグワーツ特急での所要時間を考えると、それをするにはまだ早すぎる。

ガクン、と大時計の長針が動いた。すなわち、時間切れである。

 

「どうしよう、父さんと母さんが戻ってこられるかも分からないし……」

「——人目につきすぎるし、ここにいない方が良さそうだよ。車の傍で待ってよう」

 

ハリーが提案すると、ロンはハッとして表情を変えた。

 

「車、そうだ! 車で飛んでいけばいいんだ!」

 

そう言ったロンは、カートの向きを一八〇度変えると、出口のほうに戻りはじめた。訳もわからず後に続くが、ハリーは何か知っているようだった。

 

「ちょっとポッター、どういうことなの?」

「えっと、あんまり大きな声で言っちゃいけないんだけど、ロンのお父さんがマグルの車に魔法をかけて、空を飛べるようにしちゃったんだ」

「ちゃんと運転できるの……? 面白そうだけど、見られたらやばいんじゃ……」

 

正直不安だ。確か、魔法は極力マグルに知られてはいけないもので、その面前で使ってはいけないことになっていたはずである。車が空を飛んでいたら、気づくなという方が無茶だ。地上を走るにしても、ロンが車の免許を持っていないことはあまりにも明らかだ。

しかし、会話を聞いていたロンは自信ありげに振り返って答えた。

 

「心配しなくていいぞ、アルーペ。あの車には『透明ブースター』がついてる」

「うーん。なるほど、それなら大丈夫だね」

 

そこまで言うならまあ乗ってみるしかないか。ちょっと面白そうだし。いざとなれば、自分が透明化魔法を使っておけば良いだろう、なんてことを考えながら、フォード・アングリアの停まっているところまでやってきた。

 

「アルーペたちは後ろに乗って」

「本当にちゃんと運転できるんでしょうね、ウィーズリー」

「たぶん、大丈夫だ」

「そんな力強い車には見えないけど、どのぐらい飛べるの?」

「うーん、魔法かかってるし、けっこういけるんじゃないかな」

 

航続距離を問うと、ずいぶんと大雑把な答えが返ってきた。やっぱり不安だ。もしも墜落したら、わたしとキキちゃんは箒で脱出できるが、残り二人の面倒まで見切れるとは限らない。ニンバス二〇〇〇は後方の魔法で拡張されたトランクに押し込められているらしいので、ハリーも難しいだろう。

ロンはあちこち杖で叩いてエンジンをかけると、銀色のボタンを指差して、再び『透明ブースター』の紹介をした。そのままボタンを押し込むと、窓も座席もハンドルも、そして自分の身体も、全てが視界から消え去った。

 

「周りから見えなくなるだけでいいと思うんだけどなぁ……」

 

エンジンの振動はあるし、確かに座席に座っている。自分の身体もそこにある。が、視界には車の停められた道路しかない。目玉だけがそこに浮いているようである。せめて内装や同乗者くらいは見えててくれたほうがありがたいのだが。

 

「出発するよ」

 

姿は見えないが、とにかく前方からロンの声がした。

エンジンの音が大きくなり、座席に押しつけられる感覚とともに、車は『離陸』した。周りの風景が下へ下へと落ちていく。

やっぱり車も透明な方が景色が見えていいかもね、なんてことを言おうとしたが、突然眼下の風景は車の床に戻った。

 

「あれ、透明ブースターがいかれてる——」

 

慌てて杖を手に取り視覚妨害の魔法をかけるが、もしかしたらこの数秒間でマグルに見られていたかもしれない。

ロンがスイッチを叩くが、車は消えたり現れたりと安定しない。透明ブースターと格闘するうち、視界は白く染まった。厚い雲の中に突っ込んだようである。

 

「こ、これなら透明じゃなくても見つからないね」

「あたしたちの行くべき場所も見つからないけれどね?」

「……ちょっとだけ降りて、ホグワーツ特急を見つけないと」

 

再び雲の中から降りるが、眼下に見えるのはのどかな田園風景のみで、ホグワーツ特急の走る線路からは遠く離れてしまったように思われた。

 

「これじゃ、どっちに行けばいいのか分からないや……」

 

ハンドルを握る手に汗を握り、ロンは唸る。

えっと、確か一年前に列車の中で写真を撮ったとき、進行方向右側の座席でいわゆる『順光』での撮影ができていた。十一時、南中時刻の二時間前なら日光はだいたい東のほうから差していたはずだ。つまり、列車の進行方向は北側。そっちを重点に目を凝らしていると——いた。

 

「左に四〇度、北北西にまっすぐだね。なんとか列車が見えたよ」

「でかしたぞ、アルーペ」

「あっでも、ずっとまっすぐとは限らないから、ちょくちょく確認した方がいいと思うよ」

 

