原作に関わらなかったけど悲惨なことになった(胸糞注意)   作:kaitolian

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注意
※今話は恐らく子供を持つ方にとって不快な内容となるかもしれません
※今話を読まない方は後書き部分に流れをざっくり書いたので読んで頂けると幸いです





転換編

「あぁ………」

 

 

 ながく、ねむったきがする………

 

 

 あたたかい

 

 

 やわらかい

 

 

 きもちいい

 

 

 しろいへや

 

 

 ここ、どこ………

 

 

 

「ああ、葵!!葵、葵、あおい、あおい”、よかった、よ”かった”」

 

 

 あ、おかあさん

 

 あったかい

 

 だきし めら れて

 

 

 お  さ   え  ら    れ   て

 

 

「ぁ、ぁ、ぁあ、ああああああああ!

 いや! いやあああ! いやだあああああ!

 はなせ! はなせえええ! はなせえええええ!!」

 

「葵! お母さんよ! 大丈夫、安心して」

 

 泣きながら叫びながら怯えながら、暴れまわる。

 母の静止の声など全く聞こえないかのように、

 暴れる余りに自身が傷つくことすら厭わず、

 最早意味を為していない声をあげながら、

 抵抗することだけは決してやめなかった。

 

「葵!」

 

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”」

 

 我が娘を思い、涙を流し、必死に呼びかける。

 しかし、無情にも葵にその声は届かない。

 叫び続ける。

 暴れ続ける。

 苦しみ続ける。

 意識がある限り、いつまでも永遠に。

 

 1分後、騒ぎを駆けつけて来た医者が持ってきた鎮静薬を打ってようやく葵は止まった。

 

 

 

 ♦      ♦♦♦

 

 

 

「はい、状況はわかりました。」

 

「それで葵は?」

 

「………まだ現状でははっきりと言えません。」

 

「ふざけるな! 解らないだと!?」

 

「………現状では会話をして傍にいると安心させながら原因を探るしかありません。

 事件に関することは思い出させずにそれ以前の頃を思い出させるような話がいいでしょう。」

 

 煮え切らない回答に父は疲れ切った表情をして腰を降ろす。

 1年間もの間行方不明だった娘を知らせる連絡を受け、確かに幾分か安堵したのだ。

 しかし、病院に行って目に映ったのは想像を遥かに上回る葵の無残な姿。

 それに加えて、男性恐怖症になっている可能性が高い故に直接に会えないもどかしさ。

 果てには自身の母相手に錯乱し、原因すら不明。

 恨みをぶつける犯人すら現時点まで行方を掴めていない。

 文字通り、怒りで気が狂いそうだった。

 幾ら怒りに身を任せその衝動をまき散らそうと一向に苛立ちは収まらない。

 むしろまき散らす度に自身の無力が思い知らされ、不快な苛立ちは増加の一途を辿る。

 

「…………くっそ、なんで葵がこんな目にっ!」

 

 父親の嘆きだけが虚しく響く。

 

 

 

 

 

 

 

 答えはないまま、重く悲しく惨めに響いた。

 

 

 

 

 

 

 ♦      ♦♦♦

 

 

 

「………ぅん」

 

 

「あ、葵」

 

 葵が目覚めたことに気が付いた母は刺激を加えてしまわないようにそっと話しかける。

 まるで壊れかけのガラス細工を扱うかのように。

 

「……おかあさん」

 

 返事はとても弱弱しく今にも消えてしまいそうな声であった。

 思わず抱きしめるために手を伸ばそうとする。

 

「ぁぁ、ぁ」

 

 微かな、けれど確かな悲鳴が響いた。

 僅かに体が震え、瞳は手から決して逸らされず、自身に向けられる手を恐れていた。

 その様子を見て慌てて手を引き戻す。

 

「ねぇ、葵。海に初めて行ったことがあったでしょ。

 あの時は――――――――――――。」

 

 恐らくは聞いていないのだろう。

 一方が話し続け、もう一方は返事をしないばかりか視線すら合わせない。

 そんな上滑りの会話とも呼べない会話が為される。

 それでも母は話すことをやめない。

 いや、やめられない。

 こちらが関わることを止めてしまったら消えてしまう

 そう思ってしまうほど葵が小さく脆く弱弱しく母の目には映った。

 触れ合うことが出来ないのなら話しかけて存在を示し続けるしかないのだから。

 

 

 

 

 

「………………わからない」

 

 何時間も話しかけ気が付けば1日が終わろうかとしていた頃だった。

 母は今日中に返事が返ってくることは内心諦めかけていた。

 そんな時にしっかりと葵の返答を得た。

 思わず溢れそうになった衝動をこらえ、必死に今話していた内容を思い出し言葉を紡ぐ。

 

