ハリー・ポッターと十六進数の女   作:‌でっていう

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第1B話 知識の城

「あとでご馳走をたっぷり食べればいいさ」

「お土産にお菓子いっぱい買ってくるわ」

 

朝、キキちゃんと二人で談話室に降りると、ロンとハーちゃんがハリーに慰めるような口調で言葉をかけていた。

どうやら、マクゴナガル先生に許可証なしでのホグズミード行きを交渉したが断られたようである。

 

「ダメだったみたいね。まあ、特例を認めたらキリがないもの、仕方ないわ」

「サインを偽装すればいいんじゃない?」

 

キキちゃんは冷たく言い、わたしは提案した。それに答えるロンの声は思わしくなかった。

 

「アルーペ、君も悪いことを考えるね。でも、ハリーはもうマクゴナガルにサインがないって言っちゃったんだ」

「わざわざふくろう便で送ってくれるような人間でもない、のよね」

「ありえないね。ネビルのばあちゃんはそうしたみたいだけど」

 

後から来たことにする、というキキちゃんの案も通用しなさそうだ。

次に考えられる方法としては、隠し通路を使うこと。バレなければなんでもできる、というのが世界の真理である。パメラが探し出した隠し通路には、ホグズミードへ繋がるものもある。しかし、これは防衛的な観点からみるととてもお勧めできることではなく、この案を明かすことはしなかった。シリウス・ブラックに校内への入り方を教えてしまうことにもなりなねない(もっとも、すでに入り込んでいるという疑惑もあるが)。

 

「まあ、諦めなさい。ダイアゴン横丁とそう違うものでもないでしょ」

 

キキちゃんは慰めているのかどうかよくわからない口調で言った。ハリーは腑に落ちない様子だったが、真実を受け入れる以外に道はなかった。

 

 

十月三十一日、ハロウィン。朝食を終えると、大半の生徒は玄関ホールに直行した。そうでなかった生徒は、ホグズミード行きを許されていない一年生、二年生、もうすでに飽きるほど行ったのであろう数人の上級生と、そしてハリーだった。

 

「ねえアルーペ、あたしは許可証なんて貰ってないわよね。行かせてもらえるか心配だわ」

 

わたしの横に並びながら、パメラが言った。言葉とは裏腹に、心配そうな様子はかけらも感じられないので、半分笑いながら返す。

 

「別にいいんじゃない? そもそも生徒じゃないし、ダメって言っても来るんでしょ?」

「その通りよ。魔法使いしかいない村なんて初めて聞くもの。行かないと損でしょう?」

「あたしもそう思うわ。堂々と幽霊でいても誰も気にしない、という点ではこれ以上ない場所なんじゃないかしら」

 

キキちゃんもパメラに同意した。もっとも、ハリーにも言っていた通り、買い物をするだけではダイアゴン横丁と似たようなものだろう。

 

「それじゃあ、あたしは先に行ってるわね」

 

パメラは目の前で消滅した。霊力による転移魔法はホグワーツの防衛に縛られないようだ。

フィルチの検問を抜けて学校を後にし、九月一日に馬車で通った道を、こんどは歩いて進む。湖を横目にホグズミード駅を過ぎると、ついに村の入り口が見えてきた。近づいてみると、この村はそれなりの規模があることが分かった。村というぐらいだから民家もあって、三角屋根が路地裏で窮屈そうに並んでいる。

商店街だけ見ても、ダイアゴン横丁とは随分違った世界が広がっているようだ。キキちゃんは前言を撤回しなければならないだろう。

 

「『三本の箒』って、別に箒が売ってるわけじゃないのね」

 

入ってすぐのところにある店を覗きこんでキキちゃんが言った。自分はその店名を聞いたことがあった。

 

「居酒屋だね。そこのバタービール? が人気みたいだよ。帰りに飲んでいこうよ」

「聞いたことあるわ。ここのことだったのね」

 

その反対側には、菓子店と思われる店があった。看板には『ハニーデュークス』と書いてある。外から見える棚に並んでいる菓子には、見るだけで味がしそうなほど強烈なものもあった。

 

「百味ビーンズはもうこりごりだよ……」

「これだけでっかい店なら、一つぐらい安全なお菓子があるんじゃない?」

「そうかな? じゃあここも後で行こう。まずは全体を把握してからね……」

 