まあ、大した急カーブはなかったはずなのでそこまで心配することではないだろうけど。再び雲の中に入りそのまま上昇していくと、まもなく太陽のもとに晒されることになった。車が雲の上を走っている。これを魔法と言わずして何というのだろうか。幻想的な光景で、はじめのうちは面白かったのだが、単調な白い雲の繰り返しは、長く楽しむには向いていなかった。

なにか食べようにも、車内販売のおばさんはここまでは来てくれない。照りつける太陽に喉が渇いても、冷たい「かぼちゃジュース」を飲むことはできない。

 

「ねえ、ウィーズリー、あたしたち箒あるんだけど、特急に飛び乗ってきても問題ないわよね?」

 

明らかに否定を認めるつもりはない、そういう口調でキキちゃんは尋ねた。すると、その手があったかと言わんばかりに、ハリーは悔しそうに言った。

 

「ニンバス二〇〇〇をトランクに仕舞うんじゃなかった」

「無駄だよ。どうせ誰かがこの車を運転しなきゃいけないんだ。

——アルーペとキキはそれでいいよ。ぼくたちは何とかする」

 

ロンが疲れ切った声でそう言うと、突然エンジンがおかしな音を立て、車が揺れ始めた。

 

「あー、やっぱり四人はきついみたいだし……」

 

もうここに残る理由はない。キキちゃんに続いてわたしも箒を取り出しドアを開けた。が、車の飛び方が安定せず離陸(陸?)の体勢を整えるのが難しい。

 

「下まで距離あるし、落ちながら箒に乗ればいいんじゃないかしら?」

「ええっ、キキちゃんならできるかもしれないけど、わたしはムリだよ! なんとかここから飛ぶことにするよ、うん」

 

キキちゃんはためらう様子もなく雲を突き抜けて落下していった。彼女に限ってその心配はないが、もしも失敗したら大惨事である。すぐに箒に乗って雲の上に戻ってきてくれたので一安心だが、わたしも飛ばなければならない。

 

しばらく考えた末、確実な離陸方法を見つけることに成功した。車内で箒にまたがり、軽く足を離すとすぐに車外へ短距離の転移魔法を発動。無事に空へと解放された。車の飛び方も軽くなったぶん少しは安定したようで、ハリーたちも大丈夫そうだ。あとはわたしたちがホグワーツ特急を見つけるだけ。

——そう思っていたのだが、いざ列車を見つけて近づいてみると、そこからどうすればいいのかが分からなかった。屋根に飛び乗っても仕方がないが、窓から突っ込むのも難しい。残された入り口は乗降扉ぐらいであるが、速度を合わせて飛びながら取っ手を掴んで開ける、などというのは少し無理がある。が、ホグワーツまでずっと並走しているわけにもいかないので、無理をしてでも乗り込む必要はある。

 

「ねえアル、さっきと同じような感じで車内に入って、扉を開けてくれたりとかできない?」

「連続で転移魔法は……。あっ、そうだ、箒に魔力が残ってるんだった! 大丈夫、やってみる」

「無理はしないでよね」

 

またもキキちゃんの発想に救われた。箒に蓄積できる風属性の魔力もさっそく活かされることとなる。できるだけ目立たないように箒を列車の横につけ、速さを調節する。

転移魔法には不思議な特性があり、上下方向速度はゼロになるのに対し、前後左右方向の速度は転移先でも保存されるので、安全に車内に『転移』するには列車と全く同じ速度(『速さ』ではなく方向も加味した『速度』)にぴったり合わせる必要がある。

線路ができるだけまっすぐなタイミングを狙って、数メートルの転移魔法を発動した。この距離感覚を間違えても、知らない人のいるコンパートメントに突如お邪魔してしまうことになり危険だ。まあ、わたしの転移魔法ならそんなことはない。危なげなく廊下に『転移』した。人が少ないほうの乗降扉を開き、車内への道を開く。キキちゃんは並走する箒から横に跳んで廊下に着地した。とりあえず、これで問題は全て解決された。

 

「さて、どこのコンパートメントに行こうかしら?」

「ハーちゃんのところに行こう。場所はマリーが見つけてきてくれたよ。ひとつ後ろの車両だって」

 

誰もこのわたしたちが文字通り飛び込んできたことに気づくことはなく、それに甘んじて「最初から乗っていましたよ」というそぶりで車両を移動した。

 

「いち、にい、さん……。あ、いたわ」

「こんにちは、ハーちゃん!」

「こんにちはってあなた、今までどこ行ってたの? ハリーとロンも見当たらないし……」

「ちょっと、色々あってね……。えっと、そっちにいるのは——」

 

少し遅めの再開を果たすと、コンパートメントにもう一人、人がいることに気づいた。見れば一目でウィーズリーの子だと分かる赤毛。今年からホグワーツの、ロンの妹であるが、申し訳ないことにその名前を覚えていなかった。いや、聞いていたかどうかも定かではない。