「ほら、葵が3年生の時行ったじゃない。

 遠足で――――――――――――。」

 

 それが更なる残酷な事実を引き出すことになるとも知らずに

 

「わからない」

 

 葵は下を向いたまま表情を変えずに淡々と答える。

 

「わ、忘れちゃったのなら、仕方ないわね。

 じゃあこれなら覚えているでしょう。

 そう、たしか葵の8歳の誕生日で――――――――――――。」

 

「しらない」

 

 何度聞いても何を聞いてもどのように聞いても答えは変わらない。

 詳しくは分からないが葵が過去を思い出せないことを長い時間を掛けてようやく母は認めた。

 同時にここ最近何度も思ってきたことを今まで以上に願った。

 どうかこれが夢であってくれ、と。

 

 

 

 

 ♦      ♦♦♦

 

 

 

 

 1人の少女がいた。

 その少女は期間にして1年強の間、性的にも肉体的にも暴行を受けていた

 毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、来る日も来る日も、来る日も来る日も、来る日も来る日も、疲れ切っている時も、寝ている時も、気絶している時も、暴行を受けていた。

 半年を過ぎた辺りから少女の頑丈性を確認し頻度が大幅に上がった。

 9か月になり妊娠したお腹を除き少女への遠慮は消えた。

 1年が経つと少女は熟睡することが無くなった。

 最後には不完全に壊された。

 

 その少女は異常であった。

 自身の前世と言えるものをしっかりと知覚していた。

 大抵の人々がどんな事をしようとも手に入れたいと望む特別とさえ言える異常。

 そんな異常が不幸にも事態を最悪なものへと悪化させる。

 

 少女の前世は男であった。

 その男は必要時を除き暴力を好まず、犯罪は嫌悪し、犯罪者を憎んでさえいた、普通の倫理観を持ったごく一般的な日本人であった。

 必然な流れとして自身に暴行を加えてくる二人の男達を憎んだ。

 しかしいつからか少女は終わりの見えない暴行に次第に憎しみの意志が削られていった。

 ここで普通の少女なら感情を凍らせるなり自身を他人事として見るなり犯人を哀れもうとするなり何らかの形で自身と自身の人格を守ろうとしただろう。

 だが少女はそのようなことをしなかった。

 いやできなかった。

 前世に当たる男の頃、男はその類のニュースを聞くたび心底不快になり犯人を心底憎んだ。

 なんでお前らは他人を平気に傷つけることができるんだ

 なんでお前らは被害者達のことを考えられないんだ

 なんでお前らみたいな屑共が一丁前に生きているんだ

 そう心底疑問に思い、心底犯人に殺意を抱いた。

 それはその男の生まれ変わりにあたる少女も同じであった。

 故に当然の選択として――無論無意識の内での選択だが――自身を守るより犯人への憎悪を優先した。

 

 そうして少女は自身を憎悪に染め上げた。

 

 心が折れそうな時もあった、自身の過去の行動を嘆いた時もあった、絶望に身を沈めた時もあった。

 しかし犯罪者というものへの憎しみが完全に消滅することは終ぞ無かった。

 そこには平和な日常への回帰といった希望は無く、ただただ負の感情のみがあった。

 いつしか少女はゆっくりとだが着々と確実に憎悪に蝕まれ、憎むことに必要なもの以外のあらゆるものを無くし始める。

 嗤いや嘲りなどを除いた喜びや楽しみといった感情が零れ落ちた

 憎むことに不必要な懐かしき思い出といった記憶が擦り潰された

 少女は自身の意思に従い、この道が正しいと信じながら、ただひたすらに歩き続けた。

 傷付きながら、壊れながら、身を削りながら、なお歩き続けた。

 

 

 最後にそこにいたのは憎しみに繋がるものだけが手元に残った、哀れな少女だけだった。

 

 

 

 

 

 ♦      ♦♦♦

 

 

 

 

「……っ……! なんで……っ葵が……っ!」

 

 葵に何が起こってこのような状態になっているのかは分からない。

 ただひたすらに悲しかった。

 大事な過去を失っても葵が泣きもせず表情すら変えないことが一層母を悲しくさせ、思わず泣いてしまった。

 

 そんな悲しそうに泣く母に葵が右手を伸ばす。

 そこにどんな意図があるのかは分からない。

 その手が母に触れれば、或いは事態は幾らか好転したかもしれない。

 

「みぎて、ない……」

 

 

 右手の喪失に気が付かなければ

 

 

 同時に体に違和感を覚えた。

 少女にとってそれは存在が大きかった。

 故にその消失も大きく、違和感の正体もすぐに分かった。

 