さらに足を進めると、次に見えてきたのは、『ゾンコの悪戯道具専門店』だった。この店の商品は、とある双子のせいでとても有名になっている。

ふくろう便の郵便局、羽根ペン専門店や魔法ファッション店などを通り過ぎ、魔法用具専門店までたどり着くころには、人通りはさらに増え、とても賑やかになっていた。

そんななかで、なぜか誰もが存在を認識していないかのように通り過ぎていく店が目についた。決して新しくはない周りの建物よりもさらに古臭く見えて、看板もなくもはや廃屋のようであったが、一応営業はしているようで明かりがついている。

 

「ねえキキちゃん、この店なんだと思う?」

「えっ? あれ、さっきまでなかったわよね、こんな建物」

 

店のすぐ前まできたところでキキちゃんに聞いた。どうやら、キキちゃんも声をかけるまではこの建物を認識できていなかったようだ。条件は分からないが、特定の人にしか気付かれないような魔法がかかっているのだろうか。

 

「本屋……っぽいわね。でも誰もいないわ」

「ちょっと入ってみようよ」

 

半ば強引にキキちゃんを連れてボロ店に足を踏み入れた。そして、唖然とした。今にも崩れそうな外観とは打って変わって、店の中は新築のように明るく綺麗で、そして広々としていた。窓から見えた内装とは全く違うようだったが、店員がいないのだけは同じだった。

 

「すごい、大迫力よ」

「ホグワーツの図書室よりずっとたくさんありそうだね……」

 

半径四十メートルほどの円柱の部屋の壁はほとんどが本棚に覆われていて、その高さは五、六階分ほどある。上部の本を取るためか吹き抜けを取り囲む内回廊が何層かあり、それぞれの層を移動する階段が入り口の上に積み重なっている。照明は最上部の小さなシャンデリアしかないが、全ての本棚から今立っている一番下の床まで満遍なく照らされている。

外見より中の方が大きいことは魔法界ではよくあるが、これはその中でも異端児といえるだろう。

 

「こんなに大量にあるのに、どうやって欲しいのを探せばいいのかしらね」

 

大量の本に圧倒されながらキキちゃんがそう口にした。開放感のある空間と圧迫感のある壁が共存している、なんとも不思議な空間である。

ふと、背後に気配を感じた。部屋の中央に直径二、三メートルの丸いカウンターのようなものがあり、そこから魔力が出ているようだ。近寄ってみると、カウンターの内側には地下へと通じる狭い階段があった。店員はこの下にいるのだろうか。

 

「す——」

「少々お待ちください」

 

呼ぼうとすると、声を出し切るまえに階段の下から答えが返ってきた。言われたとおりその場に立っていると、声の主らしき人が階段の下の暗闇から姿を現した。

白衣に身を包んだ明るい茶髪のその女性は、少し低い目線を上にあげて自分と目を合わせた。

 

「どういったご用件でしょうか」

「え、えーと、ホグズミードの中でここだけ他と違った感じで、それなのにわたし以外は素通りしてたから、不思議だなって思って入ってみたんです」

 

無機質で機械的な声だった。一瞬面食らったが、経緯を説明した。

 

「ボロかった、と正直におっしゃっていただいて結構です。オーナーの趣味でそうなってますが、私は共感できません」

 

単調な声とは対照的に、冗談も言うようである。そして、二人の反応を待たずに切れ目なく話を続ける。

 

「他の人に見えないのは、この書庫にふさわしい人間以外には認識できないよう魔法がかかっているからでしょう」

「じゃあ、あたしは相応しくないってこと?」

 

キキちゃんが聞き合わせると、店員は少し答えに詰まったあと、またさっきと同じ声で淡々と返した。

 

「そうとも限りません。基準が適合率十六分の十五以上、となっているだけで、あなたがそのうちの一なのか十四なのかは分かりませんから」

「へぇ、納得できるような、できないような」

 

「それで、ここはどういう店……なんですか?」

 

一番聞きたかったところを尋ねた。この大量の本は売っているのか、貸しているのか、立ち読みできるのか、ただのコレクションなのか。

 

「ここ、シュロス・ケントニスでは本の貸出、販売をしております。館内であれば自由に読んでいただいてかまいません」

「シュロス……。ドイツ語、かしら?」

「そうだね。『知識の城』って意味かな」

「一般の本ではなく、大量に出版するだけの力のない方の、流通していない書物も多数扱っております。オーナーが内容の優れたと判断したものを高く買い付け、支援するというかたちになっています」