 

「ジニーよ。ジニー・ウィーズリー。ダイアゴン横丁で会ったでしょ?」

「えっと、アルーペさんと、桔梗さん、でしたっけ」

「うん。わたしはアルーペ・ミーティス」

「桔梗よ。キキって呼んでいいわ」

 

軽く自己紹介をして、空いている座席に腰かけた。クィディッチのことやら『賢者の石』のことやら、色々と聞かれることとなった。聞くならハリーの方が良いだろう、とも思ったが、今ここにハリーはいない。

 

「それで、キキさん、今、兄はどこにいるんですか……?」

「ウィーズリー、って言うと紛らわしいわね。ロン・ウィーズリーは今、空飛ぶ車でスリリングな空中散歩を楽しんでいるところよ」

「スリリングな……なんですって? 空飛ぶ車って、まだ懲りてないのねっ!?」

「あの、ジニーちゃん。いろいろと訳があるんだよ。ロンを責めないであげて」

 

赤毛の妹は兄に全責任を叩きつけようと言わんばかりに声を荒げた。これでは兄が少しかわいそうなので、自分たちが『九と四分の三番線』に入るのを壁に拒否されたこと、何故だか車を飛ばすという発想に至ってしまったこと、そして、そこから脱出してきて今ここにいることを話した。

 

「結局はあの兄のせいなのね。大人しく待ってれば良かったのに……。ハリー・ポッターも巻き込まれてるんですって?」

「うん。まあ、ハリーも自分からついて行ったようなものだけど……」

「でも、すごい魔法使いだって聞いてますし、むしろ兄は運が良かったのかもしれませんね」

「『生き残った男の子』ねぇ。どうかしらね」

 

そんな腕利きの魔法使いと一緒にいるなら兄は安全だ、とジニーは言いたいのだろう。確かにロンより魔法の腕が上であることは間違いないが、ずば抜けて優れていると言えるかは微妙である。目の前にいるハーちゃんやキキちゃんの方が頼りになるのは確実だ、とわたしは思うのだが。

 

 

ホグワーツの大広間では、すでに毎年恒例の組み分けの儀式が始まっていた。しかし、グリフィンドールの席にハリーとロンの姿は見当たらない。ついでに言うと、教員席にいるはずのスネイプ先生の姿もない。

キキちゃんの反対側の隣にいるのは、すでにグリフィンドールに組み分けされたジニーである。兄の姿がないことを心配しているようだ。

 

「どうしちゃったんだろう……」

「スネイプがここにいないのと関係があるとしたら、捕まって説教を受けてるのかもしれないわね」

 

なるほど、十分にありえる話だ。どうせ今頃退学にするぞ、などという脅しでも受けているのだろう。まもなく組み分けの儀式は終了となったが、ハリーたちはついに現れなかった。

その後、どこからかハリーとロンが車に乗って『暴れ柳』に突っ込む形で登場した、という噂が流れ始めた。そしてなぜだか、寮での新入生歓迎会はハリー・ポッター歓迎会へと変貌していた。

遅れて現れたその主役を、パーシー・ウィーズリー、ジニー・ウィーズリーとハーちゃん、キキちゃん以外のほとんどが歓声で迎えた。これだけならよかったのだが、誰かが「アルーペと桔梗も途中まで一緒だったらしい」と余計なことを口走ったせいでわたしたちもこの注目を浴びることになってしまい、自分の部屋に逃げ帰るしかなかった。

新学年の幕開けは、とても慌ただしいものとなった。




ダイナミック駆け込み乗車(間に合ってない)の第15話をお送りしました。
最初から普通に列車に乗せてやるという案もありましたが、せっかく箒を作ったので使う機会を、ということでこんな感じに。

車「Terrain! Tarrain! Pull Up!」

新学期開始
 数話前のアル「魔法の回復速度上げる方法探すで」
 すいません、忘れてました(うp主が)
 まあ、アルさんにそんな早々と縛り解除してもらってはパワーバランス崩壊するので……。

脱出
 iOSの変換「——つ」
 >>違うそうじゃない<<

のどかな田園風景
 飛行速度速いなおい

ホグワーツ特急の進行方向
 よく練られた伏線でした(大嘘)

ハトのマリー
 唐突に出てくるけど普段どうしてんの?
 って、うp主に分からなかったら誰にも分からないか……

ジニー
 喋り方のイメージがまったくわかなくて、原作の登場シーンをひたすら見返すこととなりました。
 んで、見返してもよくわかりませんでした……。
 違和感があったらごめんなさい。こっそり修正すると思います。

文字数が6000字もないですが、キリのいいところがこのへんしかありませんでした。
もう少し描写に肉付けをできるといいんですけどね。
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