「……おなか」

 

 妊娠し不自然なほど大きくなったお腹の膨らみが無くなり、通常通りの平らになっていた。

 それが意味することは出産か死産か。

 

「あ、葵。そのことはまた今度にしましょう、ね。」

 

 思わず泣いてしまった母だが葵の様子の変化に気が付き、こぼした呟きによって瞬時に冷静に返る。

 葵がまた狂乱しない様、必死に話題を逸らそうとする。

 しかし、もう遅い

 

 それを理解することで同時に現実を理解する。

 言葉で表すのも不快な忌まわしい体験

 失ったものが余りに多く本能で封印していたのか、目覚めた時から今に至るまで考えようとしなかった病室にいる理由。

 それらが事実だと思い出す。

 

 

 

 ああ、そうだ、そうだった

 

 

 

 

 なんて

 

 

 

 

 

 

 

 なんてふぬけていたんだ

 

 

 

 

 

 

「こども、どこ……」

 

「お、落ち着いて。ね、葵。今日は疲れているからゆっくり休みなさい。」

 

「おしえて、おしえてよ!

 オレのこども、どこにいるんだよ!!」

 

 それは明らかに今までとは違っていた。

 再会してから無表情だった顔にしっかりとした表情があり、その瞳にはちゃんと恐怖以外の強い意志を込めた感情が含まれいた。

 

 この時、葵は恐ろしいほど冷静だった。

 今すぐには奴らは見つからないこと

 見つけたとしても警察が先であろうこと

 どう転がっても今の自分では勝てないこと

 それら総てを理解していた。

 

 同時に自身の経験からある予測をしていた。

 憎しみや恨みが風化することを。

 1人の人間に対して特定の1つの感情を持ち続けるということは意外なほど難しいのだ。

 歓喜や恐怖などの根源的に根付く、言うなれば反射の一部だと言われることさえある感情ならともかく、楽しみや怒りといった後天的に身に付いた感情というのは持続させ続けるのは至難の業なのだ。

 仮にだが前世で古川海斗を殺害した人物に会い、証拠を残さずに抹消出来る機会が巡ってきたとしよう。

 そんなことが実現したとして、果たして本当に実行するだろうか?

 

 答えは否。

 転生してから3年までならば迷わず歓喜しながら実行しただろう。

 5年までならばケジメと言って半ば義務感で実行しただろう。

 しかし10年。10年も経てばそれ以降特に問題行動がなければかなりの確率で見逃すだろう。

 恨みはあるだろう。しかしそれでも既に過去のことなのだ。

 

 誰かを愛するならば行動と共にその感情を日々重ね続けることにより不動な確固たるものとして確立できる。

 誰かを憎むのならば相手の全てを悪意に通して見続ければ不滅の原理として身に刻むことができる。

 しかし時とはそれら総てを無慈悲に流し、削り、壊す。

 10年という歳月は残酷なもので何の外部刺激もなければどれだけ積み重ねようとも残らず感情は削り取られる。

 勿論例外として会えなくても愛し続けることもあり、今回のことにその法則をそのまま適用することはできない。

 文字通り一生に影響を与える程のもので残らず風化するなんて永遠に、それこそ死ぬまで無いだろう。

 しかし人は過去の出来事として悲劇を記憶の片隅に押しやることは出来る。

 

 故に恐れた

 過去が蓋をされ気が付いたら小さくなることを

 故に欲した

 憎しみを思い出させ続けるものを

 故に手に入れる

 総ての象徴となるものを

 

 

 あのこがいないと

 

 

 どうすればいいんだよ

 

 

 どうやって

 

 

 

 

 どうやってあいつらにふくしゅうすればいいんだよ

 

 

 

 

 

 即ち自身の子供を

 

 

 

 

 

「だ、大丈夫よ。落ち着いて、葵。」

 

 恐らくは犯人との子を気に掛ける様子を見て、母は言い様の無い複雑な思いを抱く。

 しかし同時に他人を思いやるちゃんとした感情があることに安心する。

 もしかしたら子育てが精神の安定に繋がるのではないかと希望が見えてひとまず安心する。

 

 

 結果として致命的な誤りに気が付かない

 

 

 両者の思いのすれ違いに

 

 

 合わない視点に

 

 

 含まれた矛盾に

 

 

 気が付かない

 

 

 どこまでも進んでも氷上の平穏にいるだけであることに

 

 

 誰も気が付かない

 

 

 誰一人として気が付かない

 

 

 




今回の流れ(ざっくりまとめ)
葵、事件のショックにより過去の記憶を封印して復讐の鬼と化す。
怒りを風化させないため、自身と奴らの子供を育てることを決意。
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