 

そのすべてだった。本の量だけでなく業務内容も大規模というわけだ。

 

「つまり、隠れた名作的なものを掘り出せる図書館兼本屋ってわけね」

「世界に一冊、ここにしかないものもございます。お気に召すものがあるかは保証いたしかねますが、どうぞごゆっくりお探しください」

「これだけあるんだから一つぐらい見つかるはずよね」

 

キキちゃんはまっすぐ通路まで走っていったが、わたしはカウンターの前から動かなかった。

 

「あの、本の検索ってできたりしませんか?」

「可能です。どんな条件でしょうか」

「ミーティス家の人が書いた本……とか」

「著者名:ミーティス 中間一致で検索します」

 

数秒待つと、なにか重いものを地面に落としたような地響きが入り口のほうから聞こえてきた。

 

「六十三件の書物が該当しました。出入り口横の本棚に並べ換えました。さらに絞り込みますか?」

「とりあえずそれでいいかな。ありがとう」

 

どうやら、メインの本棚から検索条件に合うもののみを検索結果用の本棚に移動させたようだ。歩いて案内された本棚に向かった。中央から端まで移動するだけでも大変である。

 

「うわぁ、ほんとにいっぱいある……。あ、イングリドさんのもあった。こっちは……。うちの図書館で見たことあるやつばっかりだ。そりゃそうか……」

「これってどういう順番に並んでいるのかしら?」

 

ぶつぶつ言っていると、上の方からキキちゃんの大声が聞こえてきた。答えはすぐに返ってきた。

 

「出版順です。検索結果も同様です」

 

目の前で話した時と同じ声量だったが、不思議なことに、店員の声はどこにいても同じようにはっきり聞こえた。

 

「これも出版順か……。アーシャさん、ブリギットさん、クリスタさん、ディアナさん、エルフィールさん、フィリスさん、ギゼラさん……」

 

端から歩いて、検索結果の本の著者名を順に確認していった。自宅の図書館ではジャンルごとに並んでいたりするので、時系列順に先祖たちの名前を見るのは新鮮だ。

 

「ヘルミーナさん、イングリドさん、ユーディットさん、クリエムヒルトさん、リリーさん……メイ・ミーティス」

 

予想通り、母メイ・ミーティスの名前の本がそこにあった。考えるより先に取り出して、表紙に書いてある題を見て、そして、不意を突かれて声が出た。

 

「『異種の魔術の変換に関する研究』!? これって……」

 

慌てて中を開いたが、期待はすぐに裏切られた。文章は冒頭の概要の途中で終わっていて、あとのページはすべて白紙だったのだ。一枚目の右上に、鉛筆で一九八〇年二月五日とメモ書きしてあった。恐らく書き始めた日付だろう。同年生まれの自分が一歳になる前に突然亡くなったと聞いている。書き終えられずにこの世を去ったのだろう。

しかし、書き始めたということは書物に記すだけの成果を上げたということだ。もしかしたら、記録が自宅に遺されているのかもしれない。

 

「とりあえず買って……買い戻して? おこうかな」

 

ほぼ白紙のメモ帳のような本だが、母の名前が記されているだけでわたしにとっては十分な価値がある。

中央の受付に向けて歩き出すと、ちょうど上からキキちゃんが箒に乗って降りてきた。

 

「歩いて降りようとしたら何周もしないといけない構造なのはどうかと思うわ」

 

それを聞いて、改めて頭上に連なる階段を見上げた。回廊は段階的な螺旋とも表現でき、一層目から二層目の階段を上った後は、回廊を一周しないと二層目から三層目への階段にたどり着けない構造になっていた。

目的が決まっていれば検索できて、そうでなくとも魔法使いなら箒が使えるので、恐らくこんな不便な階段はほぼ使われていないだろう。

 

「えっと、これ、買えるんですよね?」

 

受付まで列車二両分。同じ部屋の中での移動距離にしてはいささか長い。やっとのことでたどり着いて、店員に本を見せて尋ねた。

 

「はい。ご購入は一律三十二ガリオンです」

「さん……うぇ!?」

 

変な声が出た。高い。とても高い。これだけの書物を購入し著者を援助するのには相当な金がかかったのだろうが、とりあえず高い。カメラのレンズよりは安いかもしれないが、高い。

 

