他の話を進めていくはずが、どうしてこんなことに……
誰しも若い頃には、その場のノリやテンション、酔った勢いなどで"盛大"にやらかしたという経験はないだろうか。そういった記憶は若気の至りとして生涯残り続けていくものだと相場が決まっている。しかし、その若気の至りとやらが生涯のみならず、死後も残されていくとしたら、それはどのような気分だろうか?
これは要約してしまえば、若気の至りでやっちまった男がいた世界の人理を巡る
俺に前世の記憶がある、と言う男がいてそれを聞いた者はどういう反応をするか。いつでもどこでも、そういった与太話をする輩は馬鹿にされるか、引かれるかのどちらかだ。よしんば信じる者がいたとしても、ろくな奴じゃないだろう。ここまで前置きをしてなんだが、結論としていうと私は前世の記憶がある、しかし前世の名前、その他諸々を覚えていない。
前世の記憶にはトンと覚えがない。ただ、自分がいた場所がここではないとだけは理解している。しかし、それに対するように今世の自分の名前には、すっ〜〜ご〜〜く聞き覚えがある!!
むしろ、現代に生きる若者、もしくは若者の心を持つ大きな友達諸君なら十人が十人、知っているという名前だ。私は今世の名前から、ここが現実ではないのかと思ったが、この世界は一般的な物理法則の元に動いており、摩訶不思議な果実などは存在しなかった。しかし、無いというなら自分がそれを作ればよかった、と若き日の自分は考えた……考えてしまった。
うん、『ーー王に俺はなる!!!!!!!』とか、昔の自分が言っていたなんてことを思い出すと笑えてくる。いや、もう死んでいるんだけどね!!死ぬ直前まで、馬鹿やってから、ようやく気づいたのだ。いや、死後の世界があるなんて驚いたといえば驚いたけど、もっと驚いたのは死後の自分がいる場所というのが、"英霊の座"だということだ。
……まさかの型月かーー
その男に関して、知らぬ者は存在しないだろう。現代にまで語り継がれる不朽の伝説、世界を拓き時代を創り出した男の名を。その男は無法者であった、自由を掲げるものでもあった。その男、七海を乗り越えて宝石、黄金、財宝という財宝を集め世界を駆け巡った。人は、彼を自由の象徴として敬い、恐れ、嫌い、讃え、罵倒し、賛美した。当時の国々はたった一つの無法者のために共同戦線を張るも、見事に失敗。その結果、各国は男を自国の戦力、専属の海賊として召しかかえようとするも男は鼻で笑って、海賊として海を旅し続けた。
15世紀初頭。人々が未だ見たことのない天地に憧憬を抱いていた時代。一人の無法者がいた。
時には軍に対して喧嘩を売っては勝利し、時に苦しむ者たちへ穏やかに施した。七海、いや世界の財宝という財宝を集め、富、名声、力、この世の全ての手にした男を世間は"王"と呼び称した。その男、王でありながら領土はなく支配に興味を示そうとしない。財宝を集めようと、酒、女を買うくらいで大した野望もない。世界は男が何をしたいのかと、議論し続けた。
また、彼の書き記した『海賊の掟』という書物は、後の時代に置いては絶対に遵守すべき海賊の掟として多くの者たちに普及した。その内容は、海賊たちの略奪行為に関するものから、海賊同士の戦闘、同盟や心構え。他に海に落ちた者や溺れた者の救助救命、手当の仕方、壊血病防止策など革命的とさえ言えるほどの効率的かつ効果的な医学内容も記載されており、当時の各国の海軍、船乗りたちでさえ、男が記した『海賊の掟』を読んでいた。
識字率の低い15世紀初頭に、ある無法者が書いた本が全ての船乗りに周知され、軍においては現代の海軍にまで『海の聖書』などと謳われている。
国家、宗教、はたまた同業者に至るまで、彼を捕まえようとするも、結果はことごとく敗北。海の王、恐るべき黄金の海賊。名に黄金を持つ海賊は、船乗りたちの永遠の伝説となった。また、非公式ではあるが男は世界の海を踏破し、世界一周を成し遂げたと語られている。この伝説は当時、海賊の嘘、偽りだと蔑まれ、公的、また歴史上ではイギリス公認の海賊、フランシス・ドレイクが世界一周を成し遂げたとされているが、彼いや彼女は女王に『自分は二番目さ』と呟いたとされる。それが真実かは、現代でもたびたび討論されるところだ。
しかし、この男が現代まで語り継がれるのは、最強の海賊だからでも『海賊の掟』という本を書いたからでも、嘘か真か世界一周を成し遂げたからでもない。もっと即物的かつロマンにあふれた理由だ。そう、男は生涯をかけて集めた財宝を七つの海の七ヶ所に隠したのだ。その財宝は二ヶ所までは見つかったが、技術や叡智の進んだ現代でも未だ見つかっていない。
海賊黒髭、ナチスドイツなどの見つけた者たちは、推定500tクラスの黄金を手にした。しかし、黒髭はイギリス海軍に殺された上に財宝を奪われ、ナチスではドイツの敗戦時の莫大な補償金として全てが消えてしまった。