「うーん、それは結構厳しいかも……」

「貸出なら一週間二ガリオンです。」

「じゃあ、とりあえず……」

 

二ガリオンでも十分高い。自分で働いて稼いだお金ならまず払わないだろう。それに、内容はほとんどなく、入手すること自体が目的なので、借りたところで大して意味はない。しかし、ここまできてなんの成果もなく引き返すのは本意でないので、そうするしかなかった。

 

「あたしは諦めるわ……」

 

財布を覗いてキキちゃんが踏みとどまる。それが賢明な判断だろう。

 

「貸出には登録が必要です。まず、お名前を」

「アルーペ・ミーティスです」

「了解です。少々お待ちください」

 

言われた通り数秒待つと、やがて店員は顔をしかめてこう言った。

 

「……すでにデータベースに登録されています」

「あれ? ここ来たのは初めてだけど……」

「生年月日、ABO式血液型、杖の詳細は?」

「えぇと、一九八〇年二月二日、O型、桜の根で二十四センチメートルですが……」

 

同姓同名の他の人でないかを確認するためだと思われる質問に答えた。その可能性はほぼありえないのだが。

 

「登録された情報と一致します。団体、恐らく家単位での登録のようです。生まれれば勝手に登録され、亡くなれば解除される仕組みになっています」

 

家単位で、つまり、母かそのさらに前の先祖がまとめて登録したということだろうか。そうすると、ミーティスの誰かとこの書庫に一度は接点があるということになる。

 

「また、特別会員優待により貸出が無料、購入が半額、関係者の書物の購入はさらに半額となっています」

「えっ、無料? 半額? なんで?」

「何年前か、何百年前か、それは存じ上げませんが、ミーティス家から多額の資金援助や、防衛機構、管理機構の提供をいただいたことが理由のようです」

 

株主優待のようなものだろうか。これは運がいい。ご先祖様たちが書いた本なら八ガリオンで買うことができる。そして、そのうちの一人ないしそれ以上が、この書庫の運営に深く関わっていたというのも事実と確定した。

店員はさらに話を続ける。

 

「なお、一団体につき一度に三人まで登録可能で、一九八〇年十月三十一日付けでメイ・ミーティス様が死亡により登録取消となっています。アルーペ様、アリス様と、あともう一名様登録できます。ご家族様以外でも可能ですが、いかがいたしますか?」

「ほんと? それならキキちゃんも」

「えっ、ちょっとアル、悪いよ——」

「かしこまりました。お名前と誕生日、血液型、杖の登録をいたします」

 

予想外のことに少し動揺したが、提案に乗ることにした。キキちゃんの遠慮もお構いなしに、店員は情報を聞き出す。

 

「……一九八〇年二月二日、B型、桜の枝と杉の根の二十六センチメートルよ」

 

キキちゃんは店員の圧に負けてその問いに答えた。これで、借りるだけなら無料でできる。

わたしは八ガリオンを払って母親の本を買い、キキちゃんは無料で本を借りた。

 

「貸出期間は一年までです」

「さすがにそんな長くはかからないわよ……」

 

仮に優待が無い状態で一年間借りたとすると、千五百ガリオンほどの金が飛ぶことになる。そもそも購入しておけば三十二ガリオンで済むし、グランドピアノでも買っておいたほうがはるかに有意義である。

 

「なに借りたの?」

「この書庫についての本。なかなか面白そうよ」

 

そこそこの厚みがあった本について聞くと、キキちゃんはそれを『袋』に仕舞いながら答えた。もしかすると、ミーティスのことも少しは書いてあるかもしれない。

ふと、頭にひとつの考えが浮かんだ。

 

「あの、ここに『ホグワーツの歴史』の未改訂版ってありますか?」

「いいえ、ございません。ちょうどその版だけ見つからない、とオーナーが言っておりました」

 

藪から棒な問いだったので、店員は少し驚きながら返した。そんな様子を見て、自分は『袋』に手を突っ込んだ。

 

「じゃあこれ、ここに置いてよ」

 

取り出したのは、二年前マクゴナガル先生に貰った未改訂版の『ホグワーツの歴史』そのものだった。ミーティスの過去を探る手がかりになるのではないか、と提供して貰ったものだが、残念ながらそれについての有力な手がかりは得られなかった。

しかし、ミーティスと関係することにこだわらなければ、貴重な価値のある情報がたくさん詰まっている。自分だけでなくそれを活かせる人が見られる状態の方がよい、と考えたわけだ。

 

「また必要になるかもしれないから、貸出だけにしておいて貰えますか?」

「了解です。貸出期間も短めにしておきます」

 

もう少し派手に驚くかと思っていたが、店員の対応は意外と冷静だった。

 

「そうだ、お名前聞いてもよろしいですか?」

「アンナです。アニーでもいいですよ」

 

失礼かとも思ったが、また、出し抜けな問いを投げた。店員アニーはまるで聞かれるのを予期していたかのように、やはり平然と答えた。

 

「アンナ? 日本語?」

「どの言語かは存じあげません」

 

日本でも聞き慣れた名前なのか、キキちゃんが反応した。「アンナ」という名前は日本も含め多くの言語圏で使われている。そういえば、「アリス」もかなり広範囲で使われている名前だったか。

 

「そう。でも、あたしはアンナって呼ばせてもらうわ」

「アニーさん、今日はありがとうございました。また次回のホグズミード行きの時来ますね」

 

そう言って一八〇度向きを変え、出口へ向かおうとしたが、アニーに呼び止められた。

 

「それと、この書庫はダイアゴン横丁など世界中のほとんどの場所に入口を設けております。何故だか気づいてもらえるのはホグズミードが圧倒的に多いですけど」

「えっと、つまり?」

「どこからでもここに来れますよ、ということです。入口と違う出口に出るのは今は制限させていただいていますが」

 

なんと、ホグワーツに入学してからの二年ちょっとの間、もしかしたらそのさらに前から、この世界への入り口を無視し続けてきたということになるのか。

 

「それじゃあ、休みの間もお世話になるかもしれないですね」

「いつでもどうぞ。私、暇なので」

 

アニーの声にはどこか寂寞感があった。ホグズミードの通りへと戻るわたしたちは、少し後ろ髪を引かれる思いがした。

 

 

「あー、ちょっと、思ってたのと違うかも」

「そうね。なんというか……独創的な味ね」

 

郵便局を見物し、ハニーデュークスで菓子を買い、最後は仕上げにと『三本の箒』でバタービールを飲んでいた。少し大人な気分でジョッキを傾けながら、キキちゃんと話している。

 

「でも、暖まるね」

「そうね。ここは日本に比べたらかなり涼しいから、冬にはいいかもしれないわ」

 

雪の降るころには、きっとこの味にも慣れているだろう。キキちゃんはそう考えた。

 

「ハリーには申し訳ないけど、ここに来れないっていうのはもったいないね」

「どうかしら。お菓子とかはハーマイオニーたちがごっそり持って帰るって言ってたから、そうでもないかもしれないわ」

「それなら、写真も見せてあげればほぼ行ったも同然、かな?」

 

広角レンズを飲みかけのバタービールに向けてシャッターを切った。また一つ、日常の楽しみを、そして、歴史を紐解く足がかりを見つけることができた。




諸事情によりしばらく執筆から離れるため、次話の投稿は未定です。例により第20話までは書き上げているのでいつか戻ってきます。

シュロス・ケントニスはほぼどこからでもアクセスできるのですが、初回はホグズミードにしようと決めていました。三年目にする理由として都合が良いから学期中に校外に出られる場所、というのが重要です。

バタービール
 アルコールは若干入ってるけど、イギリスなら多少は大丈夫らしい?

四十メートル
 電車一両の長さが二十メートル、と考えると想像しやすいと思います。ちょうど電車の中で書いたところなので、大きさを表現するのに参考にしました。
 形は名探偵コナンの工藤優作の書斎、雰囲気はアーシャのアトリエの弐番館ぐらいのイメージ。

シュロス・ケントニス Schloss Kenntnis
 アルーペの言う通り、ドイツ語で知識の城の意。

三十二ガリオン
 1ガリオン1000円ぐらいのイメージで書いてます。
 割引後の8ガリオンでもそこそこのお値段。

アンナ
 シュロス・ケントニスの店員(?)
 「Anna」は西洋を中心に広い範囲にある名前。英語はもちろん、ドイツ語、そして日本語にも。
 英語、ドイツ語での本来の読みは「アナ」です。某映画の主人公ですね。
「アニー」は英語での略称。 ドイツ語の略称は「アニカ」らしい。
 果たしてこやつの名前は何語なんでしょうかね?
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