こうした歴史上に登場する黄金が財宝の存在を如実に証明しているのだ。しかし、現代では財宝は二ヶ所から見つかったもので全て、あとの五ヶ所にかつて発見された量の黄金は存在しないという説と、後の五ヶ所の財宝は未だに存在するという説で世界は紛糾している。また、この伝説を基にした小説、映画、劇などが数多く存在し、男の名前は人類史に刻まれている。
七つの海を越え自由を愛し、王と讃えられた男の最期はなんと処刑という顛末だった。当時、イギリス海軍が男を捕らえ、財宝の在り処を聞き出そうとするものの、男は沈黙を貫いた。イギリス海軍は増え始めてきた海賊たちへの歯止めとして、海賊の王として讃えられた男の処刑を決定した。
処刑執行のため、ロンドン塔にて絞首刑が行われるも男の首を縛った縄はあっさりと千切れた。次は縄ではなく鉄の鎖にするも結果は同じ。そして、当時は異例となるが海賊の斬首刑が執行された。海賊の抑止と期待されイギリスのみならず、各国の重鎮や民衆を集めた処刑は全く予想外の方向へ世界を塗り替えた。処刑される直前に一人の民衆が『あれだけの財宝を何処に隠した』と騒ぎ出したのだ。その一言を皮切りに騒ぎ出す民衆、兵が民衆を鎮圧しようとした時、処刑台の男が弾けたように笑い、新たな時代を告げる最期の言葉を残した。
『おれの財宝か、欲しけりゃくれてやる。……探せ、この世の全てをそこに置いてきた』
海賊の王は、己の財宝の存在を告げ笑い処刑された。この処刑を皮切りに海の無法者たちが跳梁跋扈する大海賊時代が幕を開けたのだ。その時代は多くの海の者たちが冒険し、世界を大きく変革した時代ともされている。海賊時代を創り出した大悪党、黄金と自由を掲げる偉大な海賊。現代の海にさえ、その名を轟かせる男の名は…………
人理継続保障機関、"フィニス・カルデア"。西暦2015年に観測され訪れた人理定礎の危機。近未来観測レンズ"シバ"によって人類は2017年に滅亡することが発覚。それを阻止するべく、カルデアは術者を過去に送り特異点の修復を行う儀式を開始する。
その儀式の名はグランドオーダー、聖杯探索と未来を取り戻すための"偉大な冒険"は若きマスターと未熟なるデミサーヴァントに託された。
これまで、彼らは崩壊した都市である冬木を始め、邪竜百年戦争・オルレアン、永続狂気帝国・セプテムと三つの特異点である人理定礎を修復してきた。次なる舞台は封鎖終局四海・オケアノス。
この特異点の原因なる聖杯を求め訪れたカルデアのマスターとデミサーヴァントのマシュは既に聖杯を見つけるも、それはこちらの探す聖杯ではなかった。その後、立ち寄った島で美しき女神エウリュアレと傷ついた雷光アステリオスと遭遇する。彼らの同行を取り付けたカルデア勢は、再び大海原へと船を出す。船上で女神の歌に癒されていた彼らの前に現れ立つは海賊黒髭。その遭遇に身の毛のよだつ思いで相対するマスターたちの前に黒髭の刺客、血斧王エイリークが攻めかかるのだった。
「敵はサーヴァントが二体、こっちはマシュとエウリュアレ、それにアステリオスか」
カルデア、そして人類最期のマスターは冷静にかつ、正確に戦力の把握を行う。人数でこちらが上回っていても、こちらは女、傷病者のサーヴァント。一筋縄ではいかないサーヴァント戦闘においては心もとない。
「マスター、サーヴァント戦闘です。……マシュ・キリエライト……行きます!l」
「待ったマシュ!ちょっとタンマ!」
「何言っているのよ、あの史上最低辺のゴミ虫が来てるの!一刻の猶予もないというのに、悠長に作戦会議なんてしてられないわ。そんなこと、倒してからあなたたち二人きりでやってくださらない?」
「ううううぅぅぅぅ」
エウリュアレの切羽詰まった声が船上に響き、彼女を肩に乗せたアステリオスが唸り声を出す。
「そんな先輩と二人きりなんて、でも私は先輩のサーヴァントだから」
「そうじゃない、サーヴァント召喚!サークルがないんでマシュの盾を使うから手伝って!」
「ちょいちょい〜、拙者たちを空気扱いとか、本気でごじゃるか〜。これはブラッドアクス・キングのきっつ〜いオシオキが必要ですな。ってわけでや〜〜っておしまい!!デュフフフフフ!!」
「……ころ、す…………」
「アステリオス、その図体であまり前に出ない!怪我しているっていうのに、馬鹿なのっ!?」
人知を超えたサーヴァント同士の戦闘。戦力や策を小出しにしていては犠牲が出る、一発逆転の奇跡を狙ってマスターは手を伸ばす。召喚のための
出来ることなんてたかが知れてる上、大してない。自分が優れているとか口が裂けても言えやしない。でも、だけど、もし自分の中で人より優れているものがあるとしたら…………諦めの悪さだけは少なくとも誰にも負けちゃいない!
ただ今すべきこと、やるべきことはまだ見ぬ英霊を呼ぶことだけ。来てくれ、来てくれ、来てくれ!!!
轟!剛!業!豪!
まるで嵐の只中にいるような轟音が頭に反響する。外界のあらゆる音がかき消されるほどの暴力的な音の嵐の中で、誰かの声がする。嵐などモノともせず、声の
『受け継がれる意志、時代のうねり、人の夢。それらは止める事が出来ないものだ。人々が自由の答えを求める限り、それらは決して留まる事は無い!!』
マシュの盾を基点とした召喚サークルからまばゆい光が回転をしながら発光する。数秒の回転、終わりは一瞬。光が弾け飛び、魔力の嵐が吹き
まずいっ!マシュは盾を船の甲板に置いたまま、エウリュアレは近接戦に期待できないし、アステリオスも動きが鈍い。ひ弱なただのマスターである自分が、あの太い豪腕から放たれる拳を受ければ爆発四散しか未来はない。確定する死、確定する未来の喪失、絶望的という言葉さえ甘い状況でも、バカな自分は諦められない。こんな窮地で諦めていたら、自分はマスターを名乗れないんだ!!!
「ゴロ、ズ……ツブス…………コ……ロ、スゥゥゥゥー!!!」
弾丸のように向かってきたエイリーク、マスターに向かって斧を振り下ろそうとした時、何者かの足がエイリークを蹴っ飛ばした。吹き飛んで黒髭の船に逆戻りしたバーサーカーのサーヴァント。それを成し遂げた男は、威風堂々と立っていた。その覇気はこの場にいた全ての者たちの動きを威圧し、強制的に
船の操縦に動いていたドレイクは召喚された男を見て、幽霊でも見たかのような目で恐れおののく。また、他の船員たちも男が何者であるかを理解した者たちは目玉が飛び出すほど仰天した。
「んな、バカ、な。あの男はとっくの昔に……」
神話の時代に生き、神として存在するエウリュアレと海神ポセイドンの血脈を引くアステリオスは、突如現れた男の覇気に驚愕する。召喚された者が神とは全く関係ないと直感している二人にとっては、ただの人間がここまでの領域に踏み込んだことを理解しきれない。
「ちょっと、今の何!?こんなバケモノじみた威圧を放つなんて、ホントに人間!?」
「あぁぁぁ……………うぅぅぅぅぅぅうぅぅぅ」
「おいおい、なんだぁありゃ。おじさん、あんな怪物級のやつなんて一人しか知らないんだけど」
「アン、もしかしてあの男は」
「もしかしなくともよ、メアリー。そう、あの人こそ私たちの王さま……そして、七海の覇者」
黒髭勢、アン女王の復讐号に乗船していた者たちも、召喚された者を最大の警戒で見つめる。気の抜けたような声で男を見つめる槍兵も、今までとは少し声が強張っている。二人の女海賊も召喚された男に畏敬を抱きながら武器を構える。そして、彼らの
「先輩、その方はいったい?」
「……いったいも何もねぇ、俺ぁ海賊んでもって王だ。てめぇらは俺が誰かもわからず呼びつけやがったのか?……随分と無茶をやらかす小僧だ。しかし、こいつはおもしれぇ事に呼ばれたらしい。おい、マスター言っとくが俺は支配なんぞしねぇし、されねぇ。それでもいいなら、てめぇの命を俺に賭けろ!!」
乱暴な物言い、しかしこのサーヴァントが事態をうち破るほどの力を持つというのは確かだ。まだ、この英霊が反英霊かどうかもわからない。真名など言うまでもない。けれど、この窮地を犠牲を出さずに乗り越えるにはこの男の力が必要だ。ならば、この命運ぜんぶあんたに賭けてやろうじゃないか!!
男の放った覇気で声が出ないマスターは、口元を無理やり上げ猛々しそうに笑いながら、無言で首を縦に振った。マスターの承諾を確認したサーヴァントは、心底嬉しいかのように笑いだす。この笑い声は豪快な音を立てて海に響き渡る。
「こいつはいい!今回もとんでもない冒険が出来そうだ。俺は…………サーヴァント・ライダー。…………いや、そうじゃねぇ。…………………おれはロジャー!!……この出会いは運命だ、マスター!!!俺と一緒に世界をひっくり返さねェか!!!」
海の王にして海賊たちの時代を創り海賊王と呼ばれた男であるゴール・D・ロジャーが、封鎖され終わりへとひた進むオケアノスの海に召喚された。ここに契約は果たされた、七海を踏破せし豪傑が支配に興味を持たない王者が第三特異点を
自由を掲げる黄金の海賊王の新たな冒険が始まった。
『Fate/Gold pirate』